監修 北 光太郎 きた社労士事務所
給与見込証明書とは、従業員が特定の期間に企業から支払われる予定の給与額(収入の見込額)を、外部機関など第三者に対して証明するための書類です。
住宅ローンの審査や奨学金の申請、社会保険の扶養判定など、将来の収入を確認したい場面で、従業員からの依頼があったときに企業が作成する場合があります。
本記事では、給与見込証明書の基本的な役割や収入見込証明書との違い、作成ステップ、具体的な書き方まで詳しく解説します。
目次
- 給与見込証明書とは
- 収入見込証明書との違い
- 給与明細や源泉徴収票との違い
- 給与見込証明書が必要になる場面
- パート勤務者の社会保険扶養加入時
- 年末調整での配偶者控除・扶養控除申請時
- 扶養から外れる申請時
- 子どもの奨学金申請時
- 住宅ローン申込時
- 公営住宅の申込時
- 給与見込証明書の書き方
- 給与見込証明書は法的なフォーマットがない
- 給与見込証明書の記載項目
- 給与見込証明書の発行方法
- STEP1. 目的・提出先を確認
- STEP2. 証明期間を確認
- STEP3. 給与データを確認
- STEP4. 給与見込証明書を作成
- STEP5. 代表印を押印
- STEP6. 従業員に交付
- まとめ
- 給与計算や給与明細発行をカンタンに行う方法
- よくある質問
給与見込証明書とは
給与見込証明書とは、従業員が特定の期間に企業から支払われる予定の給与額(収入の見込額)を、外部機関など第三者に対して証明するための書類です。
一般的な所得証明には、源泉徴収票や課税証明書などの「過去の実績」を示す公的書類が用いられます。しかし、転職したばかりで実績がない場合や、勤務時間の変更により大幅な収支変動が見込まれる場合には、過去の給与実績では十分な判断材料になりません。
こうしたケースにおいて、企業が「今後これくらいの収入が見込まれます」と示すために発行されるのが給与見込み証明書です。主に、住宅ローンや扶養認定の審査などで「支払い能力」や「収入基準」を満たしているかを確認するために使用されます。
なお、給与明細書や源泉徴収票とは異なり、従業員への給与見込証明書の交付は義務付けられていません。従業員から発行の依頼があった場合に、実務上交付するのが一般的です。
収入見込証明書との違い
「収入見込証明書」は「給与見込証明書(給与支払見込証明書)」とほぼ同義の書類です。
提出先によって「収入見込証明書」や「給与支払見込証明書」など名称が異なる場合がありますが、証明する内容や使用目的は変わりません。提出先から指定のフォーマットがある場合はその名称に従い、とくに指定がない場合は「給与見込証明書」として作成して問題ありません。
給与明細や源泉徴収票との違い
給与見込証明書と給与明細、源泉徴収票の主な違いは、「証明する期間」と「目的」にあります。
それぞれを比較した時の違いは、下表のとおりです。
| 書類名 | 発行義務 | 対象期間 | 書類の目的 |
|---|---|---|---|
| 給与見込証明書 | なし | 任意 | 将来の収入額を証明 |
| 給与明細書 | あり | 毎月 | 対象月の給与内訳を通知 |
| 源泉徴収票 | あり | 1年 | 年間の収入を証明 |
給与明細書や源泉徴収票は「過去にいくら支払ったか」という確定事実を証明するのに対し、給与見込証明書は「今後いくら支払われる予定か」という見通しを証明する点に違いがあります。
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給与見込証明書が必要になる場面
給与見込証明書は、主に「将来の収入を証明する」場面で求められます。提出が求められる主な場面は以下のとおりです。
給与見込証明書が必要になる場面
パート勤務者の社会保険扶養加入時
配偶者や親などの社会保険(健康保険)の被扶養者として認定を受けるためには、原則として「向こう1年間の収入が130万円未満」であることが条件です。
社会保険の扶養判定は過去の年収ではなく、認定を受ける時点からの「将来の年収見込み」で判断されるため、勤務先の企業が発行する給与見込証明書で収入基準の範囲内に収まることを証明します。
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年末調整での配偶者控除・扶養控除申請時
年末調整で配偶者控除や扶養控除を受けるには、その年の1月1日から12月31日までの「合計所得金額」が一定額以下である必要があります。しかし、年末調整の書類を記入するタイミングでは、その年の年収がまだ確定していないケースも少なくありません。
そのため、見込み収入が控除要件を満たすことを証明する目的で、給与見込証明書を提出する場合があります。
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扶養から外れる申請時
社会保険の扶養から外れる際に、収入基準を超えたことを確認するため、給与見込証明書の提出を求められることがあります。
たとえば、子どもが就職して社会保険の扶養から外れる場合では、子どもの就職先から給与見込証明書を作成してもらい、見込み収入の証明として用いる場合があります。
子どもの奨学金申請時
日本学生支援機構(JASSO)などの奨学金を申し込む際、家計支持者の収入が選考基準のひとつとなる場合があります。
通常は前年の源泉徴収票などを提出しますが、転職をして現在の収入状況が前年と大きく異なる場合や、新年度の最新の収入状況を証明する必要がある場合には、現在の支払い能力を証明する書類として給与見込証明書を提出する場合があります。
住宅ローン申込時
住宅ローンの審査では、申込者の返済能力の確認が必須です。一般的には、源泉徴収票や課税証明書を提出しますが、就職の内定段階の場合などは過去の年収実績がないため返済能力の判断ができません。
このような場合に給与見込証明書を提出することで、「今後安定した収入が見込まれる」という返済能力を証明できます。
公営住宅の申込時
公営住宅は、収入が一定基準以下の世帯が入居対象となります。
入居審査では世帯全員の収入を厳密に確認する必要があるため、就職・転職直後で年収実績のない人がいる場合は、収入実態を正確に把握するために給与見込証明書の提出が求められることがあります。
給与見込証明書の書き方
給与見込証明書を作成する際は、証明の対象となる従業員情報や対象期間、給与額などを漏れなく記載することが重要です。
ここでは、給与見込証明書の書き方について解説します。
給与見込証明書は法的なフォーマットがない
給与見込証明書(給与支払見込証明書)には、法律で定められたフォーマットはありません。
提出先となる健康保険組合や金融機関、自治体などが独自の様式を用意していることが多いため、まずは提出先に指定書式があるかを確認しましょう。
フォーマットが用意されていない場合は、ここまで紹介した必要項目をすべて含めれば、企業独自の様式で作成しても問題ありません。
給与見込証明書の記載項目
給与見込証明書の提出先に指定の様式がない場合は、証明書として必要な内容を以下のようにまとめて作成します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 従業員情報 | 氏名(フルネーム)・住所 |
| 雇用形態 | 正社員・パート・アルバイトなど |
| 雇用期間 | 雇用期間の定めがある場合 |
| 対象期間 | 給与見込みを証明する期間 |
| 給与額 | 各月の給与・賞与・各種手当(税控除前の総額・通勤費などを含む) |
| 会社情報 | 企業名・所在地・電話番号など |
| 発行日・社印 | 証明書の発行日・会社の代表印 |
従業員情報
証明の対象となる従業員の氏名、生年月日、住所などを記載します。提出先が本人を正確に特定するために必要な項目です。
雇用形態
正社員、パート、アルバイト、派遣社員など、従業員の雇用形態を記載します。パート・アルバイトの場合は、時給や1日の勤務時間、月平均の稼働日数などで収入を見積もるための詳細な雇用条件を記載することもあります。
雇用期間
従業員の雇用開始年月日を記載します。有期雇用の場合は、いつまで雇用契約があるかを示すために雇用期間や更新の有無も記載します。
対象期間
給与見込みを証明する期間(例:2025年1月~12月など)を明記します。一般的には、従業員が希望する日、または証明書の発行日から向こう1年間を対象期間とするケースが多く見られます。
給与額
対象期間における月別の給与、賞与(ボーナス)、各種手当(通勤手当を含む)などの支給見込額を記載します。
なお、給与額は手取り額ではなく、社会保険料や所得税などが控除される前の「総支給額」で記載します。また、すでに支給済みの月がある場合は「実績」、未来の月は「見込」として分けて記載する場合もあります。最後には合計額として「年間総支給見込額」を記載します。
会社情報
証明書を発行する企業の正式名称(法人名)、所在地、電話番号などを記載します。
発行日・社印
証明書を作成した日付と、事業主や代表者名を記載し、会社の代表者印(社印)を押印します。社印は、企業として証明書の内容を保証するために欠かせない項目です。
給与見込証明書の発行方法
ここでは、給与見込証明書の一般的な発行手順を6つのステップで解説します。
STEP1. 目的・提出先を確認
まず、従業員に対して証明書の「使用目的」と「提出先」を確認します。
提出先によっては、指定のフォーマットが用意されている場合があるため、指定様式がある場合はその書式を使用します。指定のフォーマットがない場合は自社で作成したテンプレートや任意の様式で作成します。
STEP2. 証明期間を確認
証明書に記載すべき「対象期間」を確認します。一般的には「申請月から向こう1年間」や「任意の1年間」とするケースが多いですが、提出先によっては年度単位を求められる場合もあります。
対象期間が間違っていると再発行になるため、従業員を通じて提出先の要件を事前に確認しましょう。
STEP3. 給与データを確認
対象期間における給与の支給予定額を算出します。支給済みの月が含まれる場合は確定した実績額を記載し、未確定の月は雇用契約や過去の実績に基づく支給見込額を記載します。
また、残業代や通勤手当、賞与の有無についても、見込み額に含めるべきか確認が必要です。加えて、昇給や契約変更などの予定があれば、それも加味して正確な見込額を反映させます。最後に各月の合計額を忘れずに記載しましょう。
STEP4. 給与見込証明書を作成
確認した情報をもとに証明書を作成します。現在ではパソコンで作成するのが一般的ですが、手書きで作成する際は摩擦で消えるボールペンは使用せず、黒のボールペンで記入しましょう。
手書きで誤記があった場合は二重線と訂正印で修正することも可能ですが、信頼性を担保するため、原則として新しく書き直すことをおすすめします。
また、最後に総支給額を記載しているか、控除額を差し引いていないかなど各項目を再確認しましょう。
STEP5. 代表印を押印
作成した証明書の内容に誤りがないかを確認し、会社の代表者印(社印)を押印します。
押印は、記載された内容を会社が「事実である」と証明するためのものです。社印がない場合は、公的な証明書として認められず無効となるケースがあるため、必ず押印をしましょう。
STEP6. 従業員に交付
完成した証明書を従業員に交付します。後日、提出先から内容について問い合わせが入る場合や、再発行が必要になる可能性もあるため、発行した証明書のコピーを会社側で保管しておくことをおすすめします。
まとめ
給与見込証明書は、源泉徴収票や給与明細といった「過去の実績」を示す書類とは異なり、従業員の将来の収入見込みを証明する書類です。住宅ローンや奨学金の申請、社会保険の扶養認定など、主に支払い能力や収入基準を確認する場面で利用されます。
給与見込証明書は法的に定められた書式はないため、作成時はまず提出先の指定フォーマットを確認し、ない場合は必要事項を満たした独自の様式を使用します。
また、企業に法的な発行義務はありませんが、従業員の生活に関わる重要な手続きです。依頼を受けた際は目的や期間を適切に確認し、スムーズに交付を行いましょう。
給与計算や給与明細発行をカンタンに行う方法
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よくある質問
給与見込証明書とは何ですか?
従業員が特定の期間に企業から支払われる予定の給与額(収入見込額)を証明する書類です。
詳しくは「給与見込証明書とは」をご参照ください。
給与見込証明書は何に使いますか?
主に社会保険の扶養加入時や住宅ローン申込時、子どもの奨学金申請時、公営住宅の申込時などに使用されます。
詳しくは「給与見込証明書が必要になる場面」をご参照ください。
給与見込証明書の記載項目は何ですか?
給与見込証明書には、主に従業員情報、雇用形態、雇用期間、対象期間、給与額(総支給額)、会社情報、発行日・社印などを記載します。
詳しくは「給与見込証明書の書き方」をご参照ください。
給与見込証明書は自分で書けますか?
給与見込証明書は自分で書くことはできません。会社の内容保証として代表印(社印)の押印が必須であるため、必ず勤務先の企業に発行を依頼しましょう。
詳しくは「給与見込証明書の発行方法」をご参照ください。
監修 北 光太郎
きた社労士事務所 代表
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わず多くの記事執筆・監修をしながら、自身でも労務専門サイトを運営している。

