試用期間は、書類選考や面接だけでは分からなかった適性を見極めるための期間ですが、法的にはすでに雇用契約が成立しています。そのため、解雇には厳格なルールが存在し、一歩間違えれば不当解雇として多額の損害賠償を請求されるリスクもあります。
本記事では、試用期間中の解雇が認められる正当な理由、解雇予告手当の仕組み、トラブルを避けるための具体的な手続きまでをわかりやすく解説します。
目次
- 試用期間中の解雇とは
- 解約権留保付労働契約としての性質
- 試用期間なら「いつでもクビにできる」は間違い
- 試用期間中の解雇が有効と認められる正当な理由
- 1. 経歴詐称
- 2. 著しい勤務不良や勤怠不良
- 3. 業務に必要な適性の著しい欠由
- 4. 健康上の理由により業務遂行が不可能と判断される場合
- 5. 犯罪行為や重大な規律違反
- 不当解雇とみなされるケースと法的なリスク
- 客観的・合理的な理由がない
- 教育・指導をせずに即解雇する
- 社会通念上、相当であると認められない
- 試用期間の解雇でも「解雇予告」は必要か
- 14日以内なら解雇予告なしで即時解雇が可能
- 14日を超えた場合の解雇予告手当の計算方法
- 【企業向け】トラブルを防ぐ正しい解雇の手続き
- 改善指導の記録を保管する
- 解雇理由を具体的に明記した解雇通知書を作成する
- 退職届の勧奨(合意退職)を検討する
- 就業規則の規定との整合性を確認する
- 【従業員向け】納得いかない解雇を言い渡されたときの対処法
- 解雇理由証明書の交付を請求する
- 会社からの「自己都合退職」への誘導に安易に応じない
- 労働基準監督署や弁護士などに相談する
- 失業保険(雇用保険)の受給について確認する
- まとめ
- 入退社管理や給与計算などをカンタンに行う方法
- よくある質問
試用期間中の解雇とは
試用期間とは、企業が採用した従業員の能力や適性を評価し、本採用するかどうかを判断するために設けられる期間を指します。3ヶ月から6ヶ月程度に設定されるのが一般的です。
法的には、試用期間中であっても労働契約は成立しており、労働基準法や労働契約法といった法律の保護対象となります。
重要なのは、試用期間を設けるためには「就業規則」や「雇用契約書」への明記が必須であるという点です。これらへの記載がない場合、法的には試用期間が存在しないものとみなされ、初日から通常の正社員と同じ解雇規制が適用されることになります。
解約権留保付労働契約としての性質
三菱樹脂事件などの最高裁判例において、試用期間は「解約権留保付労働契約」であると定義されています。これは、「企業側が後で契約を解除できる権利を留保(キープ)した状態での契約」という意味です。
つまり、通常の解雇に比べれば、試用期間中の解雇(本採用拒否)は、客観的に見て「広い範囲での自由」が認められています。面接時には判明しなかった要素に基づいて、企業が採用をキャンセルする余地が少しだけ広く設定されている、と解釈するのが一般的です。
試用期間なら「いつでもクビにできる」は間違い
試用期間という言葉の響きから、能力が少し足りない、あるいは性格が合わないといった主観的な理由で、いつでも自由に解雇できると勘違いされがちですが、これは大きな間違いです。
解約権が留保されているとはいえ、解雇を行うには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。これらが欠けている場合、解雇権の濫用(労働契約法第16条)とみなされ、法的には無効となります。試用期間中であっても、解雇のハードルは依然として高いという認識を持つことが重要です。
試用期間中の解雇が有効と認められる正当な理由
試用期間中の解雇が有効となるためには、本採用を拒否するに値する重大な理由が必要です。具体的にどのようなケースであれば、裁判所も「解雇はやむを得ない」と判断するのでしょうか。ここでは、代表的な5つの正当な理由を解説します。
1. 経歴詐称
履歴書や職務経歴書、面接時における虚偽の申告が発覚した場合です。ただし、どんな小さな嘘でも解雇できるわけではありません。「その嘘がなければ採用しなかった」と言えるほど重大なもので、業務遂行に直接的な支障をきたす場合に限られます。
たとえば、業務上必要な資格を持っていないのに「保有している」と偽った場合や、過去の重大な懲戒解雇歴を隠していた場合などは、信頼関係を根底から破壊するものとして、解雇が正当化される可能性が非常に高くなります。
2. 著しい勤務不良や勤怠不良
正当な理由のない遅刻、欠勤、早退が繰り返されるケースが該当します。試用期間はもっとも意欲的に働くべき時期であるため、この時期の勤怠不良は「改善の見込みがない」と判断されやすくなります。
ただし、1〜2回の遅刻ですぐに解雇するのは不当です。会社側が口頭や書面で何度も注意・指導を行い、それでも改善の兆しが見られないという経過が重要視されます。記録に残る形での指導が行われていれば、解雇の有効性は高まります。
3. 業務に必要な適性の著しい欠如
「仕事ができない」という理由での解雇です。しかし、単に期待していたよりスキルが低いといった程度では認められません。その業務を遂行するために不可欠な能力が著しく欠如しており、教育を施しても向上の見込みがないと客観的に判断される必要があります。
とくに、会社側がどのような教育研修を行い、本人がどう応えたかというプロセスが厳しく問われます。プロフェッショナルとして高額な年収で契約した高度専門職などの場合は、期待される成果が出ないことによる解雇が認められやすい傾向にあります。
4. 健康上の理由により業務遂行が不可能と判断される場合
病気や怪我によって、契約した業務を安全かつ継続的に遂行できない場合です。ただし、これには慎重な判断が求められます。
まずは休職の検討や、負担の少ない業務への配置転換などが可能かどうかを検討しなければなりません。そうした配慮を行ってもなお、回復の目処が立たず、業務に戻ることが困難であると医師の診断等に基づき判断される場合に限り、解雇または退職勧奨が検討対象となります。
5. 犯罪行為や重大な規律違反
社内での暴力行為、横領、ハラスメント、あるいは社外であっても企業の信用を著しく失墜させるような犯罪行為を行った場合です。
試用期間中におけるこのような背信行為は、企業秩序を維持する観点から、即時の解雇が認められる可能性が高いといえます。また、会社の機密情報を漏洩させた場合なども、重大な服務規律違反として正当な理由になり得ます。
不当解雇とみなされるケースと法的なリスク
解雇が認められない場合、それは「不当解雇」と呼ばれます。不当解雇と判断された場合、企業は大きな代償を払うことになります。従業員から「従業員としての地位にあることの確認(地位確認)」を求める訴訟を起こされると、裁判期間中の給与(バックペイ)を遡って全額支払う必要が出てきます。
さらに、精神的苦痛に対する慰謝料や、弁護士費用の一部負担を命じられることもあります。試用期間中の解雇であっても、解決金として数百万円を支払うケースは珍しくありません。企業ブランドの毀損も含め、リスクは甚大です。
ここでは、どのような場合に不当解雇とみなされるのか、その基準を解説します。
客観的・合理的な理由がない
解雇の理由が、単なる「上司の好き嫌い」や「なんとなく社風に合わない気がする」といった主観的な感情に基づく場合、それは客観的・合理的な理由とはみなされません。
誰が見ても「その理由であれば解雇されても仕方がない」と納得できる事実が必要です。具体的な数値データや、いつ・どこで・どのような問題が起きたのかという事実の積み重ねがない解雇は、裁判になれば十中八九「不当」と判定されます。
教育・指導をせずに即解雇する
日本の労働法では、労働者の雇用を守ることが強く求められています。そのため、仕事ができないからといってすぐに首を切ることは許されません。
会社には不慣れな新人を教育し、一人前に育てる努力をする義務があります。何度も具体的な指導を行い、注意喚起をし、改善のチャンスを与えたにもかかわらず、それでもなお本人の改善意欲が見られず、能力も向上しなかったというプロセスが証明できない限り、解雇は認められにくいのです。
社会通念上、相当であると認められない
たとえ解雇の理由自体に一定の合理性があっても、その手段が重すぎる場合は解雇権の濫用となります。
たとえば、一度の小さなミスに対して即解雇を言い渡すのは、社会一般の常識(社会通念)に照らしてバランスを欠いています。まずは訓戒や譴責(けんせき)といった軽い懲戒処分から段階を踏むべきであり、解雇は最終手段でなければなりません。このようなバランスを欠いた解雇は、法律上無効となります。
試用期間の解雇でも「解雇予告」は必要か
試用期間中であっても、解雇する際には労働基準法のルールを守らなければなりません。その筆頭が「解雇予告」です。
労働基準法第20条により、解雇を行う場合は少なくとも「30日前」までに予告をする必要があります。もし30日前に予告をしないのであれば、30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払わなければなりません。
たとえば、今日伝えて今日辞めてもらう(即日解雇)場合は、30日分の手当が必要です。10日前に予告した場合は、不足する20日分の手当を支払うことになります。これは試用期間中であっても、原則として適用されるルールです。
14日以内なら解雇予告なしで即時解雇が可能
試用期間において最も重要な例外規定が、労働基準法第21条に定められた「14日以内」のルールです。採用してから14日以内に解雇を決定し、通告する場合に限り、解雇予告も解雇予告手当の支払いも不要とされています。
この期間内であれば、即時の解雇が可能です。ただし、あくまで「解雇の予告手続き」が不要になるだけであり、前述した「解雇の正当な理由」は別途必要である点に注意してください。理由もなく14日以内にクビにできるわけではありません。
14日を超えた場合の解雇予告手当の計算方法
入社から15日以上が経過した場合は、通常の解雇と同じルールが適用されます。解雇予告手当の計算は以下のとおりです。
解雇予告手当 = 1日あたりの平均賃金 × 解雇予告の不足日数
たとえば、月給30万円の人が即日解雇される場合、約30万円の手当が発生します。より詳しい計算方法は、別記事「解雇予告手当とは?計算方法や支払日、対象外のケース、税金の扱いなどを解説」をご確認ください。
【企業向け】トラブルを防ぐ正しい解雇の手続き
従業員に非がある場合でも、手続きを誤ると「不当解雇」のレッテルを貼られかねません。企業が身を守り、かつ円満に解決するために踏むべき4つのステップを解説します。
改善指導の記録を保管する
解雇の正当性をもっとも証明できるのは記録です。「いつ、誰が、どのような問題行動に対して、どのような指導を行ったか」を逐一メモに残してください。
口頭注意だけでなく、改善を促す指導書や、重い場合には警告書を交付し、受領印をもらっておくのが理想的です。こうしたステップを積み重ねることで、会社側が十分に改善の機会を与えたという事実を客観的に証明できるようになります。
解雇理由を具体的に明記した解雇通知書を作成する
解雇を伝える際は、必ず書面(解雇通知書)を用います。「本日をもって解雇する」という一文だけでなく、就業規則のどの条項に該当し、具体的にどのような事実があったのかを明記します。
曖昧な表現は避け、「〇月〇日の無断欠勤」「〇〇業務における〇回以上のミス」など、具体的に記載しましょう。また、解雇予告手当を支払う場合はその旨も記載し、後々の「いった・いわない」のトラブルを防ぎます。
退職届の勧奨(合意退職)を検討する
一方的な解雇は、お互いにとって精神的・法的な負担が大きくなります。そこで検討したいのが退職勧奨です。これは会社から「辞めてもらえないか」と打診し、本人が納得して自ら退職届を出す合意退職の形をとることです。
「解雇の履歴がつくと今後の転職に不利になる」といった事実を伝え、円満な合意を目指します。合意が得られれば不当解雇を訴えられるリスクが激減するため、まずはこの道を探るのが実務上の定石です。
就業規則の規定との整合性を確認する
解雇を行う前に、必ず自社の就業規則を読み返してください。解雇の理由が、就業規則に定められた「解雇事由」のいずれかに該当している必要があります。
もし就業規則にない理由で解雇を行えば、それだけで手続き上の不備となり、不当解雇とされる可能性が高まります。また、試用期間中の解雇に関する特約があるかどうかも、事前に弁護士や社会保険労務士などの専門家に確認してもらうのが安全です。
【従業員向け】納得いかない解雇を言い渡されたときの対処法
もし試用期間中に突然納得のいかない理由で解雇を告げられたら、自分の権利を守るためにどのような行動をとるべきかを解説します。
解雇理由証明書の交付を請求する
会社から解雇を言い渡されたら、まず「解雇理由証明書」を請求しましょう。これは労働基準法第22条に基づき、労働者が請求した場合、会社は遅滞なく交付しなければならない書類です。
ここには「なぜ解雇されたのか」の具体的な理由が記載されます。後で会社側が理由をでっち上げるのを防ぐ強力な証拠になります。口頭での説明だけで済ませようとする会社には、必ず書面での交付を求めてください。
会社からの「自己都合退職」への誘導に安易に応じない
会社から「解雇にすると君の履歴に傷がつくから、自分から辞める(自己都合)ことにしてはどうか」と提案されることがあります。これは会社側が不当解雇のリスクを逃れたいだけの可能性も否定できません。
自己都合退職にしてしまうと、失業保険の待機期間が長くなったり、後から不当解雇を訴えることが極めて困難になったりします。納得がいかないのであれば、その場で退職届を書いてはいけません。「一度持ち帰って検討します」と伝え、安易に署名・捺印しないことが大切です。
労働基準監督署や弁護士などに相談する
従業員側が一人で会社と戦うのは困難です。まずは最寄りの労働基準監督署(総合労働相談コーナー)に相談しましょう。無料でアドバイスをもらえて、内容によっては会社へ指導を行ってくれることもあります。
より確実に地位保全や損害賠償を目指すなら、弁護士への相談が有効です。最近では、解雇トラブルを専門に扱う労働審判という、裁判よりも早く安価に解決を目指せる制度もあります。
失業保険(雇用保険)の受給について確認する
万が一解雇された場合、気になるのが当面の生活費でしょう。通常、雇用保険(失業保険)を受給するには過去1年間に12ヶ月以上の被保険者期間が必要ですが、倒産や解雇(特定受給資格者)の場合は、過去1年間に合計6ヶ月以上の加入期間があれば受給できる可能性があります。
試用期間での解雇であっても、前職からのブランクがなければ期間を通算できる場合があります。ハローワークで自分の状況を確認し、受給の手続きを早めに行いましょう。
まとめ
試用期間中の解雇は、法律上「解約権留保付労働契約」という特殊な状態にあるため、通常の解雇に比べればわずかに広い裁量が会社側に認められています。しかし、決していつでも自由に、理由なく解雇できるわけではありません。
雇用関係は信頼によって成り立つものですが、万が一のトラブルの際には、法律というルールを正しく理解しているかどうかが未来を左右します。もし判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談しましょう。
入退社管理や給与計算などをカンタンに行う方法
入退社時に必要な書類の作成がラクに
よくある質問
試用期間中の解雇が認められやすいケースは?
試用期間中の解雇が認められやすいのは、客観的に見て「継続雇用が困難」と判断される場合です。
具体的には、履歴書への重大な虚偽記載、無断欠勤や度重なる遅刻などの勤務不良、業務に支障をきたす重大な能力不足などが該当します。ただし、いずれも会社側が十分な指導や改善機会を与えたうえでの慎重な判断が求められます。
詳しくは、記事内「試用期間中の解雇が有効と認められる正当な理由」で解説しています。
試用期間中の解雇はいつ伝えるべき?
法律上、入社15日以降であれば30日前までの予告、または30日分以上の解雇予告手当の支払いが義務付けられています。トラブルを避けるため、解雇を決めた段階で速やかに伝えるべきですが、試用期間満了ギリギリではなく、余裕を持って本人の納得を得るための話し合いの場を設けるのが通例です。
詳しくは、記事内「試用期間の解雇でも「解雇予告」は必要か」をご覧ください。
試用期間中に会社から「明日から来なくていい」と言われたら?
この場合は「即日解雇」に該当します。入社14日を超えている場合は、その場で30日分以上の解雇予告手当を請求する権利があります。
また、解雇の理由が不当であると感じるなら、出勤停止を命じられても働く意思があることをメールなどで伝えておきましょう。これをしておかないと、後で自分から来なくなった(欠勤)と主張されるリスクがあるためです。
記事内「【従業員向け】納得いかない解雇を言い渡されたときの対処法」もあわせてご覧ください。



