人事労務の基礎知識

固定残業代(みなし残業代)とは?メリットや違法になるケースについて解説

固定残業代(みなし残業代)とは?メリットや違法になるケースについて解説

固定残業代はみなし残業代ともいわれる制度で、毎月の固定給に加えて、決まった時間分の残業代が支給されます。しかし、実労働時間が固定残業時間を上回っても、残業代が出ないとしてトラブルになるケースも少なくありません。

固定残業とは、どういった制度なのかを解説していきます。

目次

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固定残業代(みなし残業代)とは?

固定残業代とは、あらかじめ金額が決められた残業代のことです。みなし残業代ともいわれるもので、あらかじめ固定給の中に残業代が含まれている労働契約となります。

固定残業代を導入するには、就業規則や雇用契約書などの書面に記載して、従業員に周知を図る義務があります。

固定残業時間の上限

固定残業時間の上限は設けられていませんが、法定労働時間を超えて時間外労働させる場合、労使間で締結する36協定の上限は1ヶ月45時間、1年間で360時間です。そのため、固定残業時間は36協定に抵触しないよう45時間以内に設定するのが妥当でしょう。

固定残業代とみなし労働時間制との違い

「固定残業代(みなし残業代)」と「みなし労働時間制」は混同されがちですが、それぞれ意味が異なるので注意が必要です。


固定残業代
(みなし残業代)
みなし労働時間制
概要1ヶ月あたりの残業代が固定で支払われる制度
実際の残業時間に影響しない
所定労働時間を働いたとみなす制度
実際の労働時間に影響しない
制度の対象残業代労働時間
残業代一定の額が支払われる
(残業していない場合も支払われる。超過分は別途支給)
支払われない
(休日・深夜労働や法定労働時間の超過分は除く)

固定残業代(みなし残業代)を導入するメリット・デメリット

固定残業代を導入するメリット・デメリットについて解説します。労働環境や職種によっても違いがあるため、どのような影響が出るか導入前によく確認しましょう。

企業が固定残業代(みなし残業代)を導入するメリット

企業が固定残業代を導入する主なメリットは、次のとおりです。

固定残業代(みなし残業代)を導入する主なメリット

  • 人件費の見通しが立ちやすい
  • 残業代計算の負担を軽減できる
  • 業務効率の改善につながる

固定残業代を導入すると、支払う残業代が一定になるため、人件費の見通しが立ちやすくなります。支出予測や経営計画、資金繰りの計画を立てやすくなる点がメリットです。

また、あらかじめ定めた固定残業時間までは残業代の計算が不要なため、残業代の計算方法がわかりやすく、給与残業代計算業務の負担を軽減できます。

社員のメリットは残業の有無によって収入が変わらないため、固定の残業時間よりも実際の残業時間が短い場合はその差分が得になります。早く仕事を終えて帰ろうと意識し、結果として、業務効率が良くなることが予想されます。

企業が固定残業代(みなし残業代)を導入するデメリット

企業が固定残業代を導入する主なデメリットは、次のとおりです。

固定残業代(みなし残業代)を導入する主なデメリット

  • 残業が発生していなくても残業代の支払いが生じる
  • サービス残業や長時間労働が横行する可能性がある

固定残業代を導入すると、残業をしていない従業員に対しても、一定の残業代を支払わなければならないため、残業が少ない企業は、人件費が高くなる可能性があります。

固定残業時間を長く設定した場合、その分だけ賃金が高くなる点にも注意が必要です。

また、従業員や管理職がみなし残業制の仕組みや趣旨を間違って認識していると、サービス残業や長時間労働の原因になる場合があります。

たとえば、「固定残業時間を超えた分の残業代はつけてはいけない」「みなし残業時間分は残業しなければならない」などと誤解しているケースが考えられます。

従業員がみなし残業制の仕組みや趣旨を誤解しないよう、制度の内容を社内で周知することが必要です。

固定残業代(みなし残業代)の計算方法

通常の残業代と同様、固定残業代も労働基準法に沿って計算します。休日出勤や深夜労働を考慮しない場合の計算方法は以下になります。

基本給÷平均所定労働時間※×固定残業時間×1.25(割増率)
※平均所定労働時間=1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12ヵ月

基本給300,000円、平均所定労働時間160時間、固定残業時間30時間の場合、固定残業代は以下のように計算します。

300,000円÷160時間×30時間×1.25=70,312.5円

端数は50銭未満切り捨て、50銭以上1円未満は切り上げて処理するため、固定残業代は70,313円となります。

この計算の基本給には、職務手当や営業手当など、一定の手当が含まれる場合があります。会社によって個別に規定を設けている場合もあるため、会社の規定を確認しましょう。

固定残業時間と実際の労働時間が異なる場合の残業代の計算方法

固定残業代を支払っていても、毎月の業務量には変動があるケースが多く、固定残業時間と実際の労働時間は異なることが想定されます。そのため、固定残業制を導入していても、タイムカード等による労働時間の管理は必要です。

また、固定残業時間より実労働時間が少ない場合でも、支給する固定残業代は規定の額を支払います。固定残業時間より実労働時間のほうが多い場合には、固定残業として決められた時間を超えた分の残業代を支払います。

固定残業代(みなし残業代)で違法になるケース

固定残業代の取り扱いでトラブルが多いケースを紹介します。

超過分の未払い

実労働時間が固定残業時間を超えても、超過分の残業代の支払い義務がないという誤解による残業代の未払いトラブルは少なくありません。そのほか、固定残業時間を明記せずに、残業代込みとして給与を支給している企業もみられます。

しかし、固定残業でも超過分の残業代を支払わなければ違法となるため、労働時間の管理は必要です。

休日・深夜の割増賃金の未適用

固定残業代を計算する際には、休日労働や深夜労働の割増賃金も考慮しましょう。法定労働時間を超えた時間外労働の割増賃金は上乗せしていても、割増賃金を考慮していないことで起こるトラブルも多くみられます。

時間外労働の割増賃金は125%ですが、休日労働では135%になります。また、夜10時から朝5時までの深夜労働は125%の割増賃金となるため、時間外労働の深夜の勤務では本来は150%の割増賃金です。

最低賃金を下回る

固定給が時給換算で最低賃金を上回り、時間外労働の割増賃金はさらに2割5分上乗せした水準以上でなければ違法です。

たとえば、2023年度の東京都の最低賃金は1,113円なので、時間外労働では時給1,414円が最低水準になります。

しかし悪質なケースでは、固定残業代が時間外労働の割増を考慮していないばかりか、基本給も無視し最低賃金を下回っている場合もあります。

時間外労働の時給でも最低賃金を下回らないよう、適切に賃金を設定することが大切です。

異常な長時間の固定残業代

最低賃金を下回らなければ、固定残業代を無制限に設定してよいわけではありません。

会社は労働者に対し安全配慮義務を負っており、働き方改革法では36協定で延長できる残業時間数に罰則付きの上限が設けられました。

臨時的な理由で特別条項が適用される場合を除き、36協定で法定労働時間を超えて延長できる1ヶ月の残業時間数の上限は45時間までです。

そのため、基本的に45時間を超える固定残業代は設定すべきではありません。

固定残業代(みなし残業代)を導入する際の注意点

固定残業代を導入する際の主な注意点は、次のとおりです。

固定残業代(みなし残業代)を導入する際の主な注意点

  • 固定残業代の導入は「不利益変更」に該当する場合がある
  • 固定残業代は、「金額」や「時間数」の明記が必要
  • 求人情報にも固定残業の内容を明記する必要がある

固定残業代の導入は「不利益変更」に該当する場合がある

固定残業代を導入する際、固定残業代を基本給に上乗せして支払う場合には、従業員の不利益には当たらないため従業員の同意は不要です。

しかし、固定残業代を導入するために基本給を減らす場合、従業員にとっては実質的な賃金の低下となるため、不利益変更に当たります。この場合は原則として、従業員の同意が必要です。

また、雇用側が従業員の同意が無いまま固定残業代を一方的に廃止することも不利益変更に該当します。メリットも多くある固定残業代ですが、導入する際もしくは導入した固定残業代を変更する際には注意が必要です。

固定残業代を導入するには就業規則に明記する必要がある

固定残業では、決められた残業時間に基づいた固定残業代を支払います。

  • 「月給30万円(45時間分の固定残業代8万円を含む)」
  • 「基本給22万円 固定残業代(45時間分)8万円」

上記のように、固定残業代と残業時間がわかる形で就業規則に明記することが必要です。

明記していない場合、残業代未払いで訴訟になった際に会社側が不利になる可能性が高まります。リスク管理の面からも、みなし残業代の明記は必須です。金額と時間数を併記しましょう。

求人情報にも固定残業の内容を明記する必要がある

固定残業代を導入したら、求人情報にも、固定残業の内容を明記する必要があります。明記しなければならない内容は、以下のとおりです。

求人情報に明記が必要な固定残業代(みなし残業代)の内容

  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
  • 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

出典:厚生労働省「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。」

求人サイトに情報を掲載する際、文面をよく確認せずに掲載してしまい、後々トラブルになるケースも少なくありません。採用時や採用後のトラブルを回避するためにも、求人情報には法令で定められた事項を適切に明示しましょう。

まとめ

固定残業代(みなし残業代)の導入は、適正な人件費の配分・企業文化に合った働き方の実現・経営リスクの回避など導入理由はさまざまです。いずれの場合においても、超過分や深夜労働などの割増賃金を支払わず、違法性があるケースもみられます。そのため導入は慎重に判断し、導入後も正しく制度を運用できるようにしましょう。

よくある質問

固定残業代(みなし残業代)とは?

固定残業代とは、あらかじめ固定給の中に残業代が含まれている労働契約で支払われる残業代です。

固定残業代について詳しく知りたい方は「固定残業代(みなし残業代)とは?」をご覧ください。

固定残業代はどうやって出すの?

固定残業代は、通常の残業代と同様に労働基準法に沿って計算します。休日出勤や深夜労働を考慮しない場合の計算方法は以下のとおりです。

基本給÷平均所定労働時間※×固定残業時間×1.25(割増率)
※平均所定労働時間=1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12ヵ月

固定残業代の計算方法について詳しく知りたい方は「固定残業代(みなし残業代)の計算方法」をご覧ください。

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