監修 橋爪 祐典
融資とは、事業に必要な資金を、公的機関や民間金融機関などから借り入れることです。借り入れた資金は返済する必要があるため、融資を受ける際は、事業の将来性から返済能力がある旨を審査してもらう必要があります。
個人事業主は、一般的な法人に比べると事業の規模が小さく、返済能力を懸念されやすい傾向があります。そのため「個人事業主は融資を受けにくい」というイメージが強くなりがちです。
しかし実際は、個人事業主でも利用できる融資制度は存在します。
本記事では、個人事業主が利用できる融資の種類をはじめ、申請の手順・必要書類・審査のポイントなどを解説します。
目次
個人事業主は融資を利用できる?
結論から述べると、個人事業主でも融資を利用できます。
「融資=法人が利用するもの」というイメージがあるかもしれませんが、個人事業主を対象とした融資制度も多数存在します。
ただし、資金を借り入れるには融資審査の通過が必要です。審査では、主に「借り入れた金額を期日通りに返済できるか」がチェックされます。そのため、事業計画書や資金繰り表を丁寧に作成し、事業の将来性や返済計画を具体的に説明しなければなりません。
審査の結果次第では、資金を調達できない可能性もあるため、準備を万全にして臨むことが大切です。
個人事業主が融資を利用するための条件
個人事業主が融資を利用するための代表的な条件として、「開業届を提出している」ことと「確定申告を行なっている」ことの2つが挙げられます。
開業届は、税務署に対して「個人事業主として事業を開始した」ことがわかる書類です。融資はあくまで事業に対する貸付であるため、自身が事業者であることを証明するために必要です。
確定申告書は、過去の事業の売上・経費・所得などを示します。金融機関は確定申告書の内容をもとに、事業の収益性や安定性を評価し、申込者に返済能力があるかを判断します。
上記2点を満たしていないと「申込者が事業者である証拠がない」「過去の事業の実績がわからない」などの理由で審査が困難になり、資金を調達できない可能性が高まるため注意しましょう。
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個人事業主が利用できる融資の種類
個人事業主が利用できる融資の種類として、代表的なものが以下の4つです。
個人事業主が利用できる融資の種類
それぞれにメリット・デメリットがあるため、各種類の特徴を正確に把握し、自分に適したものを選ぶことが大切です。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、100%政府が出資している金融機関で、創業期や小規模の事業者への制度が充実しています。
代表的な融資制度として挙げられるのが「新規開業・スタートアップ支援資金」で、開業前や事業開始後おおむね7年以内の事業者が利用できます。融資限度額は7,200万円(運転資金は4,800万円)で、返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内です。
一般的な創業融資の返済期間は、設備資金は7〜10年、運転資金は5〜7年です。そのため、日本政策金融公庫は比較的自分のペースで返済しやすいといえます。
また、新しく事業を始める場合や税務申告を2期終えていない場合は、以下の優遇措置を受けられます。
- 無担保・無保証人で融資を利用できる
- 通常より金利が低くなり、返済金額を抑えられる可能性がある
ただし、十分な事業実績がない状態で融資を受けるには、事業の将来性により説得力を持たせる必要があります。事業計画書や資金繰り表を作り込み「事業に将来性がある理由」「具体的な売上見込み額」の2点を明確に説明しましょう。
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出典:日本政策金融公庫「創業融資のご案内」
民間金融機関(銀行・信用金庫・信用組合)
融資を受けられる民間金融機関は、主に銀行・信用金庫・信用組合の3つが挙げられます。それぞれの概要やメリット・デメリットは以下のとおりです。
| 銀行 | 信用金庫 | 信用組合 | |
|---|---|---|---|
| 概要 | 営利法人の銀行 | 会員の出資によって運営される非営利法人 | 組合員の出資によって運営される非営利法人 |
| メリット | 「プロパー融資」制度を利用することで、融資限度額の上限なしで借りられる | 地域繁栄のための相互扶助を重視しており、売上が高くなくても審査を通過できる可能性がある | |
| デメリット | 審査が厳格であり、売上を厳しく評価されやすい | 銀行より融資限度額が低い傾向がある | |
信用金庫と信用組合は会員(組合員)になる資格が異なるのみで、メリット・デメリットに大きな違いはありません。
「大口案件のために多額の資金を準備したい」という場合は銀行、「必要な金額は多くないが、確実に審査を通過したい」という場合は信用金庫・信用組合を利用するのがおすすめです。
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地方自治体
地方自治体によっては、運転資金に困っている企業や個人事業主を支援するために、融資制度を設けている場合があります。地方自治体の融資制度は、特定の条件を満たすことで金利が低下し、返済金額を抑えやすい点がメリットです。
たとえば東京都では、東京都産業労働局で「小規模事業融資」という制度を設けており、保証付き融資の合計残高が2,000万円以下の場合に利用できます。
金利は原則として2.3〜2.9%以内ですが、以下のどちらかの条件を満たす場合は、1.9〜2.4%以内の金利で利用できます(令和7年時点)。
- 商工会議所や商工会の経営指導を、直近1年以内に6ヶ月以上、複数回受けている
- 中小企業診断士から、経営革新計画に関するフォローアップを受けている
ほかの自治体の融資制度も、上記のように金利を低下させられる可能性があります。
ただし、地方自治体の融資の審査は、金融機関・地方自治体・信用保証協会の3者が連携して行うため、時間がかかりやすい点がデメリットです。日本政策金融公庫や民間金融機関の審査は2~4週間で終わる傾向にありますが、地方自治体は最大で2ヶ月ほどかかる可能性があります。
「災害で店舗に被害が及び、営業中止になった」「仕入費用の支払期日が短くなった」など、緊急の事情で資金を調達したい場合は、ほかの機関を利用するのがおすすめです。
出典:東京都産業労働局「東京都中小企業制度融資要項」
ノンバンク
ノンバンクとは、民間金融機関のように預金業務を行わず、自社の資金で貸金業務を行う貸金業者を指します。具体的には、クレジットカード会社や消費者金融などが該当します。
ノンバンクの場合、融資で貸し出した資金が万が一返ってこなくても、預金者に影響が及ぶことはありません。貸し倒れリスクが低い分、審査基準がやや緩いため、審査が比較的早く完了する点がメリットです。場合によっては即日融資できる可能性もあります。
「仕入先からの支払いに対応するため、一時的に資金を増やしたい」「公庫の融資が実行されるまでの資金を確保したい」などの場合に重宝します。
一方で、ほかの機関より金利が高く、返済金額が多くなりやすい点はデメリットです。具体的には、銀行の金利は約1〜3%であるケースが多いですが、ノンバンクの場合は約3〜18%です。
借入期間3年で100万円借りる場合、金利3%だと利息は約47,000円ですが、金利10%だと約161,000円になります。あくまで概算の数値ですが、金利が高いと返済金額も大幅に上昇することがわかります。
ノンバンクから長期的に借り入れると、返済金額が非常に多くなる恐れがあるため、あくまで一時的なつなぎ資金として活用しましょう。
個人事業主が融資を申請する手順
個人事業主が融資を申請する手順は、機関によって多少異なる可能性がありますが、大まかな流れは共通しています。具体的には以下のとおりです。
申請する手順を把握することで、申し込みをスムーズに進められ、必要なタイミングで確実に資金を調達できます。融資を検討している人は、一度確認しておきましょう。
個人事業主が融資を申請する際の必要書類
融資を申請する際の必要書類も、機関によって多少異なる可能性がありますが、基本的には以下を準備します。
| 書類名 | 概要 |
|---|---|
| 事業計画書 | 今後の事業内容やスケジュールなどを記載する書類 |
| 資金繰り表 | 今後の収支額を月ごとに記載し、返済能力を示す書類 |
| 納税証明書 | 税金を滞納せず納付し、社会的な信用力があることを示す書類 |
| 直近2~3期分の確定申告書 | 事業実績として、過去の収入額を示す書類 |
| 本人確認書類 | 運転免許証やマイナンバーカードなど、身元を証明できる書類 |
| 事業用口座の通帳のコピー | 売上や経費の入金状況を確認するために提出する |
融資を申し込むときは、制度の概要をよく確認し、上記以外で必要な書類がないかをチェックしましょう。提出書類に不備があると、書類の再提出を求められ、資金調達が遅れやすくなるため注意してください。
個人事業主の融資審査で確認されるポイント
融資で確実に資金を調達するには、審査で確認されるポイントを事前に把握し、明確に説明できるよう準備することが大切です。
個人事業主の融資審査で確認されるポイントとして、以下の4つが挙げられます。
個人事業主の融資審査で確認されるポイント
融資審査に向けて書類を準備する前に、ぜひ各ポイントの詳細を確認しておきましょう。
自己資金の額
自己資金があると、万が一事業の売上が立たなくても、ある程度融資を返済できる可能性があります。そのため、自己資金の額が多ければ多いほど、審査を通過しやすくなります。
審査に通りやすくなる金額は明確に定められていませんが、目安として、今後の事業に必要な資金の3割ほどは準備しておきましょう。
また、自己資金を貯めてきた過程が評価される可能性もあります。毎月の利益からコツコツ自己資金を貯めた過程がわかると「無計画にお金を使わない人だ」と判断され、審査においてプラスに働きやすくなります。
給与振込口座と別に、自己資金の貯蓄用の口座がある場合は、必要書類とあわせて貯蓄用の通帳のコピーも提示してみましょう。
事業計画の具体性
事業計画の具体性がないと、借入金を本当に返済できるのかが機関に伝わらないため、融資審査に通りにくくなります。
具体性のある事業計画を伝えるには、借り入れた資金を何に使い、どのように売上へつなげるかを示すことが大切です。一例として、以下のように伝えると効果的です。
- 借入金200万円を店舗内装のリニューアル工事費用に使用する。個室スペースを新設することで、接待や記念日利用の客層を獲得し、月間売上30万円の増加を見込む。
- 借入金100万円をECサイトの改修費用(スマホ対応・決済機能強化)に使用する。ユーザビリティの向上により、購入率を1%から1.5%へ引き上げることで、月間売上20万円の増加を見込む。
- 借入金100万円を元請けからの要請に対応するための新規工具一式の購入費用に使用する。これにより、今まで外注していた特定の工程を自社で対応可能となり、外注費を月間10万円削減し、利益率を向上させる。
事業計画では、熱意のみを伝えるのではなく、論理的に売上の増加を見込める旨を伝えるよう心がけましょう。
確定申告書や決算書などから確認できる所得の安定性
確定申告書や決算書などから、過去の事業でも所得が安定している旨がわかると「今後も利益を上げられそう」という印象を与えられます。結果として、機関から返済能力を認められやすく、審査に通る可能性が高まります。
所得が安定していない場合は、融資の前に現在の経営状態を見直し、安定した黒字化を目指しましょう。目安として、直近2〜3期の業績が黒字であると、機関からの印象がよくなります。
常に一定の所得を生み出すには、まず売上を安定させることが大切です。顧客からの不満をもとにサービスを改良したり、SNSで積極的に宣伝したりして、売上を伸ばす取り組みを日々続けましょう。
「売上は上がっているのに利益が残らない」という場合は、経費を多く支払っている可能性があります。節電に努めて水道光熱費を抑えたり、より安い委託先を探して外注費を下げたりすることで、経費の削減を目指しましょう。
信用情報の内容
信用情報とは、過去のクレジットカード・ローン・税金などの支払いについて、滞納がないかを示すものです。信用情報に支払いの滞納記録があると「融資の借り入れも滞納するのでは」と不安に思われ、審査に通過する可能性が下がります。
日頃から各種の支払額を常に把握し、滞納しないために確保すべき資金額を理解しておきましょう。最低限の利益を確保するだけでなく、無計画にお金を使わないよう、支払分を残しておく管理力も重要です。資金繰り表に月々の支払額をあらかじめ記載しておくと、支払いを忘れにくくなります。
なお、税金の滞納に関しては、税理士に相談すると滞納解消や分割納付などの方法を提案してくれる可能性があります。どうしても支払いが難しい場合は、専門家への相談も検討してみましょう。
個人事業主が融資を受ける際の注意点
融資を受ける際の注意点を把握することで、必要なタイミングで資金を確保できなかったり、規定に違反したりするリスクを回避できます。
個人事業主が融資を受ける際の注意点としては、以下の2点が挙げられます。
個人事業主が融資を受ける際の注意点
- 審査に日数がかかることを考慮する
- 融資された資金を私的利用しない
トラブルを回避するために、あらかじめ上記2点を必ず押さえておきましょう。
審査に日数がかかることを考慮する
融資を利用する際は、基本的に審査に日数がかかる点を考慮し、すぐ資金を調達できない可能性があると認識することが大切です。
審査基準が比較的緩いノンバンクを除いて、融資を行う機関は、申込者の事業計画書や確定申告書などから「本当に返済能力があるか」を慎重に判断します。審査が完了するまで、日本政策金融公庫や民間金融機関は2〜4週間、地方自治体は最大で2ヶ月ほどの期間を要します。
さらに、審査に通過した後は契約書に署名・捺印し、機関に送付する必要があるため、実際の入金はさらに1週間ほどかかるのが一般的です。
融資の申請から入金までは相応の時間がかかるため「仕入費用の急な支払いに対応したい」というような、急な資金ニーズは満たしにくいのが実情です。急いで資金を調達したい場合は、即日融資できる可能性があるノンバンクを検討してみましょう。
融資された資金を私的利用しない
融資された資金を、審査時に説明した資金使途以外の目的で使用すると、規定違反に該当する可能性があります。たとえば「店舗の内装費」として500万円の設備資金の融資を受けた後、そのうち100万円を個人の生活費に充てるケースは、規定違反とみなされやすいケースです。
規定違反に該当すると、融資契約が即時解除され、借入金の一括返済を求められる可能性があります。また、その後の融資を受けられなくなるリスクもあります。資金を借り入れる手段がなくなると、事業拡大のチャンスを失いかねません。
融資によって借り入れた資金は、誤って私的利用しないよう、管理を徹底しましょう。既存の事業用口座と別の口座で管理したり、会計ソフトで借入金の入金仕訳や出金仕訳を管理したりすると、私的利用するリスクを抑えられます。
まとめ
融資は法人だけでなく、個人事業主も申し込み可能です。しかし、実際に資金を借り入れるには、審査で将来の事業の売上を示し「借り入れた金額を問題なく返済できる」と機関に認められる必要があります。
機関に提出する事業計画書や資金繰り表を丁寧に作成し「借り入れた資金の使いみち」「今後の事業プラン」「具体的な売上額」などを明確に説明しましょう。
また、融資を利用できる機関は、日本政策金融公庫や民間金融機関、地方自治体などさまざまです。各機関によってメリット・デメリットが異なるため、あらかじめ詳細を把握して自分に合った機関を利用しましょう。
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よくある質問
個人事業主でも融資は受けられる?
個人事業主でも融資は受けられます。具体的には以下の機関で申し込み可能です。
- 日本政策金融公庫
- 民間金融機関(銀行・信用金庫・信用組合)
- 地方自治体
- ノンバンク
ただし、融資審査に通過しなければ資金を借り入れられません。事業計画書や資金繰り表を丁寧に作成し、将来の売上から借入金の返済ができる旨を論理的に示しましょう。
詳細は「個人事業主は融資を利用できる?」でも解説しているため、ぜひご覧ください。
個人事業主が通りやすい融資は?
個人事業主が通りやすい融資のひとつとして、ノンバンクの融資制度が挙げられます。
ノンバンクは預金業務を行っていないため、万が一融資を行った際に貸し倒れが発生しても、預金者に影響が及ぶことはありません。そのため、ほかの機関に比べて審査基準が比較的緩い傾向です。
ただし、ほかの機関に比べて金利が高く、返済金額が多くなりやすい点はデメリットです。長期間にわたって借り入れると、返済に追われて資金繰りが悪化しやすいため、一時的なつなぎ資金の調達手段として利用しましょう。
個人事業主の融資限度額はいくら?
個人事業主の融資限度額は、利用する機関によって異なります。
たとえば、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」では、7,200万円(うち運転資金は4,800万円)まで借り入れが可能です。一方で、東京都産業労働局の「小規模事業融資」の場合、融資限度額は原則として2,000万円です。制度によって、融資限度額が大きく異なることがわかります。
多額の資金を調達したいなら、民間金融機関の「プロパー融資」という制度を利用することで、融資限度額なしで資金を借りることができます。ただし、比較的審査が厳しいため、事業計画書や資金繰り表などを通じて、将来の返済能力を明確に示すことが大切です。
出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
出典:東京都産業労働局「東京都中小企業制度融資要項」
監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。

