パラレルキャリアという言葉をご存知でしょうか。経営学者のピーター・ドラッカー氏が20年ほど前に著書のなかで提唱した考え方で、副業や複業が盛んになってきたここ数年、日本でも注目を集めています。
パラレルキャリアとはそもそもどんな考え方で、どんなメリット・デメリットがあるのでしょう。本記事では、パラレルキャリアの特徴やメリットを解説した上で、知っておきたい注意点について解説します。
目次
パラレルキャリア、パラレルワークとは
パラレルキャリア(英語:parallel career)とは、オーストリア人の経営学者、ピーター・ドラッカー氏が著書『明日を支配するもの』で提唱した、生き方・キャリアに関する考え方です。
本書では、パラレルキャリアを「本業を持ちながら、第二の活動をすること」と表現しています。
英語のparallelには、「平行」「並列」といった意味があります。このため、パラレルキャリアは「複数の仕事を持つこと」「本業以外に、スキルを平行して磨くこと」と考えてもいいでしょう。「パラレルワーク」、複数の収入源を持つ働き方のことです。営利活動だけではなく、ボランティアなどの非営利活動に参加することも含まれます。
世界的に平均寿命が伸び、人間の方が組織よりも長命であることは珍しくありません。パラレルキャリアが生まれた背景には、会社組織とは別に「第二の活動」を始める必要や需要が発生したことが挙げられます。
副業とパラレルキャリアの違い
パラレルキャリアと一緒によく使われる働き方に「副業」があります。
副業とは、本業の就業時間外を使って行う仕事のことです。平日の夜や、土日などの休日を使って、短期アルバイトや小規模なプロジェクトに参加する、株式投資や物販、アフィリエイトサイトの運営などです。
一方のパラレルキャリアは、複数の本業を持つ状態を指します。全ての仕事に対して本業と同じ気持ちで向き合うため、「複業」とも言われます。
副業でも、よりプロフェッショナルで、仕事への没頭度も高い場合はパラレルキャリアと考えていいでしょう。最近では将来の独立を見越した上で副業をしている人も多く、そういった場合はパラレルキャリアに近いといえます。
パラレルキャリアが注目される理由
パラレルキャリアという言葉が生まれてから、20年以上が経過しました。
近年になって、パラレルキャリアが注目され始めた理由のひとつには、前述したように平均寿命が伸び、本業一本で過ごす価値観が変わり始めたことが挙げられます。
終身雇用や年功序列など、旧来の雇用システムに限界もきています。私たちは、これまで以上に自分の人生・キャリア設計を自分自身で考えていかなければなりません。「どのように生きるべきなのか」「どのような仕事、社会貢献をすべきなのか」を考える機会も増え、ライフスタイルもワークスタイルも多様化しています。
また、副業解禁の影響で最近では副業を認める企業も増えてきました。本業に支障が出ない範囲であれば、副業を通して得た知識・スキルや人脈を本業に活かしてもらう狙いがあるようです。
先行きが不透明な世の中で、会社に頼らなくても大丈夫なようにスキルを磨く機会が得られたと言っていいでしょう。
パラレルキャリアのフリーランスは280万人
パラレルキャリアは、会社員だけではありません。フリーランス・個人事業主のなかでも、パラレルキャリアを実践する人は多くいます。
クラウドソーシングサイトのランサーズが実施している調査では、2015年からフリーランスの人口と経済規模の推移を算出しており、2020年は副業系すきまワーカー、複業系パラレルワーカーの人口が281万人と報告されています(参考資料:「ランサーズ フリーランス実態調査 2020年度版」)
この調査では、複業系パラレルワーカーは「雇用形態に関係なく2社以上の企業と契約ベースで仕事をこなすワーカー」と定義されています。
パラレルキャリアのメリット
会社員だけではなく、個人事業主・フリーランスにも広がりを見せるパラレルキャリアですが、実践することでいったいどのようなメリットがあるのでしょう。
スキルが磨かれる
パラレルキャリアのメリットの一つに、スキルアップが挙げられます。一つの会社で働き続けると、その会社でしか通用しない常識やスキルに気づけないこともあります。複数の会社と働くことで、より視野が広まると言えるでしょう。
この点を鑑みて、経験を積むために、一定期間は無給で仕事を請ける人もいるようです。
本業以外での人との出会い
パラレルキャリアを実践することで、本業では関わる機会のなかった人々と出会える点もメリットのひとつです。ある仕事で出会った人と本業でも仕事をした話もあります。
社員の人脈が広がることは、企業側にとっても大きなメリットです。
私生活が豊かになる
「パラレルキャリアを実践したことで、私生活にも良い影響があった」という声もあります。これは本業以外にコミュニティを持ち、違う視点から物事を見て刺激を受けたことが大きいようです。
新たな出会いや知識・経験を得ることで、私生活を含めた人生全般への満足度がアップするかもしれません。
パラレルキャリアの注意点
パラレルキャリアを実践していく上で、いくつか注意しなければいけない点があります。
本業に支障をきたさないよう自己管理が必要
本業以外の活動に時間や労力を割くことで、本業がおろそかになってしまう恐れがあります。会社員として働く場合は、勤務時間や業務内容が雇用契約書によって定められていますが、パラレルキャリアのように複数の取引先と仕事をする場合は、勤務形態が曖昧になってしまうことがあります。
ついつい、夜や休日に働きすぎてしまい心身に不調を招き、本業に支障をきたす可能性がありますので、しっかりとした自己管理が求められるでしょう。
パラレルキャリアを新たに始める場合は、無理にスケジュールを詰めすぎず、週に1日3時間などある程度、スモールスタートをするようにしましょう。
報酬が発生する場合は、確定申告に注意をする
ボランティアなど無報酬で活動する場合には気にする必要がありませんが、年間20万円を超える報酬が発生する場合には、確定申告を行わなければいけません。
もし確定申告を忘れてしまうと、税務署の調査対象となり、無申告加算税や延滞税が課されるケースがあります。また、故意に確定申告を免れた場合は、刑事責任が問われる可能性もあります。
次章では、パラレルキャリアと確定申告について詳しく解説していますので、しっかりと理解した上で、パラレルキャリアを始めるようにしましょう。
パラレルキャリアと確定申告
通常、会社員は会社が年末調整をしてくれるので確定申告をする必要がありません。しかし、2か所以上から給与の支払を受けている場合、主たる給与以外の所得合計額が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要です。
参考:国税庁『No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人』
例えば、A社・B社に勤めて複業をする場合を考えてみましょう。いずれの場合も「給与」として報酬が支払われていると仮定します。A社の年収が300万円で、B社の年収が100万円だったとします。この場合、B社から得ている所得の合計金額が20万円を超えているため、自分で確定申告をしなければなりません。
個人事業主・フリーランスとしてパラレルキャリアを実践する場合、確定申告は必須です。取引先が複数になるため、普段から請求書や入金管理にも気を配る必要があるでしょう。仕事に集中していて、未入金に気づかなかったという話もよくあります。
この場合、会計ソフトを使用することをお勧めします。多くの場合、会計・経理の知識がなくても大丈夫です。見積書・発注書・請求書作成機能や送付代行サービスも提供しているため、普段のバックオフィス業務も効率化できるでしょう。
【関連記事】
副業の確定申告に関係する「20万円以下」の意味とは?
確定申告を簡単に終わらせる方法
確定申告には青色申告と白色申告の2種類があります。どちらを選択するにしても、期限までに正確な内容の書類を作成し申告しなければいけません。
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