
管理図とは、製造工程や品質管理の現場で、工程の安定性や品質のばらつきを把握するための統計的なツールのことです。データをグラフ化することで、日常的に発生する微細な変動と、異常な変動を見分けることができ、早期に問題を発見して品質改善につなげることが可能です。
本記事では、管理図の基本的な構成要素や種類、作成手順に加え、工程異常の兆候を判断するための異常判定のポイントまで、実務で役立つ視点を交えてわかりやすく解説します。
目次
- 管理図とは
- 管理図の構成要素
- 「QC7つ道具」との関係性
- 品質管理における管理図の重要性
- 偶然原因
- 異常原因
- 管理図の種類
- 計量値管理図の種類
- 計数値管理図の種類
- 管理図の書き方・作成方法
- STEP1. データの収集
- STEP2. 各郡の平均値(X)と範囲(R)の計算
- STEP3. Xの総平均値とRの総平均値の計算
- STEP4. 中心線と管理限界線の設定
- STEP5. グラフの作成
- 異常判定の8つのポイント
- 1.点が管理限界線を超えている
- 2.同じ側に点が連続して並ぶ
- 3.点が連続して上昇・下降している
- 4.点が連続して交互に増減している
- 5.連続する3点のうち2点が領域Aにある
- 6.連続する5点のうち4点が領域Bにある
- 7.点が中心線の近くに集中している
- 8.連続する8点が領域C以上にある
- まとめ
- よくある質問
管理図とは
管理図とは、製品の品質管理において工程が安定しているかどうかを判断するためのツールのことです。
製造現場では必ずしも同じ条件でモノづくりができるわけではなく、温度や機械の状態、作業員などによって品質には少なからずバラつきが生じます。管理図は、そのバラつきをグラフで可視化し、工程の状態を継続的に分析・管理するために活用されます。
管理図を活用することで工程が安定しているかを客観的に把握できるため、異常な変動を早期に発見し、不良の発生や品質トラブルを未然に防げます。
管理図の構成要素
管理図は、「中心線(CL)」「上方管理限界線(UCL)」「下方管理限界線(LCL)」の3つの要素で構成されます。
管理図の構成要素
- 中心線(CL):データの平均値を示し、工程の目標値や平均的な状態を表す
- 上方管理限界線(UCL):中心線の上方にある管理限界線。この線を上回る点は、異常な変動と見なされる
- 下方管理限界線(LCL):中心線の下方にある管理限界線。この線を下回る点も異常な変動とされる
さらに、上方管理限界線(UCL)と下方管理限界線(LCL)の間は、1σ(シグマ)ごとの間隔で6つの領域に区切られ、上方または下方管理限界線に近い領域から順にA・B・Cと分類されます。この区分によって、工程のバラつきがどの程度の範囲にあるかを詳細に判断することが可能です。
「QC7つ道具」との関係性
QC7つ道具とは、品質管理に用いられる以下の7つの統計的手法の総称で、品質管理を科学的かつ論理的に進めるために欠かせません。
- パレート図
- 特性要因図
- チェックシート
- ヒストグラム
- 散布図
- グラフ
- 管理図
管理図はQC7つ道具のなかでも、工程の安定性や異常の有無を可視化する役割を担い、品質改善の基盤となる重要な手法です。
また、これらのツールを組み合わせて使うことで、現場の課題を多角的に分析し、効率的な改善につなげることができます。
品質管理における管理図の重要性
製造現場では、どんな工程でも温度・湿度や素材の性質の違い、作業者の操作などさまざまな要因からバラつきが生じてしまいます。
管理図は、こうしたバラつきが想定される範囲内の「偶然原因」によるものか、通常は発生しない「異常原因」が紛れて工程に影響を与えているかを見分ける重要なツールです。データをもとに工程の状態を可視化し、早期トラブルの発見や品質改善、不良品の流出防止に役立つため、品質管理の現場で欠かせないツールとされています。
偶然原因
偶然原因とは、通常の手順で工程を進めている限り、必ず発生するバラつきのことです。たとえば、原材料の微細な質の違いや、機械の回転部分のわずかなズレ、気温・湿度などの自然な環境変動、作業者の力加減などが挙げられます。
管理図を作成する際は、偶然原因による変動を前提として管理限界線(通常は±3σなど)を設定します。偶然原因は完全に取り除けないため、プロットされた点が中心線と管理限界線の範囲内に収まっていれば、工程は統計的に安定していると判断できます。
一方で、範囲を外れるデータが現れたり、連続する点に偏りが見られたりする場合は、偶然原因では説明できない異常要因が潜んでいる可能性があります。
異常原因
異常原因とは、工程に何らかの意図しない影響やトラブルが入り込み、異常なバラつきが発生している状態を指します。たとえば、機械の故障や設定ミス、作業上の人的ミス、不良品の混入などが代表例です。
異常原因が発生している場合、管理図上に明らかな異常な点やパターン(管理限界を超える、あるいは並び方が偏っているなど)が現れ、異常を判断することができます。こうしたサインを見逃さず工程の改善につなげることが、安定した品質維持のカギとなります。
管理図の種類
管理図にはいくつかの種類があり、対象となるデータの性質によって使い分けられます。大きく分けると「計量値管理図」と「計数値管理図」の2種類があり、それぞれ工程の状態を把握するために役立ちます
ここではまず、品質管理で用いられる代表的な管理図の種類を解説します。
計量値管理図の種類
計量値管理図は、製品の長さ・重さ・温度といった数値データを対象とし、工程における数値的なバラつきを継続的に監視するための手法です。代表的なものに「X−R(Xbar-R)管理図」と「X−s(Xbar-s)管理図」があります。
X−R(Xbar-R)管理図
X−R管理図は、少量のデータ群(5〜10個程度)から平均値(X)とデータのバラつき(範囲R)を同時に管理する際に使われます。
サンプルごとに平均値と最大値・最小値の差(レンジ)をプロットし、工程が安定しているかどうかを確認します。少ないサンプル数でも精度の高いモニタリングが可能なため、日常的な工程管理に幅広く利用されている管理図です。
X−s(Xbar-s)管理図
X−s管理図は、サンプルサイズが大きい場合(10個以上)に適した管理図です。群ごとのバラつきを範囲(R)ではなく標準偏差(s)で評価することで、より正確に工程の変動を把握できます。サンプル数が多い現場や、安定性をより高い精度で確認したい場面に有効な手法です。
計数値管理図の種類
計数値管理図は、不良品の個数や発生件数といった「数えられるデータ(非連続データ)」を対象とする管理図です。検査や品質保証の場面でよく利用され、製品の合否や不良率を基準に工程を監視するのに役立ちます。主に、np管理図、p管理図、c管理図、u管理図が用いられます。
np管理図
np管理図は、サンプルデータ数を表す「n」と不適合品率「p」を掛け合わせ、不適合品数(np)を算出してグラフ化する管理図です。検査数が常に一定であるときに使用され、不適合品の数そのものをもとに品質の状態を判断します。
p管理図
p管理図は、不適合品の割合(p)をグラフ化した管理図です。検査数が一定でない場合や、np管理図が使えないケースに適しています。検査数が変動しても不良率を基準に評価できるため、実務で広く活用されています。
c管理図
c管理図は、一定の単位あたりに含まれる欠点数(c)をグラフ化する方法です。サンプルサイズ(n)が一定であり、1つの単位に複数の欠点が含まれる可能性がある場合に適しています。たとえば、製品1個あたりのキズや不良箇所の数を監視するケースで有効です。
u管理図
u管理図は、一定の単位あたりの欠点数を割合で管理するための管理図です。サンプルサイズが一定でない場合や、1単位あたりに複数の欠点が発生する可能性がある場合に用いられます。「不良個所の数」や「業務ミスの件数」など、欠陥の発生頻度を精緻に把握したいときに有効です。
管理図の書き方・作成方法
管理図は、データを集めて計算し、管理限界線を設定してグラフ化することで完成します。具体的な管理図の作成ステップは以下のとおりです。
手順 | 工程 | 概要 |
---|---|---|
STEP1 | 品質特性の選定 | 管理したい品質項目を明確にする(例:製品の寸法、重さなど) |
STEP2 | データの収集 | 選定した管理項目の製品データを収集する |
STEP3 | 各郡の平均値(X)と範囲(R)の計算 | 各サンプル群の平均値(X)と、最大値と最小値の差(範囲R)を計算する |
STEP4 | Xの総平均値とRの総平均値の計算 | すべての群の平均値と範囲の平均値を算出したら、全体のXの平均値とRの平均値を計算する |
STEP5 | 中心線と管理限界線の設定 | 中心線(CL)と管理限界線(UCL, LCL)を計算する |
STEP6 | グラフ化 | X管理図とR管理図を上下に並べ、中心線と管理限界線を引く |
STEP7 | 管理線の延長 | 管理線を延長して今後の製造工程を管理する |
STEP8 | モニタリング | 製造中に定期的に平均値とバラつきを計算・プロットし、異常な動きがないかを監視する |
ここでは、一般的に活用されるX−R管理図を例に、作成手順をステップごとに解説します。X−R管理図は「工程の平均値の変化」を管理するX管理図と、「バラつきの変化」を管理するR管理図の2つで構成されるため、以下のステップで計算を行います。
STEP1. データの収集
まず、管理したい製品の重量や寸法などの品質特性を明確にします。集めるデータを定義したら、1時間に5個など一定の周期で複数回サンプルを取り、いくつかの群に分けて収集します。一般的には、1群あたり4〜5個程度のデータが適しています。
STEP2. 各郡の平均値(X)と範囲(R)の計算
収集したデータから、各群の平均値(X)と範囲(R)を計算します。
平均値(X)= 群のデータ合計 ÷ サンプル数
範囲(R)= 群の最大値 − 群の最小値
これにより、それぞれの群ごとの中心とバラつきが把握できます。
STEP3. Xの総平均値とRの総平均値の計算
すべての群の平均値(X)と範囲(R)が算出できたら、それらの平均値を求めます。
Xの総平均値 = 各郡の平均値(X)の合計 ÷ 群の合計数
Rの総平均値 = 各郡の範囲(R)の合計 ÷ 群の数
これが、管理図上の中心値とバラつきの基準になります。
STEP4. 中心線と管理限界線の設定
次に、X管理図とR管理図それぞれに中心線(CL)と管理限界線(UCL、LCL)を設定します。各管理限界線の計算方法は以下のとおりです。
X管理図の管理限界線の求め方
- 中心線(CL)= Xの総平均値
- 上方管理限界線(UCL)= Xの総平均値 + A2 × Rの総平均値
- 下方管理限界線(LCL)= Xの総平均値 - A2 ×Rの総平均値
R管理図の管理限界線の求め方
- 中心線(CL)= Rの総平均値
- 上方管理限界線(UCL)= D4 × Rの総平均値
- 下方管理限界線(LCL)= D3 × Rの総平均値
※A2、D3、D4は、群のサンプル数に応じて定められた管理図係数
なお、X管理図とR管理図の管理限界線を算出する際は、以下の「管理図係数表」に記載された定数を使います。
定数は各群のサンプル数(STEP1の例ではn = 5)の行を参照し、A2、D3、D4が交差する数値を計算式に当てはめて計算します。
出典:日本産業規格「JISZ9020-2:2016 管理図-第2部:シューハート管理図」
STEP5. グラフの作成
最後に、算出した中心線と管理限界線をグラフに描き入れ、各群の平均値(X)と範囲(R)をプロットします。X管理図とR管理図を上下に並べることで、工程の平均とバラつきの両方を同時に判別できるようになります。
異常判定の8つのポイント
管理図は、工程が統計的に安定しているかを判断するためのツールですが、グラフの形が少しでも基準から外れると「異常」と見なされる場合があります。異常のサインを早期に発見することで、不良の拡大や品質トラブルを未然に防ぐことが可能です。
ここでは、管理図で用いられる代表的な異常判定の8つのルールを解説します。
1.点が管理限界線を超えている
管理限界線(UCL・LCL)を超える点が1つでも出現すると異常と判断されます。これは領域A(±3σ)の範囲を超える変動であり、工程に異常原因が発生している可能性が高い兆候です。
2.同じ側に点が連続して並ぶ
中心線より上または下に、7~9点以上が連続して並ぶ場合は偏りが生じている状態です。本来はランダムにばらつくはずのデータが一方向に片寄っているため、工程に異常が起きていると考えられます。
3.点が連続して上昇・下降している
データが6点以上連続して上昇または下降しているときは異常の兆候です。バラツキではなく一方向の変化が続いているため、温度や湿度、材料劣化など時間依存の要因が影響している可能性があります。
4.点が連続して交互に増減している
データがジグザグに交互で増減している場合、必ずしも異常とは限りませんが、設備や作業条件に揺らぎが出ている兆候です。増減している波の周期性を調査し、原因を突き止める必要があります。
5.連続する3点のうち2点が領域Aにある
極端な値を示す領域Aに、3点中2点が出現すると異常の可能性が高まります。これは工程が管理状態から外れているリスクを示すサインです。ただし、片側の領域Aに点が現れたのち、その反対側の領域Aにも点が現れた場合は該当しません。
6.連続する5点のうち4点が領域Bにある
連続してプロットされる5点のうち、4点が同じ側の領域B以上に集中すると異常とみなされます。一見安定しているように見えても工程に偏りが生じており、放置すると長期的な品質低下につながる恐れがあります。
7.点が中心線の近くに集中している
連続した点が中心線の近く(領域C)に集まりすぎると、バラつきが極端に小さい異常とみなされます。バラツキが小さすぎるのは自然な状態ではなく、測定ミスやサンプリングの誤りなどが考えられるため、正しいサンプリングができているかどうかを再確認する必要があります。
8.連続する8点が領域C以上にある
連続する8点が領域C、またはそれ以上の領域にプロットされる場合は異常とみなされます。中心線からの距離は小さいものの、工程や品質に偏りが強く表れている状態です。設備設定の変更や原材料ロットの違いなど、工程条件の変化が影響している可能性があります。
まとめ
管理図は、工程の安定性や品質を継続的に把握するための重要なツールです。計量値管理図や計数値管理図といった種類を使い分けることで、データの特性に応じたモニタリングが可能になります。
また、8つの異常判定ルールを正しく理解して活用すれば、見逃しやすい工程の異常を早期に発見し、品質トラブルの未然防止につなげられます。管理図を単なる記録として使うのではなく、「異常の兆しを見抜くための仕組み」として活用することが、安定した製品づくりの鍵となるでしょう。
よくある質問
管理図とは何ですか?
管理図とは、製造工程が安定しているかどうかをグラフで視覚的に判断するための品質管理ツールです。安定性や異常の有無を客観的に把握できるため、工程の異常を早期発見し、品質トラブルを未然に防げます。
詳しくは、記事内「管理図とは」をご覧ください。
管理図の種類は?
管理図は、「X−R管理図」や「X−s管理図」「np管理図」「p管理図」などがあり、対象となるデータの性質や数量によって使い分けられます。
詳しくは、記事内「管理図の種類」をご覧ください。
管理図の作成方法は?
一般的に活用されるX−R管理図の場合、以下の流れで管理図を作成します。
- 品質特性の選定
- データの収集
- 各郡の平均値(X)と範囲(R)の計算
- Xの総平均値とRの総平均値の計算
- 中心線と管理限界線の設定
- グラフ化
詳しくは、記事内「管理図の書き方・作成方法」をご覧ください。