人事労務の基礎知識

退職代行を使われた……会社として確認すべきことや対応時の注意点は?違法性についても解説

退職代行を使われた……会社として確認すべきことや対応時の注意点は?違法性についても解説

退職代行サービスを従業員に使われたとき、企業側はどう対応すべきでしょうか。突然の連絡に戸惑うかもしれませんが、代行業者の形態に応じて対応方法は変わるため、冷静な対応が必要です。

本記事では、退職代行の基本的な仕組みから企業側が確認すべき事項、法的な注意点、適切な対応手順などを詳しく解説します。従業員と企業の双方にとって円満な退職手続きを進めるため、ぜひ参考にしてください。

目次

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退職代行とは

退職代行とは、退職を希望する従業員本人に代わって、勤務先の企業へ退職の意思を伝えたり、必要な手続きを代行したりするサービスのことです。従業員と企業の間に立ち、退職届の提出や、退職日の調整、有給休暇の消化、会社から貸与された物品の返却などに関する事務的な連絡を取り次ぎます。

近年では、テレビやインターネットなどのメディアで取り上げられる機会が増加したことも影響し、サービスの認知度と利用数が拡大しています。東京商工リサーチが2024年6月に実施した調査では、大企業は18.4%、中小企業は8.3%が「退職代行からの連絡を受けた経験がある」と回答。特に接客業や販売業での利用率が高い傾向にあり、「洗濯・理容・美容・浴場業」は33.3%、「各種商品小売業」が26.6%という結果となりました。

出典:東京商工リサーチ「「退職代行」業者から連絡、大企業の約2割が経験 人材確保に「賃上げ」、「休日増」などで対抗」

従業員が退職代行を使う理由

退職代行を利用する従業員は年々増加していますが、利用背景にはさまざまな理由があります。退職代行「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスが2024年8月に行った調査によると、退職代行サービスを実際に使った人の主な理由は以下のとおりです。

退職代行を使った主な理由

  • 上司からハラスメントを受けた
  • 上司から退職を引き止められた
  • サービス残業があった
  • 勤務外での仕事があった
  • 有給を使わせてもらえない
  • 所定通りの公休が使えない

出典:株式会社アルバトロス「退職代行モームリ累計利用者15,934名分のデータ・利用された企業情報を公開」

これらの背景には、単なる従業員個人の問題だけでなく、企業側のマネジメントおよびコミュニケーションのあり方、職場環境にも課題があると考えられます。企業としては、退職代行が使われた事実について「単なる個人の選択」と捉えるのではなく、組織の課題を発見する機会だと考えることも大切です。

退職代行の形態

退職代行は、運営主体によって「弁護士」「労働組合」「民間業者」という大きく3つの形態に分けられます。それぞれ法的な位置づけや対応できる業務範囲が異なるため、企業側が適切に対応するためには、連絡をしてきた退職代行業者がどれに該当するかを把握する必要があります。


弁護士労働組合民間企業
主な役割法律事務の代理人労働者の代理人退職意思伝達の使者
法的根拠弁護士法労働組合法特になし
交渉権限ありあり(団体交渉権)なし
請求権限あり限定的なし
訴訟対応ありなしなし

弁護士

弁護士または弁護士法人が運営する退職代行では、法律の専門家として広範囲のサービスを提供しています。退職意思の伝達はもちろん、退職条件の交渉、未払い賃金や残業代の請求、退職金の交渉、さらには損害賠償請求まで法律事務全般に対応できるのが特徴です。

特に、パワハラなどの法的なトラブルが背景にある場合や、企業との間で紛争が発生する可能性がある複雑なケースでは、弁護士による退職代行が適しています。費用は他の形態と比較して高い傾向にありますが、法的な裏付けを持って確実に権利を行使・実現したい場合に、最も信頼性の高い選択肢といえるでしょう。

労働組合

労働組合が運営する退職代行は、民間企業が運営する代行と弁護士の間に位置する形態です。労働組合には団体交渉権が認められているため、企業に対して退職条件(退職日の設定や有給休暇の消化など)に関する「交渉」を行うことができます。

退職条件に関する交渉を希望するものの、弁護士に依頼するほどの費用はかけられない場合や、法的紛争に発展するほどではないケースに適しています。ただし、訴訟代理や損害賠償請求の代理はできないという制限があります。

民間企業

一般企業などが運営する退職代行は、法的な制限が厳しい形態です。弁護士資格を持たないため、業務内容は「退職意思の伝達」「事務的な連絡の取次」に限られます。

退職日の調整や有給休暇の取得交渉、未払い賃金の請求といった「交渉」や「請求」は「非弁行為」となり、弁護士法違反に該当するため行いません。費用は他の形態と比べて比較的安価ではあるものの、サービス内容に制限があることを理解しておく必要があります。

会社と交渉すべき事項がなく、退職の意思を伝えること自体が困難な場合には、民間企業の退職代行も選択肢となり得ます。

退職代行が違法となるケース

退職代行業者の「業務内容」が弁護士法に抵触する内容だった場合に、違法と見なされるケースがあります。弁護士法第72条で、「弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で、法律事件に関して鑑定、代理、和解、その他の法律事務を取り扱うこと(非弁行為)」を明確に禁止しているためです。

退職日の調整や有給休暇の消化・未払い賃金の請求といった退職に関する交渉は、法律事務に該当する可能性が高いといえます。そのため、弁護士資格を持たない民間の退職代行業者が、単なる退職の意思伝達を超えて企業と退職条件の交渉を行うことは、非弁行為として違法となる恐れがあります。

なお、労働組合による退職代行の場合は、労働組合法にもとづく団体交渉権の範囲内での交渉が可能です。また、弁護士による退職代行であれば、当然ながら法律事務として交渉や請求を行えます。

もっとも、退職代行サービス自体は違法ではありません。従業員には、職業選択の自由にもとづき「退職する権利」が認められています。退職の意向の伝え方に制限はないため、民間の退職代行業者から連絡を受けたからといって、企業側がこれを拒否できるわけではありません。

出典:e-Gov法令検索「弁護士法 第七十二条」

退職代行を使われた際に企業側がやるべきこと

退職代行を使われ、代行会社から連絡が来た場合、企業はどのような対応を取ればよいのでしょうか。電話やメール、郵送などによる突然の連絡に戸惑うかもしれませんが、冷静な対応が求められます。

以下では、退職代行を使われた際に企業側が行うべき対応手順を解説します。

代行業者の確認

まずは連絡してきた代行業者の情報確認を行います。代行業者の名称や担当者名、連絡先を把握しましょう。同時に、どの従業員の退職に関する連絡なのかを確認することも忘れないようにしてください。

可能であれば、その場で従業員本人の委任を受けているか確認を取りましょう。委任状の提示を求めるなどして、代行業者が正当に依頼を受けていると確認することで、後のトラブル防止につながります。

電話で連絡があった場合はその場で対応を決めるのではなく、あらためてメールや文書などの書面で連絡するよう求めるのが賢明です。こうすることで内容を正確に理解し、社内で検討する時間を確保できます。

退職意思の確認

代行業者の確認が済んだら、次に従業員本人の明確な退職意思を確認します。確実なのは、代行業者を通して従業員本人からの退職意思を書面で確認する方法です。

このとき、従業員本人への直接的な連絡は避けましょう。退職代行を利用している従業員の多くは、「会社との直接コミュニケーションを避けたい」という意向を持っています。無理に本人へ連絡を取ろうとすると、余計なトラブルを招くかもしれません。

また、退職理由について深く詮索することも避けましょう。ただし退職の背景にハラスメントなどが疑われる場合は、状況に応じた慎重な対応が必要です。

退職手続きの実施

退職の意思を確認できたら、代行業者を通じた退職届の提出を依頼します。このときも、交渉経緯を記録しておくため、書面でやり取りするのが望ましいでしょう。

また、退職日を確定させることも重要です。通常、民法上は退職意思表示から2週間で雇用契約を終了できますが、就業規則に定めがある場合はそちらも確認する必要があります。ただし、就業規則の規定が労働者に著しく不利な場合は、法的に無効となる可能性もあるため注意しましょう。

続いて、退職に必要な書類の準備とその送付先を確認し、手続きを進めます。業務用のパソコンや携帯電話、制服、社員証などの貸与品の返却方法と期日についても案内が必要です。退職時の誓約書(秘密保持・競業避止など)の締結や、社会保険などの資格喪失手続き、離職票・源泉徴収票の交付なども実施しましょう。

なお、未使用の有給休暇がある場合は残日数を確認してください。原則として企業は有給休暇の取得を拒否できないため、本人の希望がある場合は、退職日までの消化調整を行います。

最終給与の支払いなど

最終的な給与計算が完了したら、定められた給与支払日に支払うことも忘れてはなりません。不当に給与を減額したり、支払いを遅らせたりすることは、法的問題に発展する可能性があります。万が一未払い賃金がある場合も、適切に対応してください。

退職代行を使われた場合の注意点

退職代行サービスを使われると、突然の連絡に企業側として戸惑いや不快感を覚えるかもしれません。しかし、法的な観点と人道的な配慮の両面から適切な対応をするために、以下の点に注意しましょう。

退職の意思は原則として尊重する

退職代行を使われたからといって、退職そのものを拒否することはできません。民法第627条において「期間の定めのない雇用契約であれば、労働者は退職の意思表示から2週間を経過すれば労働契約を終了できる」とされており、退職を選択することは従業員の権利です。

会社側としては、人員計画や業務引継ぎの観点から引き止めたい気持ちが生じるかもしれません。しかし、無理な引き止めや説得は状況を悪化させる可能性があります。基本的には退職の意向を尊重し、円満な結末に向けて必要な手続きを進めましょう。

出典:e-Gov法令検索「民法 第六百二十七条」

従業員本人への直接連絡は慎重に

代行業者を介していることを尊重し、必要な連絡は代行業者を通じて行うよう配慮しましょう。退職代行サービスを利用している従業員は、企業からの直接の連絡を望んでいないケースがほとんどです。

無理に本人へ連絡を取ろうとしたり、執拗に直接話し合いを求めたりする行為は、ハラスメントとして受け取られかねません。特に、退職の意思を覆そうとする目的の連絡は避けましょう。

感情的な対応や嫌がらせは厳禁

退職に伴う嫌がらせはパワーハラスメントや退職妨害と見なされ、法的トラブルに発展する恐れがあるため絶対に避けましょう。退職代行サービスを使われたことで「裏切られた」「礼儀知らず」などと感じるかもしれませんが、リスクとなる感情的な言動は慎むべきです。

私物の即時撤去要求や懲戒解雇への切り替え示唆、過度な損害賠償請求の示唆などの行為は違法なハラスメントと認定され、損害賠償を請求される可能性もないとはいえません。企業の信用低下にもつながるため、正当な理由なく離職票の発行を遅らせたり、貸与品の返却方法で不当な要求をしたりすることも避けましょう。

代行業者の種類と対応範囲を確認する

連絡してきた退職代行業者が「弁護士」「労働組合」「民間企業」のいずれであるかを確認し、対応可能な範囲を理解することが重要です。特に民間企業の場合、条件交渉などは非弁行為にあたる可能性があるため、法的な交渉には応じられない旨を伝える必要があります。

不明な点があれば自社の顧問弁護士などに相談し、適切な対応を検討しましょう。

退職に至った背景を考える

退職代行を使われた企業は、職場環境に何らかの課題を抱えている可能性が否定できません。なぜ従業員が退職代行を使わざるを得なかったのか、自社の労働環境やコミュニケーション方法、マネジメント体制などに問題がなかったかを振り返ることも重要です。

組織の課題を発見し、今後の職場環境改善に生かす視点を持つことで、同様のケースの再発防止につながります。特に、複数の従業員から退職代行を使われた場合は、組織的な改善が求められる可能性も高いでしょう。

まとめ

従業員に退職代行サービスを使われた場合、企業側には冷静かつ適切な対応が求められます。退職の意思は原則として尊重し、代行業者の種類や非弁行為にあたらないかを確認したうえで、法的な範囲内での対応を心がけましょう。

感情的な対応や嫌がらせは絶対に避け、円満な退職に向けて手続きを行うことが重要です。それと同時に「退職代行を使われた背景」にも目を向け、職場環境やマネジメントの改善に取り組むことで再発防止につなげましょう。

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よくある質問

退職代行とはどんなサービス?

退職代行とは、退職を希望する従業員本人に代わり勤務先の企業へ退職意思を伝えたり、必要な手続きを代行したりするサービスです。近年では、メディアで取り上げられる機会が増加したことも影響し、サービスの認知度と利用数が拡大しています。

詳しくは記事内の「退職代行とは」をご覧ください。

退職代行が違法となるケースは?

退職代行業者の業務内容が弁護士法に抵触する内容であると、「非弁行為」と見なされ違法となります。弁護士法第72条では「弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で、法律事件に関して鑑定、代理、和解、その他の法律事務を取り扱うこと」を禁止しています。

詳しくは記事内の「退職代行が違法となるケース」で解説しています。

退職代行を使われた際に企業側がやるべきことは?

退職代行を使われた際に企業がまずやるべきことは、代行業者の確認です。代行業者の名称や担当者名、連絡先を把握し、どの従業員に関する退職連絡なのかを確認します。また、委任状の提示を求めるなどして、正当に依頼を受けているかどうか確認することも重要です。

詳しくは記事内の「退職代行を使われた際に企業側がやるべきこと」で詳しい手順を解説しています。

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