開業の基礎知識

開業届の提出にはデメリットもある! 出したほうがよい人・出さなくてもよい人は?

監修 北田 悠策 公認会計士・税理士

開業届の提出にはデメリットもある! 出したほうがよい人・出さなくてもよい人は?

開業届を出すと控除などのメリットを享受できる一方、デメリットを被る場合もあります。

開業届は、事業を開始してから1ヶ月以内に提出することが義務とされていますが、提出しなくても罰則はありません。

中には開業届を出さないまま事業を営む方がいるのも事実です。「開業届を出した方がいいのか、出さないほうが得なのでは?」と迷っている方は、メリット・デメリットを把握し、提出するかどうかを判断しましょう。

本記事では、開業届を出すメリット・デメリットや、出したほうがよい人・出さなくてもよい人などについて解説します。

目次

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開業届を出す目的は?

開業届とは、新たに事業を開始した際に、その事実を税務署に知らせるための書類です。開業届の提出は法的義務ですが、罰則規定はなく、提出しなくても事業を営むことは可能です。ただし、開業届を出せば受けられるはずのメリットを享受できないことにご注意ください。

提出しない場合、青色申告ができなかったり、小規模企業共済に加入できなかったりするほか、屋号で銀行口座を開設できません。

開業届を出せば、各種要件を満たすことで青色申告特別控除による節税効果を得られるほか、社会的信用を得られるなど、多くのメリットが受けられます。

詳しくは記事後半の「開業届を出すメリット」をご覧ください。

開業届を出さなくても罰則はない

所得税法第229条の規定により、開業した人は、1ヶ月以内に開業届を税務署に提出する義務があります。しかし、義務違反に対する罰則規定はなく、提出義務を履行しないまま事業を営んでも刑罰を科される心配はありません。

なお、開業届を提出しないまま事業を営んでいる人がいるかもしれませんが、義務である以上、推奨されない行為です。


出典:デジタル庁「e-Gov法令検索 所得税法」

開業届を出すデメリット

条件によっては、開業届を提出するとデメリットを被ることもあります。以下の場合、開業届を出すことでかえって損をしてしまうケースもあるため、注意しましょう。

配偶者の扶養に入っている場合

配偶者の扶養に入っている場合は、開業届の提出には注意が必要です。扶養には「所得税法上の扶養」と「健康保険上の扶養」の2種類があり、開業届に関わりがあるのは後者です。

配偶者の扶養に入っている場合、健康保険料を支払う必要はありません。ただし、会社の健康保険組合によっては、個人事業主になるとどんなに収入が少なくても扶養に入れないルールを設けているところもあります。

一般的に、配偶者の「健康保険上の扶養」から外れる目安は年間所得130万円ですが、企業によってルールが異なるので注意しましょう。

社会保険の扶養からはずれてしまうと、国民健康保険料と国民年金保険料を自分で支払う必要があります。扶養に入っている場合、配偶者控除(38万円、70歳以上は48万円)を受けられますが、所得が一定額を超えると、扶養から外れてしまいます。

【関連記事】
個人事業主は扶養に入れる?扶養に入るメリットと要件を解説

お勤め先に秘密で副業している場合

開業届を出しただけでは、会社側としては、従業員が副業していることを把握できません。ただし、副業による所得が年20万円を超える場合は確定申告する必要があり、確定申告すると住民税の金額も増減するため副業がバレる可能性があります。

最近では、副業に前向きな会社も増えているため、開業届を出す前に上司や人事・労務担当者などに相談しましょう。

【関連記事】
副業がバレるのはどんなとき? バレるケースとバレないようにする対策方法を解説

失業している場合

開業届を提出すると「失業状態ではない」と判断され、原則、失業等給付制度の対象外とされます。会社員から個人事業主・フリーランスへの転身を検討している人は、開業届を出す時期を慎重に判断しましょう。

たとえば、求職者支援制度の給付金は、「雇用保険の受給が終了した人」「フリーランス・自営業を廃業した人」などが対象とされます。開業届を出した場合、対象外とみなされるため、給付を受けられません。

また、教育訓練給付制度では、「自営業を営むことに専念している人」は「就職している」とみなされます。開業届を税務署に提出した人は、給付を受けられない可能性があるため、ご注意ください。

開業届を出したほうがよい人、出さなくてもよい人

開業届の提出は必須ではありませんが、以下の場合は提出したほうがよいでしょう。節税につながり、事業を営むうえで役立ちます。

開業届を出したほうがよい人

  • 青色申告で確定申告したい
  • 開業届を就労証明として利用したい
  • 屋号付きの銀行口座を開設したい
  • 創業融資や銀行からの融資を検討している
  • 小規模企業共済に加入したい

逆に、開業届を出さなくてよいケースもあります。たとえば、「副業でお小遣い程度の報酬を得ている」場合です。年間所得が20万円を超えたら確定申告の必要が出てくるため、このタイミングで開業届を出すとよいでしょう。

なお、副業による所得が20万円以下でも、医療費控除や生命保険料控除などの控除を受けるために確定申告する場合がありますが、開業届を出さなくても問題はありません。

【関連記事】
副業で個人事業主になる目安やメリットは?注意点や手続きもあわせて解説

開業届を出すメリット

開業届を出すことで得られるメリットもあります。節税効果の高い青色申告が可能であるほか、小規模企業共済に加入したり、屋号付き口座を開設したりできます。

青色申告で確定申告できる

開業届と青色申告承認申請書を提出すれば、青色申告で確定申告でき、税制優遇措置を受けられます。以下に、青色申告のメリットをまとめました。

青色申告のメリット

  • 最大65万円の特別控除を受けられる
  • 赤字を繰り越せる
  • 家族への給与を経費にできる(青色申告専従者給与)
  • 貸倒引当金を経費にできる
  • 30万円未満の資産を取得した場合、一度に経費に計上できる

小規模企業共済に加入できる

小規模企業共済は、廃業時などに給付金が支給される制度です。個人事業主は、会社員と違って退職金がありません。「個人事業主であれば小規模企業共済に入らない理由がない」という意見もあるほどで、多くの個人事業主が加入しています。

開業届を出さなければ個人事業主として認められず、加入できないため注意が必要です。

屋号付きの事業用銀行口座を開設できる

個人事業主は、事業用の銀行口座を開設する際に、口座名に屋号を付けることが可能な場合があります。

銀行によっては、口座開設の際に開業届の控えが必要な場合があるため、屋号付きの銀行口座を開設したい場合は、開業届を出しておきましょう。

個人事業主であることの証明になる

開業届は事業主であることの証明であり、店舗やオフィスを借りる場合や、金融機関に融資を申し込む際などに提出を求められることがあります。

また、開業届は「就労証明」としても使えます。保育園や学童に申し込む際に、就労証明が必要な場合は開業届の控えを提出しましょう。

個人事業主としての自覚が生まれる

人によっては、開業届の提出がきっかけで、「自分は個人事業主として仕事をするんだ」という自覚が生まれる場合があります。

「開業届を提出したことで、襟を正すような気持ちになった」という意見もあり、心理面・精神面の効果も期待できます。

開業届の入手方法・書き方・提出方法

開業届は国税庁のウェブサイト([手続名]所得税の青色申告承認申請手続)からダウンロードできます。最寄りの税務署で直接受け取りたい場合は、国税庁ウェブサイトの「国税局・税務署を調べる」を活用しましょう。

開業届は、控えのために1部余分に作成することをおすすめします。郵送して提出する場合は、返信用封筒を入れておくと後日控えが返送されます。

手書きではなく、無料の作成ツールを使いたい場合は、freee開業がおすすめです。開業届の作成から提出まで、簡単に完了します。

開業届の書き方に関しては、以下の記事を参考にしてください。

【関連記事】
開業届のダウンロード〜提出までを解説!税務署に行かなくても大丈夫

開業届を作成・提出する際の注意点

開業届の記入と提出は、それほど難しい作業ではありませんが、記入にあたっては「職業欄」に注意が必要です。個人事業税の税率に関係するため、「自由業」「フリーランス」といった漠然とした表現ではなく、以下の例のように具体的な職業名を記載してください。

開業欄に記載する職業名

  • 飲食業
  • 水産業
  • スポーツインストラクター
  • 柔道整復師
  • モデル
  • 司会業
  • 予備校講師
  • イラストレーター
  • 文筆業

上記職業名はあくまでも参考であり、ご自身の事業内容を踏まえて適切な職業名を記入しましょう。

また、青色申告特別控除を受けるために、開業届と一緒に青色申告承認申請書も提出するほうがよいでしょう。


出典:東京都主税局「個人事業税」
出典:国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」

まとめ

開業したら1ヶ月以内に税務署に開業届を提出する義務がありますが、罰則規定はなく、提出義務を履行しなくても事業を営むことは可能です。

配偶者の扶養に入っている人や失業中の人は、開業届を提出すると不利益を被る可能性があるため、提出しないことも選択肢としてご検討ください。

ただし、開業届を提出するとさまざまなメリットを享受できるため、メリットがデメリットを上回るのであれば提出するべきです。メリット・デメリットを正確に把握し、提出するかどうかを慎重に判断しましょう。

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個人事業を始める際には「開業届」を、青色申告をする際にはさらに「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。 記入項目はそれほど多くはありませんが、どうやって記入したらいいのかわからないという方も多いと思います。

そこでおすすめなのが「freee開業」です。ステップに沿って簡単な質問に答えていくだけで、必要な届出をすぐに完成することができます。

freee開業で作成可能な5つの届出

1. 個人事業の開業・廃業等届出書
開業届のことです。

2. 所得税の青色申告承認申請書
青色申告承認申請書は事業開始日から2ヶ月以内、もしくは1月1日から3月15日までに提出する必要があります。期限を過ぎた場合、青色申告できるのは翌年からになるため注意が必要です。

3. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
家族や従業員に給与を支払うための申請書です。

4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
原則毎月支払う源泉所得税を年2回にまとめて納付するための手続です。毎月支払うのは手間ですので、ぜひ提出しましょう。

5. 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
青色申告をする場合に、家族に支払う給与を経費にするための手続です。青色申告をして家族に給与を支払う場合は必ず提出しましょう。

freee開業の使い方を徹底解説

freee開業を使った開業届の書き方は、準備→作成→提出の3ステップに沿って必要事項を記入していくだけです。

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Step1:準備編

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準備編では事業の基本情報を入力します。迷いやすい職業欄も多彩な選択肢のなかから選ぶだけ。


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事業の開始年月日、想定月収、仕事をする場所を記入します。
想定月収を記入すると青色申告、白色申告のどちらが、いくらお得かも自動で計算されます。

Step2:作成編

次に、作成編です。


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申請者の情報を入力します。
名前、住所、電話番号、生年月日を記入しましょう。


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給与を支払う人がいる場合は、上記のように入力をします。
今回は準備編で「家族」を選択しましたので、妻を例に記入を行いました。


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さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。
※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。

今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。

Step3:提出編

最後のステップでは、開業に必要な書類をすべてプリントアウトし、税務署に提出します。


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入力した住所をもとに、提出候補の地区がプルダウンで出てきます。地区を選ぶと、提出先の税務署が表示されますので、そちらに開業届けを提出しましょう。


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届け出に関する説明とそれぞれの控えを含め、11枚のPDFが出来上がりました。印刷し、必要箇所に押印とマイナンバー(個人番号)の記載をしましょう。

郵送で提出したい方のために、宛先も1ページ目に記載されています。切り取って封筒に貼りつければ完了です。

いかがでしょう。
事業をスタートする際や、青色申告にしたい場合、切り替えたい場合など、届出の作成は意外と煩雑なものです。

しかし、freee開業を活用すれば、無料ですぐに届け出の作成が完了。

また、確定申告書の作成もfreee会計を使えば、ステップに沿ってすぐに完了します。
freee開業freee会計を使って、効率良く届出を作成しましょう。

よくある質問

被扶養者や失業中の人が開業届を提出するデメリットとは?

被扶養者は、開業届を提出すると、健康保険上の扶養から外れる可能性があります。また、失業中の人は、失業等給付制度の対象外とされる場合があります。

開業届を提出するデメリットを詳しく知りたい場合は、記事内「開業届を出すデメリット」をご確認ください。

開業届を提出するメリットとは?

開業届には上述したデメリットがあるものの、以下に示すメリットもあります。メリットがデメリットを上回ると判断できる場合は、税務署に開業届を提出しましょう。

開業届を提出するメリット

  • 青色申告で確定申告できる
  • 小規模企業共済に加入できる
  • 屋号付きの銀行口座を作れる
  • 個人事業主であることを証明できる
  • 保育施設への入所を申請する際に開業届を「就労証明書」として提出できる
  • 個人事業主としての自覚が生まれる

開業届を提出するメリットを詳しく知りたい場合は、記事内「開業届を出すメリット」をご確認ください。

監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)

神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。

北田 悠策

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