監修 中村 桂太 特定社会保険労務士
基本給とは、毎月支払われる給与のうち各種手当や残業代を除いた「給与の中心」となる金額のことです。
企業によって決め方や構成要素は異なるものの、賞与・退職金・残業代など多くの支給額の算定基準となっています。基本給を正しく理解しておくことは、転職活動や年収交渉、将来のキャリア設計において欠かせません。
本記事では、基本給の定義から「固定給」や「月給」などとの違い、基本給の決定基準などについて解説します。基本給が高いことによるメリットや、基本給が低い場合の注意点についてもまとめているので、企業の人事担当者や自身の給与から将来の見通しを立てたい人は、参考にしてください。
目次
- 基本給とは?給与の土台となる賃金
- 基本給と固定給・月給・額面・手取りの違い
- 固定給
- 月給
- 額面(月収)
- 手取り(差引支給額)
- ほかの給与形態との違い
- 日給月給制
- 日給制・時給制
- 給与明細で見る「基本給」と「手取り」の内訳
- 基本給はどのように決まる?主な3つの決定基準
- 仕事給型
- 属人給型
- 総合給型
- 基本給が高い場合のメリット
- 賞与(ボーナス)や退職金の額が上がりやすい
- 時間外手当(残業代)の単価が上がる
- 給与が景気や業績に左右されにくく安定的
- 基本給が低い場合の注意点
- 月給や額面が高くても、手当で水増しされている可能性がある
- 賞与や退職金が想定より少なくなる
- 残業代の単価が低くなる
- 自分の基本給を確認する方法
- 入社前・転職活動中
- 在職中
- 基本給の平均相場
- 基本給が算定基準となる手当・給付金
- 時間外手当(残業代)・休日手当・深夜手当
- 賞与(ボーナス)・退職金
- まとめ
- 給与計算や給与明細発行をカンタンに行う方法
- よくある質問
基本給とは?給与の土台となる賃金
基本給とは、毎月支払われる給与のうち各種手当や残業代を除いた「給与の中心」となる金額のことです。
法律上の明確な定義はありませんが、多くの企業では職務内容や能力、勤続年数などを基準に基本給の金額を設定しています。毎月の給与のうち、「変動しない」部分とされています。
基本給は賞与や退職金、残業代といった金額を算定する際の基準です。そのため、給与制度全体に大きく影響します。
基本給と固定給・月給・額面・手取りの違い
基本給は給与体系の中心となる金額であり、各種手当や残業代と区別されます。
一方、「固定給」「月給」「額面」「手取り」は、支給形態や控除前後の金額を示す概念です。
固定給
固定給とは、毎月一定額として支払われる賃金を指します。基本給に下記のような固定手当を加算するのが一般的です。
固定給 = 基本給 + 固定手当(役職手当・住宅手当など)
基本給は固定給の一部として位置づけられます。なお、固定給には変動手当を含みません。固定給は金額が変動しにくい点から、給与の安定性を判断する際の指標にもなっています。
月給
月給は月単位で支給額が定められた賃金を意味し、実務上は固定給とほぼ同じ意味で用いられるケースがあります。基本給に固定手当を加えた金額が月給として表示されることが一般的です。
なお、求人票に月給が記載されている場合は、基本給と他の手当の割合を確認しないと賞与や残業代算定の基礎となる金額を誤認する可能性があるため、注意が必要です。
額面(月収)
額面とは、会社が支給する給与総額を指します。基本給に固定手当と変動手当を加えた金額のことで、税金や社会保険料が控除される前の金額です。
額面 = 基本給 + 固定手当 + 変動手当(残業代など)
給与明細には「支給額合計」などの項目で記載されています。
手取り(差引支給額)
手取りは額面から社会保険料、所得税、住民税などの控除額を差し引いた「実際に受け取る金額」です。
手取り = 額面 -(社会保険料 + 所得税 + 住民税)
基本給が高くても、手当が少ない・控除額が大きい・残業がないといった場合には、実際の手取り額が低くなる恐れがあります。
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ほかの給与形態との違い
基本給は給与体系の中心となる金額です。しかし、企業ごとに給与形態が異なることがほとんどです。ここでは、基本給と他の給与形態との違いについて説明します。
日給月給制
日給月給制とはあらかじめ月額で給与が決まっているものの、欠勤・遅刻・早退があった場合にその分が控除される支給方式です。外形的には「月給制」に近いものの、欠勤控除の取り扱いが異なる点が特徴です。
完全月給制では欠勤・遅刻・早退があっても月の給与からは引かれないため、労働時間や出勤日数に左右されにくい安定した支給方式とされています。
一方、日給月給制は月給額が決まっていても実働に応じて控除が行われるので、実質的には日給制の要素を併せ持つ支給形態といえます。
日給制・時給制
日給制および時給制は、働いた日数または時間数に応じて給与を算定する方式です。実働に基づいて賃金が決まることから、パート・アルバイト・シフト制勤務などで広く採用されています。
この方式では月給制のような「基本給」という概念が適用されにくく、「基本日給」「基本時給」といった表現が用いられます。賃金計算の基準となる単価が明確であるものの、勤務日数や労働時間により月ごとの支給額が変動するのが特徴です。
給与明細で見る「基本給」と「手取り」の内訳
給与明細は基本給と手取りの関係を理解するうえでもっとも確実な情報源です。注目すべきは、内訳の「支給」「控除」「差引支給額」です。
まず「支給」欄には、基本給に加え、役職手当や通勤手当、時間外手当など、会社が定める各種手当が記載されます。これらを合計した支給額合計がいわゆる「額面(総支給額)」です。
「控除」欄には、社会保険料・労働保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険)や、所得税・住民税などの法定控除が記載されます。給与の実際の受取額が額面より少なくなるのは、この控除が差し引かれるためです。なお、控除項目は法律で定められており、企業が任意で変更できるものではありません。
支給額合計から控除計を差し引いた「差引支給額」が、実際に受け取る手取り額です。
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基本給はどのように決まる?主な3つの決定基準
企業が基本給を設定する際には、評価制度や人材マネジメント方針に応じた決定方式が採用されます。
一般的には「仕事給型」「属人給型」「総合給型」のいずれか、またはそれらを組み合わせた方式で基本給が決定されます。
仕事給型
仕事給型は担当する仕事内容や役割の大きさ、職務遂行能力、成果など「仕事そのものの価値」を基準に基本給を決める方式です。成果主義やジョブ型人事制度を導入する企業、外資系企業などで広く採用されています。
役割や業務範囲が変わると処遇も見直されるため、担当職務の水準と評価結果が給与に反映されやすい点が特徴です。
属人給型
属人給型は年齢・勤続年数・学歴といった「個人の属性」に基づいて基本給を決定する方式で、日本企業に多い年功序列型の評価制度と強い関連を持っています。個人の経験や組織への貢献度を重視し、勤続に応じて昇給するケースが一般的です。
制度としては、安定性があり社員の長期雇用を前提とした組織文化と親和性が高い一方、成果や役割の変化が給与に反映されにくい課題もあります。
総合給型
総合給型は仕事給と属人給の双方の考え方を組み合わせて基本給を決める方式です。成果や役割の違いによる変動性を取り入れつつ、経験や勤続に応じた処遇も加味しています。多くの日本企業で導入されている、バランス型の制度といえます。
職務内容に応じた適正な評価と、社員の成長を評価する仕組みの両立が可能です。従来の年功序列を維持しながらも、職務・能力評価を取り入れたい組織に適しています。
基本給が高い場合のメリット
基本給が高いと、給与を受け取る側の社員にはさまざまなメリットがあります。
ここでは、基本給が高いことで得られる主なメリットを3つ解説します。
賞与(ボーナス)や退職金の額が上がりやすい
賞与の支給額を「基本給 × 〇ヶ月分」で計算する企業では、基本給が高いほど賞与額も増えます。同様に、退職金についても「退職時の基本給 × 勤続年数に応じた係数」といった方式が一般的で、基本給の水準が将来的な受取額に影響します。
勤続年数が短い段階では差が見えにくくても、長く勤めるほど累積効果が大きくなります。
時間外手当(残業代)の単価が上がる
残業代や休日出勤手当、深夜手当などの割増賃金は「1時間あたりの賃金 × 割増率(通常1.25倍以上)」で計算されます。この計算に用いる1時間あたりの賃金は、基本給を基礎として算定されるので、基本給が高いほど時間外手当の単価も上昇します。
そのため、同じ時間数の残業をしても、基本給が高い人は受け取れる手当の金額も多いのです。安定的に働きたい社員にとっては、日々の給与に反映されやすいメリットといえます。
給与が景気や業績に左右されにくく安定的
基本給は業績連動手当やインセンティブのように、企業の収益・業績による変動がありません。そのため、給与全体のなかで基本給の割合が高いほど、景気変動や企業業績の影響を受けにくく、収入の振れ幅も少なくなります。
社員にとっては家計管理やローン返済、教育費など長期的なライフプランを立てやすいでしょう。
基本給が低い場合の注意点
基本給の水準は、賞与・退職金・残業代など多くの金額の基礎となるため、表面的な月給額だけでは判断できません。とくに求人票で月給のみをチェックする場合、短期的には高い給与に見えても長期的な総収入や手取りに影響を及ぼす可能性があります。
ここでは、基本給が低い場合に注意すべきポイントを解説します。
月給や額面が高くても、手当で水増しされている可能性がある
求人票で月給が高く見えても、その実態は手当による見せかけの月収になっているケースも少なくありません。
たとえば「基本給18万円 + 職務手当3万円 + みなし残業代4万円」で月給25万円と記載されているケースでは、基本給の割合が低く手当で金額を底上げしていることになります。
とくに「みなし残業代」がある場合は、あらかじめ一定時間分の残業代が含まれており、基本給の低さに気づきにくくなります。
表面上の金額だけで判断せず、手当やみなし残業代が含まれているかどうかをチェックしましょう。
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賞与や退職金が想定より少なくなる
基本給が低いと、月給が同じであっても賞与や退職金の金額が変わる点に注意が必要です。
ここでは、A社(基本給23万円 + 手当2万円)とB社(基本給18万円 + 手当7万円)がどちらも月給25万円である場合について見ていきます。
どちらも賞与を「基本給の4ヶ月分」とする場合、A社は92万円、B社は72万円と、20万円もの差が生じます。
こうした違いは退職金にも連動するため、長期的な総収入に影響をおよぼします。月給や額面だけを見て判断すると、給与の実態を誤認するリスクがあることに注意しましょう。
残業代の単価が低くなる
基本給は、残業代の計算基礎となる「1時間あたりの賃金」の根幹です。基本給が低いと、残業をして受け取れる残業代も少なくなります。
固定残業代制(みなし残業)を採用している企業でも、固定分を超えた追加残業代は通常どおり支払われます。しかし、算出には基本給の単価が影響するため、超過分の残業代が少ないと感じるケースも少なくありません。
自分の基本給を確認する方法
基本給は賞与や退職金、残業代の算定基礎となるため、社員自身が正確に把握しておくことが重要です。
ここでは、入社前と在職中それぞれのシーンで基本給を確認する方法を解説します。
入社前・転職活動中
転職活動中に基本給を把握するもっとも確実な方法は、求人票の「月給」欄に記載された内訳を確認することです。月給が「基本給 + 手当」で構成されているケースでは「基本給 〇〇円」と明記されているか確認しましょう。
また、内定後に受け取る労働条件通知書(雇用契約書)には、給与の構成が法定事項として記載されています。「基本給」「各種手当」の区分が明確に示されているはずなので、入社前の段階で確認しておくことをおすすめします。
在職中
在職中に基本給を知りたい場合は、給与明細を確認しましょう。給与明細の「支給」欄には、基本給や各種手当が項目ごとに記載されているので「基本給」の金額を把握できます。
また、会社の就業規則や賃金規程には「基本給の決定方式」「等級や職務に応じた水準」「昇給ルール」などが定められています。これらを確認すると、現時点の基本給だけでなく、自身の処遇がどのような基準で決まっているのかを理解できます。
基本給の平均相場
基本給の金額や決め方は企業ごとに異なります。
ただし、厚生労働省が発表している「令和6年賃金構造基本統計調査の概況」から、基本給に固定手当を加えた所定内賃金を「基本給相当」として、平均相場を知ることが可能です。
<年齢別・性別の平均相場>
| 男女計 | 男性 | 女性 | |
|---|---|---|---|
| ~19歳 | 199,300円 | 203,600円 | 191,300円 |
| 20~24歳 | 232,500円 | 234,200円 | 230,600円 |
| 25~29歳 | 267,200円 | 274,700円 | 258,100円 |
| 30~34歳 | 299,500円 | 316,300円 | 271,600円 |
| 35~39歳 | 328,700円 | 352,300円 | 284,300円 |
| 40~44歳 | 351,400円 | 385,500円 | 288,400円 |
| 45~49歳 | 372,700円 | 416,000円 | 298,000円 |
| 50~54歳 | 380,400円 | 428,200円 | 295,400円 |
| 55~59歳 | 392,000円 | 444,100円 | 294,000円 |
| 60~64歳 | 317,700円 | 344,700円 | 259,900円 |
| 65~69歳 | 275,500円 | 294,300円 | 234,000円 |
年齢・性別の平均相場をみると、男女ともに平均相場は年齢とともに上昇し40代前半〜50代前半でピークを迎える傾向にあるとわかります。また、全年齢帯で男性のほうが女性より高い水準になっています。これは職務内容の差や管理職比率、働き方の違いが反映されていると考えられます。
<学歴別の平均相場>
| 男女計 | 男性 | 女性 | |
|---|---|---|---|
| 高校 | 288,900円 | 313,200円 | 237,700円 |
| 専門学校 | 306,900円 | 331,200円 | 281,300円 |
| 高専・短大 | 307,200円 | 364,400円 | 284,200円 |
| 大学 | 385,800円 | 417,700円 | 315,100円 |
| 大学院 | 497,000円 | 513,700円 | 420,900円 |
学歴別の平均相場をみると、最終学歴が高いほど相場も高くなる傾向であるとわかります。特に、大学・大学院卒は高卒よりも大きく上回り、賃金水準に明確な差が生じています。
さらに、すべての学歴において男性のほうが女性より相場が高いです。キャリア形成や職務内容の違いが賃金差に影響をおよぼしていると考えられます。
基本給が算定基準となる手当・給付金
基本給は給与体系の中心となる金額であり、手当や給付金の算定基準として用いられます。ここでは、代表的な手当・給付金の仕組みと基本給との関係を説明します。
時間外手当(残業代)・休日手当・深夜手当
時間外手当や休日手当、深夜手当といった割増賃金は「1時間あたりの賃金」をもとに計算されます。この単価は、所定内給与(基本給 + 固定手当)をもとに算出されるため、基本給の水準が直接反映される仕組みです。
1時間あたりの賃金 = 月の所定内給与 ÷ 月平均所定労働時間
1時間あたりの賃金に対して「時間外は1.25倍」「深夜は1.25倍」「休日は1.35倍」など法律で定められた割増率を掛けて支給額が決まります。したがって、基本給が高いほど割増賃金の単価も上がり、同じ時間数の残業でも受け取れる金額に差が出ます。
【関連記事】
残業代の計算方法まとめ!月給制の残業の仕組みや割増率についてわかりやすく解説
賞与(ボーナス)・退職金
賞与や退職金も基本給をもとに計算される代表的な支給項目です。多くの企業では賞与の計算を「基本給 × 〇ヶ月分」で行っており、退職金についても「退職時の基本給 × 勤続年数に応じた係数」で計算する方式を採用しています。企業ごとの規程によって、詳しい計算方式に違いはあるものの、どちらも「基本給の高さ」が受取額に直結しています。
そのため、月給が手当で水増しされている場合は実際の基本給が低くなるため、賞与や退職金が少なくなる可能性に注意が必要です。
【関連記事】
賞与(ボーナス)とは?平均額や社会保険料と所得税の計算方法について解説
まとめ
基本給とは単なる給与項目のひとつではなく、賞与や退職金、残業代など幅広い手当や給付金の基礎となる指標です。月給の見た目だけでは実態を判断できないケースもあるため、内訳を確認し、自分の基本給がどの程度なのか把握しておくことが大切です。
年齢・学歴・企業規模などによって相場は異なりますが、基本給をはじめとする給与制度を理解して、将来のキャリア形成や生活設計に役立てましょう。
給与計算や給与明細発行をカンタンに行う方法
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よくある質問
基本給と月給はどう違う?
基本給は給与体系の中心となる金額です。一方、月給は月単位で支給額が定められた賃金を意味し、実務上は固定給とほぼ同じ意味で用いられるケースがあります。基本給に固定手当を加えた金額が月給として表示されることが一般的です。
詳しくは記事内「基本給と固定給・月給・額面・手取りの違い」をご覧ください。
基本給が低いと、どのようなデメリットがある?
基本給が低いと賞与や退職金、残業代が少なくなる可能性があります。どれも基本給が算定基礎となっているため、長期的な総収入に影響をおよぼします。
詳しくは、記事内「基本給が低い場合の注意点」で解説しています。
自分の基本給はどこで確認できる?
基本給は、入社前であれば「求人票」や「労働条件通知書」で確認できます。在職中であれば「給与明細」に記載されています。在職中の場合は併せて「就業規則」や「給与規定」を確認しておくと、自分の基本給がどのような基準で決められているのかを理解できます。
詳しくは記事内「自分の基本給を確認する方法」をご覧ください。
参考文献
▶︎ 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査の概況」
監修 中村 桂太
建設会社に長期在籍し法務、人事、労務を総括。特定社会保険労務士の資格を所持し、労務関連のコンサルタントを得意分野とする。 ISO9001及び内部統制等の企業内体制の構築に携わり、 仲介、任意売却、大規模開発等の不動産関連業務にも従事。1級土木施工管理技士として、土木建築全般のコンサルタント業務も行う。


