監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
司法書士として独立開業するためには、研修の受講や登録手続き、開業の届出などが必要です。
司法書士試験に合格してこれら一定の手続きや準備を行えば、実務経験がなくても開業が可能です。ただし、事業を成功させるためには、業務に関する知識や対応力を高めるとともに、営業力の強化や業務効率化などのポイントも押さえておく必要があります。
本記事では、司法書士が独立開業する場合のステップや必要な手続きのほか、独立開業を成功させるためのポイントや年収の目安も解説します。
目次
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司法書士試験に合格してからすぐに独立開業できる?
司法書士は国家資格であり、主な業務として登記申請や法務局・裁判所などへの提出書類の作成を専門に行います。
司法書士試験に合格し、研修を修了して一定の手続きを行えば、実務経験がなくてもすぐに司法書士としての独立開業が可能です。
しかし、実務経験を積んでからのほうが、業務や事業運営をスムーズに進めやすくなるでしょう。
司法書士の業務は、試験勉強で得た知識だけで対応できるものではなく、顧客に寄り添った提案を行うための資料作成力・実務対応力・コミュニケーション力も求められます。
また、知識があったとしてもすぐに顧客獲得につながるわけではありません。業界内でのつながりを築けていない状態では、実績のある競合より優位に立つのは難しく、独立開業しても失敗する可能性があります。
司法書士事務所などに勤めて3年程度の実務経験を積んでから独立開業するケースが多く見られます。
司法書士として開業するステップと手続き
司法書士として独立開業するためには、司法書士試験に合格してから以下のステップに沿って手続き・準備を進める必要があります。
司法書士として開業するステップと手続き
- 新人研修・特別研修を受講する
- 司法書士の登録をする
- 開業の計画を立てる
- 事務所や設備を準備する
- 開業届と事業開始等申告書を提出する
- 税務の手続きをする
①新人研修・特別研修を受講する
司法書士試験に合格したら、まず日本司法書士会連合会が実施する研修を受けます。研修は、司法書士として働くために必ず受講しなければならない新人研修と、認定司法書士になるために受講が必要な特別研修の2つです。それぞれの違いを確認しましょう。
新人研修
新人研修は、司法書士として業務を行うために必要な、法律家としての執務姿勢や実務能力の習得を目的とする研修です。今後1年以内に司法書士として登録し、日本司法書士会連合会へ入会することを予定している資格者を対象とします。
新人研修には中央研修、ブロック研修、司法書士会研修の3種類があります。
| 新人研修の種類 | 研修の形式 | 開催時期 |
|---|---|---|
| 中央研修 | eラーニング研修 | 毎年12月〜翌1月の約18日間 (日程は地域によって異なる) |
| ブロック研修 | 主にeラーニング研修 | 地域によって異なる |
| 司法書士会研修 (配属研修) | 司法書士事務所の一員として 勤務しながら実務を学ぶ | 地域によって異なる |
特別研修
特別研修は、認定司法書士になるために受講が必要な研修です。認定司法書士になると、訴訟額140万円以下の、簡易裁判所の管轄となる民事訴訟において代理人業務などを行うことが認められます。
動画視聴形式で行われる基本講義のほか、講義形式の演習や実務研修など多様なプログラムが設けられています。
研修を終えたあと、「簡裁訴訟代理等能力認定考査」という試験に合格すると、認定司法書士の資格が得られるます。
②司法書士の登録をする
新人研修を修了したあとは、日本司法書士会連合会と司法書士会への登録を行います。登録をしなければ、司法書士として業務を行えません。
登録の流れは、以下のとおりです。
司法書士登録の流れ
- 管轄地域の司法書士会で登録申請書の交付を受け、必要書類とともに提出する
- 司法書士会の役員と面談する
- 日本司法書士会連合会の登録審査を受ける
- 審査通過後、登録証の交付を受ける
提出が必要な書類は司法書士会によって異なる場合があるため、必要に応じて管轄地域の司法書士会に確認しましょう。一般的に必要なものは、以下のとおりです。
③開業の計画を立てる
司法書士としての登録が完了したら、開業に向けた計画を立てましょう。綿密な計画を立てておくことで、失敗のリスクを軽減できます。
開業の計画を立てる際に、特に決めておくべきポイントは以下の3点です。
開業計画を立てる際に検討すべきポイント
- 開業場所(都市部・地方)
- 事業内容
- 資金調達方法
- 不動産の登記手続き
- 会社や法人の登記手続き
- 裁判所への提出書類の作成
- 成年後見に関する業務
- 供託手続きの代理
- 簡易裁判所の訴訟の代理
- 筆界特定手続きの代理
- 青色事業専従者給与に関する届出書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
- 所得税の青色申告承認申請書
- 所得税の棚卸資産の評価方法の届出書
- 所得税の減価償却資産の償却方法の届出書
- 営業力や集客力を磨く
- ITを活用する
- 人脈づくりをする
- 営業・集客スキルの不足
- 非効率的な業務フロー
- 人脈不足 など
開業場所(都市部・地方)を決める
まずは、立地や競合の多さ、コストなどを考慮して開業場所を決めましょう。
都市部は司法書士に対するニーズが高く、幅広く依頼を受けられる可能性が高いです。ほかの士業や関係者との人脈も築きやすく、連携を図りながら業務を進めやすいでしょう。一方、都市部は競合が多い、事務所の賃料が高くなりやすいなどのデメリットもあります。
地方は競合が少ない地域も多く、地域密着型の営業によって顧客からの信用を得やすい点がメリットです。固定費も都市部に比べて抑えやすく、経費削減につながる可能性があります。ただし、人口が少ない地域は都市部ほどの依頼件数が見込めないことが考えられます。
事業内容を決める
事業計画を立てる際は、事業内容も明確にしておく必要があります。
司法書士の業務は、以下のように多岐にわたります。
司法書士の業務
融資など開業資金の調達方法を決める
司法書士として開業する際は、事務所や設備にかかる費用のほか、登録費用や会費、通信費、光熱費、システム費用などが必要です。
開業する地域や事務所契約/自宅開業などの条件によって異なりますが、初期費用としては50万〜100万円程度が必要と考えられます。
自己資金で不足する場合は、融資を検討しましょう。金融機関から融資を受けることができれば、開業当初から資金繰りを安定させられます。
ただし、実績がない段階では民間金融機関からの融資を受けるのは難しい場合があります。事業実績がない場合は、国や地方自治体が提供している制度融資の活用を検討しましょう。
【関連記事】
開業費とは?認められる経費と帳簿の付け方や節税方法を解説
④事務所や設備を準備する
事業計画を作成したら、事務所や設備など、開業にあたって具体的に必要なものを準備しましょう。
事務所を契約するか自宅開業かを決める
司法書士として独立開業する際は、事務所を契約するか、自宅で開業するかを決めましょう。
事務所を契約する場合、まとまった初期費用がかかる一方で、顧客からの信用を得やすい点がメリットです。自宅開業する場合は、コストを大幅に抑えられ、通勤時間も不要というメリットがあるものの、事務所としている自宅の住所を公開する必要があるなど、デメリットもあります。
また、事務所を契約するのであれば、立地を慎重に選定することが重要です。自宅開業する場合は、事務所として使うスペースを整備しましょう。
必要な設備を準備する
開業に必要な設備は多岐にわたるため、計画的な準備が重要です。
仕事用の机や椅子に加え、応接用のテーブルや椅子、書棚、金庫などを用意しましょう。また、パソコン本体やモニター、ウイルス対策ソフトウェアなど、パソコン関連機器も準備が必要です。
プリンター用紙や封筒、名刺、文房具などの消耗品も用意しなければなりません。また、電話やFAX、コピー機なども業務に欠かせない設備です。場合によっては、業務を効率化するためのソフトウェアやシステムも必要になることがあります。
必要な設備をリストアップして、開業に間に合うように準備を進めましょう。
⑤開業届と事業開始等申告書を提出する
司法書士が独立開業する際は、開業届の提出が必要です。
開業届は、新たに事業を開始した日から1ヶ月以内に税務署へ提出しなければなりません。書面を作成し、所轄の税務署に持参・郵送、またはe-Taxで提出しましょう。
また開業届とは別に、都道府県税事務所への事業開始等申告書の提出も求められます。提出期限や様式は都道府県によって異なるため、確認しておきましょう。
開業届や事業開始等申告書について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご確認ください。
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開業届とは?個人事業主が知っておくべき基礎知識や提出するメリット・注意点について解説
開業届を郵送で提出するときのやり方は?必要書類や控えの取得方法も解説
開業届の書き方(見本)を紹介!必要書類や提出するメリット・注意点も解説
【記入例あり】事業開始等申告書とは?書き方や開業後に提出する届出も解説
⑥税務の手続きをする
開業時には、開業届などの書類のほかにも、提出が必要な書類があります。これらの書類は納税に影響するため、忘れずに手続きをしましょう。
以下では、開業時に提出が必要な書類を「雇用に関する書類」と「税金に関する書類」に分けて解説します。
雇用に関する書類
司法書士が開業する際に提出する雇用関係の書類は、以下のとおりです。
雇用に関する書類
「青色事業専従者給与に関する届出書」は、生計を一にする配偶者や子ども、親族などを専従者として雇用する場合に提出する書類です。
配偶者や子どもなどの給与を経費として算入する年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合などは、その開業等の日から2ヶ月以内)に、所轄の税務署に提出します。提出期限が年末年始や土・日・祝日にあたる場合は、その翌開庁日が期限となります。
「給与支払事務所等の開設届出書」は、社員やパートを雇って給与を支払う場合に提出する書類です。開設し給与を払い出してから1ヶ月以内に、税務署に提出する必要があります。
ただし、開業時点ですでに従業員を雇用しており、開業届の提出時に「給与等の支払の状況」を記入した場合は、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要はありません。なお、開業届提出後に新たに給与の支払いを開始した場合は、提出が必要です。
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、給与の支払対象者が10人未満である場合に、源泉所得税を月1回ではなく年2回にまとめて納付できる特例制度を利用するための書類です。提出期限は特に設けられていませんが、提出漏れを防ぐためにも早めに提出しましょう。
税金に関する書類
税金に関して提出すべき書類は、以下のとおりです。
税金に関する書類
「所得税の青色申告承認申請書」は、確定申告で青色申告をする場合に提出しなければなりません。
青色申告をする予定の年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始した場合などは、その事業開始等の日から2ヶ月以内)に、所轄の税務署に提出します。なお、提出期限が年末年始や土・日・祝日にあたる場合は、その翌開庁日が期限です。
「所得税の棚卸資産の評価方法の届出書」は、棚卸資産の評価方法を指定する場合に提出が必要な書類です。提出しない場合、棚卸資産は期末時点の仕入単価で評価する方法である最終仕入原価法で計算します。
「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」は、減価償却の方法を指定するための書類です。提出しない場合、減価償却資産の種類ごとに決められた法定償却方法が適用されます。
棚卸資産の評価方法や減価償却資産の償却方法の選択には専門的な知識を要するため、不明点がある場合は税理士に相談しましょう。
司法書士として独立開業を成功させるためのポイント
司法書士として独立開業を成功させるためには、一定の実務経験を積んで専門知識や対応力を磨くとともに、以下のような観点でも準備を整えておきましょう。
司法書士の独立開業を成功させるためのポイント
意識すべきポイントを解説します。
営業力や集客力を磨く
司法書士として独立開業を成功させるためには、営業力や集客力を磨きましょう。
独立開業すると、企業に勤めるケースとは異なり、自ら行動して顧客を獲得しなければ収入を得られません。司法書士としての業務をこなすだけでなく、営業力や集客力を発揮して顧客を獲得する必要があります。
早期に顧客を獲得するためには、独立開業の前後からブログやSNSで情報発信をしたり、知人に営業活動を行ったりして、営業に取り組むことが重要です。
ITを活用する
ITの積極的な活用も、司法書士としての独立開業を成功させるために重要なポイントのひとつです。
独立開業すると、司法書士としてやるべき仕事のほかに営業や経理などの仕事も自分自身で行わなければならず、業務過多に陥る可能性もあります。そのため、独立開業するならIT活用による業務効率化を行うことが望ましいでしょう。
たとえば、ITの活用によって書類作成や顧客情報のデータ管理、スケジュール管理などの効率化が可能です。
人脈づくりをする
司法書士の独立開業を成功させるためには、人脈づくりが欠かせません。
顧客だけでなく、同業者や関連士業、不動産業、金融機関など仕事で関わる人との関係も築くことで、新しい顧客の獲得につながります。たとえば交流会やイベント、地域の行事への参加を通じて人脈づくりが可能です。
司法書士として開業したときの年収目安
司法書士の平均年収は、厚生労働省の職業情報提供サイトによると約765.3万円です。こちらは、「令和6年賃金構造基本統計調査」の結果に基づくデータであり、司法書士として事務所に勤務する人も含みます。
独立開業する場合は、業務の件数や案件単価を自分自身で調節できるため、努力次第では平均年収を超えた高い水準の年収を目指すことも可能です。
ただし、業務の自由度の高さは、年収を増やせる可能性と同時に、収入が不安定になるリスクにも紐づきます。独立開業後も高い年収を得るために、開業前の計画や準備、開業後の営業などに注力することが重要です。
出典:厚生労働省「職業情報提供サイトjob tag 司法書士」
出典:国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査 ―調査結果報告―」
まとめ
司法書士として独立開業するにあたっては、研修の受講や司法書士会への登録、事務所の準備などの手順を踏む必要があります。
独立開業を成功させるためには、3年程度実務経験を積んで専門知識や対応力を磨くとともに、ITを活用した業務効率化や人脈づくりなども欠かせません。
手続きの流れや重要なポイントを把握し、司法書士としての独立開業を成功に導きましょう。
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個人事業を始める際には「開業届」を、青色申告をする際にはさらに「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。 記入項目はそれほど多くはありませんが、どうやって記入したらいいのかわからないという方も多いと思います。
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1. 個人事業の開業・廃業等届出書
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2. 所得税の青色申告承認申請書
青色申告承認申請書は事業開始日から2ヶ月以内、もしくは1月1日から3月15日までに提出する必要があります。期限を過ぎた場合、青色申告できるのは翌年からになるため注意が必要です。
3. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
家族や従業員に給与を支払うための申請書です。
4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
原則毎月支払う源泉所得税を年2回にまとめて納付するための手続です。毎月支払うのは手間ですので、ぜひ提出しましょう。
5. 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
青色申告をする場合に、家族に支払う給与を経費にするための手続です。青色申告をして家族に給与を支払う場合は必ず提出しましょう。
freee開業の使い方を徹底解説
freee開業を使った開業届の書き方は、準備→作成→提出の3ステップに沿って必要事項を記入していくだけです。
Step1:準備編
準備編では事業の基本情報を入力します。迷いやすい職業欄も多彩な選択肢のなかから選ぶだけ。
事業の開始年月日、想定月収、仕事をする場所を記入します。
想定月収を記入すると青色申告、白色申告のどちらが、いくらお得かも自動で計算されます。
Step2:作成編
次に、作成編です。
申請者の情報を入力します。
名前、住所、電話番号、生年月日を記入しましょう。
給与を支払う人がいる場合は、上記のように入力をします。
今回は準備編で「家族」を選択しましたので、妻を例に記入を行いました。
さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。
※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。
今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。
Step3:提出編
最後のステップでは、開業に必要な書類をすべてプリントアウトし、税務署に提出します。
入力した住所をもとに、提出候補の地区がプルダウンで出てきます。地区を選ぶと、提出先の税務署が表示されますので、そちらに開業届けを提出しましょう。
届け出に関する説明とそれぞれの控えを含め、11枚のPDFが出来上がりました。印刷し、必要箇所に押印とマイナンバー(個人番号)の記載をしましょう。
郵送で提出したい方のために、宛先も1ページ目に記載されています。切り取って封筒に貼りつければ完了です。
いかがでしょう。
事業をスタートする際や、青色申告にしたい場合、切り替えたい場合など、届出の作成は意外と煩雑なものです。
しかし、freee開業を活用すれば、無料ですぐに届け出の作成が完了。
また、確定申告書の作成もfreee会計を使えば、ステップに沿ってすぐに完了します。
freee開業とfreee会計を使って、効率良く届出を作成しましょう。
よくある質問
司法書士の独立開業資金はどれくらい?
司法書士が独立開業するために必要な資金の目安は、トータルで50万〜100万円程度です。事務所や設備にかかる費用のほか、司法書士会への登録費用や会費、通信費、光熱費、システム費用などが含まれます。
独立開業資金について詳しくは、記事内「融資など開業資金の調達方法を決める」をご覧ください。
司法書士の独立開業が失敗する原因は?
司法書士が独立開業して失敗する主な原因は、以下のとおりです。
司法書士の独立開業が失敗する主な原因
詳しくは、記事内「司法書士として独立開業を成功させるためのポイント」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。
HP:有限会社ライフスタッフ
