人事労務の基礎知識

インセンティブとは?意味や目的、導入メリット、注意点について解説

監修 中村 桂太 税理士法人みらいサクセスパートナーズ

インセンティブとは?意味や目的、導入メリット、注意点について解説

人事制度におけるインセンティブとは、従業員の目標達成や意欲向上を目的として、企業が従業員へ与える金銭や人的・人事評価、環境のことです。

本記事では、インセンティブの意味や目的、種類、インセンティブ制度を導入するメリット・デメリット、導入する際の注意点について解説します。

目次

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インセンティブ(報奨金・奨励金)の意味・目的

企業の人事制度におけるインセンティブは、従業員へ与える金銭や人的・人事評価、環境のことであり、金銭的なインセンティブは「報奨金」や「奨励金」と表現するケースもあります。刺激や動機、要因を意味する英単語の「incentive」が、インセンティブの語源です。

また、販売奨励金として取引先へ金銭を支払う場合や、消費者の購買意欲を刺激するために商品に付ける試供品や特典も、インセンティブと表現します。

企業がインセンティブを設定する目的としては、従業員の生産性向上をはじめ、組織力・販売力の強化などが挙げられます。従業員へインセンティブを提示することで、目標達成に向けて努力し、自主性を持って働くきっかけとなります。

なお、従業員に支給する金銭的なインセンティブの導入にあたっては、労働基準法15条に従って支給の要件を明示する義務があります。就業規則や給与規定、インセンティブ規定などに記載する形で対応しましょう。

出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第15条」

歩合制との違い

インセンティブ制度と歩合制は、目標を達成すれば給与として支払われる点は同じです。

以下のようなケースの場合、どちらもインセンティブ・歩合給に該当します。


  • ・売上目標300万円を達成したら5%が給与に上乗せされる
  • ・契約を1件獲得したら5,000円が給与に上乗せされる

これらの制度の違いとして挙げられるのは、支給タイミングです。一般的に、歩合制では従業員の成果や業績に応じた賃金が「毎月」支払われます。一方、インセンティブ制度では、賞与(ボーナス)のように「年に数回」支給される点で違いがあります。

これによって、月間給与に対する算出が前提となる残業代にも、異なる影響があります。歩合制は毎月支払われるため月間給与に加算されますが、インセンティブは1ヶ月を超えて支払われるため、月間給与に加算されません。

つまり、歩合制を採用すると残業代が高くなり、インセンティブ制度を採用すると残業代には影響しないということです。

残業代は以下の計算式で求めることができます。

残業代の計算方法

残業代 = 時給 × 割増率 × 残業時間

月給制の場合の時給の計算式は以下のとおりです。

月給制の場合の時給計算方法

月給制の場合の時給 = 月間給与(基本給 + 諸手当) ÷ 月平均所定労働時間

なお、上記の月間給与には、以下の手当・賃金は加算されません。

手当・賃金が加算されないケース

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女養育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

ただし、インセンティブ制度と歩合制は法律で明確に規定された制度ではないため、支給間隔や支払う基準などが定められていません。会社ごとの制度の内容次第では、同じ制度であるとも、異なる制度だともいえます。

【関連記事】
残業代の計算方法まとめ。残業の仕組みや割増率を詳しく解説

各種手当との違い

インセンティブと各種手当の違いは、賃金を支給する基準です。

役職手当や通勤手当、住宅手当、家族手当などは、従業員の働きぶりや成績とは関係なく支給額が決定される一方で、インセンティブは従業員の成績に応じて支給されます。

インセンティブは成績次第で受け取れない可能性がありますが、手当は成績とは関係なく就業規則に規定された額を毎月受け取れます。

また、残業手当は労働基準法で明確に規定されており、残業手当の対象となる労働時間に応じて規定された割合以上で賃金を支払う必要があります。インセンティブ制度の導入は企業ごとに決めるものであり、その内容も企業が決めるという点が異なります。

出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第37条」

賞与(ボーナス)との違い

インセンティブと賞与(ボーナス)は、支給する基準となる成果と支給する間隔に違いがあります。

インセンティブは基本的に個人の成果に対して支給しますが、賞与(ボーナス)は会社全体の業績と連動するため、業績によっては支払われないこともあります。

健康保険法第3条第5項において、「臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものはこの限りではない」とあるため、インセンティブも「労働の対価」として、賞与扱いとされ、社会保険料の対象となります。

そのため、賞与と合わせて年間で4回以上支給された場合は、報酬扱いで標準報酬月額に反映されます。社会保険料負担の比較も含め、年金事務所に確認をしたうえでインセンティブを設定しましょう。

また、賞与の場合、一般的に年間2~5ヶ月分の支給が想定され、そこに評価による加減が発生します。経営者や上長の恣意的な判断が入ることも多く、場合によっては不利益取扱として会社が団体交渉や訴訟を受けるリスクがあります。

一方で、インセンティブは基準が明確なため、このリスクはありません。

出典:e-Gov法令検索「健康保険法 第3条」

賞与(ボーナス)については、別記事「賞与(ボーナス)とは?保険料と所得税の計算方法についても解説」で詳しく解説しているため、合わせてご覧ください。

インセンティブの種類

インセンティブと聞くと金銭で支給されるイメージがありますが、インセンティブは金銭以外で支給されるものもあります。

主なインセンティブの種類は、以下のとおりです。


  • ・物質的インセンティブ
  • ・評価的インセンティブ
  • ・人的インセンティブ
  • ・理念的インセンティブ
  • ・自己実現的インセンティブ

物質的インセンティブ

企業が目標を達成した従業員に対して金銭や物品などを支給することを、「物質的インセンティブ」といいます。

金銭を支給する場合は、売上などの一定の目標を定め、達成した目標に応じてインセンティブを支払います。具体的な支給例は、以下のとおりです。

インセンティブを金銭で支給する場合の例

基本給:30万円
賞与:基本給の2ヶ月分を年に2回支給(通常賞与が1回、期末の決算賞与が1回)
インセンティブ:前年の売上の3%を年に1回支給
達成した売上:年間3,000万円

以上の条件を想定した場合、年収は以下のように算出されます。

基本給:30万円×12ヶ月=360万円
賞与=30万円×2ヶ月×2回=120万円
インセンティブ=3,000万円×3%=90万円
年収=360万円+120万円+90万円=570万円

また金銭以外にも、商品券や旅行券、市販されている商品などの現物で支給するケースもあります。目標を達成するたびに企業独自のポイントを支給し、福利厚生サービスを利用できるようにするケースも物質的インセンティブの一例です。

さらに、企業によってはストックオプションをインセンティブとして提示するケースもあります。ストックオプションの詳細については、別記事「ストックオプションとは? 制度の仕組みやメリット・デメリットを分かりやすく解説」をご参照ください。

評価的インセンティブ

評価的インセンティブには、人事考課による従業員の昇進・昇格や、社内表彰制度などが該当します。昇進・昇格や表彰には至らなくても、社員総会などで従業員の働きぶりを取り上げて全社的に褒め讃えることも、評価的インセンティブの一例といえるでしょう。

評価されたいという承認欲求を刺激することで従業員のモチベーションを高め、企業としての生産力や業務効率の向上が期待できます。

人的インセンティブ

企業が職場における良好な人間関係を従業員へ提供することも、インセンティブのひとつです。

上司や部下、同僚を自由に選択できない従業員にとって、職場の人間関係は働きやすさ・勤務意欲に大きく影響します。日々の仕事の成果として異動・転属先の選択権があったり、海外赴任の希望を出せたりすることなども、インセンティブとなり得ます。

従業員によっては、物質的インセンティブより価値を感じる場合があるでしょう。

理念的インセンティブ

会社の経営理念や社会貢献に対する取り組みが従業員の考えとマッチしていることも、インセンティブとなります。

賃金や労働環境だけでなく、企業がSDGsや社会貢献へ取り組んでいるかを重視して就職活動を行う求職者も近年増加しており、企業が掲げる理念や事業自体をインセンティブと捉えることができます。

自己実現的インセンティブ

自己実現的インセンティブとは、会社が従業員の思い描くキャリアを達成できる環境を提供することを指します。

たとえば、年齢や社歴にかかわらず実力で昇進が見込める人事制度や、スキルアップのために必要な資格が取得しやすいフォローアップ制度などに魅力を感じる従業員もいるため、このような制度の充実や整備が重要です。

インセンティブ制度の導入メリット

企業がインセンティブ制度を導入する主なメリットとしては、以下の3つが挙げられます。


  • ・従業員の働くモチベーションを高められる
  • ・従業員の成果を正当に評価できる
  • ・従業員のやるべきことが明確になる

それぞれについて説明します。

従業員の働くモチベーションを高められる

月給制の場合は、基本的にどれだけ働いても査定以外において従業員が受け取る給料が増えることはまずありません。

インセンティブ制度を導入することで、企業が与えた明確な目標を達成することを個人が目指すように働き、従業員のモチベーションを高められます。

結果として、従業員一人ひとりの生産性が向上し、企業の組織力も強化できます。

従業員の成果を正当に評価できる

一般的に、従業員一人ひとりが担当した業務内容のすべてを上司が把握することは難しく、あいまいな基準で部下を評価してしまうケースがあります。場合によっては、上司との相性で評価が大きく変わってしまうこともあるでしょう。

インセンティブ制度では目標を具体的に設定するため、従業員の成果を定量的に明らかにすることができます。これによって上司が部下を恣意的に評価することがなくなり、従業員の成果を正当に評価できるようになります。

従業員のやるべきことが明確になる

企業が期待する従業員の役割や働きぶりをインセンティブ制度の目標として設定することで、従業員は「企業が自分に対して何を期待しているのか」「何をすればよいのか」を明確に把握できます。

結果として従業員の自発的な行動を引き出し、企業としての組織力を強化できます。

インセンティブ制度の導入デメリット

インセンティブ制度の導入はメリットが大きい一方で、制度の設計を誤ると以下のようなデメリットが生じる可能性もあります。


  • ・従業員のモチベーション低下を招くケースがある
  • ・従業員が個人の成果のみに固執する可能性がある
  • ・業務が属人化して組織力が下がるリスクがある

それぞれの詳細は以下のとおりです。

従業員のモチベーション低下を招くケースがある

金銭的なインセンティブ制度は成果を数値で判断できる営業部門に適用しやすく、オペレーション業務が多い経理や人事、総務部門では適用しにくい制度です。営業の部門だけにインセンティブ制度を導入すると賃金格差が生まれ、バックオフィスに所属する従業員のモチベーションが低下する恐れがあります。

また、インセンティブ制度の恩恵を受ける従業員の中でも、他の従業員と比べて達成度が低い従業員はやる気を失ってしまうこともあり、場合によっては離職につながる可能性もあります。

物質的インセンティブ以外を取り入れることで部門間の格差を解消したり、従業員の性格に合った適切なインセンティブを提供したりすることも重要です。

従業員が個人の成果のみに固執する可能性がある

インセンティブ制度の達成目標を売上金額や販売数量にしてしまうと、従業員が個人の成果だけを目標として仕事をするようになってしまいます。その結果、従業員同士の協調性や連携が不足したり、人間関係が悪化したりすることになり、企業全体の業績が低下することも考えられます。

基本給に対するインセンティブの割合を低くする、評価的インセンティブや自己実現的インセンティブも組み合わせるといった対策も検討してみましょう。

業務が属人化して組織力が下がるリスクがある

インセンティブは個人の成績に対して支給されるケースが多いため、能力の高い従業員がノウハウやナレッジを他の従業員と共有しなくなり、業務が属人化する恐れがあります。

業務が属人化すると、成果が従業員ごとの経験やスキルに依存することになります。上司や先輩から部下に対して適切な指導・教育がなされず、部下はスキルや経験を身に付けられなくなった結果、退職を招いてしまう可能性があります。

インセンティブ制度を導入する際の注意点

インセンティブ制度を導入する際の注意点は以下のとおりです。


  • ・従業員に心理的なプレッシャーを与えすぎない
  • ・金銭的なインセンティブ制度だけに頼らない
  • ・組織貢献まで評価できる制度を設計する

従業員に心理的なプレッシャーを与えすぎない

インセンティブ制度は従業員のモチベーションを高める要因になり得ますが、従業員の性格によっては心理的なプレッシャーとなることも想定されます。

インセンティブでは売上などの数値で目標を提示されるため他の従業員との差が可視化されやすく、目標を達成できなかった従業員が自信を失うこともあるでしょう。場合によってはインセンティブを「ノルマ」として受け取り、不正行為をしてでも目標を達成しようとするかもしれません。

従業員に対して過度のプレッシャーとならないよう、従業員の成果を正当に評価する制度であることを周知することが重要です。

金銭的なインセンティブ制度だけに頼らない

金銭的なインセンティブを目当てに就職先を選ぶ人もいますが、賃金や報酬だけをモチベーションにする従業員は必ずしも企業にとって最適な人材とは限りません。目先の目標達成ばかりを意識して、10年後・20年後など将来を見据えた努力を怠ってしまう可能性があり、組織としても全体最適とならない場合があります。

金銭的インセンティブだけでなく、評価的インセンティブや自己実現的インセンティブなどを組み合わせて導入し、従業員の成長を促すことも検討しましょう。

組織貢献まで評価できる制度を設計する

インセンティブの目標として設定されやすい売上は、必ずしも営業担当者ひとりの努力だけで獲得できるわけではありません。バックオフィスや営業事務の従業員も、受注の獲得に対して十分な貢献をしているケースは少なくないでしょう。

インセンティブ制度で数値的な目標を達成した営業担当者だけを評価すると、サポートしている他の従業員の努力が適切に評価されず、不満が溜まって退職につながる恐れがあります。そうなると、さまざまな業務上のノウハウが社内に蓄積されず、組織力が低下することになりかねません。

すべての従業員が組織への貢献や利益還元の視点を持って日々の業務に取り組めるように、数値的な目標だけに偏らない複合的な評価基準を採用するなど、慎重に制度設計を行う必要があります。

まとめ

インセンティブ制度は、目標を達成する見返りとして従業員へインセンティブを提供することで、企業の業績向上を狙う制度です。従業員へ提示するインセンティブには、賃金だけでなく人事的評価や環境などさまざまなものがあります。

導入方法や内容によっては企業全体として望んだ効果が出せないリスクもあるため、従業員の役割を意識した制度設計を考えましょう。

よくある質問

インセンティブの意味は?

企業におけるインセンティブとは、従業員へ与える金銭や人的・人事評価、環境を意味します。英単語としてのインセンティブ(Incentive)の意味は、刺激や動機、要因です。

詳しくは記事内「インセンティブの意味・目的」をご覧ください。

インセンティブのメリットとは?

企業がインセンティブ制度を導入するメリットは以下のとおりです。


  • ・従業員の働くモチベーションが高まる
  • ・従業員の成果を正当に評価できる
  • ・従業員のやるべきことが明確になる

詳しくは記事内「インセンティブ制度の導入メリット」をご覧ください。

監修 中村 桂太

建設会社に長期在籍し法務、人事、労務を総括。特定社会保険労務士の資格を所持し、労務関連のコンサルタントを得意分野とする。 ISO9001及び内部統制等の企業内体制の構築に携わり、 仲介、任意売却、大規模開発等の不動産関連業務にも従事。1級土木施工管理技士として、土木建築全般のコンサルタント業務も行う。

中村 桂太

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