契約の基礎知識

労働者派遣契約とは?業務委託契約との違いと契約書作成時の注意点について解説

監修 関口 勇太 弁護士:第二東京弁護士会

労働者派遣契約とは?業務委託契約との違いと契約書作成時の注意点について解説

企業が社外の人に業務を任せるには、人材派遣会社から派遣社員を受け入れる方法と業務委託を行う方法があります。人材を派遣してもらう場合は労働者派遣契約を、業務委託を行う場合は業務委託契約の締結をするなど、正しい手続きを行っておかないと、後々トラブルに発展したり法律違反となったりする場合があるので注意が必要です。

本記事では、労働者派遣契約とはどのようなものか、また業務委託契約との違いや労働者派遣契約書に記載すべき事項のほか、契約を交わす際の注意点について解説します。

目次

雇用契約とは

労働者派遣契約とは、人材派遣会社と人材を受け入れる事業者が結ぶもので、「派遣会社が雇用する労働者を、派遣先の企業で労働させる」という契約です。

派遣先企業は、労働者に対する指揮命令権をもちますが、労働者と雇用契約を結んでいるのは派遣会社であるため、労働者に給与を支払うのは派遣会社です。

労働者派遣は労働者派遣法によって、労働者派遣が可能な業種や派遣期間、正社員への転換に関するルールなどが定められており、派遣会社と派遣先企業はこの法律を守る必要があります。

派遣期間のルール

労働者派遣法により、派遣期間には下記の2つの制限があります。

事業所単位の派遣期間制限

事業所単位の派遣期間制限とは、同一の事業所に労働者を派遣できる期間を最大3年に定めたものです。

事業所とは、「本社・支社・営業所・店舗など、場所的に他の事業所やその他の場所と独立していること」「人事、指導管理等経営の単位としてある程度の独立性を有すること」「一定期間継続し、施設としての持続性を有すること」といった条件に該当するものをいいます。

事業所単位の派遣期間制限については、期間制限日の1ヶ月前まで(意見聴取期間)に、派遣先企業の従業員過半数労働組合、または従業員の過半数を代表する者に意見聴取を適正に行うことで、最大3年間延長することが可能です。

個人単位の派遣期間制限

個人単位の派遣期間制限は、派遣先の同一の組織単位に同じ労働者を派遣できるのは最大3年と定めたものです。

組織単位とは、業務としての類似性や関連性、組織長の業務配分や労務管理上の指揮監督権限を考慮して実質的に判断されるもので、いわゆる「課」や「グループ」などが異なるかどうかがひとつの目安となります。

たとえば、総務部で3年間働いていた派遣社員Aさんに、4年目も続けて働いてもらうことはできませんが、同じ派遣会社のBさんに総務部で勤務してもらうことは可能です。

派遣会社と労働者の契約タイプによる違い

労働者派遣は、労働者と派遣会社の雇用契約期間の違いにより、大きくは「登録型派遣」と「常用型派遣」の2つに分けられます。

常用型派遣

登録型派遣とは、労働者と派遣会社の雇用契約期間と派遣期間をそろえるものです。派遣社員として働く場合はまず派遣会社に登録します。その後、派遣先企業が決まった時点で派遣会社と有期雇用契約を結びます。派遣期間が終了すると雇用契約も終了となります。

登録型派遣

常用型派遣とは、労働者と派遣会社が無期限の雇用契約を結んでいるものです。派遣期間が終了しても雇用契約終了とはならず、派遣会社は労働者を新たな企業に派遣できます。

業務委託契約との違い

労働者派遣と業務委託は、社外の人に業務を任せられるという点では同じですが、その性質は異なるので注意が必要です。

上述したように労働者派遣では、派遣先企業には労働者に対する指揮命令権があるので、勤務時間や業務のやり方を指定したり、社内ルールの遵守を求めたりすることができます。労働者派遣を利用する目的は、不足している人材を派遣社員によって確保することにあります。

一方の業務委託は、業務の進め方は受託者の裁量に任されており、業務を委託した企業に指揮命令権はありません。

なお、業務委託の契約は、「請負契約」と「委任契約・準委任契約」の2つの契約形態があります。請負契約は、納期までに特定の仕事の完成を求める場合に結ぶもので、法律行為を委託する委任契約と事務行為の実行を委託する準委任契約は、いずれも業務の遂行を求める場合に結ぶものです。

たとえば、アプリの開発は「アプリの完成」を目的とするため請負契約を、アプリの保守の場合は、「操作サポートやアドバイスなど情報の提供」が目的なので、準委任契約を結ぶことになります。

契約形態による違い

派遣社員業務委託正社員
アルバイト
契約形態労働者派遣契約業務委託契約雇用契約
雇用主派遣会社なし就業先企業
指揮命令◯(派遣先)×
提供するもの労働力成果物
または
業務遂行
労働力
賃金給与報酬給与

労働者派遣契約で取り交わす契約は2種類

企業が派遣労働者を受け入れる場合、労働者派遣事業の許可を得た派遣会社と派遣契約を結ぶことになります。その際は、基本契約と個別契約の2種類の契約を交わすのが一般的です。

基本契約

基本契約とは、派遣先企業と派遣会社のあいだで締結される派遣契約について、共通して適用される項目をまとめた契約のことです。労働者派遣法では、締結や契約書の保管は義務付けられていません。

個別契約

個別契約とは、個々の労働者を派遣する際の個別条件をまとめた契約のことです。労働者派遣法により、契約の締結と契約書の保管が義務付けられています。労働者派遣法第26条に定められた内容を盛り込む必要があります。

基本契約が必要とされるのは、同じ派遣会社から複数の派遣労働者を継続的に受け入れるのに役立つためです。基本契約の締結は労働者派遣法上の義務ではありませんが、これを定めておくことで、個別契約の内容がシンプルで済み、スムーズに派遣労働者を受け入れられます。

基本契約と個別契約に記載すべき事項については、次の章で詳しく解説します。

基本契約で記載すべき事項

基本契約は、前述のとおり締結や契約書の保管が義務付けられているものではありませんが、記載すべき事項は、派遣先企業と派遣会社のあいだで契約の基本内容に関して認識の相違がないようすり合わせしておきましょう。具体的な記載事項について紹介します。

1. 派遣料金

派遣元が派遣先からもらう料金である派遣料金は、労働者派遣法第26条が定める契約書に盛り込むべき事項には入っていません。

また、派遣契約が中途解約された場合における「派遣労働者の新たな就業機会の確保」や「派遣労働者に対する休業手当の支給」については法律で定められています。しかし、派遣先都合による休業が生じた場合の損害金の支払いについては、法律で定められていません。

新型コロナウイルス感染症などの影響で休業が起きた場合などにトラブルに発展することも考えられるため、基本契約の段階で定めておきましょう。

2. 相互の義務

派遣会社と派遣先企業両者の認識が一致していることを確認する上でも、双方の義務を定めておくのがおすすめです。

具体的には以下のものが挙げられます。

  • ・期間制限
  • ・二重派遣の禁止
  • ・日雇い派遣の原則禁止
  • ・残業制限
  • ・離職後1年以内の労働者の派遣の禁止
  • ・守秘義務 など

3. 派遣労働者の行為により損害を被ったときの損害賠償

派遣労働者は派遣先企業の指揮・命令の下で業務を行うので、派遣労働者の行為により、派遣先企業が損害を被っても、派遣先企業による派遣会社に対する損害賠償請求は認められない可能性があります。

基本契約書に「派遣労働者が派遣先に損害を与えた場合、派遣元はその損害を賠償しなければならない」等の文言を入れる場合でも、「故意または重大な過失により損害を与えた場合は」など、限定条件をつけることで派遣会社の責任の範囲を一定程度制限することが可能です。

4. 禁止事項

反社会的勢力の排除条項を入れ、双方が反社会的勢力ではないことを表明・確約します。禁止事項に基づく解除は無催告で行えること、解除側が損害賠償義務を負わないことなども記載しておきます。

5. 知的所有権の帰属

プログラムの開発や書籍の制作、記事の執筆など、知的財産権や著作権が発生する業務を任せたい場合は、知的所有権の帰属をあらかじめ決めておくことでトラブルを回避できます。

6. 契約解除事項

個別契約の更新を行わないときはいつまでに伝えるのかなど、更新を行わない際のルールを決めておきます。

個別契約で記載すべき事項

個別契約は、労働者派遣法第26条の項目をすべて盛り込む必要があります。ここでは、各都道府県の労働局のウェブサイトで公開されている個別契約の記載例に基づき、具体的な記載内容を紹介します。

1. 業務内容

派遣労働者が従事する内容を記載します。「事務」ではなく「パソコンによる営業資料の作成」など、具体的に記載しましょう。

2. 業務に伴う責任の程度

派遣労働者が役職に就く場合はその役職と権限、部下の数を、役職なしの場合はその旨と付与される権限がないことを記載します。

3. 就業場所

派遣先事業所の名称、所属部署、電話番号を記載します。

4. 組織単位

「◯◯部△△課」など、具体的に所属する組織名などを記載します。

5. 指揮命令者

指揮命令者の所属部署名、役職、氏名を記載します。

6. 派遣期間

派遣期間を記載します。

7. 就業日

月曜から金曜など、基本となる就業日を記載します。シフト制などで曜日が固定されない場合は、「月曜~日曜、4勤2休とする。休日については派遣先カレンダーによる」などと具体的に記載します。

8. 就業時間

就業する具体的な時間帯について、「9:00~18:00」などと記載します。

9. 休憩時間

休憩時間の開始時刻と終了時刻を記載します。

10. 安全および衛生に関する事項

「派遣先は、労働者派遣法第44条から第47条の4までの規定により課された責任を負う」と明記します。

11. 派遣労働者からの苦情の申し出があった場合における、苦情処理に関する事項

派遣先企業、派遣会社それぞれについて、苦情申し出の窓口となる担当者名と部署、電話番号を記載し、苦情処理の方法も明記します。

12. 労働者派遣契約の解除にあたって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るための措置に関する事項

派遣契約の解除を行う際のルールとして、派遣元の合意を得ること、相当の猶予期間をもって申し入れることを記載します。また、派遣労働者の責めに帰すべき事由によらない解除を行う場合に、派遣労働者には新しい就業先を確保すること、休業手当や解雇予告手当に対する損害賠償、解除の理由を派遣会社に明示することも盛り込みます。

13. 派遣元責任者

派遣元責任者は、派遣元事業主に選任された派遣労働者の適切な雇用管理や保護を担う人のことで、労働者派遣法で事務所ごとに配置が義務付けられています。派遣元責任者の所属部署と役職、氏名、電話番号を記載します。

14. 派遣先責任者

派遣先責任者は、派遣先における派遣労働者の適正な就業を確保するために労働者派遣法第41条に基づき専任された人のことです。派遣先責任者の所属部署と役職、氏名、電話番号を記載します。

15. 就業日外労働ができるかどうか

休日出勤がある場合は、1ヶ月の休日労働日数を記載します。派遣会社で定めた36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)の範囲内になります。

16. 時間外労働時間

残業がある場合は、1日、1ヶ月、年間の残業時間を記載します。36協定の範囲内が条件です。

17. 派遣人員数

派遣会社から派遣する労働者の人数を記載します。

18. 派遣労働者の福祉の増進のための便宜の供与について

労働者派遣法上、派遣労働者にも利用の機会を与える義務がある給食施設、休憩室、更衣室以外の設備について記載します。

19. 派遣先が派遣労働者を雇用する場合の紛争防止措置

派遣先企業が、派遣契約終了後に当該派遣労働者を雇用する場合は、事前に派遣会社に連絡することなどを記載します。

20. 派遣労働者を無期雇用派遣労働者または60歳以上の者に限定するか否かの別

派遣労働者を無期雇用派遣労働者または60歳以上の者に限定する場合は「限定する」、限定しない場合は「限定しない」旨を記載します。

21. 労使協定方式の対象となる派遣労働者に限るか否かの別

派遣労働者の待遇を確保するための待遇決定方式には、均等・均衡方式と労使協定方式があります。このうち、労使協定方式の対象となる派遣労働者であるかどうかを記載します。

22. 紹介予定派遣に関する事項

紹介予定派遣である場合は、詳細を記載します。

出典:

e-Gov法令検索「労働者派遣契約」

労働者派遣契約に収入印紙は必要?

労働者派遣契約書は「委任に関する契約書」に該当し、印紙税法上は不課税とされているので、契約書に収入印紙を貼付する必要はありません。

労働者派遣基本契約書および労働者派遣契約書(個別契約)、ともに印紙の貼付は不要です。

労働者派遣契約書は電子データでの交付も可能

労働派遣契約は、労働者派遣法の施行規則によって契約書の作成が義務付けられています。

従来は紙の契約書の作成が必要でしたが、2020年に労働者派遣法の施行規則と関連法令が改正され、2021年に施行されたことで、電磁的記録(電子データ)でも作成できるようになりました。

これにより派遣先企業、派遣会社双方の契約事務や契約書管理の負担が減り、以前に比べて業務効率化が進んでいます。

まとめ

労働者派遣の利用は、企業にとって人手不足を解消する有力な方法のひとつです。労働者派遣契約は派遣先企業に労働者に対する指揮命令権があることで、勤務時間や業務のやり方を指定したり、社内ルールの遵守を求めたりすることができます。

これに対し業務委託契約は、依頼者と受託者は基本的に対等であり、仕事の進め方を指示することはできません。不足している人材確保が目的であれば、派遣会社と労働者派遣契約を結び、労働者の派遣を受けるのがおすすめです。

労働者派遣契約には、基本契約と個別契約があり、個別契約の方は労働者派遣法26条に規定の事項が盛り込まれている必要があります。基本契約には内容の規定はありませんが、トラブルに発展する可能性のある事項については、事前にしっかり定めておくことが重要です。

また、労働者派遣契約は電子化も可能です。業務効率化を目指す企業は、電子契約サービスの利用もご検討ください。

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監修 関口 勇太 弁護士(第二東京弁護士会)

立川法律事務所(東京弁護士法人本部) 事業部長 弁護士
大学卒業後に大手テニススクールにてテニスコーチを務めながらテニス選手として活動し、その後、弁護士を志す。現在は、地元である東京都立川市に拠点を構える立川法律事務所(東京弁護士法人本部)にて、事業部長弁護士として、個人向け業務から法人向け業務まで、民事事件から刑事事件まで幅広い業務を担いながら、さまざまな分野・業種の企業法務を多く取り扱っている。

監修者 関口勇太弁護士

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