
クリティカルパスとは、プロジェクトの全工程のなかで、もっとも所要時間がかかる作業の最長経路のことです。この経路上のタスクが一つでも遅れると、プロジェクト全体の納期に直結して影響するため、プロジェクト管理における基盤的な考え方といえます。
クリティカルパスを把握すると、タスクの優先順位が明確になり、リソースを効率的に配分できます。同時に、進捗の遅れや潜在的なボトルネックも早期に把握できるため、計画的な対応が可能です。
本記事では、クリティカルパスの基本的な意味や工程表・ガントチャートとの違い、具体的な求め方や活用する際の注意点をわかりやすく解説します。
目次
- クリティカルパスとは
- クリティカルパスと工程表の違い
- クリティカルパスとガントチャートの違い
- クリティカルパスとクリティカルチェーンの違い
- クリティカルパスの重要性
- クリティカルパスを把握する3つのメリット
- タスクの優先度が明確になる
- スケジュール管理を効率化できる
- 潜在的なボトルネックを回避できる
- クリティカルパスの具体的な求め方
- STEP1.タスクの洗い出し
- STEP2.タスク間の依存関係を把握
- STEP3.PERT図の作成
- STEP4.タスクの所要時間を算出
- STEP5.クリティカルパスの特定
- STEP6.スケジュール調整
- クリティカルパスの注意点
- 計画立案にコストがかかる
- 所要時間の見積もりが不正確だと信頼性が低下する
- プロジェクトが複雑化すると特定が困難になる
- freee工数管理でプロジェクト進捗を一元管理
- まとめ
- よくある質問
クリティカルパスとは
クリティカルパスとは、プロジェクトを完了させるまでに必要な作業(タスク)のうち、もっとも所要時間がかかる最長経路を指します。
たとえば建設業界でビルを建てる場合、基礎工事が終わらなければ鉄骨の組み立てはできず、鉄骨が組み上がらなければ内装工事も始められません。反対に、植栽や外構工事など一部の作業は、建物の主要工事とは並行して進められるため、多少遅れても全体には影響しないケースもあります。
このように「必ず順番に進めなければならない一連の流れ」がクリティカルパスであり、その遅延はプロジェクト納期に直結します。
クリティカルパスにあるタスクのひとつでも遅れてしまうと、プロジェクト全体の完了時期が後ろ倒しになるため、進行管理において重要な概念です。
クリティカルパスと工程表の違い
工程表とは、プロジェクトに必要なすべての作業を、担当者・開始日・終了日・作業期間などの情報とともに時系列で整理した計画表です。
一方、クリティカルパスは、その工程表を分析することで見つけ出されるものです。工程表に書かれたタスクの依存関係を分析し、どの作業が遅れるとプロジェクト全体が遅延するのかを特定したものがクリティカルパスとなります。
つまり、工程表が「全体の見取り図」だとすれば、クリティカルパスは「その中でもっとも重要なルート」といえます。そのため、クリティカルパスを明確にするには工程表の存在が不可欠です。
クリティカルパスとガントチャートの違い
クリティカルパスとガントチャートはどちらもプロジェクト管理に使われるツールでタスクごとの依存関係を表しますが、それぞれ目的と形式が異なります。
項目 | クリティカルパス | ガントチャート |
---|---|---|
形式 | PRET図、ネットワーク図 | 棒グラフ |
目的 | ・重要タスクの可視化 ・プロジェクトの所要期間を算出 | ・全タスクの進捗を時間軸で可視化 |
特徴 | タスク間の最長・最重要経路を明確にできる | スケジュール全体像を直感的に把握できる |
活用場面 | プロジェクトの遅延リスクを分析する際に効果的 | 日々の進捗管理や関係者への共有に有効 |
クリティカルパスはプロジェクトを完了するまでに必要な作業経路の中で、もっとも所要時間がかかる最長経路を特定するものです。プロジェクト全体に影響する重要タスクやプロジェクトの所要期間を明確にします。
一方でガントチャートは、タスクごとの開始日・終了日を時間軸上で棒グラフ形式で可視化し、予定と実績、進捗を確認しやすくする工程表です。タスクの進捗状況や担当者、タイムスケールなどの情報が含まれ、「いつ何をするか」が視覚的に把握できます。
両者を併用すると、ただ見える化するだけでなく、どのタスクを優先して管理すべきかも明確になるため、プロジェクト運営がより確実になります。
クリティカルパスとクリティカルチェーンの違い
クリティカルチェーンは、クリティカルパスを発展させた考え方です。プロジェクト全体への影響を考慮して最後にバッファ(余裕)を持たせることで、個別タスクの遅延があっても全体の完了に与える影響を抑えることを目的としています。
たとえば、建設工事では悪天候により外装作業が遅れるリスクがあります。クリティカルパスだけではその遅れは工期全体に波及してしまいますが、クリティカルチェーンの考えをもとに「バッファ」を確保しておけば、多少の遅延が発生しても全体スケジュールを守れるように調整できます。
クリティカルパスは「もっとも重要な作業経路を特定する」ことに重点を置きますが、クリティカルチェーンは「リスクに備えて余裕を持たせる」ことで、より柔軟なスケジュール管理を可能にします。
クリティカルパスの重要性
クリティカルパスを把握することは、プロジェクト管理において重要です。クリティカルパスの分析で「どの作業が最優先か」を明確にできるため、作業時間や人員、予算などの限られたリソースを配分しやすくなり、効率的なプロジェクトを進めることができます。
さらに、クリティカルパスを把握しておくことで、スケジュールの遅延リスクを事前に特定し、適切な対策を講じることが可能です。遅れが生じやすいタスクや、他の作業に影響を与えやすいタスクを事前に把握することで、納期を守りやすくなります。
このように、クリティカルパスはプロジェクトを効率的かつ確実に進める指標になるため、計画立案やプロジェクト管理の現場において重要視されています。
クリティカルパスを把握する3つのメリット
プロジェクト管理をより効率的かつ確実に進めるためには、クリティカルパスの分析・把握が効果的です。
ここでは、クリティカルパスを把握することで得られる主なメリットを3つ解説します。
タスクの優先度が明確になる
クリティカルパス上のタスクは、プロジェクトの最終納期に直接影響を与える重要な作業です。プロジェクト全体を通して「どのタスクを最優先で取り組むべきか」が明確になるため、チーム内で優先順位の共通認識を持つことができます。
また、リソースの配分も最適化しやすく、限られた人員や時間を効率的に活用できる点も大きなメリットです。
スケジュール管理を効率化できる
クリティカルパスを把握することで、プロジェクト全体にかかる作業時間や進捗状況を常に把握しやすくなります。プロジェクト管理を担うプロジェクトマネージャーは、クリティカルパスをもとに進捗を確認することで、問題が発生した際の対応もスムーズになり、効率的な管理が実現します。
また、クリティカルパス上にないタスクが遅れた場合でも、全体の納期に与える影響が小さいことが判断できるため、柔軟なスケジュール調整が可能です。
潜在的なボトルネックを回避できる
クリティカルパスによりプロジェクトの全体像を把握することで、進行を妨げる潜在的なボトルネックも事前に特定できます。こうしたリスクを予測したうえで、「人員を増やす」「タスクの順序を変更する」などの対策を計画的に行うことが可能です。結果として、突発的な遅延を未然に防ぎ、プロジェクトの納期遵守につなげられます。
クリティカルパスの具体的な求め方
クリティカルパスを特定するには、プロジェクトのタスクや作業順序を詳細に分析し、どの作業が全体の進行にもっとも影響するかを特定する必要があります。
ここでは、クリティカルパスがよく活用されている建設業界を例に、6つのステップで具体的に解説します。
STEP1.タスクの洗い出し
まず、プロジェクトを構成するすべてのタスクをリストアップします。
たとえば建設現場では、土地の測量・地盤調査、基礎工事、鉄骨・躯体工事、内装工事、外壁工事、電気・水道配線、検査・引き渡しなどプロジェクト全体を細かく分解することが重要です。
この段階で抜け漏れがあると後の工程分析に支障をきたすため、慎重かつ確実にタスクを洗い出します。
STEP2.タスク間の依存関係を把握
次に、各タスクがいつ開始できるのか、タスクごとの依存関係を整理します。
たとえば、基礎工事は土地の測量・地盤調査が終わった後に開始でき、電気・水道配線は内装工事と並行して進められます。このように前後関係を明確にすることで、プロジェクト全体のスケジュールの流れを正確に把握できます。
STEP3.PERT図の作成
洗い出したタスクと依存関係をもとに、PERT図(Program Evaluation and Review Technique)を作成します。
PERT図は、タスク同士の依存関係をノード(丸)と矢印で表現し、プロジェクト全体の流れを視覚的に把握できるツールです。細分化したタスクを優先順に並べ、依存関係に基づいて矢印で結ぶことで、どの作業がどのタスクに影響を与えるのかを直感的に理解できます。
上記の例をもとにすると、「土地の測量・地盤調査」を最初のノードとし、その完了後に「基礎工事」「鉄骨・躯体工事」を配置します。鉄骨・躯体工事が終わったら、「内装工事」「外壁工事」「電気・水道配線」の3つの並行作業が進み、最終的に「検査・引き渡し」へとつながります。
PERT図を活用すれば、どの作業がボトルネックになりやすいか、進行上の要所はどこかを一目で確認できるため、効率的なスケジュール設計やリスク管理に大きく役立ちます。
STEP4.タスクの所要時間を算出
続いて、各タスクの完了に要する時間を算出します。たとえば、「土地の測量・地盤調査:5日」「基礎工事:25日」「内装工事:30日」といったように現実的な数値を設定しましょう。
クリティカルパスの信頼性を高めるためにも、過去の類似プロジェクトのデータや担当者の経験に基づいて現実的な工数を設定することが重要です。
STEP5.クリティカルパスの特定
PERT図上にすべての経路を描いたら、各経路の合計所要日数を算出し、もっとも長い経路を「クリティカルパス」として特定します。
STEP1で洗い出したタスクをPRET図で整理すると、各工程の所要日数は以下のとおりです。
作業工程 | 作業日数 | 合計日数 |
---|---|---|
①土地の測量・地盤調査 | 5日 | 5日 |
②基礎工事 | 25日 | 30日 |
③鉄骨・躯体工事 | 30日 | 60日 |
④外壁工事 | 14日 | 74日(※) |
⑤内装工事 | 30日 | 90日(※) |
⑥電気・水道配線 | 7日 | 67日(※) |
⑦検査・引き渡し | 5日 | 95日 |
※④⑤⑥の合計日数は、それぞれ③に各作業日数を加えた日数
この中でもっとも所要日数が長くなる経路は、「①土地の測量・地盤調査 → ②基礎工事 → ③鉄骨・躯体工事 → ⑤内装工事 → ⑦検査・引き渡し」で合計95日かかります。これが本プロジェクトのクリティカルパスです。
外壁工事(合計日数74日)や電気・水道配線(合計日数67日)は並行して進められるため、多少遅れても工期全体には直接影響しません。しかし、クリティカルパス上にあるタスクは1日の遅れも工期全体に直結するため、バッファを設定するといった対策で管理を行う必要があります。
STEP6.スケジュール調整
最後に、クリティカルパス上のタスクに遅延が発生しないよう、リソースや人員を優先的に配分します。
たとえば、クリティカルパスに含まれる内装工事の人員を増やしたり、作業時間を延長したりといった対策を講じて遅延リスクを抑えます。
また、必要に応じてタスクの順序を調整するなど、柔軟なスケジュール管理を行うことが重要です。
クリティカルパスの注意点
クリティカルパスはプロジェクト管理における強力な手法です。しかし、実務で活用する際にはいくつかの注意点を理解しておく必要があります。
ここでは代表的な3つの注意点を紹介します。
計画立案にコストがかかる
クリティカルパスを特定するには、すべてのタスクを細かく洗い出し、それぞれの依存関係や所要時間を分析しなければなりません。そのため、プロジェクトの初期段階で詳細な計画を立てるには相応の時間と労力がかかります。
とくに、規模が大きいプロジェクトでは、計画段階のコストが増大する恐れがあるため注意が必要です。
所要時間の見積もりが不正確だと信頼性が低下する
各タスクの所要時間が正しく見積もられていなければ、クリティカルパスの算出結果も信頼性を失ってしまいます。
見積もりが甘いと、納期予測やリソース計画そのものが不正確になり、結果として計画全体が形骸化してしまう恐れがあります。精度の高い見積もりを行うためには、過去の実績や専門家の経験値を活用することが重要です。
プロジェクトが複雑化すると特定が困難になる
タスクの数や依存関係が増えるほど、手作業でクリティカルパスを特定するのは困難になります。数十、数百ものタスクが絡み合う大規模プロジェクトでは、エクセルなどの表計算だけでは限界があるでしょう。
こうした場合には、専用のプロジェクト管理ツールやソフトウェアを活用することで、効率的かつ正確にクリティカルパスを把握できます。
freee工数管理でプロジェクト進捗を一元管理
クリティカルパスを意識して工程を整理しても、実際の進捗や工数を正確に追跡し続けるのは大きな負担になります。タスクごとの遅れやコストの増減が把握しきれず、対応が後手に回ることも少なくありません。
そうした現場の悩みを解決するのがfreee工数管理です。メンバーが入力した作業時間をもとに、プロジェクト全体の進捗や予算消化率をリアルタイムで可視化できるため、クリティカルパス上のタスクが予定通り進んでいるかどうかを常に確認できます。
さらに、予実差異が大きい場合には早い段階で気づけるため、早期のリスク回避が可能です。計画から実行、モニタリングまでを一元化できるfreee工数管理を活用することで、クリティカルパスに基づいたスケジュール管理がより確実なものになります。
まとめ
クリティカルパスは、プロジェクトの成否を左右する重要な管理手法です。タスクの依存関係を整理し、所要時間を正しく見積もることで、納期に直結する作業を明確にでき、リソースを効果的に配分する判断材料にもなります。また、進捗の遅れやボトルネックを早期に把握できるため、計画的かつ柔軟な対応が可能になります。
ただし、計画立案には時間や労力といったコストがかかり、プロジェクトの規模が大きくなるほど特定が難しくなるという注意点も理解しておきましょう。こうした特徴を踏まえて活用すれば、クリティカルパスはプロジェクトを効率的かつ確実に成功へ導く強力な指針となります。
よくある質問
クリティカルパスとは何ですか?
クリティカルパスとは、プロジェクトの完了までにもっとも長く時間がかかる作業工程の流れを指します。納期に直結するため、この経路上のタスクを優先的に管理することが重要です。
詳しくは、記事内「クリティカルパスとは」をご覧ください。
クリティカルパスとガントチャートの違いは?
クリティカルパスとガントチャートはどちらもプロジェクト管理に使われるツールですが、それぞれの目的とツールの形式が異なります。両者を組み合わせると効果的なプロジェクト管理が可能です。
詳しくは、記事内「クリティカルパスとガントチャートの違い」をご覧ください。
クリティカルパスの求め方とは?
クリティカルパスは、以下の手順で求めることができます。
- タスクの洗い出し
- タスク間の依存関係を把握
- PERT図の作成
- タスクの所要時間を算出
- クリティカルパスの特定
- スケジュール調整
クリティカルパスを求める際は、タスクを細分化し、全経路の所要時間を計算してもっとも長い経路を特定するのが一般的な手順です。
詳しくは、記事内「クリティカルパスの具体的な求め方」をご覧ください。