クレジットカードの基礎知識

2020年改正電子帳簿保存法 クラウド会計ソフトや事業用クレジットカード導入で便利に

【画像データ】freee株式会社 小泉 美果1

改正電子帳簿保存法が2020年10月1日に施行され、領収書や請求書などのデータ保存の要件が緩和されました。取引データの改変ができない(または改変の履歴が確認できる)クラウドの受発注システムなどを利用することで、電子データで請求書等を保存する際の従来の面倒な手続きをしなくても、取引データとして保存ができるようになりました。

さらに、経費の支払いをクレジットカードなどのキャッシュレス決済にし、取引データの改変ができないfreee会計のようなクラウド会計システムに同期させれば、紙の原本の管理をしなくて済む経費処理フローを築くことも可能になりました。

本記事では、総務省を経て現在freee株式会社で金融機関や省庁との渉外などを担当している小泉美果が、改正の詳細や具体的に事業者が気を付けるべきことなどについて説明します。

目次

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電子帳簿保存法の基礎知識と今回の改正ポイント

ーーそもそも、電子帳簿保存法とはどんな法律なのでしょうか。

電子帳簿保存法とは、会計帳簿や領収書・請求書などの書類を、紙ではなく電子データとして保存することを認めた法律です。これらの帳簿や書類は、税務申告の内容が正しいことを証明する基礎となるものとして、所得税法や法人税法、消費税法などの税法により、紙による保存が義務付けられています。電子帳簿保存法では、これらの税法の特例として、所定の条件を満たせばデータとして保存することを可能にしています。


ーー今回の改正のポイントはどこにありますか?

今回の改正は、実は、帳簿や紙で受け取った領収者や請求書などの書類が対象ではありません。「電子取引」という「最初から最後まで紙が発生せずに電子データで完結する取引」の情報の保存方法が変わりました。

取引データが改変できなかったり、改変してもその履歴が残ったりするクラウド会計システムや経費精算システムなどを使うことで、これまでデータ保存をするために必要とされていた手間を省くことが可能になりました。経理関係の業務を初めからデジタルにして紙を介在させないことで、業務上の手続きデータがそのまま税務エビデンスとして活用でき、紙の保存も、煩雑な手続きも必要なくなります。

電子取引の場合

【画像データ】 電子取引の場合の情報の保存方法

ーーこれまで具体的にはどんな手間がかかっていたのでしょうか。

電子取引の保存では、受け取ったPDFなどのデータに受領者がタイムスタンプを付与するか、改変防止等のための社内事務処理規程を整備することが必要でした。さらに、紙で受けとった書類をデータで保存するにはまた別の要件があり・・・制度自体が複雑で理解するのが難しいのです。そのため、データで保存するよりも、物理的な場所はとるけれど、電子取引で受け取ったPDFもわざわざ紙に印刷して保存したほうが楽、という判断をする事業所も多く、ペーパーレスが進んでいませんでした。

より正しい理解のためには、制度全体を把握する必要があります。電子帳簿保存法の対象書類としては、大きく分けて3種類です。

1. 事業者が一貫して電子データで作成した帳簿と決算書類
2. 取引相手から紙で受け取った書類(スキャナ保存)
3. 取引相手から電子データで受け取った情報(電子取引)


1つ目は、会計帳簿や貸借対照表・損益計算書など、事業者が一貫してコンピューターで作成したもの。電子データ保存を始めたい会計年度の3カ月前までに税務署に申請し承認されれば、わざわざクラウド会計ソフトから紙に印刷しなくても、そのまま電子データでの保存が可能です。

2つ目は、取引相手から受け取る請求書や領収書などの書類のうち、紙で受け取ったものを画像などの電子データに変換して保存するもの。これは「スキャナ保存」と呼ばれ、2005年の改正で電子保存が認められるようになって以来、少しずつ改正を繰り返してきた制度です。しかし、紙を電子データに変換する際に、受領後3営業日以内を目安にタイムスタンプを付与する必要があるなど、企業内の事務処理上の要件が厳しいため、導入が進んでいません。また、こちらも電子データ保存を開始したい3カ月前までに税務署への申請が必要です。

3つ目は、取引相手から受け取る請求書や領収書などの書類のうち、初めから電子データとして作成され、一貫して電子データでやりとりしたもの。これが「電子取引」と呼ばれる今回の改正対象です。例えばこれまでは、請求書がメール添付でPDFの形式で送られてきた場合、受け取った側がPDFにタイムスタンプを付与し、受け取ってから改変されていないことを技術的に証明するか、もしくは、正当な理由がない訂正や削除が行われないように社内で事務処理規程を作って運用する必要がありました。

今回2020年10月1日からの変更では、この3つ目の「電子取引」において、「訂正や削除など改変ができない、もしくは履歴が残るシステム」を使っていれば、こういったタイムスタンプや社内規定の運用が不要になりました。

「電子取引」については、事前の税務署への申請・承認は必要ありません。そのため、電子取引の保存要件を満たすシステムを導入すれば、日々の受発注や経理業務をそのシステムの中で行うだけで、システムの中に保存されていく取引データをそのまま「税務エビデンス」として活用できるようになります。


ーー紙で受け取ったものをスキャンしてデータ化した場合ではなく、初めからデータのみでやりとりする場合が、今回の改正に適用されるのですね。

そうです。これまではスキャナ保存に関する改正が続いていました。今回の改正では、原本発生から取引完了までデジタルデータでやりとりし、そもそも紙での取引を減らしましょう、という新しい発想の改正だと思います。例えば、受発注システムにおいて、発行者と受領者がクラウドで同じデータを参照するのであれば、改変しようがないので、わざわざデータ保存のためにタイムスタンプを付す必要はない、という考え方です。

今回改正された電子取引の要件を満たす受発注サービスや経費精算システムなどのクラウドサービスを導入すると、バックオフィス業務の生産性向上だけでなく、税務エビデンスのペーパーレス化にもつながります。


【画像データ】freee株式会社 小泉 美果2

システム導入とキャッシュレス決済明細同期がベストな組み合わせ

ーー受発注システム以外で、今回の改正で便利になることはありますか?

経費の支払いなどをキャッシュレス決済にし、その利用履歴の電子明細を、今回の改正の要件を満たすシステムと同期させることで、ペーパーレスな経費精算など、手間を省いた社内業務フローを実現することができます。

インターネットバンキングやクレジットカードなど、キャッシュレス決済の電子明細をそのままfreee会計のようなクラウド会計ソフトなどのシステムに同期している場合のように、システム上、ユーザーがデータを改変できない(あるいは改変履歴が残る)のであれば、今回の改正の要件を満たします。

つまり、そういったシステムを利用していれば、同期したキャッシュレス決済の電子明細自体をそのまま税務エビデンスにすることができるようになった、ということです。

アスクルなどのECサイトで会社の備品購入時の経費支払いに、freeeカードのような事業用のクレジットカードを活用するなど、決済手段をキャッシュレスに移行するちょうどいいタイミングだと思います。


【画像データ】 事業用のクレジットカード活用法


ーーなるほど。その際に注意すべき点はありますでしょうか。

クラウド会計ソフトを使いキャッシュレス決済を行っていたとしても、電子明細をデータ連携せず手入力している場合や領収書を紙で受け取った場合には、これまで通り証憑を紙で保存するか、税務署長の承認を得た上でスキャナ保存をするという手間がかかります。

クレジットカードの利用明細などを見ながら会計ソフトに手入力する場合、その手入力データは改変できるデータとなってしまうため、それ自体が税務エビデンスにはなりません。また、会計ソフトへのCSVファイルのインポートについても、CSVファイル自体をユーザーが改変できるため、今回の改正要件を満たしません。

また、特に気をつけなければいけないのは、キャッシュレス決済をしたとしても、紙で領収書を受け取ってしまうと、その紙には税法上の保存の義務がかかるということです。現行制度では、ユーザが改変不能な電子明細がクラウド会計ソフト上の保存されていても、紙で受け取った領収書は別の手順を踏んでスキャナ保存をするか、紙のまま保存する必要があります。そのため、今回の改正で「キャッシュレスで経費精算ができるようになった」といっても、受け取った紙を捨てていいという意味ではないので、要注意です。


ーー紙を受け取らない取引であれば、決済情報とクラウド会計ソフトのデータ連携をすることで、最大限メリットを享受できるのですね。

はい、ぜひクラウド会計ソフトの外部明細同期機能をこの機会にご利用いただきたいと思います。なお、導入するクラウド会計ソフトとキャッシュレス決済の電子明細の同期の仕様も各社一律ではないため、これから導入する場合は、会計ソフトと決済手段の相性をチェックすると、よりスムーズに管理できます。例えば、freee会計では、各種クレジットカードの未確定明細の同期対応など、現状と今後のスケジュールをまとめたページを作成しています。このような情報を、システムと決済手段の選定の際に活用することをおすすめします。

参考:freeeヘルプセンター「同期の新しい仕組みについて

もう一つ、特に社内申請フローがある事業者さんに注意いただきたいことがあります。キャッシュレス決済の電子明細からは、購入の日付・場所・金額はわかりますが、購入内容や税率区分はわかりません。そのため、社内の経理処理上、何を買ったのか、混合税率の区分は何だったのかなどを確認したいという場合には、結果的に電子明細以外の情報(例えば領収書)が必要になります。例えば、特定の用途を定めて、事業用のクレジットカードで決済をするような社内ルールを定めれば、電子明細だけで経理処理をする方法も考えられますが、一定の工夫は必要となります。

2023年10月にはインボイス制度が控える

ーーその他、今回の改正に関わることで、気を付けるべきポイントはありますか?

2023年10月にはインボイス制度が導入されます。インボイスとは、課税事業者(売手)が買い手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝える書類で、「インボイス発行事業者登録番号」や「適用税率」、「消費税額等」が記載されたものです。現在は消費税法上、3万円未満の仕入れ経費については、帳簿に記載があればよいとされていますが、制度導入以降は、仕入税額控除をするためには、金額に関わらず全ての取引においてインボイスの保存が必要になります。つまり、2023年からは中小企業や個人事業主が取扱うインボイスの量が爆増するということです。

インボイスも、電子データで保存する場合には電子帳簿保存法が適用され、紙で発行されたインボイスを電子データ化する場合にはスキャナ保存、電子で発行されたインボイスは電子取引として保存する必要があります。大量のインボイスを紙で保存するのはコストがかかることが見込まれます。

インボイス制度導入の直前に慌てないよう、今回の電子帳簿保存法の改正を機に、3年後を見据えて、今のうちからクラウドサービスを活用し、電子取引による保存を増やしていく準備を始めることをおすすめします。

【関連記事】
2023年10月から始まるインボイス制度とは?図解でわかりやすく解説!

事業規模や制度の進捗にあわせ業務効率化を

ーー今後、電子帳簿保存法はどうなっていくのでしょうか。

今回の改正により、紙の概念のないデジタルで完結する取引を前提とした情報のデータ保存の利便性が高まりました。今後も、政府の方針としては、ペーパーレスやキャッシュレスを推進していく方向性が決まっていますので、いち事業者としても電子で完結する取引を増やしていくことでこれからもっと便利さを享受できるようになっていくと思います。

しかし、現実的には一気に電子取引100%とはいかないので、過渡期的な措置として、一部残る紙でのやりとりや過去にやりとりした紙の保存のために、制度としては、スキャナ保存の利便性を高めていく必要も残っていると考えています。

事業を営む方には、2023年のインボイス制度導入が迫っているので、今のうちから、相手先との取引や決済手段を見直すことで、業務効率化を進めていっていただきたいと思います。

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