
SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)とは、サプライヤーとの関係を戦略的に管理するためのマネジメント手法のことです。
多くの企業が売上拡大や販売戦略の強化に注力していますが、調達・仕入れの最適化も企業の利益に直結する重要な取り組みの一つです。特に製造業では、原材料や部品の品質や調達コストが製品の価格や売れ行きに大きく影響するため、サプライヤーとの関係は市場競争力にもつながります。
本記事では、SRMの基本概念から具体的な取り組み手順、導入メリットまで詳しく解説します。企業価値向上につながるサプライヤー管理システムについても触れているので、ぜひ参考にしてください。
目次
SRMとは
SRMとは「Supplier Relationship Management(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)」のことで、サプライヤーとの関係を戦略的に管理・構築し、長期的に良好な関係を築きながら企業価値の最大化を目指すマネジメント手法です。
従来の調達活動は、「いかに安く仕入れるか」という短期的なコスト削減に重きを置いていました。それに対しSRMの文脈では、企業の競争力向上という目的から品質や納期、技術革新、持続可能性などの観点で調達プロセスの最適化を図ります。サプライヤーを単なる取引相手ではなく戦略的なビジネスパートナーと位置づけ、双方の企業価値向上を目指すというのがSRMの考え方です。
サプライヤーとは
サプライヤーは「供給者」を意味する言葉ですが、ビジネスにおいてサプライヤーは単なる仕入先ではありません。製品の原材料や部品、サービスなどを供給してくれる重要な事業パートナーであり、双方が利益・メリットを得られる「Win-Win」の関係を目指すあり方が重視されます。
たとえば、自動車メーカーにとっての部品メーカーや、レストランにとっての食材生産者が該当します。自動車メーカーが高品質な車を製造するには、エンジン部品や電子部品などを供給するサプライヤーの技術力と品質管理能力が必要です。また、レストランが常に顧客に満足してもらえる料理を提供し続けるには、新鮮かつ安全な食材を安定的に供給してくれる生産者との良好な関係が欠かせません。
なぜ今、SRMが重要視されるのか?
現代においてSRMが重要視されるようになった背景には、現代が「VUCA時代」と呼ばれていることと関係があります。VUCAは「変動性(Volatility)」「不確実性(Uncertainty)」「複雑性(Complexity)」「曖昧性(Ambiguity)」の頭文字を取った言葉で、変化の激しい今日のビジネス環境を表しています。
サプライチェーンのグローバル化や複雑化、地政学リスクの高まりなどにより、企業を取り巻く環境はかつてないほど不安定になっています。そのため、特定のサプライヤーに過度に依存する状況は、安定した調達基盤を築くうえでリスクになると考えられるのです。
たとえば、2011年にタイで起きた大洪水では、現地に生産拠点を持つ多くのグローバル企業が影響を受けました。特に、ハードディスクの世界供給量が約30%減少した影響は大きく、製品が生産停止になったパソコンメーカーも少なくありません。
また、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大では、中国をはじめとする各国でのロックダウンにより自動車部品や半導体の供給が停滞。日本でも当時、トヨタや日産などの自動車メーカーが一時的な生産停止を余儀なくされました。
これらの事例だけでなく、近年では企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティの観点からもSRMが注目されています。
SRMをとおしてサプライヤーにESG(環境・社会・ガバナンスの頭文字をとった略語)の改善を支援することは、企業の持続的な成長にもつながる重要な取り組みです。仕入れや調達においてもESGへの配慮が求められていることから、「どの企業から、どのように調達するか」が取引先を選定する際の重要な基準となっています。
SRMの目的とメリット
SRMにおいてはコストの最適化、品質向上や安定化が最大の目的です。これらを実現することで、サプライチェーンが寸断される場合のリスク低減や革新的な製品開発に寄与します。ここでは、SRMの目的とメリットについてそれぞれ解説します。
コストの最適化
サプライヤーとの継続的なパートナーシップにより、双方が安定した取引量を前提とした価格設定が可能になれば、結果としてコスト削減を実現しやすくなります。また、サプライヤーとの共同改善活動も重要なポイントです。製造工程の見直しや物流効率の改善、不良品率の削減などに協力しながら取り組むことで、従来の関わり方では困難だった領域のコスト削減も可能になるでしょう。
品質の向上と安定化
サプライヤーとの連携強化は、高品質な部材や原材料の安定供給を可能にします。また、定期的な品質レビューや技術指導など、サプライヤーの製造プロセスや品質管理手法の改善を支援することで、全体の品質向上も期待できます。
さらに、品質基準の統一や検査手法の共有は、複数のサプライヤーから資材調達する場合に効果を発揮します。どのサプライヤーから仕入れても一定の品質水準を維持できれば、最終製品の品質向上と顧客満足度の向上につながります。
サプライチェーン寸断リスクの低減
SRMによって良好なサプライヤー関係を構築しておくと、自然災害や地政学的リスクによるサプライチェーン寸断時に、優先的な供給や柔軟な納期調整を受けられるといったメリットがあります。信頼関係に基づくパートナーシップを築いているサプライヤーは、有事の際にも自社を重要な取引先として対応してくれる可能性が高いためです。
革新的な製品開発
SRMによって、自社のみでは実現困難な製品開発も可能になる可能性があります。サプライヤーが持つ独自の専門知識を活用したり、先進技術を使って共同開発したりする方法を模索できるためです。このような協業は、継続的なイノベーション創出や競争優位性の確保につながります。
SRMの取り組み手順
効果的なSRMを実現するには、体系的なアプローチが必要です。ここでは、SRMの具体的な取り組み手順を説明します。
- サプライヤーの評価と現状把握
- サプライヤーごとの戦略立案
- 戦略の実行とパフォーマンス管理
- 定期的な見直しと関係の改善
SRMではサプライヤーとの関係を評価し、一度きりではなく継続的に改善活動を行うことが重要です。市場環境や事業戦略の変化に応じて、常に関係性の見直しと最適化を図る必要があると覚えておきましょう。
STEP 1:サプライヤーの評価と現状把握
最初のステップでは、自社がどのようなサプライヤーと取引しているかを正確に把握しましょう。限られたリソースをどこに集中させるべきかを見極める重要なステップです。具体的には、以下3つの流れで進めます。
全サプライヤーのリストアップ
取引のあるサプライヤーを洗い出し、取引内容や規模を整理します。この段階では、直接材だけでなく間接材のサプライヤーも含めて包括的にリストアップすることがポイントです。
評価軸の設定
QCDを軸に、サプライヤーを評価する基準を策定します。
- Q(Quality):品質水準や不良品率の状況
- C(Cost):価格競争力やコスト削減における貢献度
- D(Delivery):納期遵守率や供給の安定性
これらに加えて技術力の高さやリスク要因を評価項目に含めると、より多角的に評価できます。
サプライヤーの分類と可視化
評価結果に基づいて、サプライヤーを3つのグループに分類します。
グループ | 特徴 |
---|---|
戦略的パートナー | 事業の根幹に関わるなど、最重要のサプライヤー |
重要サプライヤー | 取引額が大きく、品質・納期に影響するサプライヤー |
一般サプライヤー | 代替が比較的容易で、定型的な取引の多いサプライヤー |
グルーピングすることで、連携をより強化すべきパートナーを可視化できます。戦略的な関係構築の方向性を定める際にも有効です。
STEP 2:サプライヤーごとの戦略立案
分類したグループごとに、どのような関係を築いていけばよいか具体的な戦略を立案しましょう。すべてのサプライヤーに同じように対応するのではなく、グループや特性に応じてメリハリをつけることがポイントです。
戦略的パートナー | 重要サプライヤー | 一般サプライヤー | |
---|---|---|---|
目標 |
・協業による新たな価値創造 ・強固なパートナーシップの構築 |
・パフォーマンスの維持 ・向上と安定供給の確保 |
・取引プロセスの効率化 ・管理コストの削減 |
施策例 |
・経営層レベルでの定期会合の実施 ・新製品の共同開発プロジェクトの推進 ・技術情報や市場情報の積極的な共有 |
・定期的なビジネスレビューの実施 ・KPI(重要業績評価指標)の設定と共有 ・サプライチェーンリスクの共同評価と対策検討 |
・発注プロセスのシステム化や自動化 ・取引条件の標準化 ・効率的な調達手続きの確立 |
STEP 3:戦略の実行とパフォーマンス管理
策定した戦略を実際に実行し、サプライヤーのパフォーマンスを継続的に測定・評価します。この段階では、設定した目標の達成状況を客観的に把握し、必要に応じて軌道修正を行うことが大切です。
測定・評価方法の例 | 詳細 |
---|---|
KPIの設定と共有 |
・立案した戦略に基づく具体的なKPIを設定 ・数値で測定できる指標は合意形成を行う |
定期的なコミュニケーション |
・進捗確認や課題共有のためのレビューを実施 ・問題の早期発見と迅速な対応が可能 |
パフォーマンスデータの収集と評価 |
・設定したKPIの達成状況を客観的に評価 ・定量データと定性データを組み合わせて評価 |
フィードバックの実施 |
・評価結果をサプライヤーにフィードバック ・優れた点を称賛 ・課題点があれば改善を要求 |
STEP 4:定期的な見直しと関係の改善
市場環境や自社の事業戦略は常に変化するため、サプライヤーとの関係性についても定期的な見直しと改善が必要です。このステップでは過去の取り組みを振り返り、SRMの「次のサイクル」に向けた改善策を検討しましょう。
具体的な見直し・改善方法は以下のとおりです。
- 年次評価レビューの実施:定期的にサプライヤーとの包括的なレビューを実施
- 課題の共有と共同での改善活動:サプライヤーと共同で改善策を実行
- サプライヤー分類の更新:取引状況や市場環境に応じて分類を更新
このステップの結果が新たなスタート地点です。継続的な改善行動によってサプライヤーとの関係は強化されるうえ、企業の競争力向上につながります。
SRMの成果を最大化する「販売管理」の重要性
SRMの取り組みは、サプライヤーとの連携強化や材料の安定供給などにつながります。しかし、いくら優れたものを安く安定的に仕入れられるようになっても、最終的な利益につながらなければ意味がありません。
SRMの本質は単なるコスト削減にとどまらず、品質向上や納期遵守といった付加価値を創出することにあります。企業がSRMによって確実に利益へ結びつけるためには、仕入れた製品が正しく売上として計上され、入金されるまでの販売プロセス管理が重要です。コスト削減(SRM)と売上管理(販売管理)は、どちらも利益を最大化するために欠かせない要素と認識しておきましょう。
サプライヤー管理システムの役割と導入メリット
効果的なSRMを実現するには、適切なツールの活用がポイントです。サプライヤー管理システムは、複雑かつ多岐にわたるサプライヤーとの関係を効率的に管理し、戦略的な意思決定を支援する重要な基盤となります。ここでは、サプライヤー管理システムの役割と導入するメリットを解説します。
サプライヤー管理システムの役割
サプライヤー管理システムは、SRMを最適化するにあたって3つの役割を担います。
サプライヤー管理システムの役割
- サプライヤー情報の一元管理
- サプライヤーの客観的な評価
- コミュニケーションとワークフローの円滑化
サプライヤー管理システムでは、基本情報から取引履歴、評価結果、契約条件といったサプライヤーに関する情報を一元的に管理できます。そのため、複数部門が同じサプライヤーと取引する場合でも、統一された情報に基づいた意思決定が可能です。
また、客観的かつ継続的な評価も容易です。品質やコスト、納期といった定量的な指標から、技術力やコミュニケーション能力などの定性的な要素までデータとして蓄積できるため、多角的な視点からの評価を促します。
さらに、社内の調達プロセスとサプライヤーとのコミュニケーションを統合的に管理する役割もあります。見積依頼から発注、納期調整、品質確認まで、一連の業務フローをシステム上で管理することにより、情報の共有漏れや伝達ミスを防止できます。サプライヤーとの各種やり取りも記録として残るため、より迅速な意思決定と対応にも役立ちます。
サプライヤー管理システムを活用するメリット
サプライヤー管理システムの導入には、以下4つのメリットがあります。
サプライヤー管理システムを活用するメリット
- コスト削減と業務効率化
- サプライチェーンのリスク低減
- サプライヤーとの良好な関係構築
- 属人化の解消とガバナンス強化
サプライヤー管理システムの導入により、従来は手作業で行っていた多くの業務を自動化できます。定型的な業務の効率化だけでなく、過去データをもとにした価格交渉や調達コスト削減も期待できるでしょう。システムでは、サプライヤーの財務状況や供給能力を継続的に分析することも可能です。潜在的なリスクを早期に発見できるため、迅速に対応できます。
また、透明性のある情報共有と公正な評価を実施することは、サプライヤーとの信頼関係を強固にします。サプライヤーとの取引履歴や評価結果、コミュニケーション記録などはすべて記録として残るため、自社内で担当者の変更があったとしても、関係性を維持したまま業務の継続が可能です。
まとめ
SRMとは、単なるコスト削減を目的とした調達活動ではなく、サプライヤーとの戦略的パートナーシップによって企業の競争力向上を目指すマネジメント手法です。「VUCA時代」と呼ばれる不確実な現代において、安定した調達基盤の構築とリスク分散は企業経営の重要な要素となっています。
効果的なSRMを実現するためには、サプライヤーの評価・分類から戦略立案、継続的な改善まで体系的に取り組むことがポイントです。また、サプライヤー管理システムを活用し、より効率的で透明性の高い関係構築を目指しましょう。
よくある質問
SRMとは?
SRMとは、サプライヤーとの関係を戦略的にコントロールし、長きにわたって良好な関係を築くことを目的としたマネジメント手法です。品質や納期、技術革新、持続可能性などの観点から競争力向上を図るアプローチとして、製造業を中心に多くの企業が取り組んでいます。
詳しくは、記事内の「SRMとは」で解説しています。
サプライヤーとは?
ビジネスにおけるサプライヤーとは、単なる仕入先ではなく、製品の原材料や部品、サービスなどを供給してくれる重要な事業パートナーを指します。
詳しくは、記事内の「サプライヤーとは」をご覧ください。
SRMに取り組むには?
効果的なSRMを実現するために、「サプライヤーの評価と現状把握」「サプライヤーごとの戦略立案」「戦略の実行とパフォーマンス管理」「定期的な見直しと関係の改善」といった手順で取り組みます。ただしこれらのプロセスは一度きりではなく、継続的に改善しながら行うことが大切です。
詳しくは、記事内の「SRMの取り組み手順」をご覧ください。