監修 橋爪 祐典 税理士
債権者とは、お金やサービスを受け取る権利(債権)をもつ側のことを指します。 たとえば、銀行やクレジット会社、取引先企業などが債権者に該当し、支払う側は「債務者」と呼ばれます。
本記事では、債権者と債務者の違いを整理し、債権者ができること、債務者が支払いできないときの対処法などをわかりやすく解説します。
債権者に関して正しく理解しておくことで、請求内容の確認や支払い期限の管理など、取引先とのトラブルを防ぎやすくなります。営業や経理など支払いに関わる業務では、契約条件の見落としや延滞リスクを減らすことにもつながるでしょう。
目次
債権者とは?
債権者とは、契約や法律に基づき、お金の支払いや特定の行為を請求する権利(債権)をもつ側のことです。 これは借金だけでなく、家賃・売掛金・サービス利用料など、日常のさまざまな契約でも登場します。
請求する立場と請求を受ける立場を正しく理解することは、「自身がどの契約に基づく当事者であるのか」や、支払義務や請求内容・期限・滞納の有無といった状況を整理するうえで重要です。ここでは、混同しやすい債務者との違いについて、具体例を交えてわかりやすく解説します。
債務者との違い
債権者は請求する権利をもつ人のことで、対して債務者はその請求に応じた支払いや、商品の引渡しやサービスの提供などを行う人です。この関係は金銭の貸し借りに限らず、賃貸借契約・売買契約・業務委託契約など、支払義務や履行義務が発生する契約と同時にセットで生まれます。
たとえば、ローンでは金融機関が債権者、借りた人が債務者です。賃貸契約では家賃を受け取る大家が債権者、支払う入居者が債務者です。
一方、仕事の成果物を納品し報酬が未払いなら、成果物を出した側が債権者になります。権利と義務の所在を誤ると、支払遅延・契約トラブル・法的リスクにつながるため、各種契約を結ぶ際は、誰が請求側(債権者)で誰が支払側(債務者)なのか把握することが大切です。
【関連記事】
「債権」・「債務」の違いをわかりやすく解説!債権者と債務者がやるべきこととは
債権者ができること
債権者の請求や法的手続きなどの対応は、感情や裁量で決まるものではなく、法律によって範囲と手続きが厳格に定められているものです。
「どの段階でどのような手続きが取れるのか」など債権者が行使できる権利を正しく知っておくと、取引先からの未払いが発生した際にも感情に流されず適切な手続きを選びやすくなり、回収の遅れや損失を防ぐことにつながります。
ここでは、債権者が法律上行使できる代表的な権利を解説します。
代金の支払いを求める
債権者は、契約内容に基づき、代金の支払いや返済を請求する権利をもっています。
電話・書面による督促や支払いに関する交渉などが含まれ、正当な債権に基づく請求は合法です。債務者にはこの請求に応じる義務があります。
一方で、請求方法には法律上の制限があります。たとえば、深夜・早朝の連絡や勤務先への執拗な連絡、威圧的な言動などは貸金業法等で禁止されており、債権者側が取ってはいけない行為です。
法律で定められた範囲内で対応することで、トラブルを避けながら正しく請求手続きを進められます。
支払いがない場合に損害賠償請求や契約解除をする
債権者は、債務者が期日までに支払いを行わない場合、契約違反(債務不履行)として損害賠償請求や契約解除を行うことが可能です。また、契約で定められていれば、支払い遅延が発生した時点から遅延損害金を請求できます。
滞納が続く場合は、分割払いの取り決めを取り消して一括での支払いを求めることや、契約内容に応じてサービス提供の停止や契約の終了を通知することもできます。これらの対応を取ることで、債権の回収を早めたり、追加の損失を防いだりすることが可能です。
支払いが長期間行われない場合には、最終的に支払督促・訴訟・差押えなどの法的手続きも行えます。回収の見通しが立たない場合は、早期に回収ルートを見直すことが重要です。
返済できないときは保証人に請求する
債権者は、債務者が返済できない場合、契約時に保証人が設定されていれば、保証人に対して返済を求めることが可能です。とくに連帯保証人が付いている場合は、債務者への請求を待たずに、保証人へ直接請求を行えます。
保証人への請求が可能であると理解しておくことで、債権者は早い段階から回収ルートを複数確保でき、未回収リスクを減らす判断をくだしやすくなります。
また、返済遅延が続く場合は、保証契約の内容を確認し、請求対象を切り替えるタイミングを見極めることが重要です。
財産を差し押さえる(強制執行の申立て)
債権者は、支払いが長期間行われず、任意の話し合いでも解決しない場合、裁判所を通じて債務者の財産を差し押さえることが可能です。差押えの対象には、給与・預貯金・不動産などが含まれます。
差押えを行うためには、判決や支払督促の確定など債務名義が必要になるため、債権者としては回収の見通しを立てながら、どの段階で法的手続きに進むか判断することが重要です。適切な手続きを踏むことで、任意で支払いが得られない場合でも、債権回収の可能性を高められます。
なお、税金や社会保険料などの公的債権は、裁判手続きを経ずに差押えが行われるケースもあり、債権の種類によって手続きが異なる点も把握しておきましょう。
債務者に代わって回収する(債権者代位権の行使)
債権者は、債務者がもっている権利を放置している場合、その権利を代わりに行使して回収に充てられます。これを「債権者代位権」といい、債務者の財産が目減りして回収不能になるのを防ぐために認められた制度です。
たとえば、債務者が他社に対してもっている売掛金・貸付金・保険の解約返戻金などを、債権者が自ら請求して回収することが可能です。
債権者代位権を理解しておくことで、債務者からの支払いが滞っている場合でも早期に資金を確保しやすくなり、回収リスクを軽減できます。
支払いが遅れたときに債権者が取るべき行動
債務者の支払いが遅れた場合、債権者は法律に基づき、段階的に回収手続きを進めることが可能です。どの手続きがどの段階で可能なのかを理解しておくことで、効率的に回収を進められ、無駄な損失を防ぎやすくなります。
いきなり差押えに進むのではなく、必ず通知や裁判所を通じた手続きを経るため、状況に応じて適切な対応を選択することが重要です。ここでは、債権者が取る代表的な行動を時系列で解説します。
内容証明郵便で請求する
支払いが遅れている場合、債権者は内容証明郵便を使って正式に請求できます。
内容証明郵便とは、いつ・誰に・どのような内容で送ったかを郵便局が公的に証明してくれる郵便のことです。債権者にとっては、正式に請求したという証拠を残せるメリットがあります。
契約に返済が遅れた場合のルールが明記されていれば、内容証明郵便を送付した段階で、分割払いの取り消しや一括請求への移行を通知することも可能です。この手続きにより、債権者は今後の回収方針を明確にし、必要に応じて法的措置へ移行する準備が整います。
支払督促を申し立てる
請求をしても支払いがない場合、債権者は裁判所に支払督促を申し立てることが可能です。
支払督促は書面審査だけで進むため、通常の裁判より早く差押えを進めるための許可(法的な根拠)を手に入れられるのが特徴です。
債務者が異議を申し出なければすぐに確定し、債権者は強制執行へと進むことが可能です。回収を迅速に進めたい場面では、支払督促の申し立ては有効な手段といえます。
訴訟を提起する
債務者が支払督促に異議を申し立てた場合、または最初から訴訟を選んだ場合、債権者は裁判を行うことで、債務者の返済義務の有無や支払うべき金額を裁判所に確定してもらえます。
裁判で勝訴すると、判決結果をもとに差押えのような強制手続きに進める法的な根拠を得られます。これにより、分割払いによる和解を提案したり、状況に応じて一括払いを求めたりと、債権者側で選択できる対応の幅が広がるでしょう。
たとえば、判決があれば給与や口座の差押えに進めるほか、一定の金額を毎月返済するといった合意も裁判所が認める形で行えるため、回収できる可能性が高まります。
強制執行を申し立てる
判決や支払督促の確定によって債務名義を取得した後、債権者は強制執行(差押え)を申し立てることができます。
差押えの対象には、給与や預貯金、不動産などが含まれます。強制執行により、任意に支払いが得られない場合でも、確実に債権回収を進められる点がメリットです。
強制執行は裁判所が行うため、債務者との話し合いで止めることは原則できません。債権者としては、適切なタイミングで手続きを進め、回収の遅れによる損失を最小限に抑えることが重要です。
債務者が支払いできない場合の対処法
債務者が返済できない状況に陥った場合でも、債権者は法律に基づき、回収の可能性を確保するための手段を選択できます。支払い不能時の選択肢を理解しておけば、無駄な損失を避け、適切な回収ルートを検討しやすくなるでしょう。
ここでは、債務者の支払いが難しい場合に、債権者が取り得る主な3つの手段を解説します。
任意整理|将来利息を減らした分割返済で回収を図る方法
任意整理は、将来発生する利息をカットし、無理のない分割返済に組み直す手続きです。裁判所を通さず、弁護士や司法書士が債権者と直接交渉し、将来利息をカットした元金のみを原則3~5年で返済する和解を目指すのが特徴です。
この手続きにより、一括返済が難しい場合でも段階的な回収が可能になることや、利息をカットする代わりに返済計画が明確になることなどのメリットが期待できます。不払いリスクを下げながら現実的な回収が期待できるのも、任意整理の魅力です。
また、住宅ローンや車のローンなど整理する対象を選べるため、債務者が生活を維持しながら返済できる環境が整い、債権者側にとっても継続的な回収がしやすくなります。
個人再生|債務を大幅に減額したうえで返済を継続してもらう制度
個人再生は、裁判所を通じて借金総額を大幅に減らし、再スタートを図る制度です。借金は原則として5分の1程度、または100万円まで圧縮され、残額を3年(最長5年)で分割返済されます。
個人再生が申し立てられた場合、債権者は、裁判所を通じて大幅に減額された債務を3~5年で返済してもらう計画に従わなくてはなりません。
個人再生のポイントは、債務の金額が大きくても返済計画が維持されやすいことや、債務者の生活基盤が安定することなどが挙げられます。
債務者が個人再生を選ぶのは「任意整理では返済が困難だが、破産は避けたい」といった場合などです。債権者にとっては、債務者に破産されて全額免責になるより、減額でも返済が継続される点でメリットがあると言えます。
自己破産|返済不能の場合に債権者が取れる対応
自己破産は、返済不能と認められた場合に、借金の支払い義務を原則すべて免除される制度です。失業や病気、多重債務などで返済の見通しが立たない場合の最終的な救済手段と位置づけられています。
債務者が自己破産を申し立てた場合、原則として債権者は残債の回収ができません。ただし、債権者には以下の権利やメリットがあります。
債務者の「自己破産」申し立てにまつわる、債権者にとってのメリット
- 破産手続きの中で財産が処分されるため、配当を受け取れる可能性がある
- 破産手続き開始後は債務者への個別請求を中止するため、無駄な督促コストがかからない
- 免責不許可事由がある場合は異議を申し立て、債務者の免責を阻止できる可能性もある
自己破産は債権者にとって、債務の回収が難しくなる制度です。ただし、債務者の返済能力が完全に失われたケースでは、これ以上回収可能性が下がったり、督促や法的対応にかかるコストが増えたりする「追加損失」を防ぐ役割があります。法的に区切りをつけることで、無駄な回収作業やコストの発生を抑えられるでしょう。
なお、会社の破産に該当する法人破産については、自己破産との違いも含め、以下の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】
法人破産とは?自己破産との違いやデメリット、手続きなどを解説
まとめ
債権者とは、契約や法律に基づいて正当に請求権をもつ立場であり、債務者に対して支払いを求める法的な権利があります。これらの権利行使は法律で範囲と手続きが明確に定められており、適切な手順を踏むことで、無理のない形で債権の回収を進められます。
支払い遅延や滞納が発生した場合も、内容証明による請求・支払督促・訴訟・強制執行など、債権者は段階的に手続きを進めることが可能です。状況に応じて適切な方法を選ぶことで、回収リスクの軽減やトラブルの防止につながります。
また、債務者が返済困難に陥った場合には、任意整理・個人再生・自己破産などの法的手続きが利用されるケースもあり、債権者はこれらの制度の仕組みを理解することで、今後の回収予定や対応方針を判断しやすくなります。
債務状況や支払い能力を早期に把握し、必要に応じて専門家と連携することが、債権回収を適切に進めるうえで重要です。
よくある質問
債権者と債務者の違いは何ですか?
債権者は、お金や物・サービスの提供に対して請求する権利をもつ側です。一方、債務者は支払いや給付を行う義務を負う側を指します。
具体例として、銀行が顧客に対してお金を貸す場合は、銀行が債権者で借りた顧客が債務者となります。物件の賃貸契約のケースでは、家賃を受け取るオーナーや管理会社が債権者で、家賃を支払う入居者が債務者です。
債権者と債務者の違いについては、記事内「債務者との違い」でも解説しています。
借金の返済が遅れた場合、債権者にはどのようなリスクがありますか?
支払い遅延が起きると、債権の回収が遅れたり、未回収のまま損失につながったりする可能性があります。
そのため、以下の手順で、法律に基づく段階的な対応が必要です。
- 遅延損害金の発生
- 内容証明郵便による正式な請求
- 支払督促の申し立て(裁判所手続・書面審査)
- 訴訟で債権を確定させる
- 給与・預金・不動産の差押え(強制執行)
適切な手続きを早期に取ることで、回収の遅れや損失のリスクを抑えることが可能です。
借金の返済が遅れた場合の債権者のリスクについては、記事内「支払いが遅れたときに債権者が取るべき行動」でも解説しています。
債務者が返済できない場合、債権者はどのように対応すればよいですか?
債務者が返済困難に陥った場合は、任意整理や自己破産などの債務整理に移行する可能性があります。
債権者としては、任意整理なら分割での回収が期待できますが、自己破産なら免責により回収が難しくなるため、それぞれの違いを理解しておくことが必要です。
債務整理が始まった場合は、弁護士や司法書士を通じて手続きが進むため、債権者は個別の督促を中止し、裁判所や代理人の指示に沿って対応することが求められます。
一方で、債務者が返済困難にもかかわらず何も行わずに放置している場合は、債権者が早期に回収手続きを進める必要があります。内容証明による正式な請求を行い、応答がなければ支払督促や訴訟を通じて債務名義を取得し、最終的には給与や預貯金の差押え(強制執行)に移行しましょう。
債務者が支払いできない場合の対処法については、記事内「債務者が支払いできない場合の対処法」でも解説しています。
監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。
