契約の基礎知識

秘密保持契約書(NDA)とは?締結するメリットや作成方法について解説

最終更新日:2022/05/17

監修 関口 勇太 弁護士(第二東京弁護士会)

秘密保持契約書(NDA)とは?締結するメリットや作成方法について解説

ビジネスにおいて、社外の業務委託やフリーランスに仕事を依頼したり共同研究をしたりする中で、自社の持つ秘密情報の開示が必要になるケースがあります。その際、自社の利益を守るために欠かせないのが秘密保持契約(NDA)の締結です。

本記事では、秘密保持契約(NDA)の締結をする目的やメリットについて解説します。また、秘密保持契約を締結するタイミングや契約書の作成方法のほか、紙の契約書を作成する場合と電子契約の違いについても紹介します。

目次

秘密保持契約(NDA)とは?

秘密保持契約とは、商談や取引で提供された秘密情報を第三者に開示しないよう、秘密情報の取り扱いについて決める契約です。英語では「Non-disclosure Agreement」と表記されるため、その頭文字を取ってNDAとも呼ばれます。

秘密保持契約は、秘密情報の開示を受けた者が、開示された秘密情報を契約締結時に予定している用途以外の目的で使用したり、第三者に開示・漏洩したりするのを禁じるものです。

片方だけが秘密情報を開示する場合は、情報の受け取り手だけに秘密保持義務を課す「片務契約」、双方とも秘密情報を開示する場合は、双方に義務を課す「双務契約」となります。

秘密保持契約を結ぶ目的

ビジネスを進めるうえで自社の持つ秘密情報を第三者に開示しなければならないケースがあります。

情報を開示する側としては、秘密情報の流出は自社の競争力低下につながるので、最低限度の範囲でしか利用してほしくないと考え、情報の開示を受ける側は、得られた情報はできる限り自分のビジネスにも活用したいと考えるものです。

秘密保持契約は、このような双方の立場の違いを調整し、スムーズにビジネスを進めるために締結する契約です。開示する情報のうちどの部分が秘密情報にあたり、どのように管理すべきなのかを取り決めることで、双方にとって合理的な情報管理が実現できます。

秘密保持契約の締結が必要になるケース

上述したように秘密保持契約の締結が必要になるのは、自社にとって重要な秘密情報を第三者に開示する場合です。具体的には下記のようなケースが挙げられます。

  • 新規取引開始前に、検討材料として自社の技術情報などを開示するとき
  • 業務委託先に技術情報や顧客情報を開示するとき
  • 共同研究のために、自社の技術情報を開示するとき
  • 業務提携や資本提携、M&Aの相手方に、自社の経営情報や技術情報を開示するとき
  • 従業員を雇用するとき

秘密保持契約を締結するタイミング

秘密保持契約を締結する前に情報を開示してしまうと、目的外のことに利用されたり、情報漏洩が起こったりするリスクが高まります。商談開始後、秘密情報を開示する前に締結するのがよいでしょう。

秘密保持契約を締結するメリット

情報開示者が秘密保持契約を締結する代表的なメリットについてみていきましょう。

秘密情報の流出を防ぐ効果がある

目的外利用や、第三者への開示・漏洩を禁止する契約を結んでおくことで、秘密情報の外部への不要な流出を防ぐ効果があります。

契約違反があった場合、損害賠償を請求できる

秘密保持契約を交わした相手が契約で取り決めた情報管理を行わず、情報の流出などが起こった場合は、債務不履行による損害賠償を請求できます。

また、契約書に契約違反やそのおそれがある場合、行為の差止請求ができることを規定しておけば、情報漏洩が生じた場合または情報漏洩が生ずるおそれがある場合、契約に基づき、行為の差止請求をすることも可能です。

不正競争防止法によって守られない企業秘密も保護できる

秘密保持契約では、不正競争防止法によって守られない企業秘密も保護できます。不正競争防止法とは、営業秘密の侵害など不正な競争を規制する法律で、法律上の要件を満たす一部の営業秘密を保護するルールなどを定めています。

この法律により、契約する相手に不正競争防止法上の営業秘密を侵害された場合、または侵害されるおそれがある場合は、同法に基づいて損害賠償請求や行為の差止請求ができます。

秘密保持契約と法律の関係をケース別に解説

秘密保持契約に盛り込む内容を決める際は、営業秘密や個人情報の保護に関する法律との関係も押さえておきたいところです。下記のようなケースには、秘密保持契約の締結が必要になります。

万が一のトラブルに備えておく場合

「営業秘密の侵害を受けた」といえるには、対象となる秘密情報が「不正競争防止法上の営業秘密」として管理されていることが求められます。具体的には、「秘密管理性」「非公知性」「有用性」の3つの要件を満たさなくてはなりません。

ただ、不正競争防止法上の営業秘密にあたらない情報でも、秘密保持契約を締結することで、相手方に企業秘密を侵害された場合、または侵害されるおそれがある場合は、行為の差止請求ができます。

個人情報が含まれている場合

個人情報保護法により、個人情報取扱業者は、下記の2つの義務が課されます。

  • 取り扱う個人データの安全管理のために、必要かつ適切な措置を講ずべき義務
  • 従業員や委託先に対して必要かつ適切な監督をなすべき義務
開示する秘密情報に顧客の個人情報が含まれている場合、秘密保持契約を締結しなければ、これらの義務違反になる可能性があるのです。

特許を取得したい場合

特許法には、「公然知られた発明(公知の発明)」は特許を取得できないとのルールがあります。

ある商品や技術について特許の取得を考えている場合、秘密保持契約を締結せずに相手方に情報を開示してしまうと、当該商品や技術は公知の発明とされ、特許が取得できなくなってしまう可能性もあるのです。

秘密保持契約に必要な条項

秘密保持契約書の作成は情報を開示する側が原案を提示し、相手側へ確認・修正を依頼する手順をとるのが一般的です。

秘密保持契約書を作成する際、必ず記載しておきたい主な項目は次のとおりです。

  • 表題
  • 当事者の表示(前文)
  • 本文
    • ・秘密情報の範囲
    • ・秘密保持義務
    • ・コピーや複製の制限
    • ・有効期限と存続条項
    • ・秘密情報の返還・破棄
    • ・損賠賠償・差止
    • ・誠実協議情報
    • ・合意管轄
    • ・作成年月日と記名(署名)・押印
それぞれの項目について、詳しくみていきましょう。

表題

冒頭には、「秘密保持契約書」と表題を記載します。

当事者の表示(前文)

本文に入る前に、前文で誰と誰のあいだの契約であるかを明示します。

例文:

「株式会社◯◯(以下「甲」という。)と株式会社××(以下「乙」という。)とは、△△△について検討するにあたり(以下「本取引」という。)、甲又およびは乙がそれぞれ相手方に開示する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する」

本文

具体的な契約内容を、第1条、第2条…と箇条書きにしていきます。秘密情報の範囲、秘密保持義務、コピーや複製の制限、有効期限と存続条項、不履行時の定め、契約解除事由、合意管轄などについて、ひとつずつ記載します。

秘密情報の範囲

開示する情報のうち、どこからどこまでが秘密情報にあたるのかを明記します。一般的に秘密情報とは、「甲または乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又または営業上の情報、本契約の存在および内容その他一切の情報」としたうえで、例外についても定めます。

例外として秘密情報に該当しないとされるのは、「開示を受けた時点で、受領者がすでに了知していた情報」や「開示を受けた時点で、すでに公知だった情報」「開示された後に、受領者の責めに帰すべき事由によらずに公知となった情報」「受領者が、正当な権限を持つ第三者から秘密保持義務を負うことなく取得した情報」「秘密情報とは無関係に、受領者が自身で開発した情報」といったものです。

秘密保持義務

秘密情報について、目的外使用の禁止と第三者への開示の禁止、そしてどの範囲の人物であれば開示していいのかを定めます。秘密保持契約書の根幹となる規定です。

コピーや複製の制限

秘密情報のコピーや複製物の作成が想定される場合は、それらの取り扱いについて定めておきます。「秘密情報などを複製する場合には、本取引の目的の範囲内に限って行うものとし、その複製物は、原本と同等の保管・管理をする」とするのが一般的です。

有効期限と存続条項

秘密保持義務をいつまで負うのかを定めます。基本契約と同期間とし、自動更新とするのが一般的です。基本契約の内容によっては、「基本契約が終了してから◯年間は存続する」といった定め方をする場合もあります。

秘密情報の返還・破棄

契約が終了した、情報開示をした側から一定の要請があったなど、一定の事由が発生した場合に、情報を受け取った側に秘密情報の返還・破棄義務を課す条項を定めます。どう廃棄するのか、廃棄の報告をするのかなどについて定めます。

損賠賠償・差止め

密保持契約の条項に違反した場合に発生するペナルティを、根拠づける条項を定めます。契約違反が起きた場合は民法に則り、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能です。情報の開示者は、どのような場合に差止請求が可能なのかを明記しておくのがおすすめです。

誠実協議条項

誠実協議条項とは、当事者間に当該契約に関する疑義が生じた場合、まずはお互いに話し合って、円満に解決するようにしましょうという心構えを記したものです。具体的には「本契約に定めのない事項についてまたは本契約に疑義が生じた場合は、協議の上解決する」と表記します。

合意管轄

裁判所の管轄を記載します。「本契約に関する紛争については◯◯地方(簡易)裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする」と表記します。

作成年月日と記名(署名)押印

契約を締結した日を記載します。契約当事者双方の氏名、所在地を記載のうえ、押印します。

秘密保持契約書の送付・締結方法

秘密保持契約書を紙で作成する場合は、原本を2通作成し、署名・押印して相手方に郵送します。そして、相手方で署名・押印したうえで、1通を返送してもらうことになります。

2通の契約書がどちらも原本であることを示すため、割印も必要です。契約書が2ページ以上にわたる場合は、ページのあいだに契印も必要となります。

【関連記事】
契約書は信書に該当します!正しい郵送方法や注意点をまとめました

秘密保持契約は電子契約が可能

以前は紙の契約書を交わすのが一般的でしたが、最近は電子契約も増えています。電子契約とは、電子サインを施した電子ファイルをWeb経由で交換し、電子データとして企業が保有するサーバーやクラウドストレージに保存しておく契約方式のことです。

署名・押印の代わりに、電子サインとタイムスタンプの2つの技術で本人性と文書の非改ざん性を担保し、紙の契約書と同等に扱われます。

近年、電子契約方式での契約が増えているのは、紙の契約書を作成する場合に比べて、文書のチェックや修正が容易であること、また契約締結までのスピードが早いといったメリットがあるからです。具体的には、下記のようなメリットがあります。

契約書の作成から締結までWeb上で完結できる

契約書の作成から署名、相手方への送付、契約締結まで、すべて簡単な操作で、Web上で完結できます。

相手とのやりとりが簡単

電子契約方式では、契約書のやりとりはインターネット上で行われ、契約書完成時は、ファイルをアップロードします。紙のように印刷、製本、宛名書き、封入、投函といった作業が必要なく、やりとりの手間や時間を大幅に省くことが可能です。

スピーディに締結まで行える

郵送でのやりとりが必要ないため、その分、契約締結までにかかる時間が短縮されます。

保管管理が簡単

電子データの形でサーバーやクラウド上にまとめて保管できるので、ファイリングしたり、保管スペースを用意したりする必要がありません。また、検索機能が活用できるため、すぐに必要な契約書を探せるというメリットもあります。

【関連記事】
電子契約とは?企業に導入するメリットと注意点、導入事例を紹介

まとめ

秘密保持契約(NDA)は、ビジネス上の秘密情報の目的外利用や漏洩を防止し、自社の利益を守るために非常に重要な契約です。

秘密保持契約書は、Web上でも多くの雛形が提供されていますが、テンプレートをそのまま使ったのでは自社にそぐわない内容となっていたり、必要な条項が入っていなかったりする場合もあります。テンプレートを利用すること自体は問題ありませんが、自社の状況に合わせたカスタマイズは必要ですので注意してください。

なお、秘密保持契約は、秘密情報を開示する前に締結すること、そして必要な条項を過不足なく明記することが重要です。電子契約を行うことでスムーズな契約締結を実現することも可能ですので、ご利用を検討してみてはいかがでしょうか。

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監修 関口 勇太 弁護士(第二東京弁護士会)

立川法律事務所(東京弁護士法人本部)事業部長弁護士 。
大学卒業後に大手テニススクールにてテニスコーチを務めながらテニス選手として活動し、その後、弁護士を志す。現在は、地元である東京都立川市に拠点を構える立川法律事務所(東京弁護士法人本部)にて、事業部長弁護士として、個人向け業務から法人向け業務まで、民事事件から刑事事件まで幅広い業務を担いながら、さまざまな分野・業種の企業法務を多く取り扱っている。

監修者 関口勇太弁護士

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