監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所
個人事業主にとって屋号の登録は必須ではありませんが、個人名ではなく屋号を使って活動するとさまざまなメリットがあります。
屋号の登録に関しておさえるべきことのひとつが、税務署・法務局・特許庁における屋号登録の違いです。屋号の登録には「税務署への開業届」「法務局での商号登記」「特許庁への商標登録」の3種類あり、登録する目的や法的な効果が異なります。
本記事では、屋号登録のメリット・デメリットや3種類ある屋号登録の違い、登録方法を解説します。
目次
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屋号登録には3種類ある
個人事業主は必ずしも屋号をつける必要はなく、屋号を掲げて活動する場合でも税務署・法務局・特許庁への登録手続きは必須ではありません。
しかし、個人事業主として活動する中で屋号の登録が必要になるケースもあるので、登録しておいて損はないでしょう
屋号の登録方法は以下の3種類です。
屋号登録の種類
- 税務署への屋号登録「開業届」
- 法務局への屋号登録「商号登記」
- 特許庁への登録「商標登録」
税務署・法務局・特許庁では、屋号を登録する目的や法的な効果が異なります。3種類の登録の違いを理解したうえで、ご自身の状況に応じて必要な手続きを行いましょう。
税務署への屋号登録「開業届」
開業届とは、個人事業主が開業するときに税務署に提出する書類です。開業届の「屋号」欄に記入して提出すれば屋号を登録できます。
税務署に屋号を登録してもその名称が法的に保護されるわけではありませんが、屋号付きの銀行口座を開設するなら一般的に屋号を登録します。
屋号付きの銀行口座を開設する場合、屋号を使って営業していることを確認できる書類の提出が必要です。税務署に屋号を登録しておくと屋号で納税証明書を発行でき、口座開設時の手続き書類として使えます。
また、インボイス制度の開始に伴い、適格請求書発行事業者公表サイトで屋号の公表が可能です。屋号を登録・公開することで、屋号で発行した請求書やレシートに記載された登録番号を取引先が公表サイトで確認しやすくなります。
出典:国税庁「請求書やレシートに 「屋号」 を記載している個人事業者の皆さまへ」
法務局への屋号登録「商号登記」
登記とは、登録して社会に公示することで権利関係を明確にするための制度で、商号登記とは、個人事業主が屋号を登記することです。登記の手続きは法務局で行います。
商号登記によって屋号を登録した場合、他の人は同一所在地で同じ商号での登記はできません。他の地域で同じ名称の屋号が使われる可能性はありますが、現在の所在地では登録した屋号の使用を法的に保護できます。
個人事業主が法人化する際、その所在地で同一の商号で他人が登記済だと、それまで使っていた屋号の名称を会社設立時の登記で使用できません。従来の名称を使えなくなるリスクがありますが、商号登記をしておけば、同じ所在地で同じ屋号を他人に使われる事態を防げます。
なお、法人は会社設立時に登記が義務付けられていますが、個人事業主は開業時に登記の義務はありません。屋号を登記するかどうかは個人事業主が任意に判断します。
出典:e-Gov法令検索「商業登記法第二十七条」
出典:e-Gov法令検索「会社法」
特許庁への登録「商標登録」
商標とは、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマークのことです。特許庁で商標登録をすると商標権という権利が発生し、法的に保護されます。
商標登録はブランド名や個別の商品名で行われることが多いものの、屋号も商標登録が可能です。個人事業主が屋号を商標登録すれば、他人が同じ名称を勝手に使うことはできません。
法務局で行う商号登記では同一所在地に限り法的に使用が制限されますが、特許庁で行う商標登録ではその効果は国内に及びます。商標権は登録した名称を独占的に使える権利であり、屋号と同じ名称を勝手に使われた場合には、使用の差し止めや損害賠償請求もできる権利です。
ただし、商標登録によって制限できるのは「登録した区分と同一の商品やサービス」に限られるもので、サービスが違えば(妨害・便乗など不当な理由での使用を除いて)他者による使用を制限することはできません。
個人事業主で屋号を商標登録する必要性が高い人は多くありませんが、屋号にブランド力があり、販売する商品にその名前を付ける場合などは商標登録をしましょう。なお、サービス・商品それぞれで登録を行う場合、その分維持費も発生するので十分な検討を行う必要があります。
出典:特許庁「商標制度の概要」
出典:政府広報オンライン「知っておかなきゃ、商標のこと!商標を分かりやすく解説!」
屋号登録は必要?屋号を使うメリット・デメリット
屋号登録は必須ではありませんが、個人事業主が登録すると以下のメリットとデメリットがあります。
屋号登録のメリット
- 事業内容が取引先や顧客に伝わりやすくなる
- 取引先や顧客の印象、社会的な信用度が良くなる可能性がある
- 屋号で銀行口座が作れる
- 商号登記や商標登録をすれば屋号を法的に保護できる など
屋号登録のデメリット
- 屋号を決める手間や登録手続きの手間がかかる
- 税務署への登録だけでは法的拘束力がない
- 商号登記や商標登録では費用がかかる など
たとえば、「〇〇美容室」という屋号にすれば、美容室であることが顧客はすぐにわかり、集客にプラスに働く可能性があります。また、屋号で銀行口座を作って私的な口座と分ければ、事業資金を管理しやすくなる点もメリットです。
ただし、屋号を決めるには手間がかかります。屋号に使えない文字など屋号をつけるときのルールを確認し、既に商標登録されている名称でないか確認も必要です。
さらに、商号登記では登録免許税3万円がかかり、商標登録では出願時に最低1万2,000円、登録時に最低3万2,900円(分納では前期・後期各1万7,200円)の費用がかかります。法務局や特許庁で屋号を登録すれば法的に保護できるものの、費用負担が生じる点はデメリットです。
出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
出典:特許庁「産業財産権関係料金一覧」
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屋号を登録するときの手続き方法
税務署・法務局・特許庁での屋号登録では手続きの流れや必要書類が異なります。以下では各手続きのやり方を解説します。
税務署:開業届の手続き方法
個人事業主が税務署に開業届を提出して屋号を登録する場合、手続きの流れは以下の通りです。
開業届の提出手順
- 開業届を作成する
- 税務署に提出する
- 提出後は控えを保管する
開業届の用紙は国税庁サイトからダウンロードできます。開業届の提出先は、開業する住所地を管轄する税務署です。税務署に持参または郵送で提出する方法のほか、e-Taxを使ってオンラインでも提出できます。
開業届の控えは、事業用の銀行口座の開設手続きで必要になることがあるので保管しておきましょう。
税務署の窓口に持参して提出する場合、これまでは控えを持参すれば税務署の収受日付印が押されましたが、2025年1月からは「リーフレット」に申告書等を収受した「日付」や「税務署名」を記載したものが渡されるため、保管しておく必要があります。
e-Taxで提出する場合は開業届の控えは発行されません。e-Taxで送信したデータとメッセージボックスに届いた受信通知が控えの代わりになるので、該当データを保存しておきましょう。
開業届の書き方や提出方法は別記事「個人事業主の開業届の提出に必要なものとは?必要書類の出し方や注意点も解説」をご覧ください。
出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
法務局:商号登記の手続き方法
個人事業主が法務局に開業届を提出して屋号を登録する場合、手続きの流れは以下の通りです。
商号登記の手続き方法
法務局での手続きの際に必要なものは下記です。
屋号の商号登記で必要なもの
- 個人の実印とその印鑑証明書
- 印鑑届出書
- あれば屋号印
- 登記申請書
- 登録免許税3万円
個人の印鑑証明書を取得するためには実印の印鑑登録が必要です。印鑑登録がまだの場合は、あらかじめ登録手続きを行ってください。
商号の登録とともに印鑑も登録する必要があり、印鑑届出書の用紙は法務局で取得できます。通常は丸印です。個人の実印でも構いませんが、個人の実印を頻繁に持ち出したり使ったりすることを避けるため、事業で使う屋号印を別で作って登録しておきましょう。
登記申請書の用紙は法務局サイトにサンプルが掲載されています。書き方がわからない場合は法務局の窓口で確認してください。3万円分の印紙を貼る際は、商号登記申請書などに不備がないか法務局の職員に確認してもらってから貼るようにしましょう。
特許庁:商標登録の手続き方法
個人事業主が特許庁で商標登録を行って屋号を登録する場合、手続きの流れは以下の通りです。
屋号の商標登録の手順
- 登録できる名称か商標調査を行う
- 商標登録願に必要事項を記入して特許庁に提出する
- 特許庁による商標審査を受ける
- 登録料を納付する
商標登録では、似たような商標が既に出願・登録されていないかを調査する「商標調査」が必要です。既に登録されている名称だと商標登録はできず、勝手に使うと商標権侵害になる可能性があるので注意が必要です。商標調査は「J-PlatPat」を使って無料で行えます。
「商標登録願」の用紙は「知的財産相談・支援ポータルサイト」からダウンロードできます。紙の書類を特許庁に持参または郵送で提出する方法のほか、インターネット出願も可能です。
紙の書類を出願する場合は出願料相当分の特許印紙を貼付して提出し、インターネット出願の場合はクレジットカードや口座振替などで出願料を納付します。出願料は「3,400円+(区分数×8,600円)」です。
特許庁による審査が行われた後、登録が認められれば登録手続きを進めて登録料を納付します。登録料は、10年分を一括納付する場合は「区分数×3万2,900円」、5年分に分けて納付する場合は前期・後期それぞれ「区分数×1万7,200円」です。
なお、商標登録は自分で行うことも可能ですが、専門的な知識が必要となるうえに手間がかかるので、弁理士や特許事務所などに依頼するのが一般的です。専門家に依頼する場合は別途費用がかかります。
出典:特許庁「特許(登録)料の納付方法について」
個人事業主やフリーランスの屋号の決め方と注意点
個人事業主やフリーランスが屋号を決める際の主なポイントは以下の通りです。
屋号を決めるときのポイント
- シンプルさ・わかりやすさを意識する
- 屋号に使用できない言葉は使わない
- 既に商標登録されているかどうか確認する
屋号は基本的に自由に決められますが、顧客や取引先に与える印象が屋号の文言によって変わります。ビジネスをするうえで屋号は重要なものなので、慎重に検討するとともに、事業内容が相手に伝わりやすいようにシンプルでわかりやすい文言にしましょう。
屋号に使ってはいけない言葉としては、「〇〇会社」や「△△銀行」などが挙げられます。法人化していなければ「会社」は使うことはできず、「銀行」や「証券」など特定業種だと誤認される文字も使うことができません。
また、既に商標登録されている名称を使うと商標権侵害などのトラブルになる可能性があるので、「J-PlatPat」を使って確認するようにしてください。商標登録されていない場合でも、トラブルを避けるため同一地域で他の事業者と同じ屋号はつけないようにしましょう。
まとめ
個人事業主にとって屋号の登録は必須ではありませんが、税務署や法務局、特許庁で手続きをして屋号を登録すればさまざまなメリットがあります。屋号付きの銀行口座を開設する予定の人や、同じ名称を他の人に使われたくない人は屋号を登録しましょう。
税務署に登録するときは「開業届」を、法務局で商号登記をするときは「登記申請書」を、特許庁で商標登録をするときは「商標登録願」を、それぞれ提出する必要があります。
屋号を登録する場合は、ミスなくスムーズに手続きを終えられるように、各行政機関のホームページなどで手続きの流れや必要書類を事前に確認するようにしてください。
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3. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
家族や従業員に給与を支払うための申請書です。
4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
原則毎月支払う源泉所得税を年2回にまとめて納付するための手続です。毎月支払うのは手間ですので、ぜひ提出しましょう。
5. 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
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freee開業を使った開業届の書き方は、準備→作成→提出の3ステップに沿って必要事項を記入していくだけです。
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準備編では事業の基本情報を入力します。迷いやすい職業欄も多彩な選択肢のなかから選ぶだけ。
事業の開始年月日、想定月収、仕事をする場所を記入します。
想定月収を記入すると青色申告、白色申告のどちらが、いくらお得かも自動で計算されます。
Step2:作成編
次に、作成編です。
申請者の情報を入力します。
名前、住所、電話番号、生年月日を記入しましょう。
給与を支払う人がいる場合は、上記のように入力をします。
今回は準備編で「家族」を選択しましたので、妻を例に記入を行いました。
さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。
※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。
今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。
Step3:提出編
最後のステップでは、開業に必要な書類をすべてプリントアウトし、税務署に提出します。
入力した住所をもとに、提出候補の地区がプルダウンで出てきます。地区を選ぶと、提出先の税務署が表示されますので、そちらに開業届けを提出しましょう。
届け出に関する説明とそれぞれの控えを含め、11枚のPDFが出来上がりました。印刷し、必要箇所に押印とマイナンバー(個人番号)の記載をしましょう。
郵送で提出したい方のために、宛先も1ページ目に記載されています。切り取って封筒に貼りつければ完了です。
いかがでしょう。
事業をスタートする際や、青色申告にしたい場合、切り替えたい場合など、届出の作成は意外と煩雑なものです。
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freee開業とfreee会計を使って、効率良く届出を作成しましょう。
よくある質問
屋号の登録は必要?
個人事業主やフリーランスにとって屋号の登録は必須ではありません。ただし、登録すればさまざまなメリットがあります。
屋号を登録するメリットについて、詳しくは「屋号登録は必要?屋号を使うメリット・デメリット」をご覧ください。
屋号の登録手続きはどこで行う?
開業届に記載して屋号を登録する人は税務署に、商号登記をする人は法務局に、商標登録をする人は特許庁に、それぞれ書類を提出して手続きを行います。
屋号の登録手続きをどこで行うのか、詳しくは「屋号を登録するときの手続き方法」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
