監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
医師が開業する際には、物件探し・資金調達・内装工事などの基本的な開業準備のほか、医療機器の導入・各種行政手続きなど、医療機関特有の準備が必要です。また、医師会への加入や保険医療機関の指定申請などの対応も求められます。
勤務医としてキャリアを積み、将来的に開業を目指す人も、開業準備や手続きの大まかな流れ、平均的な開業年齢などを押さえておくことが重要です。
本記事では、医師の開業に関する基礎知識や開業準備のステップ、よくある失敗例などを紹介します。
※本記事では一般的な手続きや開業年齢の目安に触れていますが、開業する診療科や専門領域によって手続き内容などが異なる点にご注意ください
目次
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医師が開業するメリット
医師が開業するメリットには、以下のような点が挙げられます。
医師が開業するメリット
- 理想の医療を追求できる
- 地域医療に貢献できる
- 働き方を自分でコントロールできる
- 勤務医よりも高収入を目指せる
開業によって、自らが目指す医療を実現できることは大きな魅力です。患者一人ひとりに寄り添った治療や診療方法を追求できる点に、大きなやりがいを感じられるでしょう。
また、地域の「かかりつけ医」として地域医療に貢献できることには大きな社会的意義があり、日々の診療に対するモチベーションにもつながります。
働き方の面でも、開業医であれば、診療日や診療時間を自身の裁量で柔軟に設計することが可能です。業務量を抑えやすく、過重労働になりがちな勤務医と比べてワークライフバランスを確保しやすい傾向があります。
そのほか収入面では、一般的に開業医は勤務医に比べて平均年収が高く、より高収入を目指すことができます。
開業医の平均年収
厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)」によると、開業医の平均年収は2,633万円です。
年収は診療所の利益や院長の取り分によって差が出やすく、診療科や地域によっても変動します。なお、同調査によると勤務医の平均年収は1,461万円であり、開業医の平均年収はこれを大きく上回っています。
出典:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)」
医師の開業に必要な自己資金
一般的に医師が開業する際には、開業資金の1〜2割程度を自己資金として準備する必要があります。
診療科や規模により異なりますが、一般診療科(歯科を除く)のクリニックであれば、開業資金は5,000万〜1億円ほどが目安です。このうち必要な自己資金は500万〜2,000万円程度とされています。
開業資金の内訳
医師がクリニックを開業するときの開業資金の内訳は、主に次のとおりです。
| 費用項目 | 費用の概要 |
|---|---|
| 土地・建物の購入費用 | クリニック用の土地や建物を購入する場合に必要な費用 (不動産会社への仲介手数料も含む) |
| 賃貸物件の初期費用(敷金・礼金、仲介手数料、前家賃など) | クリニック用に賃貸物件を契約する場合に必要な初期費用 |
| 内装工事費 | 内装や設備(給排水・電気・空調など)の工事にかかる費用 |
| 什器備品の購入費用 | クリニックの机・椅子・棚・キャビネット・待合室ソファなどの購入費用 |
| 医療機器の購入費用 | 各診療科で使用する医療機器の購入にかかる費用 |
| 備品の購入費用 | 文房具・パソコン・プリンター・電話機など、業務で使用する備品の費用 |
| 広告宣伝費 | クリニックの広告宣伝にかかる費用(ホームページ制作・看板・チラシ・地域媒体への出稿など) |
| 採用費 | 医師・看護師・事務スタッフの募集にかかる費用 (求人広告費や人材紹介会社への手数料など) |
クリニックの物件は購入または賃貸のいずれかとなり、それに応じた費用が発生します。そのほか、内装工事や各種設備の購入にも費用がかかります。
また、診療報酬の入金は診療から数ヶ月後となるため、開業資金に加えて運転資金もあらかじめ準備しておくことが重要です。開業当初は来院も少ないことも想定されるため、余裕をもって資金を確保しておくと安心です。
医師が開業する年齢の目安
2009年に実施された社団法人 日本医師会の「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」によると、新規開業時の平均年齢は約41.3歳です。
開業後年数が短いほど開業年齢が高い傾向があり、これは病院などで一定期間のキャリアを積んだ後に開業するケースが増えていることを示唆しているといえます。
医師が開業するまでの流れ
医師が開業するまでの一般的な流れは、以下のとおりです。
医師が開業するまでの流れ
①物件を探す
人口動態や競合状況などを調査する「診療圏調査」を行い、開業に適したエリアを絞り込みます。
診療圏調査の視点
- 人口:診療圏内の人口規模・年齢構成・世帯数などを把握する
- 競合:同じ診療科のクリニックや病院の数・規模・評判などを確認する
- 立地:交通アクセス、駐車場の有無、生活動線上かどうかを評価する
- 発展性:人口増減や再開発計画など将来的に需要が伸びるかどうかを見極める
開業エリアを選定したら、具体的な物件の検討に移ります。一般的なクリニックの物件タイプは、以下のとおりです。
| 建物の種類 | 物件タイプ | 概要 |
|---|---|---|
| 戸建て | 単独戸建て | 土地に専用の建物を建てて開業する形態 |
| 医療ドミナント | 薬局や複数のクリニックが集まる医療特化エリアに開業する形態 | |
| 医療ビレッジ | 同じ敷地内に戸建てのクリニックが集合している形態 | |
| ビルテナント | ビル診 | ビル内の一角に入居して開業する形態 |
| レジデンス併設型 | マンション低層部にある医療ゾーンに開業する形態 | |
| オフィス併設型 | オフィス併設の複合施設に入居する形態 | |
| 商業施設併設型 | ショッピングモールや大型商業施設の一角に入居する形態 |
戸建ては自由度が高い反面、費用負担が大きくなりやすいです。一方で、ビルテナントは初期費用を抑えられますが、内装や設備の自由度は低くなります。
資金計画や経営方針に応じて、適切な立地や物件のタイプを選びましょう。
②設備を準備する
クリニックを開業する際には、診療科に応じて必要な医療機器や什器を選定し、導入します。
ただし、開業時に全てをそろえようとすると過剰投資となり、経営を圧迫するリスクがあります。まずは必要最低限の機器を確保し、開業後の患者数や診療状況に応じて段階的に設備を拡充していくのも現実的な方法です。
また、医療機器は高額なものが多いため、費用負担が大きい場合は、購入ではなくリース契約も検討しましょう。リースであれば初期費用を抑えられるだけでなく、最新機器へ更新もしやすいです。
③内装工事を実施する
内装は、患者が受ける印象やクリニックの評判、スタッフの業務効率などにかかわる重要な要素です。法令を踏まえつつ、想定する患者層に合ったデザインと、診療がスムーズに行えるレイアウト・動線を考えて依頼しましょう。
内装工事業者は、可能な限り医療施設の実績があるところを選定し、要件を共有して依頼します。複数社から相見積もりを取り、費用・スケジュール・提案内容を比較して決定しましょう。
④開業資金を調達する
自己資金で不足する場合は、銀行や公的機関などからの融資で補うのが一般的です。資金調達の方法の例としては、以下が挙げられます。
| 資金調達先 | 資金調達の方法 |
|---|---|
| 民間金融機関 | 銀行や信用金庫から融資を受ける |
| 独立行政法人福祉医療機構 | 福祉・医療業界への融資を行う「独立行政法人福祉医療機構」による「医療貸付事業」を利用する |
| 日本政策金融公庫 | 融資限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)の「新規開業・スタートアップ支援資金」を利用する |
| 地方自治体 | 自治体の制度融資を利用する |
| リース会社 | リース会社の提供するローンサービスを利用する(医療機器のリースとあわせて融資を受けることが可能) |
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」や地方自治体の制度融資であれば、金利を低めに抑えることが可能です。
また、独立行政法人福祉医療機構による「医療貸付事業」では、新築資金の場合、有床診療所なら5億円以内、無床診療所なら3億円以内を上限とする融資額が設けられています。比較的高額の融資が必要な場合は、医療貸付事業による融資も選択肢です。
出典:独立行政法人福祉医療機構「医療貸付事業」
出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
⑤医師会へ加入する
医師会に入会しなくても、クリニックを開業することは可能です。
ただし、自治体や地域医療に関わる各種支援や委託事業を受けられる点は、医師会加入の大きなメリットです。
たとえば、自治体が行う予防接種や健診事業を委託されることで、安定した収入源を確保できるほか、地域医療に貢献できる機会が広がります。医師会を通じて、地域内のほかの医師とのネットワークを形成し、情報交換や連携の機会を得ることも可能です。
また、医師会に入会後は、医療事故に備える「医師賠償責任保険」や老後の生活のための「医師年金制度」へ加入できます。
出典:公益社団法人 日本医師会「日本医師会医師賠償責任保険制度」
出典:公益社団法人 日本医師会「医師年金」
⑥各種手続きを行う
医師会加入に加えて、開業時には以下の書類提出の手続きが必要です。
| 保健所 | ・診療所開設届 ・診療用X線装置備付届 ・麻薬施用者・麻薬管理者免許申請 ・結核医療機関指定申請書 ・診療所使用許可申請書 |
|---|---|
| 地方厚生(支)局 | ・保険医・保険薬剤師登録申請書 ・保険医療機関指定申請書 |
| 地区医師会 | ・母体保護法指定医師指定申請書 |
| 税務署 | ・個人事業の開業届出書 ・青色事業専従者給与に関する届出書 ・給与支払事務所等の開設届出書 ・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 |
| 都道府県税事務所 | ・事業開始等申告書 |
| 福祉事務所 | ・生活保護法指定医療機関指定申請書 |
| 公共職業安定所 | ・雇用保険適用事業所設置届 |
| 労働基準監督署 | ・労災保険指定医療機関指定申請書 ・労働保険の保険関係成立届 |
| 消防署 | ・防火対象物使用開始届出書 |
出典:国税庁「A1-11 青色事業専従者給与に関する届出手続」
出典:国税庁「A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」
出典:国税庁「A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」
出典:厚生労働省「雇用保険適用事業所設置届」
出典:厚生労働省「労災保険指定医療機関になるための手続きについて」
出典:厚生労働省「労働保険の成立手続」
個人事業の開業届出時に「給与等の支払の状況」を記入した場合、給与支払事務所等の開設届出書を提出する必要はありません。ただし、開業届提出後に新たに給与支払を開始した場合は、提出が必要です。
【関連記事】
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【記入例あり】事業開始等申告書とは? 書き方や開業後に提出する届出も解説
医師の開業でよくある失敗
医師の開業でよくある失敗には、以下のようなものがあります。
| 要因の分類 | 具体的な失敗 |
|---|---|
| 立地選定の失敗 | ・アクセスが悪い場所に開業して患者が集まらない ・競合が多い場所に開業して患者が集まらない |
| 採用の失敗 | ・必要な人材を確保できず業務が回らない ・採用後に期待した能力を発揮してもらえない |
| マネジメント能力の不足 | ・スタッフの育成ができず患者満足度が下がる ・指示があいまいでスタッフを上手く使えない ・スタッフ同士の人間関係の悪化に対応できない |
| 経営スキルの不足 | ・費用回収が見込めない高額な医療機器を導入してしまう ・キャッシュ・フロー管理ができず資金ショートしてしまう ・集患・マーケティングを軽視して赤字になる |
立地選定の失敗を避けるためには、開業前に人口動態や競合状況を調査し、アクセスのよさや地域ニーズを踏まえた立地を選ぶことが重要です。
また、採用基準を設けたうえで、面接や試用期間を通じて適性を見極めるなど、慎重に採用活動を進める必要があります。
そのほか、マネジメント能力や経営スキルの不足を防ぐためには、事前に必要知識を身につけておくことが重要です。経営に不安がある場合は、必要に応じて経営コンサルタントに相談することも検討しましょう。
医師が開業する際はコンサルタントへ相談したほうがよい?
クリニック開業の際には、コンサルタントに相談すれば支援を受けることができます。コンサルタントに依頼することで、事業計画・立地調査・機器の導入・資金調達などに関するアドバイスを受けることが可能です。
開業支援の経験をもとにした専門的な助言が得られるため、立地選びや機器導入などの失敗リスクを軽減できます。また、開業手続きの面でも負担を軽減できる点もメリットです。
一方で、依頼には費用が発生し、相性やコンサルタントの能力次第では、思うような成果が得られないこともあります。コンサルタントに依頼する際は、メリット・デメリットを比較し、開業に向けた現状を確認し、現状を踏まえたうえで慎重な判断が必要です。
まとめ
医師として開業するには、物件探しや内装工事、資金調達、各種手続きなどを進めていくことが必要です。自己資金は開業資金の1〜2割程度が必要とされており、約500万〜2,000万円が目安です。
医師として開業すれば、理想の医療の実現や地域医療への貢献、ワークライフバランスの改善、収入の増加などが期待できます。開業を目指す際は、手続きの流れを把握し、段階的に準備を進めていきましょう。
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1. 個人事業の開業・廃業等届出書
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2. 所得税の青色申告承認申請書
青色申告承認申請書は事業開始日から2ヶ月以内、もしくは1月1日から3月15日までに提出する必要があります。期限を過ぎた場合、青色申告できるのは翌年からになるため注意が必要です。
3. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
家族や従業員に給与を支払うための申請書です。
4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
原則毎月支払う源泉所得税を年2回にまとめて納付するための手続です。毎月支払うのは手間ですので、ぜひ提出しましょう。
5. 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
青色申告をする場合に、家族に支払う給与を経費にするための手続です。青色申告をして家族に給与を支払う場合は必ず提出しましょう。
freee開業の使い方を徹底解説
freee開業を使った開業届の書き方は、準備→作成→提出の3ステップに沿って必要事項を記入していくだけです。
Step1:準備編
準備編では事業の基本情報を入力します。迷いやすい職業欄も多彩な選択肢のなかから選ぶだけ。
事業の開始年月日、想定月収、仕事をする場所を記入します。
想定月収を記入すると青色申告、白色申告のどちらが、いくらお得かも自動で計算されます。
Step2:作成編
次に、作成編です。
申請者の情報を入力します。
名前、住所、電話番号、生年月日を記入しましょう。
給与を支払う人がいる場合は、上記のように入力をします。
今回は準備編で「家族」を選択しましたので、妻を例に記入を行いました。
さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。
※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。
今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。
Step3:提出編
最後のステップでは、開業に必要な書類をすべてプリントアウトし、税務署に提出します。
入力した住所をもとに、提出候補の地区がプルダウンで出てきます。地区を選ぶと、提出先の税務署が表示されますので、そちらに開業届けを提出しましょう。
届け出に関する説明とそれぞれの控えを含め、11枚のPDFが出来上がりました。印刷し、必要箇所に押印とマイナンバー(個人番号)の記載をしましょう。
郵送で提出したい方のために、宛先も1ページ目に記載されています。切り取って封筒に貼りつければ完了です。
いかがでしょう。
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よくある質問
医師の開業に必要な資金は?
必要な自己資金の目安は500万〜2,000万円程度です。医師の開業資金は5,000万〜1億円程度とされており、その1〜2割ほどは、自己資金で用意する必要があります。
詳しくは、記事内「医師の開業に必要な自己資金」をご覧ください。
医師が開業するまでの流れは?
物件取得後に内装工事や設備の導入を行い、資金調達や医師会への加入を含む各種手続きを進めていく流れです。
詳しくは、記事内「医師が開業するまでの流れ」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。
HP:有限会社ライフスタッフ
