契約の基礎知識

法的効力とは?契約書における意味や発生要件、無効になるケースをわかりやすく解説

監修 寺林 智栄 NTS総合弁護士法人札幌事務所

法的効力とは?契約書における意味や発生要件、無効になるケースをわかりやすく解説

法的効力とは、契約において当事者間に法律上の「権利」と「義務」が発生することです。約束を守らなかった場合には、裁判所を通じて強制的に履行を求めたり、損害賠償を請求したりできます。

本記事では、契約に法的効力が生じる要件や無効・取り消し・解除となるケース、署名や電子契約の取扱いを解説します。実務に必要なポイントをわかりやすくまとめているので、契約業務に関わる担当者は、ぜひ参考にしてください。

目次

法的効力とは?契約書における定義と重要性

法的効力とは、契約において当事者間に法律上の「権利」と「義務」が発生することです。約束を守らなかった場合には、裁判所を通じて強制的に履行を求めたり、損害賠償を請求したりできます。

なお、法的効力と混同されやすいのが「証拠力」です。証拠力とは「合意が本当にあったのか」「どの内容で合意したのか」を後から証明できることを意味します。

また、契約書が存在しなくても契約自体は成立します。メールやチャットでの合意でも成立はし得るため、「書面がなければ無効」というのは誤解です。

ただし、口頭のやり取りは後から内容を確認しにくく、当事者間で認識のズレが生じやすいといった問題があります。そのため、ビジネス上では契約書を作成することが望ましいとされています。その目的のひとつは、契約内容を明確にし、認識違いや曖昧な表現によるトラブルを防ぐことです。

また、万が一の紛争時に証拠として機能し、合意内容を客観的に立証する役割を持つことも契約書を作成する目的となります。とくに、企業間取引や継続的な業務委託契約など、利害関係が複雑になりやすい場面では契約書の作成は欠かせません。

【関連記事】
契約書を作成するときのポイントは?契約書の種類や電子契約書との違いも解説

契約に法的効力が生じるための4つの要件

契約が法的に有効であるためには、単なる「合意」だけでは不十分です。

ここでは、一般的な契約に共通して認められる、法的効力が生じるための4つの要件を説明します。

1. 当事者間で意思表示が合致していること

契約の基本となるのは、「申し込み」と「承諾」が一致することです。

たとえば一方的に商品を送りつけ、相手が何も言わないからといって契約が成立することはありません。実務では意図せぬ合意を避けるためにも、「承諾」の意思を明確に確認することが重要です。

2. 契約内容の確定可能性と適法性があること

契約内容が明確であることも重要です。合意内容が曖昧なままでは、後から解釈が分かれることで契約そのものが無効と判断される可能性があります。無効とは、契約が最初から法律上の効力を持たなかったとみなされる状態です。

また、内容が強行法規に反する場合、契約は無効となります。具体的には、違法行為の請負、暴対法や独占禁止法に抵触する契約などです。

さらに、社会の倫理や秩序に反する内容も公序良俗に照らして無効とされるため、契約内容の適法性は常に確認する必要があります。

3. 当事者に契約締結能力があること

契約を締結するには、当事者に意思能力が備わっていることが前提です。意思能力を欠く状態でされた意思表示や、未成年者が親権者の同意なく契約した場合は無効の対象となります。

法人の契約においても、代表権限を持たない社員が締結した契約は、無効または無権代理行為となる可能性があります。契約相手の代表権限や組織体制を確認し、適切な権限者が署名しているかを確かめることも重要です。

4. 法定の形式要件となっていること(一部の契約のみ)

契約は原則として方式の自由が認められており、必ずしも書面を交わす必要はありません。

しかし、法律で書面作成が義務付けられている契約の場合は必要です。

たとえば保証契約では、保証意思を明確化するため「書面または電磁的記録による意思表示」が必須とされています。また、定期借地契約や定期建物賃貸借契約など、借地借家法で書面交付が求められるケースもあります。

契約の法的効力が認められない・なくなるパターン

契約は当事者の合意に基づき成立しますが、場合によっては効力が認められなかったり後から失われたりすることがあります。

ここでは、法的な効力が認められない、またはなくなるケースについて解説します。

「無効」となるケース

公序良俗に反する契約は無効となるほか、違法行為の請負や社会倫理に反する内容もこれに該当します。

また、意思能力を欠く状態で行われた意思表示も無効です。たとえば、判断能力が著しく低下している状況の相手方と契約を締結した場合などが当てはまります。

さらに、契約内容に重大な錯誤があった場合にも無効の対象となる可能性があります。無効と判断された場合、契約ははじめから存在しなかったものとして扱われるだけでなく、原状回復の問題が生じる可能性もあるため注意しましょう。

「取り消し」となるケース

取り消しとは、一度は有効に成立した契約について後からさかのぼって無効にできる状態です。詐欺や強迫によって契約してしまったケースなどが当てはまります。

また、未成年者が親権者の同意を得ずに単独で契約をした場合も取り消しの対象となります。実務では、契約締結の経緯や相手方の行為が問題となるケースがあるため、事実関係を示す証拠や記録を残しておくことが重要です。

「解除」となるケース

解除とは有効に成立した契約について、後になって終了させることを指します。無効や取り消しとは異なり契約がなかったことになるわけではなく、それまでの履行関係は原則として有効です。ただし、解除によって原状回復義務が生じるケースもあります。

解除の具体的な例として挙げられるのは「債務不履行」です。納期遅延など重大な事由によって契約目的が達成できない場合に該当します。また、双方の合意によって契約を終了させる「合意解除」も実務で広く利用されています。

契約書の形式面における注意点

契約書を作成する際には、必ずしも署名や押印がなければ成立しないわけではありません。ただし、契約書の形式は契約の証拠力に影響するため、実務では注意して取り扱う必要があります。

ここでは、契約書の形式面における注意点を解説します。

署名・押印がなくても法的効力はある

契約の成立において、署名や押印は法律上の必須要件ではありません。民法の規定では「当事者間の合意」があれば契約は成立するため、署名や押印がなくても法的効力は生じます。

ただし、文書の真正性を証明するという点では、署名・押印は重要です。とくに契約によって紛争が起こった際、署名・押印があると、文書の成立と本人意思に基づく作成が推定されます(二段の推定)。これにより、契約書の証拠力が高まり、自分の主張を裏付ける有力な証拠となり得ます。

【関連記事】
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電子契約も紙と同じ法的効力を持つ

インターネットの普及に伴い電子契約の利用が一般化している近年では、民法上、当事者の合意があれば電子的な方法による契約も原則として有効です。

さらに、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)に定める要件を満たす電子署名が施された電子契約書は、紙の契約書に署名・押印したものと同等の証拠力が認められています。

電子署名が付与された電磁的記録には「本人が作成したものと推定される仕組み」が設けられています。電子署名が付与されていない場合は証拠力が弱まる可能性がありますが、電子署名が付与された電磁的記録なら紙の書面と同様に契約の成立や内容を証明することが可能です。

また、タイムスタンプによって改ざんがされていないことを証明できるほか、アクセスログにより「誰が」「いつ」「どの操作を行ったか」を記録できるメリットがあります。

まとめ

法的効力は、契約によって当事者同士が法律上の権利と義務を負う状態を指し、ビジネスにおいては取引を安全に進めるための重要な基盤となります。合意の成立要件を満たしていても、内容が違法であったり意思能力の欠如や詐欺・強迫があったりする場合は、効力が否定されることがあります。

また、署名や押印がなくても契約は成立しますが、証拠力を高める契約書の整備は不可欠です。形式・内容の双方を適切に確認し、トラブルのない契約締結を心がけましょう。

よくある質問

覚書や念書にも、契約書と同じ法的効力はある?

契約には「方式の自由」が認められているため、必ずしも契約書は必要ではありません。そのため、覚書や念書、口頭のやり取りであっても法的効力は発生します。

詳しくは、記事内の「法的効力とは?契約書における定義と重要性」をご覧ください。

メールやLINEでのやり取りでも、法的効力は発生する?

契約書が存在しなくても契約自体は成立するため、メールやチャット文面での合意でも法的効力は発生します。

詳しくは、記事内の「法的効力とは?契約書における定義と重要性」で解説しています。

契約書に押印がないと、その契約は無効になる?

契約に署名や押印がなくとも、法的効力は生じます。民法の規定では「当事者間の合意」があれば契約は成立するためです。

詳しくは、記事内の「署名・押印がなくても法的効力はある」をご覧ください。

参考文献

監修 寺林 智栄(てらばやし ともえ)

2007年弁護士登録。2013年頃より、数々のWebサイトで法律記事を作成。ヤフートピックス1位獲得複数回。離婚をはじめとする家族問題、労務問題が得意。

寺林 智栄

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