監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
専従者給与とは、個人事業主のもとで働く家族に対して支払われる給与のことです。原則として専従者に支払われる給与は経費として算入できませんが、青色事業専従者給与の要件を満たして届出をすれば、全額経費として扱えます。
また、事業主が白色申告者であっても、要件を満たすことで事業専従者控除が適用可能です。
本記事では、専従者給与の概要や青色事業専従者の要件、青色事業専従者給与の届出方法、専従者給与の仕訳方法などについて解説します。
目次
- 専従者と専従者給与とは
- 青色事業専従者(青色専従者)と青色事業専従者給与とは
- 青色事業専従者の要件
- 青色事業専従者のメリット・デメリット
- 青色事業専従者給与と白色申告の事業専従者控除の違い
- 青色事業専従者給与の届出方法
- 青色事業専従者給与の変更手続き
- 専従者給与の仕訳
- 給与から源泉所得税を差し引いたときの仕訳
- 専従者給与を給与手当に振り替えるときの仕訳
- 青色事業専従者に給与を支払うために必要なそのほかの届出・申請
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
- 青色申告の専従者給与の決め方
- 源泉徴収が必要ない金額にする
- 同業同職種の賃金を参考にする
- 青色申告者の収入とのバランスを考慮する
- まとめ
- 確定申告を簡単に終わらせる方法
- よくある質問
専従者と専従者給与とは
専従者とは、事業主のもとで働いている家族のことです。たとえば、父親が商店などのビジネスオーナーである場合、その配偶者や子どもが従業員として働いていれば、税制上「専従者」と呼ばれます。
また、専従者に支払われる給与のことを「専従者給与」と呼びます。家族に支払われる給与は、生計を一にする家族に事業主本人の収入を付け替えただけとみなされてしまうため、基本的に経費にはなりません。
しかし、青色事業専従者給与や事業専従者控除を適用できれば、専従者給与を経費として扱うことができます。いずれも、所得税法によって定められている要件を満たす必要があるため、しっかりと確認しましょう。
青色事業専従者(青色専従者)と青色事業専従者給与とは
青色事業専従者とは、青色申告を行う事業主のもとで働く家族のことです。
また、青色事業専従者に支払う給与のことを青色事業専従者給与と呼びます。青色事業専従者給与は、所定の要件を満たし、税務署へ届出することで適用可能で、青色事業専従者に支払う給与を全額経費として扱えます。
青色事業専従者の要件
青色事業専従者になるための要件は、以下の3つです。
青色事業専従者の要件
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6ヶ月を超える期間(一定の場合には事業に従事できる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること
出典:国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
15歳以上であれば青色事業専従者になることができます。ただし、高校や大学に通っている子どもが休暇などを利用して事業を手伝っても、青色事業専従者としては認められません。原則として年間6ヶ月以上、その事業に従事している必要があるためです。
また、家族に支払う給与額が労働の対価として適正であるかどうかも、青色事業専従者とするための要件として求められます。
税務署から適正でないと判断されると、青色事業専従者給与の一部または全額が否認されてしまいます。家族への給与は要件を満たせば全額を経費として認められますが、不当に高い金額を設定しないようにしましょう。
青色事業専従者のメリット・デメリット
青色事業専従者のメリットは、支払う給与を全額経費として算入でき、所得税を軽減できる点です。
ただし、青色事業専従者給与を適用すると、配偶者(特別)控除や扶養控除が受けられなくなるデメリットがあります。最大限の節税効果が得られる選択をしてください。
青色事業専従者給与と白色申告の事業専従者控除の違い
事業主が青色申告者ではなく白色申告者である場合でも、事業専従者控除として専従者への給与の一部を経費として算入できます。事業専従者控除を受けるには、以下2つの要件を満たす必要があります。
事業専従者控除を受ける要件
- 白色申告者の営む事業に事業専従者がいること
- 確定申告書にこの控除を受ける旨やその金額など必要な事項を記載すること
青色事業専従者給与と事業専従者控除の違いは、以下のとおりです。
| 青色事業専従者給与 | 事業専従者控除 | |
|---|---|---|
| 経費にできる金額 | 支払った給与の全額(労務の対価として相当であると認められる金額) | 配偶者:86万円まで その他の親族:50万円まで |
| 対応する所得 | 不動産所得・山林所得・事業所得 | 全ての所得 |
| 税務署への届出 | 必要 | 不要 |
| 記帳方法 | 複式簿記 | 単式簿記 |
白色申告の事業専従者控除は、経費にできる金額に上限があります。しかし、青色事業専従者給与の場合、労務の対価として相当と認められる範囲内では上限がありません。帳簿への記帳が複式簿記であるため手間はかかりますが、高い節税効果が期待できます。
出典:国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
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青色事業専従者給与の届出方法
青色事業専従者給与を経費算入するためには、管轄の税務署へ「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。届出書の提出期限は、青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日までです。
または、その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった場合は、その日から2ヶ月以内の提出が義務付けられています。
提出は、e-Tax・窓口への持参・郵送の3種類の方法から行えます。
出典:国税庁「A1-11 青色事業専従者給与に関する届出手続」
出典:国税庁「A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」
届出書の詳しい書き方や提出方法などについては、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】
青色事業専従者給与の届出とは?届出書の書き方や提出方法を解説
なお、青色申告者でない場合は、先に青色申告承認申請手続きをしましょう。提出期限や提出方法は、国税庁の「A1-11 青色事業専従者給与に関する届出手続」のページを参考にしてください。
青色事業専従者給与の変更手続き
専従者の追加や給与の増額など、青色事業専従者給与に関する届出書の内容が変更になる場合があります。その際は「A1-12 青色事業専従者給与に関する変更届出書」を所轄税務署に提出する必要があります。
期限は設けられていませんが、速やかに提出しましょう。提出は、e-Tax・窓口への持参・郵送の3種類の方法から行えます。
出典:国税庁「A1-12 青色事業専従者給与に関する変更届出手続」
専従者給与の仕訳
従業員への給与は「給料手当」と帳簿に記載することが一般的ですが、専従者給与の場合はそのまま「専従者給与」と記載します。これにより、ほかの従業員への給与と、専従者への給与を区別可能です。
以下では、専従者給与の主な仕訳方法を解説します。
給与から源泉所得税を差し引いたときの仕訳
青色事業専従者に給与を支払う際は、源泉所得税を差し引いた金額と預り金を仕訳に反映します。
【参考事例】
青色事業専従者である配偶者に、30万円の給与から源泉所得税の3万円を差し引いた27万円の支払いを行う。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 専従者給与 | 300,000円 | 現金 | 270,000円 |
| 預り金 | 30,000円 | ||
専従者給与を給与手当に振り替えるときの仕訳
専従者給与を誤って計上した場合は、正しい勘定科目へ振り替える必要があります。
【参考事例】
当初は青色事業専従者として届出・計上していた配偶者に支払う300,000円の給与について、その後専従者の要件を満たさなくなった。そのため、今後は「専従者給与」ではなく「給与手当」として処理することとし、仕訳の振り替えを行う。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 給料手当 | 300,000円 | 専従者給与 | 300,000円 |
青色事業専従者に給与を支払うために必要なそのほかの届出・申請
青色事業専従者に給与を支払うためには「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」以外にもいくつかの届出・申請が必要です。
青色事業専従者に限らず従業員に給与を支払う際に、確認・対応しておくべき手続きであるため、以下で確認しましょう。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
従業員を雇用した際は、雇用日から1ヶ月以内に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」を税務署へ提出します。
なお、開業届の提出時に「給与等の支払の状況」を記入した場合は、給与支払事務所等の開設届出書を提出する必要はありません。ただし、開業届提出後に新たに給与の支払いを開始した場合には、提出が必要です。
出典:国税庁「A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」
出典:国税庁「令和7年度版 暮らしの税情報」
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
青色事業専従者を含め、従業員に給与を支払う場合には源泉徴収が必要で、給与が毎月8万8,000円以上であると徴収額が発生します。
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出すれば、通常は徴収日の翌月10日が納期限となる源泉徴収を、年2回にまとめて納付可能です。
源泉所得税の納期の特例による納期限
- 1月から6月までに支払った給与等からの源泉所得税:7月10日
- 7月から12月までに支払った所得からの源泉徴収:翌年1月20日
義務ではありませんが、納付の手間が軽減できます。
こちらの特例は給与の支給人員が常時10名未満の場合のみ適用が可能です。申請期限はなく、申請の翌月の給与から適用できます。
出典:国税庁「A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」
青色申告の専従者給与の決め方
青色事業専従者給与に上限設定はありませんが、妥当性のある金額にすることが求められます。以下では、給与を決めるポイントを3つ紹介します。
源泉徴収が必要ない金額にする
所得税の源泉徴収があると、給与から差し引いた手取り額の計算や、徴収した所得税の納付手続きなど、さまざまな手間がかかります。そのため、事務負担を軽減したい場合は、源泉徴収が不要となる金額で給与額を設定しましょう。
一般的に、その月の給与額から社会保険料を控除した金額が8万8,000円以上の場合に、源泉徴収が必要となります。この金額未満であれば、源泉徴収の手間はかかりません。
同業同職種の賃金を参考にする
同業他社よりも給与額が高すぎると、相当な金額として認められない可能性があります。そのため、求人情報などで同業同職種の賃金水準を確認し、妥当な給与額を設定するようにしてください。
青色事業専従者給与の金額は「労務の対価として相当であると認められる金額」とされています。家族だからといって給与額を高めに設定してよいわけではありません。
青色申告者の収入とのバランスを考慮する
青色申告者の収入に対して専従者給与が高額すぎる場合、税務調査で認められない恐れがあります。
たとえば、青色申告者の収入(売上)が600万円程度の場合、青色事業専従者給与を300万円と設定すると適正と認められないことがあります。一方、青色申告者の収入(売上)が1,000万円の場合は、専従者の給与が300万円であっても、業務内容に妥当性があれば認められる可能性があります。
専従者の収入が事業主の所得に近づいたり、上回ったりする場合は認められない可能性があるため、青色申告者の収入とのバランスを考慮し、専従者給与を設定することが大切です。
まとめ
青色事業専従者とは、青色申告をしている個人事業主のもとで働く家族のことです。青色事業専従者に支払う給与(青色事業専従者給与)は、要件を満たして届出することで全額を経費として扱えるため、大きな節税効果が見込めます。
なお、白色申告の場合は、事業専従者給与控除として、上限付きの経費計上にとどまります。
専従者給与を活用するには、税務署への届出や給与支払事務所等の届出など、複数の手続きが必要です。なお、給与額は源泉徴収の有無や同業他社の水準、事業主との収入バランスを考慮して設定します。
事業全体の節税につなげられる専従者給与を、有効に活用しましょう。
確定申告をかんたんに終わらせる方法
確定申告の期間は1ヶ月です。それまでに正確な内容の書類を作成し、申告・納税しなければいけません。
ほかにも、青色申告の場合に受けられる特別控除で、最大65万円を適用するためにはe-Taxの利用が必須条件であり、はじめての人には難しい場面が増えることが予想されます。
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よくある質問
専従者給与はいくらまで経費にできる?
青色申告では上限なし、白色申告は最大86万円まで経費にできます。
詳しくは、記事内「青色事業専従者給与と白色申告の事業専従者控除の違い」をご覧ください。
専従者給与の会計処理はどうやればいい?
専従者給与の会計処理は、他の従業員との給与とは区別されるため、帳簿に「専従者給与」と記帳します。源泉所得税がある場合や給与所得との振り替えがある場合など、正しく記帳することが重要です。詳しくは、記事内「専従者給与の仕訳」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。
