契約の基礎知識

工事請負契約書に記載すべき事項とは?印紙税についても解説

監修 森川 弘太郎 弁護士:第二東京弁護士会

工事請負契約書に記載すべき事項とは?印紙税についても解説

店舗やオフィスを建てる際には、受注者と発注者のあいだで「工事請負契約」を結びます。工事請負契約は、建設業法によって契約に盛り込むべき内容が定められているため、契約を結ぶ際はその内容を踏襲しているかどうかのチェックが必要です。

本記事では、工事請負契約の概要や契約締結の方法のほか、工事請負契約書に記載すべき事項と印紙税についても解説します。

目次

工事請負契約とは

工事請負契約とは、工事の受注者と発注者のあいだで交わされる契約です。

  • 発注者:建設工事の最初の注文者
  • 受注者:発注者から直接工事を請け負った請負人
工事請負契約で受注者は工事を完成することを約束し、発注者は仕事の完成に対して報酬を支払うことを約束します。一般的に、住宅・店舗・ビル・建物の新築や増改築、改装、外構の整備といった工事を行う際に、締結されることが多いです。

なお、工事請負契約は業務委託の一種である「請負契約」なので、発注者には受注者に対する指揮命令権はなく、仕事の進め方は受注者の裁量に任されます。報酬は仕事の完成に対して支払われるので、工事が完了しない限り、受注者は報酬を受け取ることができません。

契約には工事請負契約書の作成が義務付けられている

いくつかの契約に関しては、主に立場の弱い契約者の保護を目的として、法律で契約書の作成が義務付けられています。工事請負契約は、法律で契約書の作成が義務付けられている契約のひとつです。

工事を発注する側と受注する側では発注側のほうが立場は強く、発注側に有利な契約になりやすいため、工事請負契約書の作成と契約書に記載すべき事項が法律で定められているのです。

建設業法19条1項

建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない

出典:G-GOV「建設業法」

工事請負契約書に記載すべき事項

工事請負契約書を作成することで、契約当事者双方の認識の相違をなくし、のちにトラブルとなるリスクを回避できます。あらかじめどのように解決するのかを決めておけば、万一問題が起きたとしても目的である工事をスムーズに進められます。

建設業法第19条第1項により、工事請負契約書への記載が義務付けられている事項は下記のとおりです。

1. 工事内容

工事名と場所のほか、図面や仕様書を添付するなどして工事内容を記載します。

2. 請負代金の額

請負代金の金額として、端的に◯◯円と記載します。

3. 工事着手の時期及び工事完成の時期

工事の着手や完成の時期などを、下記のように具体的に記載します。

・着手:契約の日から◯日以内、工事許認可の日から◯日以内、◯年×月△日
・完成:着手の日から◯日以内、◯年×月◇日
・引渡:◯年×月□日

4. 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときはその内容

工事を施行しない日や時間帯を定める場合は、その日や時間帯を記載します。

5. 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

請負代金の支払の定めをするときは、その支払の時期や方法などを、下記のように具体的に記載します。原則として特約のない限り、請負代金は工事の目的物の引渡しと同時に支払うことになります(民法第633条)。

・契約成立時:◯割
・部分払い:第1回・◯割、第2回・×割
・完成引渡時:◯割

6. 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

発注者の中止権や解除権について記載します。

一例として「発注者は必要があると認めるときは、書面をもって受注者に通知することで、工事の中止・契約の解除を行うことができる。この工事中止・解除によって受注者に発生する損害は、発注者が賠償する」などとした上で、例外的に、発注者が工事中止・契約解除によって発生した損害を受注者に請求できるケースを指定することが多いです。

中止や解除を請求できるケースとしては、「受注者が正当な理由なく、着手期日を過ぎても工事に着手しない場合」があります。さらに、中止した工事の再開やその際の工期の延長、契約を解除した際の出来形部分の所有権や費用の支払いについても記載します。

7. 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

自然災害など、発注者・受注者どちらの責めにも帰することができない事由で、工事の出来高部分や材料、機器などに損害が生じた場合の危険負担について記載します。

「そのような事態の発生時は、受注者はすみやかに発注者に通知すること。損害が重大なものであり、受注者が善良な管理者の注意をしたと認められるときは、損害額は発注者が負担する/両者の負担額を発注者と受注者が協議して決める/受注者の負担とする」といったように定めます。損害は、発注者の負担とするのが一般的です。

8. 価格等(物価統制令※1946年勅令第百十八号の第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

どのような場合に、工事内容や請負代金を変更できるのかを記載します。

工事内容については、発注者は必要に応じて工事の追加や変更、一時中止ができるとし、その際に請負金額や工期を変更する必要がある場合は、発注者と受注者が協議の上で定めるケースが考えられます。

請負代金については、工事の追加や変更、工期の変更といった予期することのできない事情で代金が明らかに不適当になった場合などは、請負代金の変更を求められるとしておきます。

9. 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

工事の音がうるさいと近隣住民からクレームを受けてしまった場合など、第三者に何らかの損害を与えた場合、第三者とのトラブルが発生した場合の対応について記載します。

「工事の施工によって第三者が損害を受けた場合は、受注者がその解決にあたる。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によるときはこの限りではない」といった定め方が考えられます。

費用についても、「受注者の負担とし、工期も延長しない。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によって生じたときは、発注者の負担とし、受注者は必要がある場合は工期の延長を求められる」といったように定めておきます。

10. 発注者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め

発注者が資材や建設機械を提供する場合は、その内容と方法について記載します。

11. 発注者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期

「受注者は発注者に対し、所定の引渡期日までに、目的物を引き渡すものとする」というような、引き渡しについて定めます。

発注者がいつまでに完成を確認し、どのような方法で伝えるのか、目的物の所有権はいつ移転するのかについても定めておきます。

12. 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

請求書の発行と支払いの時期について定めます。途中で部分払いや中間払いを行う場合は、その時期と方法についても定めておきましょう。

13. 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときはその内容

目的物に瑕疵があった場合の責任について定めます。受注者が責任を負う期間や発注者が受注者に補修を求めることができる期間や条件、損害賠償請求などについて記載します。

14. 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

期日までに工事が完了しない場合や建物を引き渡したのに代金が支払われない場合に備えて、各当事者に債務の履行遅滞や債務不履行があった場合の遅延利息や、目的物の管理のために要した費用の負担について定めておきます。

15. 契約に関する紛争の解決方法

紛争が起きた場合の解決方法について記載する項目です。調停人を指定する場合は、契約書に記載しておきます。

調停人への解決を依頼する、または建設業法による建設工事紛争審査会の斡旋とするかどうかといった定め方があります。

16. その他国土交通省令で定める事項

その他、工事請負契約書に記載すべき事項があれば記載します。

工事請負契約の3つの締結方法

工事請負契約を結ぶ方法は、次の3つのパターンがあります。

<工事請負契約の締結方法>

  • 工事請負契約書を交わす方法
  • 基本契約書を交わし、注文書・請書(発注を受ける意思を証明するための文書)を交換する方法
  • 注文書・請書の交換のみによる方法
建設業法19条のいう「書面」とは、「契約書」との名称である必要はないため、注文書・請書の交換でも法律違反とはなりません。

ただし、法律に定められた内容が記載されていない場合や、記名・押印がなされていない場合、注文書の交付のみで請書の交付がない場合などは、建設業法違反になります。

なお、一定の基準を満たした場合は、契約書を書面化せず電子契約方式で作成することも認められています。

工事請負契約書に印紙は必要?

工事請負契約書は印紙税法が定める課税文書の対象となっている文書のため、契約金額に見合った収入印紙を貼付する必要があります。

租税特別措置法の一部改正により、2014年4月1日から2024年3月31日までに作成される請負に関する契約書で、契約金額が100万円を超えるものについては、軽減措置が適用されています。

工事請負契約書の印紙税の軽減措置

工事請負契約書の印紙税の軽減措置とは、契約書に貼付する収入印紙額を期間限定で軽減するものです。

対象となるのは契約金額100万円超の工事請負契約書で、工事請負契約を締結した当初作成された契約書のほか、工事金額の変更や工事請負内容の追加などの際に作成される変更契約書や補充契約書なども含まれます。

貼付する収入印紙の額は下記のとおりです。契約金額が1万円以下のものは元々非課税、契約金額が100万円以下のものは、軽減税率は適用されません。

契約金額本則税率軽減税率
10,000円以下非課税非課税
10,000円超、1,000,000円以下200円なし
1,000,000円超、2,000,000円以下400円200円
2,000,000万円超、3,000,000以下1,000円500円
3,000,000円超、5,000,000円以下2,000円1,000円
5,000,000円超、10,000,000円以下10,000円5,000円
10,000,000円超、50,000,000円以下20,000円10,000円
50,000,000円超、1億円以下60,000円30,000円
1億円超、5億円以下100,000円60,000円
5億円超、10億円以下200,000円160,000円
10億円超、50億円以下400,000円320,000円
50億円超600,000円480,000円
出典:国税庁「建設工事請負契約書の印紙税の軽減措置」

なお、電子契約によって建設工事請負契約を交わした場合は、印紙税は不要です。印紙税の対象となっているのは、印紙税法に規定される20種類の紙の文書であり、電子データは対象ではないためです。

出典:国税庁「印紙税の手引」

まとめ

工事請負契約は、仕事の完成を目的として交わす請負契約の一種です。受注者は期日までに完成物を引き渡す義務、発注者は完成物の納品と引き換えに代金を支払う義務をそれぞれ負います。

立場の弱い受注業者を守る観点から、建設工事請負契約を交わすには契約書の作成が必要とされており、建設業法第19条第1項により、契約書に記載すべき内容も定められています。

契約書を作成する際は、自社に不利な内容になっていないかはもちろん、必要とされる事項が網羅されているかどうかも注意しましょう。

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監修 森川 弘太郎 弁護士(第二東京弁護士会)

東京弁護士法人  代表弁護士。
IT法務、エンターテインメント法務、フランチャイズに特化した企業法務専門の法律事務所にて勤務した後、東京都内に3拠点の法律事務所(新宿東口法律事務所、立川法律事務所、八王子法律事務所)を構える東京弁護士法人を設立。東京弁護士法人は弱点のない総合型法律事務所を目指し、各弁護士が個人向け業務・法人向け業務、民事事件・刑事事件問わず横断的に案件を扱いながら総合力を高めつつ、弁護士によって異なる得意分野を持つことで専門性もあわせ持つ法律事務所となっている。

監修者 森川弘太郎弁護士

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