捺印と押印は、どちらも書類に印鑑を押す行為を指しますが、その意味と法的効力には違いがあります。
本記事では、捺印と押印の根本的な違いをはじめ、それぞれの法的効力やシーン別の使い分けについてわかりやすく解説します。ビジネスシーンでの捺印と押印の使い方に迷いが感じている人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
捺印とは
捺印(なついん)は自筆の署名と合わせて印鑑を押すことです。実際は「署名捺印」を意味する言葉で、書類に自分の名前を手書きで記入し、その上または横に印鑑を押すことを意味します。印鑑を押すだけが捺印ではない点に注意が必要です。
捺印は、文書の作成者が自らの意思で当該文書を作成したことを証明する役割を果たし、文書の信頼性と真正性を高める効果があります。
押印とは
押印(おういん)とは、本来「記名押印」という言葉を略したものです。自筆以外の方法で氏名を記載した(記名した)状態、または氏名がない状態の書類にハンコを押す行為を指します。
具体的には、パソコンで印刷された氏名、ゴム印やスタンプで印字された氏名、あるいは代筆された氏名の横にハンコを押す場合がこれに該当します。自筆の署名に比べて本人の識別性が低いため、社内文書や一般的な請求書、領収書など、日常的あるいは簡易的な手続きの場面で「押印」という言葉が多く使われる傾向にあります。
捺印と押印の違い
捺印と押印は、どちらも書類に印鑑を押す行為を指しますが、その意味と法的効力には違いがあります。
捺印は自筆で名前を書いた上で印鑑を押すことを意味します。一方、押印は印刷やゴム印などで予め記された名前に印鑑を押すことを指します。法的効力の面では、捺印の方が押印よりも高いとされており、これについては後述します。
捺印と押印の法的効力
民事訴訟法第228条4項によれば、私文書に本人または代理人の署名または押印があれば、その文書は真正に成立したものと推定されます。つまり、捺印と押印のどちらも文書の真正性を推定する効力を持っています。
しかし、証拠力の面では、以下の理由から捺印の方が押印よりも法的効力が高いとされています。
捺印の法的効力が高い理由
- 捺印(署名捺印)には自筆の署名が含まれるため、筆跡鑑定によって本人性を確認できる
- 押印(記名押印)は、あらかじめ記名された文書に印鑑を押すだけなので、印鑑の複製や無断利用の可能性を完全に排除できない
このため、契約書などの重要な法律文書では、より証拠力の高い捺印が好まれる傾向にあります。ただし、近年では電子署名の普及や「脱ハンコ」の動きにより、そもそも従来の捺印や押印の重要性が低下しつつあることにも留意が必要です。
出典:e-Gov法令検索「民事訴訟法228条4項」
捺印・押印する場所
書類にハンコを押す際は、ただ適当な余白に押せばよいというわけではありません。その手続きにおける印鑑証明書の要不要によって、捺印・押印の適切な場所は異なります。
印鑑証明書が必要な場合
実印を用いた契約など、印鑑証明書の添付が必要な手続きでは、文字(署名や記名)と少し重ねてハンコを押す、あるいは指定された「印」の枠内に正確に押印します。
文字に少し重ねて押すのは、印影(ハンコの跡)と文字が一体化することで、後から書類が改ざんされたり、別の紙から印影を切り貼りされたりする不正を防ぐためです。
ただし、文字を完全に潰してしまうと、印鑑証明書の実印と印影を照合(印鑑照合)できなくなるため、文字の末尾に少しだけ重ねるのがビジネスマナーとされています。
印鑑証明書が必要ではない場合
認め印やシャチハタで済むような、印鑑証明書が不要な日常の書類(社内申請書や一般的な請求書など)では、文字と重ねずに、名前の右側の余白に押印するのが一般的です。
この場合は厳密な印鑑照合が必要ないため、書類の視認性を最優先します。あらかじめ「印」や「◯」というマークが印刷されている場合は、その枠の真ん中に収まるように真っ直ぐ押します。
文字の上に重ねてしまうと、名前が読みにくくなってしまい、かえってビジネスマナーとして不適切とされることがあるため注意しましょう。
捺印・押印をするシーン
捺印と押印の使い分けには、明確な要件があるわけではありません。しかし、前述のとおり捺印と押印の法的効力の違いを踏まえると、選択する場面に線引きをしておく必要があります。
捺印は法的効力の強さがあるため、ビジネスシーンであれば主に法人間の契約で使われます。契約書類においては、契約内容に合意の上で印鑑を押す必要があります。このような場面では捺印が適切でしょう。
また、家や車などの資産を購入する際にも捺印が求められます。具体的には、社宅向けの物件や対面での営業に必要な社用車を購入するケースが挙げられます。大きな金額のお金が動く契約でも捺印が用いられやすいといえます。
一方で、押印は以下の場面で使われます。
- 稟議書
- 決裁書
- 休暇申請
- 有給申請
- 勤怠管理表
- タイムカード
- 請求書・見積書
ビジネスシーンでは書面の内容を確認して承認する工程が多く発生するため、業務効率化のために迅速な意思決定が必要です。意思決定の責任の重さ以上にスピードが重視される場面では、押印が適切と考えられます。
脱ハンコ時代の電子契約で捺印・押印はどう置き換わるか
近年のDX推進に伴い、従来の紙とハンコによる契約は電子契約へと急速に移行しています。この電子契約において、従来の捺印・押印の代わりを果たすのが「電子署名」と「タイムスタンプ」です。
電子署名は誰がその書類を作成・同意したか(本人確認)を証明し、タイムスタンプはいつその書類が作成され、それ以降改ざんされていないか(非改ざん証明)を担保します。この2つが組み合わさることで、目に見えるハンコがなくても、紙の契約書と同等以上の安全性が確保されます。
なお、電子署名には以下の2つの方式があります。
捺印の代わりとなる当事者型電子署名
従来の署名捺印(実印レベル)に対応するのが、電子契約における「当事者型電子署名」です。契約する双方が認証機関の発行した電子証明書をあらかじめ取得し、厳格な本人確認を行った上で電子署名を付与する方式のことを指します。
手間やコストはかかりますが、なりすましのリスクが極めて低く、高い法的効力を持ちます。そのため、企業の重要な基本契約や、高額な資産が動く取引など、従来の実印+印鑑証明書が必要だった厳格なシーンの置き換えとして採用されています。
押印の代わりとなる立会人型電子署名
一方、従来の記名押印(認め印レベル)に対応するのが、現在のビジネスで主流となっている「立会人型電子署名」です。これは契約当事者ではなく、電子契約サービスの提供会社(事業者)が第三者(立会人)として署名を付与する方式です。
利用者はメール認証や二段階認証を行うだけで、電子証明書を個別に取得する必要がないため、スピーディーかつ低コストで契約を結ぶことができます。日常的な発注書や検収書、秘密保持契約(NDA)など、手軽さとスピードが重視されるシーンで広く普及しています。
近年は法的な整備も進み、電子署名法に基づく「当事者型」だけでなく、身元確認や二要素認証などの高度な認証技術を組み合わせた「立会人型」についても、裁判例や政府見解によって十分な法的効力が認められています。
脱ハンコで捺印・押印が不要になった書類一覧
主に民間から行政に向けた書類の手続きでも脱ハンコの動きが進められており、捺印・押印が不要になった書類も見られます。
たとえば、2020年に福岡市が先陣を切って、市の独自の判断で見直しできる申請書には、押印を不要とする動きを取り入れました。
脱ハンコの事例
企業間取引でも脱ハンコの一環として電子印鑑が導入されています。
フリー株式会社では電子契約サービス「freeeサイン」を提供しています。
freeeサインでは好みの印影の電子印鑑が作成できる機能が搭載されており、オンライン上の契約でも印鑑を押すことが可能です。
他にも、社内文書でもハンコ・紙の契約書類の必要性が問われ、社内の電子ワークフローシステムで手続きを完結させる企業が増えつつあります。
社内の業務システムの中に、休暇申請や請求書などの機能を追加し、簡単な申請・承認で済ませられるようになっている企業がほとんどです。
- 行政で捺印・押印が不要になった書類:「確定申告書」「給与所得者の扶養控除等申告書」など
- 企業間取引で捺印・押印が不要になった書類:「請求書」「契約書」など
- 社内文書で捺印・押印が不要になった書類:「申請書」「社内決議」など
まとめ
捺印・押印は同じ印鑑でも法的効力の重さや使う場面が異なります。請求書や見積書は押印でも済ませられますが、法人間の重要な契約書になると、意思決定の強さや責任の重さが反映されやすい捺印が使われます。
近年ではさまざまな行政や企業で脱ハンコの動きも進められていますが、捺印・押印をする場面が完全になくなったわけではありません。ビジネスマナーとして正しい捺印・押印の方法を押さえ、書類手続きをきっかけとしたトラブルを起こさないようにしましょう。
よくある質問
契約書の押印と捺印の違いは?
捺印と押印は、どちらも書類に印鑑を押す行為です。捺印は、自筆で名前を書いた上で印鑑を押すこと、押印は、印刷やゴム印などで予め記された名前に印鑑を押すことを指します。
詳細は、記事内「捺印と押印の違い」をご覧ください。
㮈印とは?
捺印は自筆の署名と合わせて印鑑を押すことです。書類に自分の名前を手書きで記入し、その上または横に印鑑を押すことを意味します。
詳細は、記事内「捺印とは」をご覧ください。
ビジネスで押印と捺印の違いは?
ビジネスシーンだと法人間の契約書などの重要な法律文書では、より証拠力の高い捺印が好まれる傾向にあります。一方、押印は社内文書や一般的な取引文書など、比較的重要度の低い文書で広く使用されています。
詳細は、記事内「捺印と押印の法的効力」をご覧ください。
