監修 好川寛 プロゴ税理士事務所
消費税とは、提供されるほとんどの取引やサービスに対して課税される税金で、消費者が負担して事業者が納税する仕組みです。
個人事業主でも課税事業者に該当する場合には、消費税の納税義務が課せられます。
本記事では、個人事業主で消費税の納税が必要になるケースや消費税の計算方法、申告・納税方法について詳しく解説します。
目次
個人事業主で消費税の納税が必要なケース
消費税は消費者が負担し、事業者が納めるものです。個人事業主で消費税の納税義務がある人は「課税事業者」に位置付けられます。
個人事業主で消費税の納税が必要な「課税事業者」に該当する要件は以下のとおりです。
消費税の課税事業者に該当する要件
- 基準期間*における課税売上高が1,000万円を超える(*その年の前々年の1月1日から12月31日まで)
- 適格請求書発行事業者に登録している
- 特定期間*における課税売上高または給与支払が1,000万円を超える(*その年の前年の1月1日から6月30日まで)
上記のいずれかに該当すれば、原則として消費税の納税が義務付けられます。
課税事業者に該当する場合は、課税事業者として登録しなければならないため、税務署に届出を提出するのを忘れないように注意しましょう。
出典:国税庁「No.6121 納税義務者」
個人事業主で消費税の納税が免除されるケース
個人事業主で消費税の納税が免除される人を「免税事業者」といいます。以下の要件に該当する場合には、消費税の納税は免除されます。
消費税の免税事業者に該当する要件
- 基準期間における課税売上高が1,000万円以下
- 適格請求書発行事業者に登録していない
- 特定期間における課税売上高または給与支払額が1,000万円以下
個人事業主として事業を開始した年は基準期間や特定期間の課税売上高がないため、適格請求書発行事業者に登録していなければ自動的に免税事業者となります。
出典:国税庁「No.6501 納税義務の免除」
【関連記事】
消費税の課税事業者と免税事業者とは?仕組みやインボイス制度導入の影響を解説
個人事業主に消費税が課税されるタイミング
個人事業主に消費税が課税されるタイミングは基準期間と特定期間で異なり、これらの期間における売上高によって決まります。
具体的には、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間(その年の前年の1月1日から6月30日までの期間)における課税売上高および給与支払額が1,000万円を超えた場合は、その課税期間において課税事業者となります。
消費税の計算方法は3種類
消費税を計算する方法は、原則課税方式・簡易課税方式・2割特例の3種類です。
簡易課税方式と2割特例を選択できるのは、一定の要件に該当する事業者のみになるため、違いを把握して自身に適した方法を選択しましょう。
ここからは、それぞれの計算方法について解説します。
原則課税方式
原則課税方式は、1年間に預かった消費税から事業主が実際に支払った消費税を差し引いて納付額を求める方法で、「一般課税方式」や「本則課税方式」とも呼ばれます。
原則課税方式を用いた消費税の計算式は以下のとおりです。
原則課税方式の計算式
納税する消費税額 = 預かった消費税 ー 支払った消費税
売上高が1,100万円(税込)、仕入等の経費にかかった金額が660万円(税込)の場合、原則課税方式で納付額を求めると以下のようになります。※消費税率は10%とする
- 売上高にかかる消費税:100万円
- 仕入などの経費にかかった消費税:60万円
▶︎ 1,000,000(円)ー 600,000(円) = 400,000(円 / 納税額)
なお、現在は複数税率が用いられているため、消費税10%の取引と8%の取引に分けて計算しなければならない点に注意してください。
仕入などの経費が多かったり、設備投資などによる支出が多かったりする場合は、消費税の還付が受けられる場合があるため、原則課税方式を選択しましょう。
簡易課税方式
簡易課税方式とは、売上高の消費税額に業種に応じた「みなし仕入率」をかけて、売上高の消費税額から差し引く方法です。実際の仕入金額を計算する必要がないため、計算を簡単に行うことができます。
簡易課税方式を用いた消費税の計算式は、以下のとおりです。
簡易課税方式の計算式
納税する消費税額 = 預かった消費税額 ー (預かった消費税額 × みなし仕入率)
卸売業で売上高が1,100万円(税込)であった場合、簡易課税方式で納税額を求めると以下のようになります。
- 売上にかかる消費税:100万円
- みなし仕入率:90% *業種によって異なる
▶︎ 1,000,000(円)ー(1,000,000(円)× 0.9)= 100,000(円 / 納税額)
簡易課税方式を選択できるのは、以下の要件に該当した事業者のみです。
- 基準期間における課税売上高が5,000万円以下
- 課税対象となる事業年度が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する
- 調整対象固定資産を取得していない
売上高が少なく経費の数が多い個人事業主は、消費税額を簡単に計算できる簡易課税方式で納税額を計算すると申告の手間が減ります。また、インボイス制度開始以前から課税事業者で、売上高が1,000万円以下の個人事業主にも向いています。
【関連記事】
インボイス制度で簡易課税制度はどうなる?新たに課税事業者になる場合の軽減措置についても解説
2割特例
2割特例は、2023年10月1日より始まったインボイス制度のために課税事業者となった場合に適用できる経過措置です。2割特例では納税額の8割が控除となり、実際の負担額が2割で済むメリットがあります。
2割特例を用いた消費税額の計算式は、以下のとおりです。
2割特例の計算式
納付する消費税額 = 売上にかかる消費税 ー (売上にかかる消費税 × 80%)
消費税率10%の売上高が550万円(税込)であった場合、2割特例で納税額を求めると以下のようになります。
- 売上にかかる消費税:50万円
▶︎ 500,000(円)ー(500,000(円)× 0.8 )= 100,000(円 / 納税額)
このように、納付すべき消費税額を大幅に軽減できるため、インボイス制度によって課税事業者となった個人事業主は、2割特例を選択すると有利なケースが多くなります。
ただし、軽減措置期間の控除率は3年ごとに変化する仕組みで、2割特例が適用できるのは2026年9月30日までです。
経過措置終了後は簡易課税方式か原則課税方式で計算する必要があるため、あらかじめ理解しておきましょう。
出典:国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
個人事業主は消費税をいつ払う?
個人事業主は、原則として課税期間(1月1日から12月31日までの1年間)の翌年3月31日までに消費税の申告と納税が必要です。
消費税の申告後、税務署から納付書や納税通知書が送られてくることはありません。必ず自身で納税額を確認し、以下いずれかの方法で納付してください。どの納付方法を選択するかは個人の自由です。
- 振替納税
- ダイレクト納付(e-Taxによる口座振替)
- インターネットバンキング等
- クレジットカード納付
- スマホアプリ納付
- コンビニ納付(QRコード)
- 現金での納付
消費税申告・納税期日をすぎた場合のペナルティ
上述したように、消費税の申告・納税期限は、申告が必要な年の3月31日までです。期限を過ぎてしまうと、納税額とは別に以下のペナルティが科せられる可能性があります。
| 附帯税 | 詳細 |
|---|---|
| 延滞税 | 期限から遅れた日数分課せられ、期限翌日から2ヶ月を基準に税率が異なる 出典:国税庁「延滞税の割合」 |
| 無申告加算税 | 納税すべきであった税額に対し5%~30% 出典:国税庁「確定申告を忘れたとき」 |
| 過少申告加算税 | 納めた納税額よりも少ない額を納めており、修正申告よりも前に税務署から調査・更正の連絡があった場合に課せられる 出典:国税庁「確定申告を間違えたとき」 |
| 重加算税 | 特に悪質だと判断された場合に課せられる 期限内申告できれば納付すべき税額の35%、期限後申告となると40%となる |
これらのペナルティは、納税すべき消費税額が少ない場合でも課せられてしまう場合があるため、注意が必要です。
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確定申告しないとどうなる?デメリットと対処法を解説
消費税申告の手順・必要書類
消費税の申告が必要な個人事業主は、申告が必要な年の3月31日までに消費税の確定申告を行い、納税しなければなりません。具体的な申告手順や必要な書類、消費税の納付方法を確認しましょう。
なお、消費税の申告方法の詳細は以下の記事でも詳しく解説していますので、ご確認ください。
【関連記事】
消費税の確定申告のやり方は?計算方法や申告方法について解説
消費税の手順
消費税の申告は、以下の手順で行います。
消費税申告の流れ
- 消費税申告書を用意する
- 申告時に添付が必要な書類を用意する
- 消費税申告書と添付書類を税務署へ提出する
具体的なやり方については、別記事「消費税申告とは?計算方法や申告方法など詳しく解説」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
消費税申告で必要な書類
消費税申告書は、国税庁のウェブサイトや確定申告書等作成コーナー、税務署窓口から入手できます。また、消費税申告書以外にも課税方式ごとに必要な書類があるため、忘れずに準備しておきましょう。
- 消費税申告書(原則課税方式用)
- 付表1-3 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
- 付表2-3 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表
簡易課税方式を用いた場合に必要な書類
- 消費税申告書(簡易課税方式用)
- 付表4-3 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
- 付表5-3 控除対象仕入税額等の計算表
出典:国税庁「消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等」
2割特例を用いた場合に必要な書類
- 消費税申告書
- 付表6 税率別消費税額計算表
消費税申告書は、原則課税方式用と簡易課税方式用の2種類があります。2割特例で申告する場合は、どちらかの申告書を選んで第一表の「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」欄に丸をつけて提出してください。
出典:国税庁「2割特例用 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き」
前年の納税額が48万円を超える個人事業主は中間申告が義務付けられる
前年度の納税額(国税部分のみ)が48万円を超える場合は、中間申告が必要です。中間申告とは、納税する予定金額の一部を課税期間内に分割して納税しなければならない制度です。
毎年、税務署から中間納付税額を記載した「消費税及び地方消費税の中間申告書」「納付書」が送付され、送付された中間申告書に必要事項を記入して提出し、消費税・地方消費税を納付します。
下の表は、令和6年を例とした消費税額ごとの中間申告回数や期限、納付税額です。
| 令和6年分の 確定消費税額 | 中間申告・納付の回数 | 中間納付税額 | 申告・納付期限 |
|---|---|---|---|
| 48万円超 400万円以下 | 年1回 | 令和6年分の確定消費税額の12分の6の消費税額とその78分の22の地方消費税額 | 令和7年9月1日(月)
振替納税利用の場合の振替日 令和7年9月29日(月) |
| 400万円超 4,800万円以下 | 年3回 | 令和6年分の確定消費税額の12分の3の消費税額とその78分の22の地方消費税額 | 国税庁ホームページの「中間申告分の納期限及び振替日について」をご確認ください。 |
| 4,800万 | 年11回 | 令和6年分の確定消費税額の12分の1の消費税額とその78分の22の地方消費税額 |
なお、確定消費税額が48万円以下の個人事業主でも、任意の中間申告書を提出する旨の届出書を提出すれば自主的に中間申告できます。また、期中の業績が悪化している場合には、仮決算による計算を行った中間申告も可能です。
ただし、この計算により出たマイナス分については還付の対象とはならないため注意する必要があります。
消費税の精算仕訳の方法
消費税の納付義務がある個人事業主は、消費税額をきちんと把握するとともに、正しく精算仕訳をしなければなりません。
消費税の仕訳は、税込経理方式と税抜経理方式のいずれかで行います。ここからは、それぞれの記帳方法を例題を用いて解説します。
税込経理方式
税込経理方式は、取引金額に消費税を含めて会計処理をする方法です。取引ごとに金額を分ける必要がないため、会計処理の手間を抑えたい場合に便利です。
以下では、税込1万1,000円の商品を仕入れて税込2万2,000円で販売したケースを例に、原則課税で税込経理方式を採用した場合の仕訳方法を紹介します。
仕入時
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 1万1,000円 | 現金 | 1万1,000円 |
販売時
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 現金 | 2万2,000円 | 売上高 | 2万2,000円 |
決算時
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 租税公課 | 1,000円 | 未払消費税 | 1,000円 |
納付時
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 未払消費税 | 1,000円 | 現金 | 1,000円 |
税込経理方式では、仕入時や販売時の金額をそのまま記帳に用いることができます。
ただし、消費税率が10%の場合と8%の場合で帳簿上の判断が難しくなることもあるため、注意して確認しましょう。
税抜経理方式
税抜経理方式は、取引金額から消費税を除いた本体価格と、消費税を分けて会計処理をする方法です。消費税額が可視化されるので、納税額を把握しやすいのがメリットです。
一方、取引ごとに本体価格と消費税を分けなければならないので、会計処理に手間がかかります。
以下では、税込1万1,000円の商品を仕入れて税込2万2,000円で販売したケースを例に、原則課税で税抜経理方式を採用した場合の仕訳方法を紹介します。
仕入時
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 10,000円 | 現金 | 11,000円 |
| 仮払消費税 | 1,000円 | ||
販売時
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 現金 | 22,000円 | 売上高 | 20,000円 |
| 仮受消費税 | 2,000円 | ||
決算時
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 仮受消費税 | 2,000円 | 仮払消費税 | 1,000円 |
| 未払消費税 | 1,000円 | ||
税抜経理方式は記帳の手間はかかるものの、消費税額がわかりやすいのがメリットです。期中でも納税額を把握しやすいので、あらかじめ納税額を知っておきたい場合に役立ちます。
【関連記事】
消費税仕訳の勘定科目は?経理方式やインボイス等による会計処理の注意点を解説
個人事業主が消費税を節税するポイント
個人事業主は、できる限り支払う税金を抑えて事業に余裕をもたせたいでしょう。消費税を抑えるには、以下の節税ポイントを意識してみてください。
- 売上を抑え経費を適切に活用する
- 事業にあわせて課税方式を選択する
税金の払い過ぎは事業継続にも影響するため、節税ポイントは抑えておきましょう。
売上を抑え、経費を適切に活用する
適格請求書発行事業者ではない個人事業主が消費税を納めなければならないのは、基準期間や特定期間において、課税売上高が1,000万円を超えた場合のみです。
そのため、課税売上高を1,000万円以下に抑えて経費を適切に使用できれば、消費税を納税する義務はなくなります。休業などにより売上の調整が可能な場合は、調整することで節税につながる可能性があります。
事業にあわせて課税方式を選択する
上述したように、消費税の納税額の計算方法には、原則課税方式・簡易課税方式・2割特例の3種類があり、計算方法によって納税額が変動します。
たとえば、小売業を経営していて売上高にかかる消費税が160万円、経費にかかった消費税が80万円となったときの納付額はそれぞれ以下のようになります。
| 課税制度 | 消費税額の計算式 | 納税額 |
|---|---|---|
| 本則課税方式 | 売上にかかる消費税額 ー 仕入にかかる消費税額 | 80万円 |
| 簡易課税方式 | 売上にかかる消費税額 ー(売上にかかる消費税額 × みなし仕入率*) ※小売業のみなし仕入率は80% | 32万円 |
| 2割特例 | 売上にかかる消費税 ー (売上にかかる消費税 × 80%) | 32万円 |
消費税の納税額は、計算方法以外にも業種・業績でも変動します。一概にどちらが節税できるとはいえないため、自身の状況にあわせて計算方法を選択しましょう。
なお、簡易課税方式と2割特例は、一定の要件に該当した事業者のみ採用できる計算方法なので注意が必要です。
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よくある質問
個人事業主でも消費税の納税義務はある?
個人事業主で消費税の納税が必要な人は、課税事業者に該当します。以下、いずれかの要件に該当する個人事業主は、原則として消費税の納税義務が課せられます。
- 基準期間*における課税売上高が1,000万円を超える(*その年の前々年の1月1日から12月31日まで)
- 適格請求書発行事業者に登録している
- 特定期間*における課税売上高または給与支払が1,000万円を超える(*その年の前年の1月1日から6月30日まで)
詳しくは、記事内「個人事業主で消費税の納税が必要なケース」をご覧ください。
個人事業主は消費税をいつ払う?
個人事業主は、原則として課税期間(1月1日から12月31日までの1年間)の翌年3月31日までに消費税の申告と納税が必要です。
詳しくは、記事内「個人事業主は消費税をいつ払う?」をご覧ください。
簡易課税方式のみなし仕入率とは?
簡易課税方式のみなし仕入率は、業種によって以下のように分類されています。
| 業種 | みなし仕入率 |
|---|---|
| 第1種事業(卸売業) | 90% |
| 第2種事業(小売業・農業・林業・漁業) ※農業・林業・漁業は飲食に関連する場合のみ | 80% |
| 第3種事業(農業・林業・漁業・鉱業・建設業・製造業・電気業等) ※農業・林業・漁業は飲食に関連しない場合 | 70% |
| 第4種事業(飲食店業等) | 60% |
| 第5種事業(運輸通信業・金融業・保険業・サービス業) | 50% |
| 第6種事業(不動産業) | 40% |
簡易課税方式を採用した事業者は、自身の業種に該当するみなし仕入率を用いて、納税額を算出します。
納税する消費税額 = 預かった消費税額 ー (預かった消費税額 × みなし仕入率)
詳しくは記事内「消費税の計算方法は3種類」をご覧ください。
監修 好川寛(よしかわひろし)
プロゴ税理士事務所。元国税調査官。国税(調査・相談2万件・審判実務)×民間(事業会社実務・PdM)の複眼的な視点が強み。クリエイター/IT・SaaS等の現代的ビジネス、海外取引・非居住者税務に明るい。
