
扶養手当とは、家族を扶養している従業員に対して企業が支給する手当制度のことです。家族を扶養する従業員の経済的負担を軽減する目的で設けられる福利厚生の一種ですが、法律で義務付けられている制度・仕組みではないことから、支給条件や金額は企業によって異なります。
この記事では、扶養手当の基本的な内容から支給される金額の相場、もらえる条件、家族手当との違いなどを解説します。近年のトレンドにならって廃止する場合の手続き方法もまとめているので、参考にしてみてください。
目次
扶養手当とは
扶養手当とは、従業員が家族を扶養している場合に企業が支給する手当制度のことです。福利厚生の一種として企業が独自の判断で導入するもので、法律の定めはないため、導入の是非や支給条件、金額などについては企業ごとに判断が異なります。
企業が扶養手当を設ける主な目的は、家族を養う従業員の経済的な負担を軽減し、生活の安定と仕事への集中を促すことです。基本給とは別に支給されるため、扶養家族のいる従業員にとって貴重な収入源となっているケースもあります。
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児童扶養手当との違い
児童扶養手当とは、児童扶養手当法に基づき、地方自治体が主にひとり親家庭の子育て支援を目的として支給する手当です。主な概要は以下のとおりです。
項目 | 詳細 | |
---|---|---|
目的 | 離婚や死別などにより、ひとり親となった家庭の生活支援 | |
支給対象 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童を監護する母など(障害児の場合は20歳未満) | |
支給要件 | ・父母が婚姻を解消した児童 ・父または母が死亡した児童 ・父または母が一定程度の障害の状態にある児童 ・父または母の生死が明らかでない児童を監護していること | |
支給額 (所得制限あり) | 月額 | ・全部支給:46,690円 ・一部支給:46,680円~11,010円 |
加算額 (児童2人目以降1人につき) | ・全部支給:11,030円 ・一部支給:11,020円~5,520円 | |
支給期月 | 1月・3月・5月・7月・9月・11月 | |
財源 | 国と地方自治体が負担(国:3分の1/地方:3分の2) |
扶養手当は企業の福利厚生の一部ですが、児童扶養手当は法令に基づいた公的福祉である点が大きな違いです。
児童扶養手当との違い
企業の福利厚生制度には、「扶養手当」のほかに「家族手当」なども存在します。扶養手当と家族手当の大きな違いは、支給条件です。
扶養手当は「家族を扶養している」事実が重要で、対象家族が経済的に依存している状態が前提となります。一方、家族手当は単に「家族がいる」ことに着目し、経済状況にかかわらず家族構成に応じて支給される手当といえます。
扶養手当 | 家族手当 | |
---|---|---|
支給条件 | 家族を扶養していること | 家族がいること |
特徴 | 経済的依存関係にある | 家族構成による |
所得制限 | 設ける場合が多い | 設けない場合も多い |
ただし、どちらも詳しい支給要件は企業ごとの規定により異なります。中には「家族を扶養していることが条件となる家族手当」を支給している企業もある点には注意が必要です。自社でどのような条件の手当が導入されているかは、あらかじめ確認しておきましょう。
公務員には扶養手当がある
民間企業で扶養手当の導入は任意ですが、公務員には法律で定められた扶養手当制度があります。公務員の扶養手当は「一般職の職員の給与に関する法律」などに基づいて支給され、支給基準も明確に定められています。
国家公務員の場合
国家公務員の扶養手当は、対象となる親族の年収130万円以下であることなどを条件に、配偶者は月額6,500円、子どもは1人あたり月額10,000円(16~22歳は5,000円加算)が基本です。ただし、上級職の職員については減額または支給されない場合があります。
また、共働き世帯の増加も相まって、2025年度から段階的に配偶者分を廃止し子どもに対する分を増額する予定になっています。配偶者の労働を後押ししながら、子育て支援を拡充するのが狙いです。
地方公務員の場合
地方公務員の扶養手当は国家公務員に準じて各自治体の条例で定められており、基本的な体系は国家公務員と類似しています。ただし、自治体ごとに支給額や細部条件が異なる場合がある点には留意しましょう。
扶養手当の金額の相場
扶養手当の金額は企業によってさまざまですが、ある程度の相場を把握しておくことは制度設計の参考になります。
厚生労働省による「令和2年就労条件総合調査」では、生活手当のうち「家族手当」「扶養手当」「育児支援手当」に該当する部分の平均支給額は1万7,600円でした。2015年が1万7,300円であったことと比較すると、わずかながらアップしているのがわかります。
生活手当を支給された労働者1人の平均支給額 | |
---|---|
平均 | 1万7,600円 |
従業員1,000人以上 | 2万2,200円 |
従業員300~999人 | 1万6,000円 |
従業員100~299人 | 1万5,300円 |
従業員30~99人 | 1万2,800円 |
企業規模と支給額には相関関係があり、企業規模が大きくなるほど支給が手厚い傾向にあります。
支給規模の割合を見ると、「従業員30~99人」で生活手当を支給している企業は66.3%なのに対し、「従業員1,000人以上」で生活手当を支給している企業は75.6%でした。支給額と同様に、支給している企業の割合についても、規模が大きくなるほど増加しています。
扶養手当が支給される条件
扶養手当の支給条件に法的な決まりはないため、各企業が独自に設定できます。一般的には、以下のような条件を考慮して決められていることが多いでしょう。
一般的な支給条件
- 扶養する家族がいて生計を同一している
- 同居している家族がいる
- 扶養している家族が配偶者・子ども・親など
- 18歳未満の子どもまたは60歳以上の親を扶養している
- 配偶者の年収が規定を超えない
- 家族の人数が規定を超えない
なお、扶養している配偶者や親に関しては、税制上の扶養や社会保険上の扶養と合わせて所得制限を設けているケースも少なくありません。制限を超える場合、扶養手当がもらえない可能性があるため注意しましょう。
また、夫婦が共働きでかつ両方の勤務先に扶養手当や家族手当の制度がある場合、「扶養手当不支給証明書」の提出を求める企業もあります。扶養手当不支給証明書とは、企業が扶養家族に対して扶養手当を支給しないと明記した証明書です。
子どもがいる場合などに夫婦それぞれ扶養手当や家族手当を重複して受給すること(二重取り)を避ける目的で、いずれかの勤務先でのみ受給するよう管理されます。
扶養手当を導入するメリット・デメリット
扶養手当は企業と従業員ともに、さまざまなメリットとデメリットがあります。制度の導入や見直しを検討する際は、これらのバランスを考慮することが大切です。
メリット
従業員満足度の向上
扶養手当は、扶養家族がいる従業員の経済的負担を軽減するものです。経済的負担が軽減されれば、従業員の企業への満足度を高める効果が期待できます。賞与などとは異なり毎月安定した金額が支給されるため、家計の安定や従業員自身のモチベーションアップにもつながります。
介護・子育てにおける支援になる
介護や子育て中の従業員にとって、扶養手当は重要な経済的支援のひとつです。家族の扶養に伴う経済的な不安を軽減することで仕事に集中できる環境が整うため、ワークライフバランスの向上にも寄与します。
企業イメージの向上
少子高齢化が進む現代社会において、子育てや介護を支援する取り組みを行っている企業は社会的に高い評価を受ける傾向にあります。扶養手当の導入は採用活動においても「福利厚生の充実」としてアピールポイントになるため、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
デメリット
給与計算が煩雑になる
扶養手当の導入は、給与計算の煩雑さを増加させてしまう恐れがあります。従業員ごとに扶養家族の数や条件が異なるため個別の管理が必要となり、人事・給与担当者の業務負担が増加する可能性があります。
扶養家族のいない従業員にとっては不公平感がある
扶養手当は扶養家族がいる従業員にのみ支給されるもの。そのため、単身者などに不公平感を生じさせる恐れがあります。同じ業務や役割を担っていても、家族構成によって実質的な収入に差が出るため、職場の雰囲気や従業員間の関係性に悪影響をおよぼす可能性もないとはいえません。
不正受給が発生する恐れがある
扶養手当の支給条件や申告方法によっては、不正受給のリスクも考えられます。扶養していない家族を扶養していると申告したり、収入制限を超えているにもかかわらず申告しなかったりといった不正を防ぐ確認体制の構築も課題です。
扶養手当のトレンド
近年では働き方の多様化やライフスタイルの変化に伴い、扶養手当制度のあり方も変化しています。以下で、扶養手当に関するトレンドについて確認しておきましょう。
扶養手当の支給率は低下している
近年、扶養手当・家族手当を支給する企業は減少傾向です。「令和5年度東京都税制調査会」の資料によると、2019年に78.0%だった支給率は、2021年時点で74.1%まで低下しています。
これらの手当の支給率が減少している背景には、共働き世帯の増加や家族形態の多様化が影響しています。
- 未婚や晩婚化の進行
- 共働き世帯の増加により配偶者が扶養に入らないケースの増加
- DINKSやシングルペアレントなど多様な形態の一般化
以前は当たり前の光景であった「正社員の夫と専業主婦の妻という家族モデル」から変化していることがうかがえます。そのため、現在の扶養手当や家族手当の条件では支給対象が限定的になると考慮し、制度の見直しや廃止を検討する動きが多くなっています。
また、企業の人事制度においても、成果主義が浸透してきたことから属人的な手当よりも能力や成果に基づく報酬体系を重視する流れが強まっているといえます。
他の支援や補助制度の充実を図る傾向に
扶養手当を廃止もしくは縮小する企業の中には、代わりに新たな支援や補助の制度を設ける傾向も見られます。
- 扶養手当を廃止する分を基本給に加算
- 子育てや介護に特化した手当
- 能力や成果に応じた手当
- 全従業員が利用できる福利厚生制度の充実
このような支援や補助であれば多様な働き方やライフスタイルにも対応し、より公平で納得感のある報酬体系を目指せると考えられます。全従業員に還元できるような仕組みを構築していけば、仕事の満足感やモチベーションアップにもつながるでしょう。
扶養手当を廃止する場合の手続き
扶養手当の廃止を検討する場合、単に制度を廃止するだけでなく、従業員への影響を最小限に抑えるための適切な手続きが必要です。扶養手当自体は企業独自の法定外福利厚生であるため、廃止をしても問題はありません。ただし、従業員にとって「労働条件の不利益変更」となる可能性があるため、原則として「従業員の同意なしには行えない」と認識しておきましょう。
廃止を検討する際は時間をかけて従業員に説明し、理解を得ることが大切です。信頼関係を壊さないためにも、廃止までに十分な準備期間を設けることなども検討しましょう。また、代わりとなる制度の導入も一案です。扶養家族がいる従業員だけでなく、すべての従業員が恩恵を受けられる公平性のある福利厚生を検討すれば、理解を得やすくなります。
扶養手当は課税対象
扶養手当や家族手当は「給与所得」に該当します。非課税の交通費や一部の社宅制度とは異なり、給与所得は所得税の課税対象です。
扶養手当の税務・社会保険上の取り扱い
- 所得税・住民税の課税対象となる
- 社会保険の報酬月額の算定対象となる
- 雇用保険の賃金の算定に含む
子育て世帯すべてが対象となる児童手当や、ひとり親世帯が対象となる児童扶養手当、特定の条件を対象とする遺児手当や遺族手当など、社会政策(担税力)に基づくものは非課税となりますが、企業が支給する扶養手当は課税対象です。そのため、従業員の所得によっては手当を支給しても実質的な手取り額がそれほど増えない可能性があります。
課税対象となる点を考慮するなら、借り上げ社宅制度など非課税の福利厚生が従業員にとって効果的な支援となる場合もあります。扶養手当を導入する際は、税務面も含めて慎重に検討しましょう。
まとめ
扶養手当は企業が独自に設ける福利厚生のひとつで、従業員の家庭状況に応じて支給される手当制度のことです。共働き世帯の増加や働き方の多様化などに伴い、近年その支給率は減少傾向にあります。
扶養手当の導入および廃止には、それぞれメリットとデメリットがあります。どちらが自社の現状に適しているかをよく検討したうえで、公平な制度設計に努めましょう。
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よくある質問
扶養手当と家族手当の違いは?
大きな違いは支給条件にあります。扶養手当は、家族を扶養していることを条件にしていますが、家族手当は扶養しているかどうかを問わないケースが一般的です。
詳しくは記事内の「家族手当との違い」で解説します。
扶養手当の一般的な金額相場は?
扶養手当の金額は企業によってさまざまですが、令和2年度の厚労省の調べでは、平均支給額は1万7,600円でした。ただし、当該調査では生活手当として「家族手当」「育児支援手当」といった手当も計算に含まれています。
詳しくは記事内の「扶養手当の金額の相場」をご覧ください。
企業が扶養手当を導入するメリット・デメリットは?
扶養手当の導入によって、従業員満足度や企業イメージの向上が期待できます。一方で、給与計算が煩雑になったり、扶養家族のいない従業員にとっては不満の原因になったりする恐れもあります。
詳しくは記事内の「扶養手当を導入するメリット・デメリット」で解説しています。