受発注の基礎知識

下請法ガイドラインとは?役割や構成、改正ポイントをわかりやすく解説

監修 寺林 智栄 NTS総合弁護士法人札幌事務所

下請法ガイドラインとは?役割や構成、改正ポイントをわかりやすく解説

昨今、原油価格や原材料の高騰が続くなか、事業者にとっては、価格への転嫁が難しいのが現実です。しかし、これを価格に転嫁せずに下請代金を抑えると、下請事業者との関係に軋轢が生じたり公正取引委員会から勧告や指導を受けたりして、最悪の場合は「悪徳事業者」とみなされる恐れがあります。

そうならないように押さえておきたいのが、下請法ガイドラインです。本記事では、下請法ガイドラインについて、近年改正されたポイントも含めて解説します。

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目次

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下請法ガイドラインとは

下請法(下請代金支払遅延等防止法、下請代金法等)のガイドラインとは、正式には「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」を指します(以下、「下請法ガイドライン」と記載)。

下請法ガイドラインは、下請事業者と親事業者の間で適正な下請取引が行われるよう、国が策定したガイドラインです。望ましい取引事例や、下請代金法等で問題となり得る取引事例が、わかりやすく具体的に記載されています。

2007年6月に初めて8業種の業種別下請ガイドラインが策定され、2023年2月末時点では、以下の20業種のガイドラインが公表されています。

  1. 素形材(素形材産業における適正取引等推進のためのガイドライン)
  2. 自動車(自動車産業適正取引ガイドライン)
  3. 産業機械・航空機等(産業機械・航空機等における下請適正取引等の推進のためのガイドライン)
  4. 繊維(繊維産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン)
  5. 電機・情報通信機器(情報通信機器産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン)
  6. 情報サービス・ソフトウェア(情報サービス・ソフトウェア産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン)
  7. 広告業(広告業界における下請適正取引等推進のためのガイドライン)
  8. 建設業(建設業法令遵守ガイドライン―元請負人と下請負人の関係に係る留意点)
  9. 建材・住宅設備産業(建材・住宅設備産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン)
  10. トラック運送業(トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン、トラック運送業における燃料サーチャージ緊急ガイドライン)
  11. 放送コンテンツ業(放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン)
  12. 金属産業(金属産業取引適正化ガイドライン)
  13. 化学産業(化学産業適正取引ガイドライン)
  14. 紙・紙加工業(紙・紙加工業産業取引ガイドライン)
  15. 印刷業(印刷業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン)
  16. アニメーション制作業(アニメーション制作業界における下請適正取引等の推進のためのガイドライン)
  17. 食品製造業(食品製造業・小売業の適正取引推進ガイドライン~豆腐・油揚製造業、同ガイドライン~牛乳・乳製品製造業、食品製造業者・小売業者間における適正取引推進ガイドライン)
  18. 水産物・水産加工品(水産物・水産加工品の適正取引推進ガイドライン)
  19. 養殖業(養殖業に係る適正取引推進ガイドライン)
  20. 造船業(船舶産業取引適正ガイドライン)

出典:中小企業庁「下請適正取引等推進のためのガイドライン」

上記の各業種ごとのガイドラインは、中小企業庁の「下請適正取引等推進のためのガイドライン」に掲載されているため、詳しい最新情報はそちらをご覧ください。

下請法ガイドラインの役割と構成

下請法ガイドラインは、親事業者に対して、禁止事項や留意点などを具体的に示すことによって、下請負事業者に不当な抑圧を行わないようにさせる役割があります。これにより、公正な下請取引を推進し、親事業者・下請事業者がともに競争力を維持・向上させることが目的です。

また、業界関係者(親事業者、下請事業者)が共同して業種別のガイドラインを作成していくプラクティスを通じ、事業者自らがガイドライン上の取り組みを実践していくことで、業種別の下請法ガイドラインの実効性を担保する狙いもあります。

このような役割や目的がある下請法ガイドラインは、概ね以下のような構成で作成されています。

  • 下請代金法等関係法令の解説
    下請代金法上の禁止行為(減額、支払遅延、買いたたきなど)についての解説を記載
  • 下請代金法に抵触するおそれのある留意すべき取引事例
    各業種の取引実態に応じて想定されている事例を取り上げ、下請代金法などに抵触する恐れがある行為であるかについての考え方などを記載。
  • 望ましい取引事例(ベストプラクティス)
    適切な取引価格の決定、取引条件の改善、明確化、親事業者と下請事業者の協力関係などに関する親事業者と下請事業者のベストプラクティスを記載。

下請法ガイドラインのベストプラクティスとは

ベストプラクティスとは、「望ましい企業取引事例」のことを指します。

「下請事業者と親事業者を対立するものと捉えない」「苦しい時こそ、それを共に乗り切る共存共栄のための運命共同体との認識を持つ」との考えのもと、以下のようなプロセスを辿りながら行われている取引のことをいいます。

  • コスト増加分を国際競争下においてただ転嫁するのではなく、下請事業者と親事業者が改善提案を共有して、コストを低減するような生産性向上を図る
  • その成果を両者でシェアするような関係を構築して、競争力を高める
  • 両者が適正な利潤を得る

出典:中小企業庁「「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」 ベストプラクティス集」

下請法ガイドラインの改正ポイント

2022年1月26日、下請法ガイドラインが改正されました。この改正は、「買いたたき」の解釈を明確にするものです。背景として、2019年から2021年にかけて、公正取引委員会による「買いたたき」に対する勧告や指導件数が増加傾向にありました。また、昨今の原油価格や原材料価格の高騰により、中小企業等が上がったコストを適切に転嫁できない恐れが懸念されていることも挙げられます。

2023年3月1日には、「令和5年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」が策定され、その中で「下請法の執行強化等」が制定されました。

具体的な内容は後述しますが、これは最低賃金の引き上げに伴って買いたたきや減額、支払遅延など中小事業者への不当なしわ寄せが生じないようにすることを目的とするものです。

買いたたきとは

「買いたたき」は、親事業者と下請事業者の間で下請代金の額を決定するとき、発注した商品・役務などに対して、通常支払われる対価に比べて著しく低い金額を不当に定めることです。これは下請法違反となります(下請法第4条第1項第5号)。

買いたたきに該当するかどうかは、運用基準において、以下の項目を総合的に勘案して判断するとされています。

  • 下請代金の額の決定方法(下請代金の額を決めるにあたって下請事業者と十分な協議が行われたかどうかなど)
  • 下請代金の額の決定内容(差別的であるかどうかなど)
  • 通常支払われる対価と当該代金との乖離状況
  • 当該給付に必要な原材料などの価格動向

出典:e-Gov法令検索「下請法」
出典:公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」

改正ポイント1.「価格転嫁をしない十分な理由の説明」の要求

価格転嫁をしない理由の説明に関して、改正前と後で以下のような変更が発生しました。


改正前原材料価格や労務費等のコストが大幅に上昇したため、下請事業者が単価引き上げを求めたにもかかわらず、一方的に従来どおりに単価を据え置くこと
(改正前下請法ガイドライン第4-5-(2)ーウ)
改正後労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来通りに取引価格を据え置くこと
(現行下請法ガイドライン第4-5-(2)ーエ)

「価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく」と、親事業者から価格転嫁をしない理由について十分な説明がされないことを要件として付加したものが、改正後の内容です。

この説明がされずに単価を据え置くと、買いたたきに該当するという推定が働くことになると考えられるため、留意すべきです。

改正ポイント2.「価格交渉で明示的に協議すること」を要求

価格交渉に関して、改正前と後で以下のような変更が発生(内容が新設)しました。


改正前(記載無し)
改正後労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと
(現行下請法ガイドライン第 4-5-(2)-ウ)

これは、「コストの上昇分の取引価格への反映の必要性」が問題となった場合、形式的な話し合いの場を設けることのみでは足りず、その内容について「明示的に協議すること」を要求したものです。

上記変更のほか、価格転嫁の対象となるコストとして「エネルギーコスト」が新たに明記されました。原油価格が上昇していることから、エネルギーコストについても適切に価格に転嫁される必要があるとの考え方が示されたものです。

改正ポイント3.下請法の執行を強化

下請法執行強化の目的は、先に述べたとおりですが、具体的な内容は以下のとおりです。

  • 重点的な立ち入り調査
    下請法違反被疑事件の処理状況等を踏まえ、令和5年度の重点立入業種を選定
  • 下請法違反行為の再発防止が不十分な事業者に対する取組
    再発防止が不十分な事業者に対する取締役会決議を経た上で改善報告書の提出要請
  • 法違反等が多く認められる業種における取引適正化に向けた取組強化の把握
    関係省庁とも連携し、事業者団体等が実施した取引適正化に向けた取引教科内容について必要なフォローアップ

まとめ

下請法を遵守するためには、下請法ガイドラインを十分に理解することが重要です。下請法に違反して悪質な事業者となってしまうことがないよう、ガイドラインの読み込みは十分に行いましょう。

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よくある質問

下請法ガイドラインとは

下請法ガイドラインは、下請事業者と親事業者の間で適正な下請取引が行われるためのガイドラインです。国が策定しています。

詳しくは記事内「下請法ガイドラインとは」で解説しています。

下請法ガイドラインのベストプラクティスとは

下請法ガイドラインのベストプラクティスとは、「望ましい企業取引事例」のことを指すものです。

詳しくは、記事内「下請法ガイドラインのベストプラクティスとは」をご覧ください。

監修 寺林 智栄(てらばやし ともえ)

2007年弁護士登録。2013年頃より、数々のWebサイトで法律記事を作成。ヤフートピックス1位獲得複数回。離婚をはじめとする家族問題、労務問題が得意。

寺林 智栄

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