受発注の基礎知識

業務委託でよくあるトラブル事例を紹介!契約時の注意点と回避するための対策とは

監修 谷 直樹 長崎国際法律事務所

業務委託でよくあるトラブル事例を紹介!契約時の注意点と回避するための対策とは

業務委託とは、企業が業務の一部を切り出し、外部の事業者や個人にその業務を委託することです。企業のニーズに合わせて発注できる、人件費(固定費)の削減などにつながる、といったメリットがあります。

しかしその一方で、業務委託はトラブルが起こりやすい発注形態でもあります。委託先とのトラブルを避けて良好な関係を築きたいなら、「どのようなトラブルがあるのか」「トラブルを回避するためにどういった契約書が必要か」といった点を正しく理解しておくことが大切です。

本記事では、業務委託契約の概要や業務委託契約でよくあるトラブル事例、業務委託契約書に記載すべき事項、個人事業主・フリーランスとの業務委託契約で注意したいことなどを解説します。

目次

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業務委託契約とは

業務委託契約とは、企業や個人が行おうとしている事務や業務を他者へ任せたい場合に締結する契約のことです。契約においては、仕事を委託する側を「委託者(委任者)」、仕事を受ける側を「受託者(受任者)」と呼びます。

企業などの使用者(雇用主)と労働者が結ぶ「雇用契約」と異なるのは、委託者から受託者への指揮命令権限が存在せず、対等の立場として締結する点です。受託者は時間や仕事のやり方に関する制限を受けず、契約内容に則ったうえである程度自由に仕事を進められます。

契約した範囲の仕事が完了すると、その時点で当該契約関係は終了します。その後、同じ受託者に新しい仕事を依頼するか、そのまま依頼せずに終了するかは委託者の自由です。

委託者は業務委託契約によって必要な業務をピンポイントで依頼できるので、雇用契約より人件費や管理費などのコストを調整(削減)しやすいのが特徴です。また、自社にはない知識やスキルを外部の専門家に求められる点もメリットといえます。

よくある業務委託のケース

  • 新しいオウンドメディアの制作を、コンテンツ制作会社へ依頼する
  • コーポレートサイトの文章の執筆を、ライターへ依頼する
  • 自社でリリース予定の新アプリの制作を、エンジニアやプログラマーに依頼する
  • 新しい広告のキャッチコピーや出稿を、広告代理店へ依頼する
  • 自社ブランドのお菓子の製造を、別の食品工場へ依頼する
  • 契約のリーガルチェックやその他法務について、弁護士と顧問契約を結ぶ
  • 従業員向けの研修の企画や講師を、コンサルタントへ依頼する
  • 特定の建築工事を、建築会社へ依頼する

このように、業務委託契約なら企業のニーズや状況に応じたさまざまな業務を外部へ依頼できます。

業務委託契約に関わる法律

結論からいうと、業務委託契約について定められた法律はありません。そもそも業務委託契約という名称は、法律用語ではなく実務上の用語です。民法第632条で定められた「請負契約」および民法第643条にて記載されている「委任契約」をまとめて、業務委託契約と呼んでいます。

委託先と業務委託契約を結ぶときは、予定する契約内容が「請負契約」と「委託契約」のどちらに近いのかを確認し、より近いほうの法的根拠に基づく契約書を作成しましょう。業務委託契約を構成する要素は非常に多いため、「請負か委任か」がはっきりわかる契約書を作らないと、後でトラブルにつながるリスクがあります。

出典:e-Gov法令検索「民法 第六百三十二条」
出典:e-Gov法令検索「民法 第六百四十三条」

業務委託契約と雇用契約の違い

雇用契約とは、使用者(雇用主)が使用者の下で働く労働者に対して労働の対価となる報酬を支払う契約です。正社員・契約社員・アルバイトなど、さまざまな雇用形態が該当します。雇用契約の法的根拠としては、民法第623条や労働基準法、労働契約法などが関わってきます。

業務委託契約と雇用契約で異なるのは、「指揮命令権限の有無」です。

雇用契約の場合、労働者を使用する企業は賃金を支払う立場になります(使用従属性)。労働者は、社会保険・雇用保険や労働基準法・労働契約法、福利厚生などによる保護を受ける代わりに、労働時間や業務の進め方などの命令・指示による拘束を受けます。

一方、業務委託契約は契約相手や契約内容にかかわらず、原則として雇用契約のような指揮命令権限が存在しません。しかし、労働者のように社会保険、労働関係の法律、企業の福利厚生による保護はなく、受託者自身が契約に関するさまざまな責任を負う必要があります。

なお契約時に業務委託契約として締結しても、明らかに使用従属性がある契約だと判断されたときは「偽装請負」扱いになる可能性があります。

出典:厚生労働省「労働基準法研究会報告」

業務委託契約の種類

業務委託契約は、「請負契約」と「委任契約」に分けられます。また、委任契約のうち法律行為以外の業務を委託する契約を「準委任契約」と呼びます。同じ業務委託契約でも、請負契約と委任契約では構成する要素や特徴が異なるので注意しましょう。

請負契約

請負契約とは、「依頼した仕事を受託者が完成させたとき、その成果に対して報酬を支払う契約」です。受託者から納品された成果を検収し、問題がなければ契約通りの報酬を受託者へ支払います。

請負契約の特徴は、報酬の対価となるのが「成果のみ」である点です。「成果物の品質が悪い」「委託した業務が途中で終了した」「委託した内容と異なる要件・形状の物品が納品された」といった場合、対価が発生しない可能性があります。

また、原則として成果物を完成させるために要した作業時間や労力、過程などは考慮されません。これらの要素を反映するには、契約締結時に作業時間などを考慮した報酬額を設定する必要があります。

◆請負契約の代表職種と委託内容の具体例

  • プログラマー:あるゲームアプリのシステムの一部分のプログラミング
  • ライター:検索エンジンの上位表示を目的とした、特定のキーワードに関するSEO記事の執筆
  • デザイナー:事業で使用するロゴマークのデザイン制作
  • 建築会社:マンションの建築工事
  • 営業代行:一定の売上に応じて報酬が得られる営業業務の代理

委任契約

委任契約とは、請負契約とは異なり「業務の遂行そのものに報酬を支払う契約」です。成果物の品質や納期ではなく、契約期間内に業務をすればその行動自体に対価が発生します。たとえば弁護士や税理士といった士業関係と結ぶ顧問契約も、委任契約の一種になります。委任契約に該当するのは、法律行為が伴う業務を委託した場合です。

請負契約と比較すると、業務内容の細かな変更や臨機応変な対応がしやすいのが委任契約のメリット。一方で、委託者が望んでいた成果・品質につながらなくても、契約内容に応じた報酬を支払う必要があるのがデメリットです。

また委任契約は、受託者側に民法第644条における善管注意義務(社会的地位や能力などから考え、業務遂行において通常期待される注意義務のこと)が発生します。

◆委託契約の代表職種と委託内容の具体例(一部項目は準委任契約とも判断される)

  • 弁護士:訴訟行為の代行
  • 税理士:税務相談や確定申告代行
  • 司法書士:会社登記や土地の名義変更
  • 社会保険労務士:労働保険や社会保険に関する手続代行や就業規則・賃金規定などの帳簿作成
  • 行政書士:官公署へ提出する書類や権利義務に関する書類の作成代行

出典:e-Gov法令検索「民法 第六百四十四条」

準委任契約

準委任契約とは、「『契約の締結や税務処理といった法律行為』以外の業務に関する委託契約」です。準委任契約に該当する業務としては、事務作業、企画、設計、コンサルティング、医療行為などが挙げられます。

また、準委任契約はさらに「履行割合型」と「成果完成型」に分類されます。

履行割合型は、業務の工数や時間などの履行の割合に応じた報酬が発生する準委任契約です。一方の成果報酬型の場合は、成果物や業務結果にかかわらず業務遂行によって発生した成果(利益など)の割合に応じた報酬が発生します。

準委任契約は、「契約時点で具体的な成果物が決まっていない」「そもそも明確な成果物が存在しない」といった業務の委託時に締結するケースが一般的です。また士業と契約を結ぶ場合でも、法律行為に関する業務を委託しないときは準委任契約に該当します。

◆準委任契約の代表職種と委託内容の具体例

  • エンジニア:契約期間内の保守点検サービスやシステム開発のテスト作業
  • コンサルタント:経営に関する各種コンサルティング
  • 医者:患者の診察
  • 弁護士:契約書のリーガルチェック
  • 介護サービス会社:高齢者の介護サービス


【関連記事】
業務委託契約とは?契約の種類や締結の流れを分かりやすく解説

業務委託契約でよくあるトラブル事例と対策

業務の遂行方法を指定できず、契約内容の裁量も幅広い業務委託契約においては、雇用契約ではあまり見られないようなトラブルも発生します。業務委託契約でよくあるトラブル事例をチェックしておくことで、トラブル発生時に対処しやすいだけでなく、トラブルを回避することにもつながるでしょう。

以下では、業務委託契約でよくある5つのトラブル事例と、それぞれの対策について見ていきましょう。

業務委託契約でよくあるトラブル事例

  1. 納期に関する認識違い
  2. 修正対応における責任の所在
  3. 支払内容・方法に関する認識違い
  4. 委託先の契約不履行
  5. 機密情報の漏えい

業務委託契約に関するトラブルの要因は、委託者・受託者双方に存在します。特に委託者側の要因は、優越的地位の濫用行為(有利な立場を使用して、委託者が受託者へ不利益を与える取引を行うこと)による下請法(下請代金支払遅延等防止法)違反になる危険性があります。

法的トラブルを避ける意味でも、トラブル事例の確認は重要です。

トラブル事例1:納期に関する認識違い

業務委託契約でよくあるトラブルのひとつに、成果物の納期に関する認識違いがあります。委託者側が特に注意したいのは、期日になっても受託者から成果物が納品されないトラブル。「1週間以上納品されない」「未納品のまま音信不通になった」などのケースも実際に存在します。

受託者からの納品が大幅に遅れると、委託者側もスケジュールや人員配置の再調整が必要になります。受託者が二次請け・三次請け以降の業者だった場合は、エンドクライアントとの調整も避けられないでしょう。企業にとって受託者の納期管理は、自社の売上・信用に関わる重要な業務です。

もし受託者が何度も納期遅延を繰り返す場合は、業務委託契約書の内容に則った措置を受託者へ講じることができます。契約解除や請求の拒否はもちろん、納期遅れによる損害金額や損害と遅延の因果関係が明確であれば、受託者への損害賠償請求も可能です。

出典:e-Gov法令検索「民法 第四百十五条」

一方で、納期遅延の措置に対して下請代金支払遅延等防止法を根拠に受託者から「代金が未払いとなっている」「不当な契約解除を受けた」と主張され、トラブルに発展するケースもあり得ます。納期連絡の失念、たび重なる仕様変更、急激な作業範囲の拡大など、委託者側が原因のトラブルが発生しないように注意してください。

対策:発注ごとに発注書を作成する

「納期に関する認識違い」への対策としては、発注ごとに詳細な発注書を作成することが挙げられます。口約束や改変可能なメッセージ(チャットなど)での約束ではなく、改変不可かつ法的効力を持つ発注書の作成、そして発注書上での合意を欠かさずに行いましょう。

納期の期日や納期遅延が発生したときの措置はもちろん、発注内容、受託者側の作業範囲、報酬金額などの必要な情報を盛り込むことで、「言った」「言わない」のトラブルに発展するのを防げます。

特に委託者が下請法の適用を請ける場合は、下請法第3条に規定された内容をすべて記載した発注書(3条書面)の発行が必要です。発注書を作る際は、受託者の納期遅延などに関する損害賠償請求について盛り込むことも検討してみてください。

出典:公正取引委員会「下請法 知っておきたい豆情報 その9」

トラブル事例2:修正対応における責任の所在

制作に関する業務を委託した際に発生しやすいのが、納品物の修正対応の有無についてです。

修正における責任の所在を契約時点で明らかにしていないと、受託者から「修正は受け付けない」「修正には追加報酬が発生する」と主張される可能性があります。たとえ納品されたものが低品質で受託者側に非があると判断できる場合でも、トラブルに発展する恐れがないとはいえません。

対策:修正内容について事前に取り決めておく

修正に関するトラブルを防ぐには、「事前に修正が発生しにくい運営体制にする」「修正内容や修正範囲について事前に取り決めておく」などの対策が挙げられます。たとえば、「業務に関する詳細な指示書を作成し共有する」「質問や疑問があるときにすぐ応答できる体制を整える」といったやり方によって修正が必要な事態を防ぐ(減らす)ことは可能です。

とはいえ、ヒューマンエラーを100%防ぐことは難しいことから、あらかじめ業務委託契約書に修正対応回数、修正が発生したときの追加料金、修正が発生したときの納期などを記載しておくことが大切です。契約内容の範囲内で、修正対応を受託者へ依頼しましょう。

委託者が下請法の適用を受ける場合、「不当な給付内容の変更・やり直し」に該当する修正を強要するのは下請法違反です。納品物に瑕疵(かし)がないにもかかわらず、委託者の一方的な都合(納品後の仕様変更・追加作業、委託者側の瑕疵によるやり直しなど)によって修正を指示することはできません。

出典:公正取引委員会「下請法 知っておきたい豆情報 その15」

トラブル事例3:支払い内容・方法に関する認識違い

報酬の支払い方法・内容に関する認識違いは、業務委託契約においてよくあるトラブルのひとつです。報酬金額や報酬の支払い条件(成果物の品質の基準、成果物によって発生した利益、請負・委任の違いなど)が契約締結時でも不明瞭なままだと、委託者・受託者の間で意見の食い違いが起こるリスクがあります。

支払い方法や内容に関するトラブル事例の具体例

  • 報酬を受け取るために必要な成果の基準が委託者と受託者で異なり、成果物の最終的な品質に影響が出る
  • 受託者の実績や実力に応じた報酬が設定されていない(実力に対して高すぎる、安すぎるなど)
  • 事前契約の内容と受託者側の請求金額や明細が一致しない

トラブルに由来する支払いの遅延や不正確な支払いが発生すると、委託者側が下請法違反に問われる恐れがあります。また、法律違反とはならなくても、委託先からの信頼を失うリスクがある点には注意が必要です。>

対策:下請法を遵守しつつ事前の明示を徹底する

業務委託契約における報酬関係のトラブルを防ぐには、報酬に関する詳細な取り決めと情報共有が必要です。

事前に契約書へ明示すべき事項の例

  • 報酬の対象となる成果物の基準(検収方法)
  • 報酬金額
  • 報酬金額の算定方法
  • 修正による追加報酬の有無
  • 支払期日
  • 納品されてからのスケジュール
  • 支払い方法(銀行振込、手形など)

業務委託契約においては委託者のほうが力関係が上になりやすいので、受託者の実績や要望を考慮せずに一方的な報酬金額を押し付ける行為は避けましょう。受託者に瑕疵がない状態で買いたたきや一方的な報酬減額などを行うと、下請法違反になるリスクがあります。

また、下請法が適用される委託者には、下請法における「発注時に支払期日を定める義務」に即した報酬支払日の取り決めが義務付けられています。下請法では、成果物やサービスを受領した日から起算して60日を経過した日以降を、支払期日として定めることは認められていません。

出典:e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法 第二条の二」

契約で取り決めた支払期日(契約で定めなかったときは受領日から起算して60日を経過した日の前日)までに委託者が報酬を支払わなかった場合、委託者は受託者に対し遅延利息を支払う必要があります。

出典:e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法 第四条の二」

トラブル事例4:委託先の契約不履行

「経営破綻や倒産などで委託先が稼働できない」「委託先が成果物を納品しないまま音信不通になった」「一方的に契約解除を告げられた」など、委託先の契約不履行によるトラブルも業務委託契約においてよくある事例です。

仮に自社がひとつの取引先に依存していると、当該取引先が契約不履行を起こした場合に自社のサービス提供が立ちいかなくなり、経営が一気に悪化する恐れがあります。委託先が少ない企業は、委託先の債務不履行の発生について十分に注意を払う必要があるでしょう。

契約不履行の種類には、主に「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」があります。


3つの契約不履行概要
履行遅滞履行期限を過ぎても、債務が履行されない
履行不能商品の破損・消失といった契約履行が不可能になる出来事が発生した
不完全履行履行はされたものの、履行内容が不完全となっている

対策:「4つの対処法」に則って対応する

委託先の契約不履行に対処するには、以下に則った修正対応について事前に取り決めておくのが有効です。


委託先の契約不履行に対応する4つの対処法概要
追完による完全な履行の請求履行されなかった内容を、民法第562条に基づく追完によって再度履行を求める(履行不能の場合は除く)
強制履行訴訟するなどして、裁判所を通じて強制的な履行を求める(履行不能の場合は除く)
契約解除契約不履行を理由として、事前に定めた契約解除要件に基づき契約解除する
損害賠償請求受託者側の契約不履行が直接の原因で損害を受けたとき、損害賠償請求を行う(請求権の行使の時効まで)

また契約不履行によるトラブルを避けるには、事業者の財務状態や実績などを調査し、契約不履行のリスクがあるパートナーを選ばないことが重要です。また、契約不履行になったときの損害の大きさを考慮し、複数の委託先に分散して発注するという選択肢も有効といえます。

トラブル事例5:機密情報の漏えい

自社の業務内容や情報を外部と共有する関係上、業務委託契約は機密情報の漏えいに注意する必要があります。もし受託者の落ち度や悪意によって機密情報が外部に漏れると、さまざまなリスクにつながります。

機密情報の漏えいによる具体的なリスク

  • 競合他社に情報やノウハウが流用され、市場における優位性がなくなる
  • 新製品や新コンテンツの情報が拡散され、マーケティングに悪影響が出る
  • 担当者の個人情報が詐欺などに悪用される
  • 情報漏えいによって発生した損害に対し、損害賠償を請求される可能性がある
  • 企業の信用度や株価、顧客数が大きく低下する可能性がある
  • 情報漏えいの原因調査や再発防止策実行にコストがかかる

対策:情報管理を徹底する

受託者の落ち度や悪意による情報漏えいは、委託者側の施策で完全に防ぐことは非常に困難です。しかしそれでも、業務委託契約における情報漏えい対策は完璧を目指すことが欠かせません。

情報管理を徹底するには、業務委託契約書に「秘密保持義務・守秘義務」の条項を設け、受託者に遵守させる必要があります。機密情報の共有方法や、情報が漏えいしたときの措置なども明確に定め、情報漏えいによって委託者・受託者ともに不利益を被ることを受託者へ伝えましょう。

また、業務委託契約書とは別にNDA(機密保持契約書)を締結しましょう。NDAとは、取引を通じて開示される各種情報の取り扱いについて定める契約です。

【関連記事】
秘密保持契約書(NDA)とは?締結するメリットや作成方法について解説

業務委託契約書に記載すべき項目

業務委託契約に関わるトラブル回避やトラブル対処のためには、必要事項を記載した業務委託契約書の作成が効果的です。ここからは、業務委託契約書に記載すべき項目、記載すべき理由、書き方などを解説します。

業務委託契約書に記載すべき13項目

  1. 委託業務の内容
  2. 委託料(報酬額)
  3. 支払条件、支払時期、支払方法など
  4. 成果物の権利
  5. 再委託の可否
  6. 秘密保持に関する条項
  7. 反社会的勢力の排除
  8. 禁止事項の詳細
  9. 契約解除の条件
  10. 損害賠償
  11. 契約期間
  12. 所轄の裁判所
  13. その他の事項

(1)委託業務の内容

業務委託契約において委託する業務の具体的な内容、目的の成果物、成果物の使用目的などを明記します。委託業務内容によって請負契約か委託契約かも変わってくるので、どのような契約にしたいかを明確にしてから委託しましょう。

◆業務委託契約書への記載例

甲は、乙に対し、以下のとおりの執筆業務を委託する

  • SEOコラム記事用のキーワード選定作業
  • SEOコラム記事の構成案作成(タイトル、各見出し)
  • 本文執筆(4,000文字以上、5,000文字以内)

(2)委託料(報酬額)

委託業務に対して発生する対価の金額を具体的に記載します。報酬に関するトラブルは実際に多いので、明確に記載しましょう。税抜金額、税込金額、単価、数量、源泉徴収税など、契約に応じた必要項目を入れます。

◆業務委託契約書への記載例

  • 22,000円(税抜金額20,000円、消費税2,000円)
  • 報酬振込時に源泉徴収税22,462円を差し引く

(3)支払条件、支払時期、支払方法など

委託料の支払条件、支払時期(納期)、支払方法を明確に記載し、報酬支払に関するトラブルが発生しないようにします。下請法が適用される委託者は、下請法違反とならないような支払条件と支払時期を設定しましょう。

◆業務委託契約書への記載例

甲は、本契約に関わる報酬として、以下の通りに乙へ支払うものとする。


  • 記事の完納をもって報酬が発生するものとする(修正作業を含む)
  • 履行期限 2024年6月30日までとする
  • 甲は、乙に対して請求書に従い、報酬を受領日の翌月末までに指定の金融機関へ振り込むものとする
  • 納品方法はWordで作成したものを共有する方法で行う

(4)成果物の権利

受託者から納品された成果物に知的財産権が発生する場合、発生した権利を誰に帰属させるのかを明記しておきます。委託者側に帰属させたい場合は、契約前に受託者にその旨を伝えて合意を得ておくと、トラブルを防ぎやすいです。

ただし、権利帰属の判断には著作権や商標権などが絡むため、業務内容や成果物によっては弁護士に相談したうえで契約書を作成するのがよいでしょう。また、著作人格権などといった「譲渡できない権利」についても確認しておいてください。

◆業務委託契約書への記載例

本件の過程で生じた知的財産権および成果物に含まれる知的財産権は、成果物の検収と同時に委託者へ移転するものとする。

(5)再委託の可否

再委託とは、受託者が委託者から受けた仕事を、さらに第三者へと委託する行為です。再委託は成果物の質や納期管理、情報漏えいのリスクなどに関わってくるため、再委託を禁止したいときは事前にその旨を契約書に明記しておきます。

◆業務委託契約書への記載例

  • 本契約にかかる業務においては、いかなる場合も第三者へ再委託してはならない。
  • 本契約にかかる業務においては、事前に甲より書面による承諾を得た場合に限り、第三者への再委託を許可するものとする。

(6)秘密保持に関する条項

機密情報の漏えいを防ぐ目的で、秘密保持に関する条項も詳細に記載します。

◆業務委託契約書への記載例

甲および乙は、本契約の履行にあたって知り得た秘密情報を本契約履行のためのみに使用すること。また、相手方の同意なく第三者に開示または漏洩しないものとする。ただし、以下のいずれかに該当する情報については、秘密情報に該当しないものとする。


  1. 相手方から提供または開示された時点で、すでに公知となっていた情報
  2. 相手方から提供または開示された後、自己の責めによらないで公知となった情報
  3. 相手方から提供または開示された時点で、すでに相手方に対して秘密保持義務を負うことなく保有していた情報
  4. 法律または契約に違反することなく第三者から提供または開示された情報

(7)反社会的勢力の排除

委託先が反社会勢力に属していたり関わっていたりした場合は、ただちに契約を解除できるとする条項も定めておきましょう。

近年では反社会勢力に関する企業のコンプライアンスが強化されている背景もあり、もし委託先が反社会勢力と知っていて取引すると、重大なコンプライアンス違反を指摘される懸念があります。

◆業務委託契約書への記載例(引用)

(反社会的勢力の排除)
甲及び乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を確約します。
① 自らが、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと。
② 自らの役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと。
③ 反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この媒介契約を締結するものでないこと。
④ この媒介契約の有効期間内に、自ら又は第三者を利用して、次の行為をしないこと。
ア 相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為
イ 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為
2 甲又は乙の一方について、この媒介契約の有効期間内に、次のいずれかに該当した場合には、その相手方は、何らの催告を要せずして、この媒介契約を解除することができます。
ア 前項①又は②の確約に反する申告をしたことが判明した場合
イ 前項③の確約に反し契約をしたことが判明した場合
ウ 前項④の確約に反する行為をした場合
3 乙が前項の規定によりこの媒介契約を解除したときは、乙は、甲に対して、約定報酬額に相当する金額(既に約定報酬の一部を受領している場合は、その額を除いた額。なお、この媒介に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を除きます。)を違約金として請求することができます。



出典:警視庁「媒介契約書 モデル条項例」

(8)禁止事項の詳細

業務契約において、委託者が受託者に対して業務を行う際に禁止としたい事項があれば記載しましょう。

(9)契約解除の条件

業務委託契約において、途中での契約解除となる条件を設定し記載します。受託者の契約不履行やその他自社への損害から守るためにも、さまざまなトラブルを想定して決めておきましょう。

無条件で解除できる条件や期間、社会通念上妥当と認められる一般的な解除条件などを設定しつつ、委託先から納得を得られる内容にします。

◆業務委託契約書への記載例

甲または乙は、他の当事者が次の各号に該当した場合は催告なしでただちに本契約の全部または一部を解除することができる。

  • 本契約に違反し、相当の期間において是正を求めたにもかかわらず、相手がその違反を是正しないとき
  • 相手方の信用や名誉、相互の信頼関係を傷つける行為をしたとき
  • 破産手続、民事再生手続、会社更生手続などの倒産手続開始の申し立てがあったとき
  • 支払停止、支払不能、手形または小切手の不渡りとなり、銀行取引停止処分を受けたとき

(10)損害賠償

成果物の不備や欠陥、納期の大幅な遅れ、契約不履行、その他契約違反や契約解除があったときに、それが原因で発生した損害への損害賠償に関する条項も設けておきます。

◆業務委託契約書への記載例

  • 甲または乙の責めに帰すべき事由により契約書の内容が守られず、甲または乙が損害を受けた場合は、受けた通常損害の範囲内において相手方に損害賠償を請求できる。
  • 本条に基づく損害賠償の額は、甲乙協議の上で決定する。

(11)契約期間

委託契約などで契約期間を定めた取引を行うときは、契約期間を明記しておきます。また、請負契約でも目安として契約期間を記載するのが一般的です。

◆業務委託契約書への記載例

本契約における有効期間は、2024年4月1日から2025年3月31日までとする。ただし、満了の日から数えて1ヶ月前までに甲乙いずれからも申し出がなかった場合は、同一の条件で有効期間は1年間更新されるものとする。

(12)所轄の裁判所

業務委託契約が原因で裁判沙汰になった場合の、所轄の裁判所を明記しておきます。委託者と受託者の所轄の裁判所が離れているときは、特にしっかりと定めておきましょう。

◆業務委託契約書への記載例

当該契約に関する紛争については、訴額に応じて東京地方裁判所または東京簡易裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

(13)その他の事項

上記の(1)~(12)の項目以外で記載すべき内容があれば、明記しておきましょう。

個人事業主・フリーランスとの業務委託契約で注意したい2つの法律違反

企業が個人事業主・フリーランスと業務委託契約を締結するときには、「偽装請負」と「二重派遣」による法律違反とならないよう、契約に細心の注意を払う必要があります。

「偽装請負」とは、労働者派遣のように人材を扱う業務委託契約のことです。「請負契約なのに、委託者が受託者へ指揮命令を行う」「業務時間や業務場所を指定する」といったケースは、偽装請負に該当する可能性があります。正社員を解雇してから同じ人材と請負契約を結び、正社員の頃と同じように働かせる行為は、偽装請負の一例です。

「二重派遣」とは、派遣元に雇われている従業員が、派遣先の意向でさらに別の会社へ派遣されることです。業務委託契約を結んでいる委託者からの命令で別の企業への出向を命じられたり、無関係の会社で働かされたりすると、二重派遣に該当する恐れがあります。

委託者が二重派遣を命じるのはもちろんアウトですが、二重派遣された人材と知らずに契約してしまうことも避けなければなりません。

偽装請負や二重派遣を行った委託者は、労働者派遣法第59条や職業安定法第44条に基づき、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。また、ケースによっては「中間搾取」として、労働基準法第118条に則って1年以下の懲役または50万円以下の罰金となる可能性があります。

出典:e-Gov法令検索「労働者派遣法 第五十九条」
出典:e-Gov法令検索「職業安定法 第四十四条」
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第百十八条」


偽装請負や二重派遣を避けるには、委託先となっている個人事業主・フリーランスに対し定期的なヒアリングを行うことが重要です。「担当者から指揮命令を受けていないか」「業務に関する拘束を受けていないか」などについて、契約書ではわからない契約の実態をチェックしましょう。

出典:厚生労働省 東京労働局「あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ?」

業務委託契約のトラブルや作業負担を軽減する方法

業務委託契約によって外部の専門家の力を借りるメリットは大きい一方で、トラブルや法律違反のリスクの面で担当者には大きな負担がかかるというデメリットもあります。

業務委託契約によるリスク

  • 業務委託契約に関する管理(発注書、請求書、納品書などの発行・管理やメッセージのやり取りなど)にかかる時間や労力が大きい
  • 委託先から送られてくる請求書やその他の書類に不備が多く、作業負担が増える
  • 適切な契約が交わせておらず、希望する納期や品質で成果物が上がってこない
  • 契約内容が曖昧なまま進めてしまい、委託先との口論や損害賠償請求沙汰に発展する
  • 知らずのうちに労働者派遣法や下請法違反となり、刑罰が科される

こうした業務委託契約のトラブルリスクや作業負担へ臨機応変に対応したいなら、業務委託契約を適切に管理できるシステム・ツールの導入がおすすめです。

たとえば「freee業務委託管理」なら、業務委託契約の締結や注文書作成から、請求書回収と支払管理までひとつのプラットフォームでまとめて管理できます。また下請法、フリーランス保護新法、電子帳簿保存法、インボイス制度などの各種法令・制度にも対応しており、法令や制度に変更があったときも自動で対応してくれます。

まとめ

業務委託契約は企業のニーズに合わせた柔軟な発注ができるメリットがある反面、契約内容を明確にしつつ適切に管理しないと、さまざまなトラブルに発展するリスクがあります。特に納期、修正、報酬、不履行、情報漏洩の5点に関するトラブルが多い傾向にあります。

こうしたリスクを回避するには、業務委託契約のトラブル事例を頭に入れたうえで、業務委託契約の内容決めや発注書・契約書の発行を行うことが大切です。適切な発注書・契約書を発行しておくことで、トラブルを最小限に抑えながら委託先と取引を進められるでしょう。

フリーランス・業務委託先への発注を効率化する方法

フリーランスや業務委託先との取引が多い企業にとって、手間がかかるのが発注業務です。

一口に発注業務といっても、契約や発注、請求など対応すべき作業は多岐にわたり、管理が行き届かないケースがあります。たとえば、法令にもとづく適切な発注ができていなかったり、請求書の提出期日が守られなかったり、請求書の不備で差し戻しが発生したりなどの課題が挙げられるでしょう。

このような課題を抱えている発注担当者におすすめしたいのが、業務委託管理システム「freee業務委託管理」です。

freee業務委託管理を活用すると、フリーランスや業務委託先への発注に関する手続きや取引情報のすべてを一元管理できるようになります。契約締結から発注、業務期間のやり取り、納品、検収、請求、支払いまで、一連の対応をクラウド上で完結できるため、管理コスト削減や業務効率化、取引に関するトラブルのリスク低減などのメリットをもたらします。

また、フリーランスや業務委託先との過去の取引履歴や現在の取引状況の管理も可能です。発注実績や評価を社内共有しやすく、業務委託の活用による従業員のパフォーマンス向上が期待できます。

freee業務委託管理の主な活用メリットは以下のとおりです。

発注に関わる手続きや取引情報を一元管理

クラウド上で契約完了

初めて取引を行うフリーランスや業務委託先と契約を締結する際、freee業務委託管理を使えば、クラウド上でのスムーズなやり取りが可能です。

契約書はそのままクラウド上に保管されるため、契約情報をもとに発注内容を確認したり、契約更新時のアラート通知を受け取ったりすることもできます。

発注対応や業務進捗を可視化

発注書の作成・送付は、フォーマットに業務内容や報酬、納期などを入力するだけで完了します。

また、発注業務をメールや口頭でのやり取りで行っていると、管理上の手間がかかるのはもちろん、発注内容や業務進捗などを把握しづらいこともあるでしょう。freee業務委託管理は発注内容が可視化され、プロジェクトの業務進捗や残予算をリアルタイムに把握するうえでも役立ちます。

正確な請求管理を実現

発注業務でもっとも忘れてはならないのが、請求管理です。報酬の支払い漏れや遅延は企業の信用に関わるため、情報の一元管理によって正しく効率的に行う必要があります。freee業務委託管理ならフリーランスや業務委託先が請求書を発行する際も、ワンクリックで発注書に連動した請求書を作成可能。請求書の回収状況が一覧で確認できるほか、請求処理に関する上長や経理担当者の承認作業もクラウド上で行えます。

支払明細書の発行も可能

確定申告の際に必要な支払明細書(支払調書)も、フリーランスや業務委託先ごとに発行できます。発行した支払明細書(支払調書)はPDFでダウンロードしたり、メールで送付したりすることも可能です。

法令への対策が万全

近年、発注側の企業がフリーランスや業務委託先に対して優越的地位を濫用するリスクを防ぐため、下請法やフリーランス保護新法(2024年11月1日施行予定)にもとづく適切な発注対応が求められています。また、インボイス制度や電子帳簿保存法の要件を満たす書類の発行・保存も不可欠です。

こうした法令に反する対応を意図せず行ってしまった場合も、発注側の企業に罰則が科される可能性があるため、取引の安全性を確保する必要があります。freee業務委託管理なら既存の法令はもちろん、法改正や新たな法令の施行にも自動で対応しているため、安心して取引を行うことができます。

カスタマイズ開発やツール連携で運用しやすく

業務委託管理システムを導入する際は、発注業務の担当者が使いやすい環境を整えることも欠かせません。freee業務委託管理は、ご希望に応じて、オンプレミスとの連携や新たな機能の開発などのカスタマイズも可能です。また、LINE・Slack・Chatwork・freee・CloudSign・Salesforceなど、各種ツールとの連携もできます。

より詳しくサービスについて知りたい方は、無料ダウンロード資料「1分で分かるfreee業務委託管理」をぜひご覧ください。

よくある質問

業務委託契約の種類は?

業務委託契約は、契約に定めたある成果物の完成をもって報酬を支払う「請負契約」と、成果に関係なく業務の遂行そのものに報酬が発生する「委任契約」および「準委任契約」に分かれます。

詳細は、記事内の「業務委託契約とは」をご覧ください。

業務委託でよくあるトラブル事例は?

以下の5つが、業務委託契約でよくありがちなトラブル事例です。


  1. 納期に対する認識違い(委託先の納品遅滞)
  2. 修正対応の責任の所在(成果物の修正の回数や範囲など)
  3. 報酬支払関係の認識違い
  4. 委託先の契約不履行
  5. 機密情報の漏えい

詳細は、記事内の「業務委託契約でよくあるトラブル事例と対策」をご覧ください。

個人事業主・フリーランスへの業務委託で注意すべきことは?

企業が個人事業主やフリーランスと業務委託契約を結ぶときは、委託先ではなく労働者として働かせる「偽造請負」や、委託先を別の企業で働かせるといった「二重派遣」にならないよう注意が必要です。

詳細は、記事内の「個人事業主・フリーランスとの業務委託契約で注意したい2つの法律違反」をご覧ください。

監修 谷 直樹 長崎国際法律事務所

長崎県弁護士会所属弁護士。中小企業・個人事業主向けの経営相談窓口である「長崎県よろず支援拠点」に相談員として在籍し経営に関する法律問題について相談対応を行う。

監修者 谷直樹弁護士

業務委託先との契約・発注・請求・支払をまるごと管理

freee業務委託管理は、業務委託先との契約・発注・請求・支払を一元管理するクラウドのサービスです。下請法、フリーランス保護新法、インボイス制度、電子帳簿保存法など法令に対応した安全な取引を実現できます。