請求書の基礎知識

インボイス制度後も免税事業者のままだとどうなる?影響や課税事業者になるメリットについて解説

インボイス制度後も免税事業者のままだとどうなる?影響や課税事業者になるメリットについて解説

インボイス制度導入後は原則、免税事業者との取引は仕入税額控除の対象外となります。これは、適格請求書発行事業者のみが発行できる「適格請求書」の交付・保存が仕入税額控除の要件となるためです。

この適格請求書を発行するためには、消費税の課税事業者かつ適格請求書発行事業者の登録をしなければなりません。そのため、インボイス制度導入後も免税事業者のままでいるか、課税事業者になるか検討する必要があります。

本記事では、インボイス制度による免税事業者への影響や、免税事業者のままでいる場合と課税事業者となった場合それぞれのメリットについて詳しく解説します。

目次

消費税の免税事業者とは

消費税は税金を負担する人と納税する人が異なる間接税に該当します。

通常、事業者は製品やサービスを売買する際に受け取った消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引いた額を納税します。これを仕入税額控除といいます。

しかし、消費税の免税事業者に該当する場合は、商品の販売時に受け取った消費税の納税義務が免除されます。

消費税の免税事業者は、以下のどちらかに該当することが条件です。

消費税免税事業者の条件

  • 法人であれば前々年度、個人事業主であれば前々年の課税売上が1,000万円以下
  • 事業開始から2年以内であること

出典:国税庁「No.6501 納税義務の免除」

免税事業者も消費税を請求できる?

上述のとおり、免税事業者は消費税の納税義務がありません。しかし、消費者から消費税を請求することは可能です。これは、商品の販売時に消費税を請求しなければ、仕入時に支払った消費税が自己負担となってしまうためです。

現在は軽減税率制度の導入により、標準税率(10%)と軽減税率(8%)の複数税率が採用されているため、請求書を発行する際は税率ごとに品目を分けて表示します。

インボイス制度導入後も免税事業者のままでいるとどうなる?

インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式で、正式名称は「適格請求書等保存方式」です。

インボイス制度の導入後は、一定の要件を満たした「適格請求書」を売り手が買い手に発行し、双方が適格請求書を保存することで、買い手の課税事業者は消費税の仕入税額控除を受けることができます。

この適格請求書を発行できるのは、消費税の課税事業者かつ適格請求書発行事業者の登録をおこなった事業者のみであり、免税事業者のままでは適格請求書を発行できません。

そのため、インボイス制度導入後も免税事業者のままでいると以下のような影響が考えられます。

インボイス制度導入後も免税事業者のままでいる影響

  • 現在の取引価格や取引そのものが減少する可能性がある
  • 課税事業者との新規契約が難しくなる

取引価格や取引そのものが減少する可能性がある

上述のとおり、免税事業者は適格請求書の発行ができません。

インボイス制度導入後も免税事業者のままでいた場合、取引先の課税事業者は自身との取引を仕入税額控除することができず、消費税額分を負担することになります。

そのため取引先の課税事業者は、インボイス制度導入以降、取引先を課税事業者に限定したり、免税事業者に対して仕入税控除できない分の値下げ交渉を行ったりすることが考えられます。

いままで、免税事業者であるという理由から、課税事業者との取引の際、消費税分も売上に含めるなどして取引価格を低く設定していた場合、取引価格の値下げ交渉に応じてしまうと利益が出なくなってしまう可能性もあります。

インボイス制度導入後も免税事業者のままでいる場合は、免税事業者のままでも取引が継続できるよう事前に取引先と交渉するなど、対策を行う必要があります。

課税事業者との新規契約が難しくなる

既存の取引の場合、その取引先との関係性などによって影響を最小限に抑えられる可能性があります。

しかし、新たに取引先を探すときにその相手が課税事業者であった場合、免税事業者であるという理由だけで取引を断られてしまう可能性があります。

インボイス制度導入後も免税事業者のままでいるメリット

インボイス制度導入後、適格請求書発行事業者にならず、免税事業者のままでいることで受けられるメリットとして、以下の2つが挙げられます。

インボイス制度導入後も免税事業者のままでいるメリット

  • 消費税の納税義務がない
  • インボイス制度に対応した事務手続きが不要

消費税の納税義務がない

インボイス制度導入後も免税事業者のままでいる最大のメリットは、従来のまま消費税の納税が免除されることです。

課税事業者になると消費税の納税が義務付けられるため、今まで利益に換算できていた消費税額分が減ってしまいますが、免税事業者はその心配がありません。

また、納税義務がないので消費税の確定申告も不要です。

インボイス制度に対応した事務手続きが不要

課税事業者となる場合は、請求書をインボイス対応のものに変更したり、取引先からのインボイスの確認や保管方法など、事務手続きや運用を変更したりする必要があります。

しかし、免税事業者は運用変更する必要がないため、今までどおりの事務処理で引き続き対応できます。

インボイス制度を機に免税事業者が課税事業者になるメリット

インボイス制度を機に課税事業者となる事業者には補助金や事務処理の負担軽減策など、国からの支援措置が用意されています。

ほかにも、課税事業者になることで期待できる取引上のメリットについても解説します。

適格請求書発行事業者の登録が受けられる

免税事業者が課税事業者になる最大のメリットは、適格請求書発行事業者の登録を受けられる点です。上述のとおり、適格請求書発行事業者は適格請求書が発行できるため、取引先は仕入税控除ができます。

インボイス制度導入までに適格請求書発行事業者になるには、2023年9月30日までに登録申請が必要です。

【関連記事】
適格請求書発行事業者とは?登録方法と登録前に確認すべきポイントを解説

課税事業者との取引を継続できる

免税事業者との取引は仕入税額控除を受けられないため、現在の取引相手が今後課税事業者との取引のみに限定してしまう可能性があります。

しかし、課税事業者になることで、インボイス制度を理由とした取引の停止を避けることができます。

簡易課税制度を選択することで事務処理の負担が軽減できる

簡易課税制度とは、事務処理の負担軽減のために仕入税額控除の計算を簡素化したもので、受け取った消費税額にみなし仕入率を乗じて計算します。

課税事業者になると、消費税の納税義務が発生します。今までよりも事務処理が煩雑になってしまいますが、簡易課税制度を選択することで計算が簡単になり、納税にかかる事務作業を軽減することができます。

なお、簡易課税制度を選択できる条件は以下のとおりです。

簡易課税制度を選択できる条件

  • 基準期間※の課税売上高が5,000万円以下
    ※個人事業者は前々年、法人は前々事業年度
  • 所轄の税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している

出典:国税庁「No.6505 簡易課税制度」

簡易課税制度を利用する場合は、適用を受けたい事業年度が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出する必要があります。

事業が初年度の場合は、初年度の会計期間内に届出を提出しましょう。

【関連記事】
簡易課税制度とは?申告方法やメリット、デメリットを解説

支援措置や補助金を活用できる

課税事業者は免税事業者よりも、税負担や事務処理が煩雑になります。

そこで、課税事業者にかかる負担を軽減するための優遇措置や補助金の制度が設けられました。それらをうまく活用することで、事業への負担を最小限に抑えることができます。

インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった場合に利用できる補助金や特例について紹介します。

IT導入補助金

インボイス制度に対応するための会計ソフトの導入やハードウェアの購入に補助金が利用できます。

免税事業者がインボイス制度を機に課税事業者になる場合、補助金の下限額なく安価な会計ソフトも対象となりました。

ITツール50万円まで → 補助率3/4以内
50~350万円 → 補助率2/3以内
PC・タブレット等10万円まで → 補助率1/2以内
レジ・券売機等20万円まで → 補助率1/2以内

【関連記事】
IT導入補助金を活用してインボイス制度に対応する方法とは?

2割特例

2割特例とは、免税事業者から適格請求書発行事業者になった事業者を対象に、消費税の納税額が売上税額の2割まで軽減される支援措置のことを指します。

この2割特例を利用することで、みなし仕入れ率80%の場合の簡易課税制度と同様の計算方法で納税する消費税額を計算することができます。

2割特例の適用期間は以下のとおりです。

2023年10月1日~2026年9月30日を含む課税期間

消費税の申告を行うには、経費の集計やインボイスの保存などが必要となりますが、この2割特例を適用した場合、所得税・法人税の申告で必要となる売上と収入を税率ごとに把握するだけで申告書を作成できます。

また、事前の届出は不要のため、2割特例の適用を受ける場合には申告時に選択しましょう。


出典:財務省「令和5年度改正におけるインボイス制度の改正について」
出典:財務省「インボイス制度の改正案に関する資料」

インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になるには?

免税事業者が適格請求書発行事業者になるには、まず「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者にならなければなりません。その後、適格請求書発行事業者の登録申請を行うことで、適格請求書発行事業者となることができます。

しかし、登録日が2023年10月1日から2029年9月30日までの属する課税期間中である場合は、適格請求書発行事業者の登録申請書のみの提出で問題ありません。

免税事業者から課税事業者になると、原則2年間は免税事業者に戻ることができません。消費税の還付を受けたい年だけ課税事業者になるといったような選択はできませんので注意しましょう。


出典:国税庁「Ⅱ 適格請求書発行事業者の登録制度」

【関連記事】
消費税課税事業者選択届出書とは?書き方や提出期限について解説

インボイス制度の経過措置期間

インボイス制度導入後、免税事業者が課税事業者と取引を行う際、取引先の課税事業者は免税事業者との取引すべての消費税の仕入税控除ができなくなるわけではありません。

インボイス制度導入後の6年間は経過措置期間が設けられており、この期間中であれば課税事業者は、免税事業者からの仕入において5~8割の仕入税額控除が認められています。


出典:国税庁「お問い合わせの多いご質問」

【関連記事】
インボイス制度の経過措置とは? 利用するための要件についてわかりやすく解説

まとめ

インボイス制度導入後も消費税の免税事業者のままでいると、適格請求書が発行できません。取引先に課税事業者がいた場合、自身との取引は仕入税額控除の対象外となるため、取引先側が消費税額分を負担することになります。

取引先の課税事業者と今後の取引について確認し、このまま免税事業者として事業を続けるメリットと課税事業者となるメリットを比較の上、今後の方針を検討しましょう。

また、新たに課税事業者となる場合は利用できる支援措置を事前に確認し活用しながら準備を進めましょう。

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freee請求書利用画面のイメージ1

2023年10月から開始されたインボイス制度にも対応

2023年10月からインボイス制度が施行されました。インボイス制度の制度施行に伴い、インボイス制度の要件を満たした適格請求書の交付、計算方法の変更、インボイスの写しの保存義務化など請求書業務の負担が増えることが予想されています。

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freee請求書利用画面のイメージ2

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具体的に、freeeの無料テンプレート集でダウンロードできる書類には以下のようなものがあります。

<会計>
・請求書(インボイス制度対応)
・発注書
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<人事労務>
・内定通知書
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・顛末書 など

freeeの無料テンプレート集では、上記のほかにも無料でダウンロードできる書類を準備中です。ぜひこちらもご活用ください。

よくある質問

インボイス制度導入で免税事業者はどうなる?

インボイス制度導入後の免税事業者はインボイスの発行ができないため、課税事業者との取引において不利になる可能性があります。

詳しくは記事内「インボイス制度導入後も免税事業者のままでいるとどうなる?」をご覧ください。

なぜ免税事業者は適格請求書を発行できない?

適格請求書を発行できる適格請求書発行事業者になるには、課税事業者である必要があるため、免税事業者はインボイスの発行ができません。

インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になるには?

2023年10月1日から2029年9月30日の属する課税期間中であれば、適格請求書発行事業者の登録申請書を提出することで、課税事業者の申請と適格請求書発行事業者の登録を一緒に行うことができます。

詳しくは記事内「インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になるには?」をご覧ください。

免税事業者から仕入れた場合、仕訳はどうすればいい?

免税事業者からの仕入税額控除は、インボイス制度導入後6年間の経過措置があり、期間に応じて一定の割合で適用されます。

インボイス制度導入から最初の3年は8割、その後は5割の仕入税額控除が認められており、6年を経過すると仕入税額控除ができなくなります。

免税事業者からの課税仕入で、仕入税額控除が制限される分については、仕入の金額に含めることと定められており、仮払消費税等として仮受消費税等との相殺はできません。


出典:国税庁「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A」

【2023年10月1日に免税事業者から税抜5万円(税率10%)の商品を仕入れた場合の仕訳】

借方賃方
仕入51,000円現金55,000円
仮払消費税4,000円

消費税5,000円のうち、経過措置により8割(4,000円)は仕入税額控除ができるため、仮払消費税等で処理し、仕入税額控除を受けられなかった残りの2割(1,000円)は仕入に含めます。

しかし、現状会計ソフトでこのような処理を行うことができないため、実際には1つの取引で2回仕訳を行います。

借方賃方
仕入50,000円現金55,000円
仮払消費税等5,000円

上記のとおり、通常の仕訳を行った後に仕入税控除を受けられない分を仕入に移します。

借方賃方
仕入1,000円仮払消費税等1,000円

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