最終更新日:2022/06/23

2023年10月1日からインボイス制度が施行されます。インボイス制度の導入によって、一人親方や個人事業主として働く大工の方にもさまざまな影響が出ることが予想されます。
本記事では、インボイス制度導入によって一人親方や個人の大工の方にどのような影響がでるのか、また対応すべきことはなんなのかを解説します。インボイス制度の概要や消費税の仕組みについてもまとめていますので、参考にしてください。
目次
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは
2023年10月1日から導入されるインボイス制度とは、消費税が8%と10%の複数税率なったことにより制定された新しい仕入税額控除の方式で、正式名称は「適格請求書等保存方式」といいます。
まずは、インボイス制度導入で従来と何が変わるのか、消費税の仕組みをおさらいしながら解説していきます。
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消費税の仕組みをおさらい
まず、インボイス制度を知る前に消費税についておさらいしましょう。
消費税とは、商品やサービスなどを提供したり、販売する際に課せられる税金のことです。税金には直接税と間接税の2種類があり、消費税は間接税に分類されます。
たとえば、コンビニなどで商品を購入する際、購入者が消費税を支払うことになりますが、実際に税金を納めるのはコンビニとなります。購入者が間接的に消費税を納税するため、これは間接税に該当します。
消費税は2019年10月1日より、以下の2種類となりました。
種類 | 税率 |
|
軽減税率:8% (消費税率 6.24%、地方消費税率1.76%) |
上記以外のもの | 標準税率:10% (消費税率 7.8%、地方消費税率2.2%) |
出典:
国税庁「軽減税率の対象となる品目」消費税における免税事業者と課税事業者
次に、消費税と事業者の関係について解説します。
すべての事業者は免税事業者と課税事業者のどちらかに分類されます。以下の要件を満たしている場合は、消費税の納税が免除される免税事業者となります。
免税事業者の要件
必須:資本金1,000万円未満
- 特定期間の課税売上高が1,000万円以下
- 特定期間の給与支払額の合計額が1,000万円以下
- 設立1期目が7ヶ月以下
1.2を満たさなくても、3の条件に該当すれば消費税の免税事業者となります。
特定期間は事業形態によって異なります。
・個人事業主:前年1月1日〜6月30日
・法人:その事業年度の前事業年度開始日以後6ヶ月
免税事業者は消費税の納税義務がないため、取引先との取引で発生した消費税を益税としてそのまま得ることができます。
一方、免税事業者の条件に当てはまらない事業者は課税事業者に分類され、消費税を納税する義務があります。納税額は以下の計算式で算出します。
納付する消費税額の計算式
(売上時に受け取った消費税額)ー(仕入や経費にかかった消費税額)= 差額
この差額を消費税として納付します。
課税事業者が申告して納める消費税は、二重課税にならないように「売上時に受け取った消費税額」から「仕入や経費にかかった消費税額」を差し引くことができます。これを、消費税の仕入税額控除といいます。

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仕入税額控除
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は新しい仕入税額控除の方式
インボイス制度は、消費税が複数税率なったことにより制定された新しい仕入税額控除の方式で、正式名称は「適格請求書等保存方式」といいます。
これまで仕入税額控除を受けるためには、請求書や帳簿を保存することが要件でしたが、インボイス制度導入後は、特定の要件を満たした「適格請求書(インボイス)」の発行・保存ができなければ、発注者側は仕入税額控除を受けることができなくなります。
適格請求書(インボイス)の要件は、以下の項目を記載した請求書になります。
適格請求書(インボイス)の記載項目
- 発行者の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 受領者の氏名または名称
- 軽減税率の対象品目である旨
- 適用税率ごとに区分した合計額
- インボイス制度の登録番号
- 税率ごとの消費税額および適用税率
また、この適格請求書を発行できるのは以下の条件を満たしている必要があります。
適格請求書(インボイス)をできる事業者の条件
- 発行主が課税事業者であること
- 税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、「適格請求書発行事業者」として認められていること
インボイス制度が導入される令和5年10月1日から適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、原則として令和5年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録申請書を税務署に提出しなければならいため、早めに用意をするようにしましょう。
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適格請求書とは?書き方や保存方式、発行事業者への登録方法について解説
インボイス制度(適格請求書等保存方式)が一人親方に与える影響とは
すでに課税事業者である一人親方の場合は、上述した「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出すれば問題ありません。
ここでは現在、免税事業者として働いている一人親方にどのような影響があるのかを解説します。
現在の仕事が減る可能性がある
インボイス制度が導入されることによる最大の影響は、課税事業者が免税事業者と取引する際に「仕入税額控除」が適用できなくなることにあります。
つまり「余分な消費税を払いたくない」という理由から「インボイスを発行できる課税事業者と取引をしたい」と考える取引先が増えるということです。
例として、課税事業者であるA社・B社と、免税事業者である一人親方Cさんの取引で考えてみましょう。

免税事業者であるCさんは適格請求書(インボイス)を発行できないため、支払いをするB社は仕入税額控除の適用を受けることができません。そのため、B社の負担は仕入税額控除を適用した2万円にはならず、A社から受け取った消費税5万円をそのまま納付する必要があります。
このようなケースでは、B社のような課税事業者は自社の余分な支出を減らすため、免税事業者ではなく、インボイスを発行できる課税事業者(適格請求書発行事業者)と優先的に取引を行うことが予想されます。
また、免税事業者としても、インボイス制度が導入されたからといって今までの消費税分をそのまま価格に転嫁してB社に請求できるとは限らず、実質的に売上が減少することを受け入れなくてはならなくなる、といったリスクも考えられます。
仕事の報酬が減る可能性がある
上述したように、免税事業者はインボイス制度導入後、は課税事業者である取引先から取引を減らされる可能性があります。
たとえ取引を継続できたとしても、課税事業者は免税事業者との取引で発生した消費税の控除を受けられないため、消費税分の報酬を減らされる可能性があります。
消費税を納税する必要とそれに伴う負担が増える
免税事業者のままでいれば、これまでどおり消費税の申告は免除され、受け取った消費税を利益にすることが可能ですが、インボイスを発行できない一人親方は、仕入税額控除の関係で仕事が減ってしまう可能性があります。
これまでどおり、課税事業者と取引を続けるためには「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出して免税事業者から課税事業者になることも手段のひとつです。
ここで気を付けるべきことは、課税事業者になった場合、基準期間と特定期間で売上1,000万円を超えていない場合であっても消費税申告と納税、帳簿付けの義務が発生するため、労力の増加や益税分の利益低下というリスクがある点です。自身が免税事業者のままでいるべきか、課税事業者になるかは慎重に判断しましょう。
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一人親方がインボイス制度(適格請求書等保存方式)で対応すべきポイントとは
ここからは、一人親方がインボイス制度導入までに対応すべきポイントを解説します。
課税事業者になるか免税事業者のままでいるかを検討する
免税事業者である一人親方は、インボイス制度導入後も免税事業者であり続けるか、課税事業者になるかを検討する必要があります。
免税事業者として仕事を継続する場合は、これまで通り消費税の納税は免除されますが、仕入税額控除に必要な適格請求書を発行することができないため、これまで取引のあった課税事業者との取引継続やが難しくなったり、新たな課税事業者と新規取引が結べなくなる可能性があります。
課税事業者として仕事を行う場合は、まず「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出しなければなりません。
これにより課税事業者として認められれば、インボイス制度導入後もこれまで通り課税事業者との取引の継続や、新規取引を行う際の懸念もなくなる反面、消費税納税の義務が発生し、それに伴う帳簿の管理など負担が増えることが予想されます。
自身が免税事業者として働き続けるか、課税事業者になるか迷った際には自身の取引相手が免税事業者か課税事業者かで考えるとよいでしょう。
以下の表は、買い手側と売り手側それぞれの視点でインボイス制度の適用範囲を表したものになりますので、迷った際に参考にしてみてください。

簡易課税制度を検討する
上記の方法で新たに課税事業者となった場合、確定申告時に仕入税額控除を適用した消費税を申告し、納税しなければなりません。消費税の計算は、その年の1月1日から12月31日までに行われた取引全てが対象となるため、一つひとつ細かく計算しなければならないため、新たに手間がかかります。
この負担を軽減するための措置として、売上が5,000万円以下の中小企業を対象とした「簡易課税制度」が設けられています。これは、取引先から受け取った消費税に、一定の割合(みなし仕入れ率)を乗じることで納税額を計算することができる方法で、煩雑な仕入税額控除の計算を簡易にすることができます。
消費税の計算は、「売上時に受け取った消費税額」から「仕入や経費にかかった消費税額(仕入税額控除)」を差し引いたものであることを解説しましたが、簡易課税を適用した場合、仕入税額控除は以下の計算で算出します。
簡易課税適用時の消費税の計算方法
納付する消費税額 =
(売上時に受け取った消費税額) - (売上時に受け取った消費税額) × (みなし仕入率)
この計算で使用される「みなし仕入れ率」は、国税庁により以下の6つの事業区分に応じて設定されています。
事業 区分 |
みなし 仕入率 |
該当する事業 |
第1種 事業 |
90% |
卸売業
(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業) |
第2種 事業 |
80% |
・小売業
(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する第1種事業以外のもの) ・農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) |
第3種 事業 |
70% |
・農業、林業、業業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)
・鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む) ・電気業、ガス業、熱供給業および水道業 ※第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除く |
第4種 事業 |
60% |
第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業、第6種事業以外の事業(例:飲食店業など)
※第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第4種事業に該当する |
第5種 事業 |
50% |
・運輸通信業、金融業、保険業、サービス業
※飲食店業に該当する事業を除く ※第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除く |
第6種 事業 |
40% | 不動産業 |
出典:
国税庁「 No.6509 簡易課税制度の事業区分」
一人親方の場合、一般的には第三種事業に分類されることが多く、この場合はみなし仕入れ率70%で計算を行うことになります。このように簡易課税制度を利用すれば、仕入税額控除を適用した際に発生する消費税の計算が容易になり、経理事務の手間を大幅に削減できます。
ただし、簡易課税制度を利用するには、事前に税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければならないため注意が必要です。簡易課税制度の詳細は以下の記事で紹介していますので、参考の上、利用するかどうかを事前によく検討するようにしてください。
まとめ
インボイス制度は一人親方にも大きく関係のある新しい税制度です。特に、現在免税事業者であるという方は、課税事業者になるかどうかを決めなければならない上、それに伴う対応の負担が増えることになります。インボイス制度導入までにルールや変更点を理解し、ゆとりを持って各種申請や準備を進めておくようにしましょう。
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