監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ
解体工事や撤去にかかる費用は、目的に応じて勘定科目が異なります。用いられる勘定科目や仕訳例、計上する際のポイント・注意点を解説します。
事務所の解体や店舗の撤去など、撤去費用を支払った場合の仕訳で迷うケースは少なくありません。用いられる勘定科目を把握し、正しく仕訳を行いましょう。
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目次
解体工事や撤去にかかる費用は経費にできる?
解体工事や撤去にかかる費用は、事業に必要な費用であれば、原則経費に計上できます。たとえば、事務所を取り壊して事務所を新設した場合、撤去にかかる費用は発生時に経費に計上が可能です。
ただし、土地と建物を同時に取得し、建物を1年以内に取り壊す場合の取り壊し費用は土地の取得価額に含まれます。土地は非減価償却資産であるため、取得価額に含まれた取り壊し費用も減価償却による経費計上はできないので注意しましょう。
なお、土地と建物を同時に取得し建物を1年以内に取り壊した場合でも同様です。事業目的で取得してやむを得ない事情で1年以内に建物を取り壊した場合は、土地の取得価額に含めずに損金算入できます。
解体工事や撤去にかかる費用に用いる勘定科目
解体工事や撤去にかかる費用は、その目的により以下4つの勘定科目で計上します。
解体工事や撤去にかかる費用に用いる勘定科目
- 固定資産を廃棄・滅失した場合は【固定資産除却損】
- 建て替えを目的に購入した建物の解体・撤去を行う場合は【土地】
- 有形固定資産の修理を行う場合は【修繕費】
- 災害で発生した損失に用いる場合は【災害損失】
各勘定科目の内容とどのような目的の場合に用いるかを解説します。
【固定資産除却損】
固定資産除却損は、固定資産(建物・構築物・車両運搬具・機械装置など)を廃棄または滅失した場合に用いる勘定科目です。
建物の解体や撤去が目的でその後に建て替えの予定がない場合の費用は、通常、固定資産除却損勘定で仕訳をします。
【土地】
建て替え目的で建物を購入したのであれば、土地の勘定科目を用います。
建て替えを目的に購入した建物の解体や撤去は、新築工事の一部と捉えられます。そのため、解体工事や撤去にかかる費用は建物の取得費用の一部に含められて計上されます。
【修繕費】
修繕費は、有形固定資産(建物やPC、車など)の修理を目的に支払う費用の勘定科目です。
建物の一部が損壊し、その復旧が目的で解体工事や撤去を行った場合の費用は、一般的に修繕費勘定で仕訳を行います。
【災害損失】
災害損失は、火災や水害などの災害で発生した損失で用いる勘定科目です。
地震・火災・水害などで建物に被害があった場合、後片付けなどのための撤去費用は災害損失で仕訳を行い、損金に算入します。
【事例で解説】解体工事や撤去にかかる費用の仕訳例
解体工事や撤去にかかる費用の仕訳例を目的別に解説します。それぞれの仕訳の仕方を理解し、適切に処理しましょう。
解体工事や撤去にかかる費用の仕訳例
- 事務所の撤去費用を計上する場合
- 事務所を建て替える場合
- 損壊した事務所の一部を解体して復旧する場合
- 被災した事務所を撤去する場合
事務所の撤去費用を計上する場合
新しく建物を新築する予定がない場合の事務所の撤去費用は、固定資産除却損勘定で計上します。撤去費用が1,000,000円であった場合の仕訳例は次の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
固定資産除却損 | 1,000,000円 | 普通預金 | 1,000,000円 |
建物に帳簿価額が残っている場合は、資産を除却する処理が必要です。撤去費用が1,000,000円、残っている建物の帳簿価額が500,000円であった場合、次の仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
固定資産除却損 | 1,500,000円 | 普通預金 | 1,000,000円 |
建物 | 500,000円 |
事務所を建て替える場合
事務所の建て替えが目的で購入した建物を解体・撤去した場合の費用(1,000,000円)は、撤去費用を支払ったときに次のような仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
土地 | 1,000,000円 | 普通預金 | 1,000,000円 |
損壊した事務所の一部を解体して復旧する場合
事務所の一部を解体して復旧する場合の撤去費用(500,000円)は、通常、次のように仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
修繕費 | 500,000円 | 普通預金 | 500,000円 |
なお、修繕費勘定を用いる支出は「原状回復」の支出です。事務所の復旧に伴い「機能向上」した部分は資本的支出となるため、固定資産として資産計上します。
被災した事務所を撤去する場合
地震や火災などの災害で事務所(帳簿価額5,000,000円)が損壊し、撤去費用で1,000,000支払った場合の仕訳例は次の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
災害損失 | 6,000,000円 | 建物 | 5,000,000円 |
普通預金 | 1,000,000円 |
上記のように、事務所の建物の帳簿価額と合算して撤去費用を計上します。
解体工事や撤去にかかる費用を経費に計上するポイント・注意点
解体工事や撤去は頻繁に起こるものではなく、会計処理の際に迷いやすい支出です。以下では、経費計上する際のポイント・注意点を紹介します。
- 解体や撤去の目的別で用いる勘定科目を分ける
- 建物を修繕するときは「資本的支出でないか」に注意する
解体や撤去の目的別で用いる勘定科目を分ける
解体工事や撤去の費用は、どの目的でどの勘定科目を用いるかがポイントです。
目的 | 用いる勘定科目 |
---|---|
撤去後に建物を建てない場合 | 固定資産除却損 |
建て替え目的で購入した建物を建て替える場合 | 土地 |
現状復旧する場合 | 修繕費 |
災害で撤去する場合 | 災害損失 |
費用を計上する際は、間違えないように注意しましょう。摘要欄に何の目的で支出したかを記入しておくと、あとで帳簿をチェックする際に役立ちます。
建物を修繕するときは「資本的支出でないか」に注意する
建物を一部解体して修繕する場合は、「資本的支出でないか」に注意が必要です。
修繕費は原状回復のための支出であり、全額が費用で計上可能です。しかし、資産価値や機能が高まる場合は「資本的支出」となり、固定資産で扱われます。資産計上した費用は、耐用年数に渡って減価償却します。
修繕費と資本的支出の区分は、「20万円未満か」「周期がおおむね3年以内か」などの基準で判断可能です。
まとめ
解体工事や撤去にかかる費用は、建物の撤去が目的の場合は固定資産除却損、建て替え目的で購入した建物を新しく建て替える場合は土地など、目的により異なる勘定科目で計上します。
撤去して一部を修繕する場合は、「原状回復か」「資本的支出か」でも分かれるので注意が必要です。それぞれの違いを把握し、適正に帳簿を作成してください。
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よくある質問
解体工事にかかる費用を経費に計上する際の勘定科目は?
目的に応じて、固定資産除却損・土地・修繕費・災害損失を用います。
解体工事などの勘定科目を詳しく知りたい方は、「解体工事や撤去にかかる費用に用いる勘定科目」をご覧ください。
建物の一部解体して修繕した場合はすべて「修繕費」となる?
新しく非常用階段を取り付けるなど資産の価値が高まったときは、資本的支出として資産計上が必要な場合があります。
修繕費での計上を詳しく知りたい方は、「解体工事や撤去にかかる費用を計上するポイント・注意点」をご覧ください。
監修 宮川 真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業後、税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上となる。現在は「100年先の“みらい”を創る。」税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティングを行う。