公開日:2023/07/31
監修 松浦 絢子 弁護士
消費者契約法とは、わかりやすくいうと事業者と消費者との契約を結ぶ際に消費者を守る法律です。事業者に比べて不利な立場にある消費者を保護します。
2023年6月1日から改正法が施行され、改めて注目が集まっています。消費者契約法とはどのような内容で、事業者と消費者の契約にどんな影響を与えるのか、また今回の法改正で何が変わるかなど、事業者として気になる点は多いでしょう。
本記事では、消費者契約法の概要、事業者として理解すべきポイント、2023年6月からの改正内容を解説します。
目次
消費者契約法とは? わかりやすく解説
消費者契約法は、消費者契約のトラブル防止、不当な契約からの救済や保護を目的として、2001年4月に施行された法律です。
商品やサービスを売り買いするとき、消費者は事業者と契約を交わします。しかし、対等であるはずの契約でも、情報量や交渉力には違いがあり、消費者が不利な立場に追い込まれる場合があります。
消費者契約法の対象は、消費者が事業者と締結するすべての契約です。事業者の不適切な行為や不当な勧誘などで契約した場合、消費者はその契約を取り消せます。
また、消費者の利益を不当に害する条項のある契約は、全部または一部が無効になります。
消費者契約法の改正の流れ
2001年に制定された消費者契約法は比較的新しい法律ですが、時代の変化にあわせて数回の改正がすでに実施されています。
2006年の法改正では、消費者団体訴訟制度(団体訴権)が導入されました。団体訴権とは国の認定する団体が消費者に代わって事業者に訴訟を起こせる制度で、2007年6月から運用が始まっています。
団体訴権の対象は、2008年には景品表示法と特定商取引法へ、2013年には食品表示法へと拡充されました。
2016年、2018年には、取り消しうる不当な勧誘行為の追加、無効となる不当な契約条項の追加などの改正が行われました。2022年の法改正もこの流れを継ぐものとなっています。
消費者契約法の「契約の取り消し」と「クーリング・オフ」の違い
消費者契約法では、事業者の不適切な行為により結ばれた契約は、消費者が取り消せるものとしています。一方、クーリング・オフは商品やサービスの購入後に一定期間内であれば、契約を解除できる権利を指します。
クーリング・オフ | 消費者契約法 | |
内容 | 契約後、一定の期間内に無条件で契約を解除できる | 消費者の権利保護、不公平な取引条件の防止など |
適用販売形態 | 特定の契約形態(訪問販売や電話販売など)に限られる | 全ての消費者契約に適用される |
適用できる契約・商品など | 訪問販売や電話勧誘販売で指定されている商品 エステ・学習塾・保養施設の利権など | 消費者と事業者との契約全て(労働契約を除く)及び当該契約に関わる全ての商品 |
取消権の行使期間 | 通常は契約書面を受け取ってから 8日以内(内職商法・マルチ商法は20日以内) | 誤認・困惑の状態が終了してから6ヶ月以内(ただし契約後5年以内) |
適用方法 | 原則として書面により通知 | できるだけ書面が望ましい |
クーリング・オフとは、特定取引において「特定商取引法」という別の法律で定められた制度です。一定期間内であれば、契約の申し込み撤回や解除を無条件で行えます。
特定商取引法とは
特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。具体的には、訪問販売や通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。 出典:特定商取引法ガイド「特定商取引法とは」消費者契約法を理解するポイント
消費者契約法は、消費者の利益を保護するためにさまざまなルールを定めています。以下では、消費者契約法の内容を「取り消し」と「無効」のポイントにしぼって解説します。
不当な勧誘による契約は取り消せる
消費者契約法では、事業者の不当な勧誘による契約へは、あとから消費者が取り消しできる以下のような「取消権」が認められています。
消費者の取消権
1 重要事項を事実と異なる内容を告げた(不実告知)2 不確かな事項を「確実」と説明した(断定的判断の提供)
3 消費者に不利な情報を故意または重大な過失により告げなかった(不利益事実の不告知)
4 消費者は退去をお願いしているのに強引に居座った(不退去)
5 消費者は帰りたいと伝えているのに強引に引き留めた(退去妨害)
6 社会経験の乏しさを利用して就職セミナーなどで消費者の不安をあおった(不安をあおる告知)
7 社会経験の乏しさを利用してデート商法などで消費者の好意を利用した(好意の感情の不当な利用)
8 高齢による判断力低下を利用して消費者の不安をあおった(判断力の低下の不当な利用)
9 特別な能力によって消費者の不安をあおった(霊感等による知見を用いた告知)
10 契約前なのに消費者から強引に損失補償を請求した(契約締結前に債務の内容を実施等)
11 消費者にとって分量や回数などが多すぎる(過量契約)
取り消しには一定の期限がある
消費者契約法の定める契約の取り消し(消費者の取消権)には、一定の行使期限が設けられています。
契約の取り消しの行使期限
● 追認できる時点から1年(霊感などによる知見を用いた場合は3年間)● 契約の締結時から5年(霊感などによる知見を用いた場合は10年間)
「追認できる時点」とは、消費者が契約内容の誤認や勧誘による困惑を脱して、取り消しの原因だった状態が消滅したときを意味します。
2023年1月の法改正により、「霊感などによる知見を用いた告知」の場合、追認可能な期間が3年、契約締結後の期間が10年間に延長されました。
契約書に記載があっても無効になる条項がある
消費者の利益を不当に害する契約条項の無効に関して、消費者契約法は次のような条項を「無効」と定めています。
契約書に記載があっても無効になる条項
1 事業者が責任の有無を自ら決める、責任があっても損害賠償責任はないとする条項2 消費者に一切のキャンセルや返品・交換を認めないとする条項
3 消費者が成年後見制度を利用すると契約を解除する条項
4 消費者が負う損害金やキャンセル料が高すぎる条項
5 消費者の権利を制限するなどして一方的に不利にする条項
2023年6月1日からの消費者契約法改正の内容
2023年6月1日から、改正消費者契約法が施行されています(2022年臨時国会の法改正は2023年1月5日から施行済み)。
この改正にあたり2019年から2年近くの時間をかけて議論されたのは、オンラインビジネスの急増と高齢化社会への対応です。
とくにオンラインビジネスのトラブルは消費生活相談でもトップの相談件数で、より一層の消費者保護が求められています。
2023年の法改正の内容について以下の4つを解説します。
2023年の法改正の内容
● 取消権を追加● 説明の努力義務を拡充
● 免責範囲の不明確な条項の無効
● 事業者の努力義務を新設
取消権を追加
事業者による不当な行為に対する消費者の取消権行使では、事業者による次の4つの行為が対象に加わりました。
追加された取消権
1 勧誘すると告げずに退去困難な場所へ同行して勧誘例)山や海など交通の便が悪いところなどへ出かけた先で商品を売り込む
2 威迫する言動を交えて消費者の第三者への相談の連絡を妨害
例)学生に対して「大人だから自分で決めないと」と親への相談を妨害して勧誘する
3 消費者が成年後見制度を利用すると契約を解除する条項
霊感などの知見を用いた告知
例)消費者に対し「病気になったのは悪霊のせい」など不安をあおる
4 契約前に目的物の原状を変更して回復を著しく困難にする行為
例)指輪の鑑定を依頼されて勝手に宝石部分を取り外し、もとに戻せなくする
これらの行為は消費者にとって不利益をもたらすものであり、新たに取消権の対象となったことで、消費者は不当な行為に対して適切に対処できるようになりました。
説明の努力義務を拡充
消費者契約法では、事業者と消費者の契約において、損害賠償や違約金の利率を定める場合、その上限は年率14.6%とされています。
2023年の法改正では、消費者から説明を求められた際、解約料の算定根拠を説明する努力義務が事業者に求められています。
解約料の説明の努力義務
1 消費者に対し算定根拠の概要説明の努力義務2 適格消費者団体※に対し算定根拠の説明の努力義務
免責範囲の不明確な条項の無効
消費者契約法第8条では、事業者が損害賠償責任などの有無を自ら決める条項を無効としています。新たに追加されたものが、免責範囲の不明確な条項です。
たとえば、事業者側に故意または重大な過失がある場合、消費者は全額の損害賠償を請求できます。
しかし、「法令上許される限り、3万円を上限に損害賠償する」などの条項があると、事業者への賠償責任を主張しにくくなるでしょう。
消費者契約法では、軽過失に限り、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項が認められています。
上記の例でいえば「軽過失の場合、3万円を上限に損害賠償する」などのように、消費者にわかりやすい明確な条項とする必要があります。
事業者の努力義務を新設
今回の法改正では、事業者の努力義務が新設されました。消費者契約法の定める事業者の努力義務は次の4つです。
1 契約解除時にも努力義務を新設
2 勧誘時の情報提供
3 定型約款の表示請求権に関する情報提供
4 適格消費者団体の要請への対応
出典:消費者庁「消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正(概要)」
新設された契約の解除に関する努力義務は、サブスクリプションサービスの解約に伴うトラブル急増を受けたものです。
消費者が解除したいときにスムーズに実行できるように、解除のために必要な情報提供を事業者に促す狙いがあります。
消費者契約法改正で企業が求められること
2023年の改正消費者契約法の施行では、消費者裁判手続特例法の改正も同時に行われています。
消費者裁判手続特例法は消費者保護のために、特定適格消費者団体が事業者に対して裁判を行える制度を定めたものです。
今回の改正で制度の対象範囲が拡大し、より消費者の利用しやすい制度へと変わりました。
2つの法改正により、消費者は事業者へ責任を追及しやすくなり、事業者はこれまで以上に説明責任を問われる可能性が高くなります。
事業者は今後、法改正にあわせたコンプライアンス強化への取り組みを急ぐ必要があるでしょう。
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まとめ
消費者契約法は、消費者と事業者が契約を結ぶときに立場の弱い消費者に不利益が生じないように、消費者保護を定めた法律です。
近年はネットビジネスの普及がさらに進み、ネット通販やサブスクリプションサービスなどに関する契約トラブルが増えています。
2023年の法改正は消費者保護とともに事業者への努力義務をより追求する求める内容となりました。事業者はこれまで以上にコンプライアンスの順守を求められています。
消費者からの契約の取り消しや無効を避けるためにも、法改正のポイントを押さえ、消費者契約法の内容を十分に理解しておきましょう。
よくある質問
消費者契約法とは?
消費者契約法とは、消費者と事業者が契約を結ぶにあたり、情報量などで立場が弱くなりやすい消費者の保護を目的とした法律です。
消費者契約法の概要を詳しく知りたい方は「消費者契約法とは? わかりやすく解説」をご覧ください。
2023年の法改正のポイントは?
消費者の取消権の追加、事業者の努力義務の新設などで、消費者保護がより一層強化されています。
2023年に実施された改正消費者契約法の内容を詳しく知りたい方は「2023年6月1日からの消費者契約法改正の内容」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。