契約の基礎知識

バックデートとは?契約書における意味や違法性、正しい「遡及適用」のやり方

監修 寺林 智栄 NTS総合弁護士法人札幌事務所

バックデートとは?契約書における意味や違法性、正しい「遡及適用」のやり方

バックデートとは、契約書に記載する日付を実際よりも前にさかのぼって記載する行為です。一見「実務に合わせた調整」とも考えられますが、場合によっては私文書偽造や税務・決算上の不正と評価される恐れがあります。

本記事では、バックデートとは何か、遡及適用との違い、バックデートが問題になる具体的なケースなどを解説します。法律には詳しくないけれど、契約実務に携わることがある人は、ぜひ参考にしてください。

目次

バックデートとは?

バックデートとは、契約書に記載する日付を実際よりも前にさかのぼって記載する行為です。ビジネスシーンでは、契約書の締結日や作成日を実際の合意日よりも過去の日付にしてしまうケースを意味します。

たとえば4月1日から取引が始まっていたものの、契約書への署名・押印が4月15日になってしまった場合に「契約書の日付を4月1日にして作成する」といったケースが挙げられます。一見すると実務上の便宜と捉えられがちですが、事実と異なる日付を記載する行為であるため注意が必要です。

法的には、契約が成立する時期は「当事者同士の意思表示が一致したタイミング」で決まります。契約書の日付をさかのぼったとして、その事実が変わるわけではありません。

ただし、事実と異なる内容で契約書を作成すれば「私文書偽造や詐欺・虚偽の表示」といった民事・刑事上のリスクにつながる可能性があります。決算や税務、コンプライアンスに関連する場面ではさらに問題が大きくなるため、安易に行うべきではありません。

バックデートの言い換え・類語

バックデートと似た言葉には、「遡及(そきゅう)」や「過去日付」といったものがあります。

遡及とは過去に効力をおよぼすことで、バックデートと混同されやすい言葉です。過去日付は、事実と異なる日付の記載を伴う場合にはバックデートと同義で扱われます。

社内や取引先とのやり取りでは「バックデート」という言葉自体が使われていなくても、実態としては上記の言葉が使われているケースがあります。

バックデートと遡及適用の違い

バックデートと遡及(そきゅう)適用はどちらも「日付」に関係する行為ですが、意味や法的な扱いは異なります。

バックデートは、契約書の作成日や締結日そのものを「実際よりも前の日付に書き換える」行為です。実際には4月15日に合意しているのに、契約書には4月1日付と記載するというように、事実と異なる点が本質的な問題になります。実態の隠蔽と判断された場合に、監査や税務調査、法的紛争で不利な扱いを受ける可能性があります。

遡及適用は、契約書の締結日を「実際にサインした日」と正しく記載したうえで「契約の効力を過去にさかのぼって発生させる」と当事者が合意する方法です。

たとえば「本契約の効力は4月1日にさかのぼって発生する」と契約書内に記載することで、事実に即しながら効力発生時期のみ調整します。これは事実の改ざんではなく、当事者間で合意した内容として適切に扱われます。

そのため、実務上「契約書の作成が遅れた」場合は、締結日を正しく記載しつつ、効力発生日を設定する遡及適用によって処理するのが望ましいといえます。バックデートのように事実を偽装してしまうと、後々のトラブルにつながるリスクが高まるため避けるべきです。

なお、実務上では「遡及適用」と呼ばれることが一般的ですが、法律的には「効力の遡及」と表現するのが正しいとされます。

なぜバックデートが行われるのか?よくある3つの背景

バックデートは意図的な不正だけでなく、日常的な業務負荷や事務処理の遅れによって発生するケースがあります。

ここでは、実務でバックデートが行われる3つの背景について解説します。

1. 社内稟議や事務手続きの遅延(うっかりミス)

バックデートを行う背景としてもっとも多いのは、うっかりミスなどから発生する手続きの遅延です。

合意内容は固まっていて業務も開始しているのに、社内での承認フローや押印作業が後手に回ってしまうケースが該当します。現場担当者は合意済みと認識していても、法務部のチェックや上長承認、製本作業が遅れることで、契約書の「締結日」だけが実態とズレてしまうのです。

たとえば、4月1日に実務がスタートしているのに社内承認が間に合わず、書類上の押印が4月15日になるといった状況は珍しくありません。このとき、「開始日に合わせたい」「実態に寄せたい」という善意のつもりで契約書の締結日を4月1日と記載してしまうと、事実に基づかない日付記載となりバックデートに該当します。

2. 予算消化や決算対策(意図的な操作)

バックデートが行われる背景には財務上の意図が絡むこともあります。「今期の予算を使い切りたい」「来期計上予定の売上を今期に前倒ししたい」といった理由から、実務では本来その期に計上できない取引について、書類上だけ前倒しするケースです。

しかし、税務や会計のルールでは収益や費用の認識は「契約書の日付」ではなく「実際の役務提供日・引渡日・合意日」といった事実によって決まります。契約書の日付をさかのぼって記載しても、正式な収益認識の根拠にはなりません。それどころか、日付を操作して期ズレを生じさせる行為は、不正会計の手口として不正を疑われてしまう恐れがあります。

3. 下請法(取適法)や派遣法など、法令対応の不備隠し

バックデートのなかには、法律で「事前の書面作成・交付」が義務づけられているにもかかわらず、後から日付をさかのぼって帳尻を合わせるケースがあります。

とくに下請法(2026年1月より取適法に改正)や派遣法のように「業務開始前の書面作成」が法律で義務づけられている場合、バックデートは単なる事務ミスの補填ではなく「法令違反の事実を隠そうとする行為」とみなされる可能性があります。

たとえば、下請法(取適法)では「発注者は業務開始前に書面を交付しなければならない」と定められています。書面の交付が遅れたにもかかわらず、後から契約日付をさかのぼって記載すれば形式上の遅延はないと考えるのは、不備を隠す目的で日付を操作する行為と判断されます。

同様に労働者派遣法でも、派遣元と派遣先の間で「派遣契約書を事前に作成しておく」ことが義務づけられています。派遣契約書が整備されないまま就労が始まってしまったケースで、後から日付をさかのぼって契約書を作成することも法令違反の隠蔽行為となるため注意が必要です。

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契約書のバックデートによって発生するリスク

契約書の日付をさかのぼって記載するバックデートは、法務・税務・コンプライアンス・ガバナンスのすべてに影響をおよぼし、企業に深刻なリスクをもたらす可能性があります。ここでは、代表的な4つのリスクについて説明します。

法的リスク(私文書偽造・詐欺罪)

バックデートは事実とは異なる日付を記載するため、法的には文書内容の偽装行為に該当する可能性があります。とくに他者に損害を与える目的があった場合には、「私文書偽造罪」や「詐欺罪」といった刑事責任に発展するリスクもあります。

さらに、議事録や決議書といった登記関連書類のバックデートは「公正証書原本不実記載等罪」に該当する恐れがあるため注意が必要です。

バックデートを単なる形式的な調整とみなすのではなく、法的リスクの高い行為として認識しましょう。

税務リスク(経費否認・重加算税)

税務調査において契約書の日付が事実と異なることが判明した場合「事実の仮装・隠蔽」と判断される可能性があります。税務の世界では、収益・費用・契約の成立時期は「実際の取引事実」によって決まるため、書面のバックデートは根拠として認められません。

もしも、バックデートによって経費計上の時期や収益認識を誤魔化していると判断されれば、経費が否認されたり追徴課税が発生したりする恐れがあります。とくに、悪質とみなされると重いペナルティである重加算税が課されることがあります。

【関連記事】
追徴課税とは?計算方法や対象期間、払えない場合について解説

証拠力の喪失(裁判での不利)

バックデートは、法務紛争における証拠価値にも影響を与えます。いざ問題が生じて裁判となった際、契約書の日付が不自然であったり、改ざんが疑われる痕跡が見つかったりすると、契約書全体の信用性が低下します。

裁判所が重視するのは、証拠の信用性です。契約書の一部に虚偽があると「契約書そのものが信用できない」と判断され、不利に働く可能性が高まります。重要な契約であればあるほど、バックデートは自分たちの首を絞める恐れがあると理解しておくべきです。

IPO(上場)審査やM&Aへの悪影響

成長企業やスタートアップの場合、バックデートはガバナンス面でマイナス要因となります。

内部統制の整備状況はIPO審査やデューデリジェンスで必ず確認される項目です。金融商品取引法に基づく開示規制や監査基準等の枠組みでは、取引実態と異なる記録や恣意的な期ズレは、不正による重要な虚偽記載・虚偽表示リスクとして厳しく問題視されています。

そのため、安易なバックデートは、上場準備やM&Aにおいて実務的な悪影響をおよぼす恐れがあります。

バックデートが問題になるケース具体例

バックデートは「ただの日付調整」ではなく、状況によっては法的・税務的問題を引き起こします。

ここでは、実務でとくに問題となりやすい3つのケースを取り上げます。

決算期をまたいで日付を操作した場合

決算期をまたぐ売上や費用の操作を目的としたバックデートは問題になりやすい傾向があります。たとえば3月31日決算の企業が、実際には4月に契約したにもかかわらず書面上だけ「3月31日付」として作成し、3月期の売上に含めてしまうケースです。

税務上の収益認識は契約書の日付に左右されるものではなく、実際の引渡し日や役務提供日、合意成立日といった事実に基づいて判断されます。契約書を過去日付にしても、取引の実態が4月であれば3月期の収益にはできません。

これらのログは改ざんが困難なため、決算期を操作する目的で日付を動かすと、不正が発覚しやすくなります。

倒産直前に資産移動や契約を行った場合

企業の経営状態が悪化し、倒産が近い状況で、資産や取引を過去にさかのぼって移転したように装うケースも問題となります。たとえば、倒産直前に「資産を過去の日付で親族や関連会社に譲渡したことにする」といった処理です。

このような行為は、破産手続きにおいて否認の対象となる可能性があります。とくに、債権者から資産を隠す目的で行われた場合、破産法265条の詐欺破産罪に問われる恐れもあるため注意すべきです。

取締役会議事録などの会社法関連書類

会社法関連の書類のバックデートも問題となり得ます。実際には開催していない取締役会を、過去の日付で開催したように議事録を作成するケースなどが該当します。形式的には「持ち回り決議」などで処理できる場合もありますが、手続きに不備があると刑法157条の「公正証書原本不実記載等罪」に該当する可能性があるため注意が必要です。

なお、虚偽の日付で作成された議事録は株主代表訴訟や第三者からの責任追及の際に、取締役の善管注意義務違反や虚偽記載の証拠として扱われることがあります。ガバナンスの観点からも、会社法関連書類のバックデートは避けるべき行為です。

バックデートにより契約締結が遅れた場合の正しい対処法

契約書の締結が遅れてしまった場合でも、バックデートで帳尻を合わせる必要はありません。事実どおりの締結日を記載したうえで効力発生日を調整する「遡及適用」で対応するのが正しい方法です。

ここでは、実務で取るべき4つの具体的な対処法を解説します。

「契約締結日」は事実(記入日)を記載する

まず前提として、契約書の締結日は「実際に署名・捺印した日」を記載します。たとえば、業務開始は4月1日で、実際に署名したのが4月15日であれば、契約書には4月15日と記載するのが正しい処理です。

契約書は事実を記録する書類であるため、記載内容が「いつ署名したのか」という現実と一致していることがもっとも重要です。誤って記載してしまうと、遡及適用を使っても契約書自体の信用性が損なわれかねないため注意しましょう。

条文に「遡及適用条項」を明記する

契約書の締結が遅れてしまった場合でも、契約の効力発生日を当初想定していた日に合わせたいケースは少なくありません。その際に有効な方法が、「遡及適用条項」を記載する方法です。

具体的には、契約期間の条項に次のように記載します。

第〇条(有効期間) 本契約の有効期間は、本契約の締結日にかかわらず、202X年4月1日から202X年3月31日までとする。

このように、締結日(署名日)は事実に沿った日付を使い、効力発生日だけを調整することで実態に即した正しい契約書を作成できます。遡及適用は、契約当事者が明確に合意していれば法律上問題ありません。

契約書を作り直せない場合は「覚書」を締結する

すでに契約書を相手に渡してしまっていて、内容を書き換えたり再締結したりすることが難しい場合には、追加で「覚書」を交わす方法があります。覚書では「原契約の効力発生日」を当事者間で明確に合意します。たとえば、以下のような文言が典型です。

【文言例】
本件原契約の効力発生日を202X年4月1日とすることについて、双方が合意した。

覚書を活用すれば、契約書本体には変更を加えず開始日のみ合意を補完する形で処理できるため、書類の差し替えが難しい場面でも適切に対応できます。

電子契約システムを活用して証拠を残す

電子契約システムを活用すれば、バックデートの疑いを避けながら正確に締結日と効力発生日を管理できます。電子署名では署名日時(タイムスタンプ)が自動で記録されるため、実際に締結した日付が明確に残ります。

また、契約開始日は入力項目として任意に設定できるため、遡及適用にも対応可能です。

電子契約にはメール送信履歴やログデータが残るため、後で「本当はいつ合意したのか」という点が問題になった場合でも客観的な証拠として提示できます。電子契約はバックデートの問題を根本的に防ぐ手段として有効です。

バックデートと電子契約の関係

電子契約は、契約締結の事実を正確に記録する仕組みが整っており、紙の契約書に比べてバックデートのリスクが本質的に生じにくい特徴があります。電子契約サービスでは、署名を行った瞬間に第三者機関によるタイムスタンプが付与されます。タイムスタンプは「いつ署名したか」が秒単位で記録され、改ざんが行われた場合には検証時に必ずエラーが出る仕組みです。

4月15日に締結した契約書について「3月31日付にしておこう」とバックデートを行うことは、電子契約では仕組み的に不可能です。

また、署名者のIPアドレス・メールの送受信履歴・ログイン記録といったログも保存されるため「いつ・誰が・どの操作を行ったのか」という事実が客観的に残ります。

このように、電子契約ではバックデートができない仕組みそのものが、契約内容の真実性を保証するメリットにつながります。署名日時が正確に残ることで契約書の証拠力が高まり、改ざんの疑いをかけられる心配がありません。さらに、契約プロセス全体がログとして記録されるため、不正や手続き違反を抑止でき、企業の内部統制強化にも寄与します。

まとめ

バックデートとは契約実務で起こりがちな「日付合わせ」の一種ですが、法務・税務・ガバナンスの観点から重大なリスクを伴います。契約締結が遅れた場合でも、事実どおりの締結日を記載し、遡及適用条項や覚書にて効力発生日を調整する方法をとれば、原則としてバックデートは不要です。

企業の信頼性の担保や、契約書の証拠力を高めるためには、バックデートは避けるべきです。電子契約システムの活用で締結プロセスをログで残し、バックデートを行わないクリーンな体制づくりを目指しましょう。

よくある質問

業務開始日よりも後に契約書を作成する場合、日付を「開始日」に合わせて記載しても良い?

契約締結日は実際にサインした日としつつ「本契約の効力は〇月〇日にさかのぼって発生する」と記載するのが適切です。バックデートとは異なり、実態の隠蔽と判断されるリスクを低減できます。

詳しくは記事内「バックデートと遡及適用の違い」をご覧ください。

バックデートをした場合、どのような罪に問われる可能性がある?

バックデートは事実と異なる日付を記載するため、原則として違法リスクを伴う行為です。とくに他者に損害を与える目的で行う場合「私文書偽造罪」や「詐欺罪」といった刑事責任に発展する恐れがあります。また、議事録や決議書といった登記関連書類のバックデートは「公正証書原本不実記載等罪」に該当する可能性があるため注意しましょう。

詳しくは、記事内「法的リスク(私文書偽造・詐欺罪)」で解説しています。

契約書のバックデートは税務調査などでバレる?

税務調査において契約書の日付が事実と異なることが判明した場合「事実の仮装・隠蔽」と判断される可能性があります。バックデートによって経費計上の時期や収益認識を誤魔化していると判断されれば、追徴課税や重加算税が課されることもあります。

詳しくは記事内「税務リスク(経費否認・重加算税)」をご覧ください。

電子契約を使うと、バックデートができなくなる?

電子契約は、契約締結の事実を正確に記録する仕組みが整っており、紙の契約書に比べてバックデートのリスクが本質的に生じにくい特徴があります。「いつ・誰が・どの操作を行ったのか」という事実が客観的に残るため、仕組み的に不可能なためです。

詳しくは記事内「バックデートと電子契約の関係」で解説しています。

監修 寺林 智栄(てらばやし ともえ)

2007年弁護士登録。2013年頃より、数々のWebサイトで法律記事を作成。ヤフートピックス1位獲得複数回。離婚をはじめとする家族問題、労務問題が得意。

寺林 智栄

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