日本では「国民皆保険制度(こくみんかいほけんせいど)」が導入されており、すべての国民はいずれかの公的医療保険に加入する仕組みになっています。そのため、退職時や労働条件変更時には、社会保険から国民健康保険への切り替えが必要になります。
社会保険と国民健康保険では、加入要件や保険料の計算方法、手続きなどが異なるため、企業としては対象となる従業員へ正しく案内することが重要です。
本記事では、切り替えが必要となるケースやタイミング、企業が把握すべき手続きの流れなどについて解説します。
目次
- 社会保険から国民健康保険へ切り替わる2つのケース
- 1. 退職する場合
- 2. 労働条件の変更によって社保要件を満たさなくなる場合
- 社会保険の資格喪失日と健康保険が使える期間
- 社会保険の資格喪失日
- 健康保険が使える期間
- 無保険期間をつくらないための注意点
- 社会保険から国民健康保険への切り替え手続き
- 切り替え期限
- 必要な書類
- 市区町村での手続き
- 企業が行う社会保険の資格喪失手続き
- 1. 健康保険・厚生年金保険資格喪失届の提出
- 2. 保険証(資格確認書)の回収
- 3. 離職票の発行準備
- 【ケース別】社会保険の資格を喪失した対象者と企業が対応すべきこと
- 国民健康保険へ加入する場合
- 家族の社会保険の扶養に入る場合
- 会社の健康保険を任意継続する場合
- 社会保険から国民健康保険へ切り替える際、対象者に渡すべき書類一覧
- 退職者へ渡す書類
- 労働条件を変更する従業員へ渡す書類
- 社会保険から国民健康保険へ切り替える際の注意点
- 資格喪失日の誤案内
- 保険証(資格確認書)回収漏れによる不正使用
- 社会保険と国民健康保険の二重加入
- 任意継続の申請期限に関する誤認
- まとめ
- 入退社管理や給与計算などをカンタンに行う方法
- よくある質問
社会保険から国民健康保険へ切り替わる2つのケース
社会保険から国民健康保険へ切り替わるのは、主に「退職」と「労働条件の変更」の2つのケースです。いずれも社会保険の加入要件を満たさなくなった時点で、対象者自身が国民健康保険の加入手続きを行う必要があります。
1. 退職する場合
退職は、社会保険から国民健康保険へ切り替わる代表的なケースです。会社を退職すると、社会保険の被保険者資格を喪失します。被保険者資格とは、勤務先を通じて健康保険や厚生年金に加入できる立場のことです。
退職後、再就職先の社会保険に加入しない、または家族の扶養に入らない場合には、国民健康保険への切り替えが必要になります。
2. 労働条件の変更によって社保要件を満たさなくなる場合
労働条件の変更により、所定労働時間や勤務日数が減少すると、社会保険の加入要件を満たさなくなります。たとえば、フルタイムから短時間勤務へ切り替わった場合がこれに該当します。
社保要件を満たさなくなった場合、かつ家族の扶養に入らない場合は、国民健康保険への切り替えが必要です。
社会保険の基本的な仕組みや国民健康保険との違いについては、以下の記事でも紹介していますので、あわせてご覧ください。
【関連記事】
社会保険とは?5つの種類や加入条件、国民健康保険との違いをわかりやすく解説
社会保険の資格喪失日と健康保険が使える期間
会社の退職や労働条件の変更により社会保険の資格を喪失すると、健康保険の扱いが変わります。資格喪失日がいつになるのか、健康保険はいつまで使えるのかについて確認が必要です。無保険期間を防ぐための注意点も含めて把握しておきましょう。
社会保険の資格喪失日
社会保険の資格喪失日とは、会社の社会保険に加入できる立場を失う日のことです。原則として、退職日の翌日が資格喪失日となります。
資格喪失日を起点に健康保険の扱いが切り替わるため、国民健康保険への加入日や保険証(資格確認書)の交付時期を判断するうえで、正確な理解が欠かせません。
健康保険が使える期間
マイナ保険証や資格確認書を使って、社会保険の健康保険を利用できる期間は、資格喪失日と関係します。退職日の翌日をもって社会保険の被保険者資格を喪失するため、健康保険はその前日である退職日までしか利用できません。
無保険期間をつくらないための注意点
社会保険から国民健康保険へ切り替える際は、無保険期間をつくらないよう注意が必要です。無保険期間とは、いずれの公的医療保険にも加入していない状態を指します。
とくに注意すべきことは、以下のとおりです。
無保険期間をつくらないための注意点
- 資格喪失日と国民健康保険の加入日の関係を把握すること
- 退職日や労働条件変更日を自己判断しないこと
- 市区町村での手続きを後回しにしないこと
資格喪失日を基準に、必要書類の準備と手続きのタイミングを正しく把握することが重要です。
社会保険から国民健康保険への切り替え手続き
社会保険から国民健康保険への切り替えでは、企業と対象となる従業員の双方に対応が求められます。企業が把握すべき切り替え期限や必要書類、対象者が行う市区町村での手続きについて解説します。
切り替え期限
国民健康保険への切り替え手続きは、社会保険の資格喪失日から14日以内に行います。資格喪失日は退職日の翌日であり、国民健康保険の加入日も同日です。
期日が過ぎても加入自体は可能ですが、無保険期間が生じたり遡って保険料が発生したりするため注意が必要です。
必要な書類
社会保険から国民健康保険へ切り替える際、対象者が市区町村役場で行う国民健康保険の加入手続きに必要となる書類は、以下のとおりです。
社会保険から国民健康保険への切り替えに必要な書類
- 健康保険資格喪失証明書など、退職日が確認できる書類
- 本人確認書類
- マイナンバーがわかるもの
また、60歳未満の方は国民年金への切り替え手続きを同時に行うことがあるため、年金手帳または基礎年金番号通知書があるとスムーズです。
市区町村での手続き
国民健康保険への加入は、対象者本人が行う手続きです。退職日の翌日から14日以内に、住民票のある市区町村の役場で申請します。役場に出向く以外に、郵送やオンラインで対応している場合もあります。
役場では国民年金の切り替えも同時に行われるのが一般的です。
企業が行う社会保険の資格喪失手続き
退職や労働条件の変更に伴い、企業は社会保険の資格喪失に関する手続きを行います。資格喪失届の提出をはじめ、保険証(資格確認書)の回収や離職票の準備など、企業が対応すべき以下の業務内容を解説します。
- 健康保険・厚生年金保険資格喪失届の提出
- 保険証(資格確認書)の回収
- 離職票の発行準備
1. 健康保険・厚生年金保険資格喪失届の提出
企業は、健康保険・厚生年金保険資格喪失届を、加入している保険者または管轄の年金事務所、事務センターへ提出します。提出期限は、退職の事実があった日から5日以内です。
健康保険・厚生年金は月単位で加入する制度であるため、保険料は資格喪失日が属する月の前月まで発生します。月末退職の場合、資格喪失日は翌月1日となり、賃金締切日によっては退職月分と前月分の2ヶ月分ををまとめて引くケースもあります。
賃金締切日とは、当月分の給与から控除する社会保険料を確定するための、社内上の締め日です。給与計算とあわせて、資格喪失日の正確な確認が必要です。
2. 保険証(資格確認書)の回収
社会保険の資格を喪失した時点で、企業は健康保険証(資格確認書)の回収を行います。対象は本人分に限らず、被扶養者分も含まれます。また、高齢受給者証や限度額適用・標準負担額認定証など、健康保険に付随して交付されている証書の回収も必要です。
返却が遅れたり紛失により回収できなかったりする場合は、健康保険被保険者証・資格確認書回収不能届を保険者の加入先に提出します。
3. 離職票の発行準備
離職票は、退職者がハローワークで雇用保険の基本手当を申請する際に必要となる書類です。まず、企業が管轄のハローワークへ、雇用保険被保険者離職証明書を提出します。その後、内容の確認を経てハローワークから発行される「離職票-1・2」を、企業が受け取り、最終的に退職者本人へ配付されます。
離職証明書の提出は、本人が離職票の発行を希望した場合に行うのが原則です。ただし、59歳以上の離職者については、高年齢者の再就職支援や給付管理を適切に行うため、本人の希望にかかわらず提出が義務付けられています。
【ケース別】社会保険の資格を喪失した対象者と企業が対応すべきこと
社会保険の資格を喪失した後の対応は、対象者の状況によって異なります。退職や労働条件の変更後に選択できる制度が複数あるため、ケースごとに必要な内容を整理し、適切に対応することが必要です。
- 国民健康保険へ加入する場合
- 配偶者の社会保険の扶養に入る場合
- 会社の健康保険を任意継続する場合
国民健康保険へ加入する場合
国民健康保険へ加入する手続き自体は対象者が行いますが、その前に企業としての対応が必要です。企業の対応とは、資格喪失届の提出や保険証(資格確認書)の回収、資格喪失日の確定、資格喪失証明書の交付といった、一連の事務手続きを指します。
企業は、社会保険の資格喪失に関する対応を適切に行い、あわせて健康保険資格喪失証明書を交付します。資格喪失に関する対応が遅れると国民健康保険への加入手続きも遅れ、医療機関を受診する際に医療費を一時的に全額自己負担する不利益が生じかねません。
対象者が期限内に国民健康保険へ加入できるよう、速やかに対応することが重要です。
家族の社会保険の扶養に入る場合
社会保険の資格喪失後、配偶者や親などの社会保険の扶養に入る場合は、国民健康保険への切り替えは不要です。ただし、扶養に入れる側(配偶者や親など)の勤務先を通じて、健康保険の被扶養者の異動手続きと、国民年金の第3号被保険者への切り替えが必須です。
扶養に入れる側(配偶者や親など)の勤務先は、被扶養者異動届や国民年金第3号被保険者関係届の提出を行い、収入要件や続柄を確認します。この際、退職日や収入状況を証明する書類が求められるため、適切に交付できるよう準備が必要です。
会社の健康保険を任意継続する場合
会社の健康保険を任意継続する手続きは対象者が行うため、企業が直接対応する場面はほとんどありません。対象者は、退職日の翌日から20日以内に、加入していた健康保険組合や協会けんぽへ申請します。
企業は通常どおり社会保険の資格喪失に関する対応を、期限内に行います。任意継続は対象者本人が対応する必要があることや、申請期限を過ぎると選択できなくなるというリスクについての案内が必要です。
社会保険から国民健康保険へ切り替える際、対象者に渡すべき書類一覧
社会保険から国民健康保険へ切り替える際、企業は対象者に必要な書類を交付する必要があります。退職時や労働条件変更時に渡すべき書類を解説します。
退職者へ渡す書類
国民健康保険の加入手続きには期限があります。退職者がスムーズに手続きを進められるよう、企業として漏れのない対応が求められます。退職者へ交付すべき主な書類は、以下のとおりです。
退職者に交付すべき書類
- 健康保険資格喪失証明書(会社に発行義務はないが対応が必要)
- 退職証明書(希望がある場合)
- 源泉徴収票
- 基礎年金番号通知書・年金手帳(会社で預かっていた場合)
- 離職票(59歳未満で希望がある場合)
これらの書類は、国民健康保険や雇用保険、税務手続きなど複数の場面で必要になります。退職者が用途を把握できるよう、まとめて交付するとよいでしょう。
労働条件を変更する従業員へ渡す書類
労働条件の変更に伴い社会保険から国民健康保険へ切り替える従業員に対しても、速やかに必要書類を交付する必要があります。国民健康保険への切り替えにおいて、重要となるのが「健康保険資格喪失証明書」です。
この書類は、退職時だけでなく、労働条件の変更によって社会保険の被保険者資格を失った場合にも発行されます。市区町村の窓口で国民健康保険の加入手続きを行う際、資格喪失日を証明する書類として提出を求められるため、遅滞なく作成・交付することが大切です。
社会保険から国民健康保険へ切り替える際の注意点
社会保険から国民健康保険へ切り替える際は、対象者に案内する内容に誤りがあったり対応が漏れたりすると、トラブルにつながりかねません。企業が注意すべきポイントを解説します。
- 資格喪失日の誤案内
- 保険証(資格確認書)回収漏れによる不正使用
- 社会保険と国民健康保険の二重加入
- 任意継続の申請期限に関する誤認
資格喪失日の誤案内
社会保険の資格喪失日を誤って案内すると、退職者に不利益が生じるおそれがあります。資格喪失日は退職日の翌日であり、この日を基準に国民健康保険への加入日や、他制度の申請期限が決まります。企業は、資格喪失日の考え方を正しく理解することが不可欠です。
保険証(資格確認書)回収漏れによる不正使用
社会保険の資格喪失後も健康保険証(資格確認書)が対象者の手元に残っていると、本人の認識不足により誤って使用されるリスクがあります。資格喪失日以降の使用は不正利用に該当し、医療費の返還請求のようなトラブルにつながります。
企業は、退職時や労働条件変更時に、本人および被扶養者分の保険証(資格確認書)を適切に回収しましょう。やむを得ず当日に回収できない場合は、郵送での返却方法を説明するなど、返却状況を管理することが必要です。
社会保険と国民健康保険の二重加入
社会保険と国民健康保険は同時に加入できません。企業には二重加入を防ぐための適切な手続きが求められます。
その中でも重要なのが、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を期限内に提出し、社会保険の資格喪失日を正確に確定させることです。企業の資格喪失手続きが遅れると、対象者が役所で国民健康保険への加入を断られたり、逆に社会保険料が余分に控除され、後日還付の手間が発生したりするなど、二重加入に伴うトラブルの原因となります。
また、健康保険証(資格確認書)の回収や資格喪失証明書の速やかな交付も必要です。
社会保険の資格喪失後の選択肢や手続きの流れを事前に説明し、企業と対象者の間における情報共有を徹底することが、二重加入防止のポイントとなります。
任意継続の申請期限に関する誤認
任意継続とは、社会保険の資格喪失後も、一定の条件を満たせば最長2年間、引き続き在職中の健康保険に加入できる制度です。主な要件は、退職日までに継続して2ヶ月以上の被保険者期間があることです。
申請期限は「資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内」と定められており、土日祝日も日数に含まれます。この期限を1日でも過ぎると、理由を問わず一切申請が認められません。
企業側は、対象者に対して、国民健康保険や扶養に入った場合との比較を促すとともに、本制度は会社を通さず本人が期限内に手続きを行う必要があることを説明する必要があります。
まとめ
退職や労働条件の変更によって、社会保険から国民健康保険への切り替えが必要になるケースがあります。
社会保険の資格を喪失する場面では、企業による正確かつ迅速な対応が不可欠です。資格喪失日の誤案内や保険証(資格確認書)の回収漏れがあると、医療費の自己負担が発生したり、社会保険と国民健康保険に二重で加入したりといったトラブルになるおそれがあります。
企業は資格喪失届の提出や必要書類の交付を確実に行うとともに、各手続きは原則として対象者本人が行う必要があると明確に案内することが大切です。事前の丁寧な案内により、混乱防止につながります。
入退社管理や給与計算などをカンタンに行う方法
入退社時に必要な書類の作成がラクに
よくある質問
退職後、社会保険から国民健康保険へいつ切り替えればいい?
社会保険の資格喪失日は、原則として退職日の翌日です。国民健康保険への加入手続きは、この資格喪失日から14日以内に、対象となる本人が住民票のある市区町村の役場で行います。
期限を過ぎても加入は可能ですが、手続きが遅れると医療費の一時的な全額自己負担や、保険料の遡及請求が生じるため、早めの対応が重要です。
社会保険から国民健康保険へ切り替えるために必要なものは?
社会保険から国民健康保険への切り替え手続きでは、企業が発行する「健康保険資格喪失証明書」が必要です。企業は資格喪失届の提出後、対象者から希望があった場合に交付します。
そのほかに、本人確認書類やマイナンバーも必要です。必要書類は状況に応じて異なるため、事前に確認しておくよう案内しましょう。



