人事労務の基礎知識

標準報酬月額とは?決め方や変更方法、計算方法をわかりやすく解説

社会保険料の標準報酬月額とは

標準報酬月額とは、従業員の健康保険や厚生年金保険などの社会保険料を決める基準となるものです。

本記事では、標準報酬月額の決め方や変更方法、社会保険料の計算方法などについてわかりやすく説明します。

目次

社会保険料の計算や手続きを安心・確実に

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標準報酬月額とは

標準報酬月額とは、社会保険料の計算をしやすくするために、被保険者(従業員)が得た給与などのひと月分の報酬を、一定の範囲ごとに区分したものをいいます。

一つひとつの区分を「等級」と呼び、健康保険は50の等級に、厚生年金保険は32の等級に分けられています。それぞれの等級に対して標準報酬月額が段階的に割り当てられており、その標準報酬月額をもとに、健康保険や厚生年金保険など社会保険料の金額を計算できます。

標準報酬月額をもとにした社会保険料の調べ方・確認方法は、全国健康保険協会が毎年発表する「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」を参考にするとよいでしょう。「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」には、各等級に対する健康保険料、厚生年金保険料、事業所の負担額などが一覧で掲載されています。

以下は東京都の「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」です。

令和4年度保険料額表
出典:全国健康保険協会「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)」

たとえば、給与などの報酬が月額32万5,000円であれば、31万円以上〜33万円未満の区分に収まるため、健康保険の等級は23、厚生年金の等級は20となり、標準報酬月額は32万円となります。

社会保険料の計算方法

ここからは、標準月額報酬をもとにした各社会保険料の計算方法を確認していきます。

健康保険の保険者(運営主体)には、「全国健康保険協会(協会けんぽ)」と「健康保険組合(組合健保)」の2つがありますが、この記事では全国健康保険協会(協会けんぽ)について説明します。

被保険者・事業所がそれぞれ納める社会保険料の計算式は下記のとおりです。

社会保険料の計算式

  • 健康保険料 = 標準報酬月額 × 健康保険料率 ÷ 2
  • 厚生年金保険料 = 標準報酬月額 × 厚生年金保険料率 ÷ 2

前述の例をもとに標準月額報酬を32万円として、式に当てはめると下記のようになります。計算結果が保険料額表の数字と一致していることを確認してください。

社会保険料の計算例

  • 健康保険料:32万円 × 9.81% ÷ 2 = 15,696円
  • 厚生年金保険料:32万円 × 18.300% ÷ 2 = 29,280円

なお、被保険者の年齢が39歳以下の場合は介護保険第2被保険者に該当しないため、(東京都の場合)健康保険料率は9.81%で計算します。40歳以上65歳未満の場合は介護保険第2被保険者に該当するため、11.45%で計算してください。

健康保険料率は都道府県ごとに異なるため、自事業所の所在地の保険料率を参考にする必要があります。全都道府県の保険料額表は全国健康保険協会のホームページで確認できます。

事業所が加入している健康保険が全国健康保険協会(協会けんぽ)ではなく、健康保険組合(組合健保)の場合は保険料率が異なります。加入している健康保険組合の料率を確認してください。

また、事業所が厚生年金基金に加入している場合は、加入している基金によっては18.300%となっている厚生年金基金保険料率から2.4〜5%控除されます。そのため、全都道府県の保険料額表の金額よりも少なくなる点に注意してください。

標準報酬月額に含まれるもの

標準報酬月額の基準となる報酬は給与だけではありません。労働の対価として支給されているものは、現物支給されているものも金額換算して報酬に含めなければなりません。

ただし、一般的に月次で受け取るものではない、一時的なものとみなされる手当は報酬とされません。

たとえば、賞与(ボーナス)が年3回以下であれば、一時的な報酬とみなされ、標準報酬月額の基準に含む必要はありません。賞与(ボーナス)が年4回支給される場合は、給与と同様に定期的な報酬とみなされるため、賞与も報酬に含んで計算します。

そのほか、報酬とみなされる基準は下記の表のとおりです。

金銭(通貨)で支給されるもの現物で支給されるもの
報酬となるもの・基本給(月給・週給・日給など)
・能率給
・奨励給
・役付手当
・職階手当
・特別勤務手当
・勤務地手当
・物価手当
・日直手当
・宿直手当
・家族手当
・扶養手当
・休職手当
・通勤手当
・住宅手当
・別居手当
・早出残業手当
・継続支給する見舞金
・年4回以上の賞与
・通勤定期券
・回数券
・食事
・食券
・社宅
・寮
・被服(通勤服でないもの)
・自社製品
報酬とならないもの・大入袋
・見舞金
・解雇予告手当
・退職手当
・出張旅費
・交際費
・慶弔費
・傷病手当金
・労災保険の休業補償給付
・年3回以下の賞与(標準賞与額の対象になります)
・制服、作業着(業務に要するもの)
・見舞品
・食事(本人の負担額が厚生労働大臣が定める価額により算定した額の2/3以上の場合)
出典:日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック令和4年度」

標準報酬月額の決め方

標準報酬月額を決めるタイミングには、「資格取得時決定」「定時決定」の2つがあります。

資格取得時決定

資格取得時決定とは、新しく従業員を雇用した際に標準報酬月額を決定することです。従業員が被保険者資格を取得した時点(入社日時点)の報酬を月額に換算した額が基準となります。

資格取得時決定で決まった標準月額報酬の適用期間は、1月から5月末までに資格を取得した場合はその年の8月まで、6月から12月末までに資格を取得した場合は翌年の8月までです。その後は、後述する定時決定で標準月額を見直します。

なお、事業主は従業員を被保険者として雇用した日から5日以内に、「被保険者資格取得届」を事務センターまたは管轄の年金事務所に持ち込み、郵送または電子申請で提出する必要があります。

標準報酬月額が決定された際には、被保険者資格取得確認及び最終的な標準報酬月額が記載された標準報酬決定通知書が返送されます。


出典:日本年金機構「資格取得時の決定」

定時決定

定時決定は毎年1回、7月1日現在で事業所に在籍している被保険者の4〜6月分の平均報酬額を計算し、その年の標準報酬月額を決定することです。定時決定で決定した標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月まで適用されます。

資格取得時決定と同じく、事業主は、全被保険者分、毎年7月10日までに「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/厚生年金保険 70歳以上被用者算定基礎届」を事務センターもしくは管轄の年金事務所に提出する必要があります。

ただし、下記に該当する被保険者の分は提出対象とはなりません。

算定基礎届の提出対象外

  • 6月1日以降に資格取得した者
  • 6月30日以前に退職した者
  • 7月改定の月額変更届を提出する者
  • 8月または9月に随時改定が予定されている旨の申出を行った者

出典:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」

定時決定は報酬の受け取り方によって計算方法が変わるため、以下2つの注意点が挙げられます。

  • 4〜6月分の平均報酬と年間の平均報酬が2等級以上差がある場合、年間平均で算出する
  • 支払基礎日数(給与対象の日数)が17日である
    ※欠勤などで勤務日数が16日以下の月がある場合は、その月を除いた平均額を計算する

パートタイマーなど短時間労働者の場合は、4〜6月の中で支払基礎日数が17日以上の月があればその平均を、15日以上17日未満の月しかなければその平均が基準となります。

15日未満の月しかなければ、資格取得時決定などで決定された標準報酬月額が引き続き適用されます。


出典:日本年金機構「定時決定のため、4月~6月の報酬月額の届出を行う際、年間報酬の平均で算定するとき」

標準報酬月額を変更するタイミング

定時決定以外で標準報酬月額を変更する方法としては、「随時改定」「産前産後・育児休業終了時」「特例改定」の3つがあります。

いずれの場合も変更するには「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」を、事務センターまたは管轄する年金事務所への提出が必要です。

随時改定

随時改定とは、昇給・降給などが生じた際に、年度の途中で標準報酬月額を変更する制度です。

被保険者の昇給(降給)後3ヶ月の平均報酬に該当する標準報酬月額が、従前の標準報酬月額に対して2等級以上の差が生じた場合、定時決定を待たずに標準報酬月額を変更することになります。変更が適用されるのは、昇給(降給)が発生してから4ヶ月目以降です。

ただし、3ヶ月のうち、支払基礎日数が17日以下の月がある場合は、随時改定の対象とはなりません。パートタイマーなど1日の勤務時間・勤務日数が4分の3未満の短時間労働者は、3ヶ月とも支払基礎日数が11日以上であれば、随時改定の対象となります。

そのほか、随時改定の対象とならないパターンは以下のとおりです。

随時改定の対象とならないパターン

  • 休職による休職給を受けた場合
  • 固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定的賃金が減ったことで報酬が減少し、2等級以上の差が生じた場合
  • 固定的賃金は下がったが、非固定的賃金が増加したため報酬が上昇し、2等級以上の差が生じた場合

出典: 日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

産前産後・育児休業終了時

産前産後休業や育児休業から復帰した被保険者で、復帰した月を含む3ヶ月の報酬が従前の標準報酬月額より1等級以上差がある場合、標準報酬月額を変更できます。

変更した標準報酬月額は、復帰してから4ヶ月目以降に適用され、3ヶ月目までは従前の標準報酬月額で計算します。

産前産後・育児休業終了時で変更した標準報酬月額の適用期間は、1月から5月末までに変更した場合はその年の8月まで、6月から12月末までに変更した場合は翌年の8月までです。


出典: 日本年金機構「産前産後休業終了時報酬月額変更届の提出」

特例改定

標準報酬月額の変更には、特例措置がとられる場合があります。これを特例改定といいます。

たとえば、2020年4月から2022年7月まで、新型コロナウイルス感染症の影響を受け著しく報酬が下がった場合には、随時改定の4ヶ月目からではなく、申請の翌月から変更できる措置が取られました。

このほか、2022年8月または9月に、2022年4〜6月の平均報酬で計算した標準報酬月額からさらに2等級以上下がった場合は、急減月の翌月を改定月として変更することも可能です。

また、上記の期間内にすでに特例改定を行った場合に対しても、2022年8月の報酬の総額を基礎として算定した標準報酬月額をもって、定時決定の保険者算定として決定する措置も取られています。ただし、これら2つの措置は、2022年8月29日から2022年11月30日までに届出があったものが対象です。

今後も社会情勢に応じて特例措置が講じられることが見込まれるため、特例改定のチェックを怠らないようにしておきましょう。


出典:日本年金機構「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業により著しく報酬が下がった場合における標準報酬月額の特例改定のご案内」

まとめ

標準報酬月額は、社会保険料を簡便に計算するためにあります。標準報酬月額の仕組みを理解し、標準報酬月額を適切に決定できるようにしておきましょう。また、標準報酬月額を決定・変更する際は、速やかに事務センターまたは年金事務所に届けるようにしてください。

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よくある質問

標準報酬月額とは?

標準報酬月額とは、社会保険料の計算をしやすくするために、被保険者(従業員)が得た給与などのひと月分の報酬を、一定の範囲ごとに区分したものをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。

標準報酬月額を変更するタイミングは?

定時決定以外で標準報酬月額を変更する方法としては、「随時改定」「産前産後・育児休業終了時」「特例改定」の3つがあります。それぞれについてはこちらで詳しく解説しています。

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