人事労務の基礎知識

内定取り消しは許される?有効となる理由や不当な場合の対処法、慰謝料の相場を解説

監修 北 光太郎 きた社労士事務所

内定取り消しは許される?有効となる理由や不当な場合の対処法、慰謝料の相場を解説

企業が一度出した内定を一方的に取り消すことは、法的に厳しく制限されています。 企業側には解雇と同等の重い責任が課せられるため、合理的な理由がなければ取り消しは無効となる可能性が高いといえます。

本記事では、内定取り消しの法的定義から有効・無効の境界線、不当に取り消された際の具体的な対処法や慰謝料の相場までをわかりやすく解説します。

目次

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内定取り消しの法的な位置づけ

「内定を承諾した」という状態は、法律的には労働契約が成立している状態を指します。

まずは、内定がどのような法的性質を持っているのか、なぜ簡単に取り消すことができないのかを正しく理解しましょう。

採用内定が成立した時点で労働契約が発生する

内定は一般的に、企業から「採用内定通知」が出され、求職者が入社承諾書(誓約書)を提出した時点で、両者の間には労働契約が成立したとみなされます。最高裁判所の判例(大日本印刷事件など)でも、内定によって契約は有効に成立していると示されています。

つまり、入社式を迎えていなくても、内定をもらった状態はすでにその企業の従業員に近い立場にあるということです。そのため、企業が一方的に内定を白紙に戻す行為は、実質的には雇用期間中の解雇と同じ重みを持つことになります。

ただし、企業側から採用内定という通知だけで出社日や手続きの指示が一切ない場合は、労働契約の成立には至らず、労働契約締結の予約(採用内定契約)にとどまるとされています。入社誓約書の提出に加え、入社日の通知や入社前教育の開始など、企業側の一連の採用確定の意思の表示と認められる行為があって初めて、労働契約の成立とみなされるのが原則です。

法的には「解約権留保付労働契約」という扱い

内定は専門用語で「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれます。始期付とは、実際に働き始める時期(例:4月1日)が決まっていること、解約権留保付とは、特定の事由がある場合に限り、企業側が契約を解除する権利をあらかじめ持っていることを意味します。

ただし、この解約権を行使するためには客観的に見て合理的で、社会通念上相当である(誰もが納得できる)理由が必要です。この縛りがあるおかげで、企業は気分や些細な理由で内定を覆すことができない仕組みになっています。

なお、内定者は入社するまでは労働義務を負っておらず、賃金も支払われていません。そのため、労働契約が成立していても就業規則がすべて適用されるとは解されず、内定者に対して業務命令違反など(反社会的行為や背信的行為などを除く)で懲戒処分にすることは原則できないと考えられます。

内々定の取り消しと内定取り消しの違い

内定と混同されやすいのが「内々定」です。内々定は、経団連の指針などで定められた正式な内定日(新卒なら10月1日など)より前に出される採用予定の通知を指します。法的な観点では、内々定の段階ではまだ労働契約が成立していないと判断されるケースが多く、内定取り消しに比べると、取り消された際の法的な保護は弱くなる傾向があります。

ただし、内々定であっても採用を確信させるような言動があり、それに基づいて他社の選考を辞退したような場合には、損害賠償(期待権の侵害)が認められることもあります。

内定取り消しが有効(適法)と認められるケース

内定取り消しは、絶対に認められないわけではありません。以下のケースのように、内定を出した時点では予測できず、かつ企業側が「この人を雇うのは不可能だ」と判断せざるを得ない重大な事由がある場合は、取り消しが有効(適法)となることがあります。

学校を卒業できなかった場合

もっとも一般的な有効事由は「卒業の失敗」です。新卒採用において、卒業は雇用の大前提条件となっています。そのため、単位不足や卒論の不合格などで卒業が延期になった場合、企業は労働契約を解除することが可能です。

多くの内定通知書には卒業できなかった場合は内定を取り消す旨の記載があり、これが契約の条件となっています。ただし、数週間の卒業延期で済む場合や、企業側が既卒での入社を認める柔軟な姿勢を持っている場合は、交渉の余地があるケースも稀にあります。

健康上の重大な理由で業務に耐えられない場合

内定後に不慮の事故や病気に見舞われ、業務の遂行が著しく困難になった場合も、取り消しの対象となることがあります。ただし、単なる一時的な怪我や、適切な配慮(合理的配慮)を行えば働ける程度の病気であれば、直ちに取り消すことは認められません。

「業務に耐えられない」と判断されるには、医師の診断に基づき、復職の目処が立たない、あるいはその仕事に従事させることで本人の健康を著しく害する恐れがあるといった、深刻な状況である必要があります。

履歴書に重大な虚偽があった場合

採用の判断を左右するような重要な事実について嘘をついていた場合、取り消しは正当化されます。たとえば、持っていない資格を「ある」とした、大学を中退したのに「卒業」と書いた、前職の解雇理由を隠蔽した、といったケースです。

些細な誤記であれば問題ありませんが、企業が「その事実を知っていれば採用しなかった」といえるほどの背信行為や「その資格がなければ業務ができない」などの事実があれば、信頼関係の破綻として契約解除が認められる可能性があります。

犯罪行為など、著しく不適格とみなされる事由がある場合

内定期間中に犯罪を犯し、逮捕・起訴された場合などは、企業の社会的信用を損なうため、取り消しが有効となる可能性が非常に高いといえます。また、SNSでの過激な不適切投稿が炎上し、企業のブランドを著しく傷つけた場合も、この項目に該当することがあります。

つまり、社会人として、またその企業の社員として著しくふさわしくない行動をとった場合が当てはまります。内定が出たからといって羽目を外しすぎると、契約を解除されるリスクが生じるため注意しましょう。

【企業向け】整理解雇による取り消しが認められる4条件

企業の業績悪化を理由とする内定取り消しは、いわゆる「整理解雇」の法理が適用されます。これが認められるには、以下の4条件をすべて満たす必要があります。

  1. 人員削減の必要性(倒産寸前など切迫した経営危機があるか)
  2. 解雇回避努力の義務(役員報酬のカットや希望退職の募集を行ったか)
  3. 人選の妥当性(なぜ内定者を選んだのか、合理的な基準があるか)
  4. 手続きの妥当性(十分な説明と協議が行われたか)

ただし、これらの条件は非常にハードルが高く、単に「予算が足りなくなった」程度の理由では認められません。

違法・不当とされる内定取り消しの具体例

一方で、企業側の身勝手な都合による取り消しは「不法行為」や「権利の濫用」とみなされ、法的に無効となります。どのような理由が「不当」にあたるのか、よくある事例を見ていきましょう。

恣意的な理由

「実際に内定を出してみたが、後から考えたら社風に合わない気がする」「懇親会での態度がイメージと違った」といった主観的・恣意的な理由は、法的には一切通用しません。

これらは面接や試験などの採用選考のプロセスで見極めるべき事項であり、内定を出した後に持ち出すのは企業の過失とみなされます。客観的な合理性を欠くため、このような理由での取り消しはほぼ不当と判断されます。

結婚・妊娠、性別、信条などを理由とする取り消し

内定後に結婚が決まった、あるいは妊娠が発覚したことを理由に取り消すことは、男女雇用機会均等法に抵触する違法行為です。また、性別や宗教、特定の思想信条を理由にした差別的な取り消しも許されません。

これらは憲法や労働法が守るべき基本的人権に直結する部分であり、企業がこれらを理由に取り消しを強行した場合、多額の慰謝料請求の対象となるだけでなく、社会的な批判を浴びることになります。

合理的な理由のない業績不振を理由としたもの

前述の「整理解雇の4条件」を満たさない、安易な業績不振による取り消しも不当です。「経営計画の見通しが甘かったから」といった程度の経営判断で内定者の人生を狂わせることは許されません。

とくに内定者を取り消しながら同時に中途採用を続けていたり、新規の設備投資を行っていたりする場合は、解雇回避努力を怠っていると判断されます。企業には、雇用を維持するための最大限の努力が求められているのです。

【求職者向け】内定を取り消された時の対処法ステップ

もし突然内定取り消しを告げられたからといって、動揺してすぐに承諾してはいけません。まずは冷静に、以下のステップを踏んで対応しましょう。

1.取り消しの理由を書面で請求する

電話や口頭で取り消しを告げられたら、まずは「内定取り消し通知書」および「取り消し理由書」を郵送またはメールで送るよう要求してください。とくに理由を具体的に書いてもらうことが重要です。

企業側が不当な理由を書面に残すことをためらえば、それ自体が交渉の材料になります。また、後に裁判や労働審判になった際、この書面が最大の証拠となります。「いった・いわない」の泥沼を避けるための必須項目です。

2.内定通知書ややり取りの記録を保管する

内定を証明する「内定通知書」や「採用決定メール」はもちろん、取り消しを告げられた際の通話録音、面談のメモなどもすべて保存してください。

また、内定を得たために他社の選考を辞退したことがわかるメールや、入社準備のために購入した備品の領収書、引っ越し契約の控えなども重要です。これらは、求職者がどれだけその内定を信じて行動していたか(期待権の侵害の程度)を証明する材料になります。

3.労働局やハローワークに相談する

自力での交渉が難しい場合は、公的機関を頼りましょう。各都道府県の労働局にある「総合労働相談コーナー」では、専門の相談員にアドバイスをもらえます。

また、内定取り消しが著しく不当な場合、労働局長による助言・指導や、紛争調整委員会によるあっせんを受けることができます。これらは無料で利用でき、企業に対して一定のプレッシャーを与えることが可能です。ハローワークも、悪質な企業に対しては是正指導を行う権限を持っています。

4.弁護士を通じて損害賠償・地位確認を請求する

最終的な解決手段は、法律の専門家である弁護士への依頼です。解決の方向性は主に2つあります。一つは「その会社で働く権利があることを認める(地位確認)」、もう一つは「取り消しによって被った損害を金銭で解決する(損害賠償請求)」です。

実際には、関係が悪化した会社に入社しても働きづらいため、金銭解決(慰謝料や数ヶ月分の給与相当額の支払い)を目指すケースが一般的です。弁護士が介入することで、企業側も真剣に和解案を提示してくる可能性が高まります。

内定取り消しによる慰謝料・損害賠償の相場

不当な内定取り消しによって精神的・経済的苦痛を受けた場合、金銭的な賠償を求めることができます。しかし、いくらでも請求できるわけではありません。一般的な相場と、金額が決まる要素を知っておきましょう。

慰謝料が発生する条件と金額の目安

慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)の相場は、一般的に30万円から100万円程度となることが多いといえます。ただし、入社直前での取り消しや、差別的な理由などの事案が悪質な場合は、200万円を超えるケースもあります。

金額を左右するのは、取り消しの時期と企業の誠実さです。入社の数日前に取り消された場合や、会社都合なのに内定者のせいにしようとする悪質な嘘がある場合は、慰謝料が増額される傾向にあります。

他社の内定を断っていた場合の期待権の侵害

期待権の侵害に対する賠償は、「その会社に入社できる」という正当な期待を裏切られたことに対して認められるものです。とくに他社の内定をすべて辞退し、就職活動を終了していた場合、その損失は甚大と考えられます。

この場合、本来得られるはずだった給与の数ヶ月分(3〜6ヶ月程度)が「逸失利益」として認められるケースがあります。ただし、すぐに別の会社に就職できた場合は、その期間の給与分は差し引かれることが一般的です。

損害賠償の対象となる範囲

以下のような直接的な実損害も請求の対象になります。

  • 入社のために契約したマンションのキャンセル料や引っ越し費用
  • 入社準備のために購入したPCやスーツ等の費用
  • 再度の就職活動にかかる交通費や宿泊費

これらは領収書等のエビデンスがあれば、請求が認められやすい項目です。内定取り消しによって発生した出費は、すべて記録しておきましょう。

【企業向け】内定取り消しを検討する際のリスクと注意点

ここからは企業側の視点で、安易な内定取り消しがもたらす致命的なリスクについて解説します。法的な賠償以上に、現代社会においてはレピュテーション(評判)リスクが企業存続を揺るがしかねません。

厚生労働省による企業名公表のペナルティ

職業安定法に基づき、厚生労働省は不当な内定取り消しを行った企業に対して、是正指導を行うことができます。とくに合理的理由のない取り消しが多数行われた場合、企業名が公表されるという厳しい制裁が待っています。

「内定取り消し企業」として政府のHPに名前が載ることは、取引先や金融機関からの信用失墜に直結します。公表を避けるためには対象者への真摯な説明と、再就職支援などの誠意ある対応が欠かせません。

ブランドイメージの低下と採用活動への悪影響

SNSが広く普及している現代において、内定取り消しの事実は口コミサイトやX(旧Twitter)を通じて瞬く間に拡散されます。一度「内定を平気で取り消す会社」というレッテルを貼られると、翌年以降の採用活動で優秀な人材が集まらなくなるのは明白です。

採用広報にかけた多額のコストが無駄になるだけでなく、既存社員のモチベーション低下や離職を招くリスクもあります。内定取り消しは、目先のコスト削減のために未来を捨てる行為といっても過言ではありません。

内定取り消しを回避するための代替案

どうしても経営が苦しい場合でも即座に内定を取り消すのではなく、まずは以下のような回避策を検討すべきです。

  • 入社時期の延期:数ヶ月入社を遅らせ、その間の休業手当を支払う
  • グループ会社への紹介:雇用を守るためにグループ内での受け入れを調整する
  • 自宅待機:研修期間として自宅学習を指示し、給与を一部保障する

このように、雇用契約を維持する姿勢を見せることで、法的リスクを下げ、誠実な企業としての評価を保つことが可能になります。

まとめ

内定取り消しは、労働者の人生を左右する重大な出来事です。法的には「解約権留保付労働契約」の解除にあたり、企業がこれを行うには解雇と同等の厳格な条件を満たす必要があります。

企業側にとっても、内定取り消しは大きなリスクを伴う諸刃の剣です。そのリスクの重大さを正しく理解したうえで、しかるべき対応を行いましょう。

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よくある質問

内定取り消しは違法?

客観的に合理的で社会通念上相当な理由がない限り、内定取り消しは解雇とみなされ違法となります。内定者が内定通知を受けて承諾した時点で労働契約は成立しているため、企業が一方的に取り消すことは法的に厳しく制限されており、解雇と同等の重い責任を伴います。

詳しくは、記事内「内定取り消しの法的な位置づけ」で解説しています。

内定取り消しになるケースとは?

学校を卒業できなかった場合や、履歴書に重大な虚偽(学歴・経歴詐称)があった場合は内定取り消しが有効と認められる可能性があります。また、病気や怪我で業務遂行が著しく困難になった場合や、破産寸前の経営危機による整理解雇などのやむを得ない事情がある場合も同様です。

詳しくは、記事内「内定取り消しが有効(適法)と認められるケース」をご覧ください。

不当な内定取り消しに対する慰謝料の相場は?

慰謝料の相場は30万円から100万円程度ですが、悪質な場合はさらに増額されます。また、他社の内定を辞退したことによる期待権の侵害や、入社準備にかかった実損害(引越し費用など)、数ヶ月分の賃金相当額が損害賠償として認められるケースもあります。

詳しくは、記事内「内定取り消しによる慰謝料・損害賠償の相場」をご覧ください。

SNSでの不適切な投稿を理由に取り消されることはある?

SNSでの不適切な投稿が発覚した場合、内定を取り消される可能性があります。

犯罪を示唆する投稿や他者への誹謗中傷、企業の機密漏洩など、企業の信用を著しく失墜させる内容は従業員として不適格と判断される正当な理由になり得ます。内定後も社会人としての自覚を持った発信が求められます。

監修 北 光太郎

きた社労士事務所 代表
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わず多くの記事執筆・監修をしながら、自身でも労務専門サイトを運営している。

北 光太郎

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