賃貸借契約書とは、貸主が所有する目的物を貸主に有償で使用・収益させることを約束し、その対価として賃料を受け取ることを約束する契約文書のことです。
マンションや戸建て住宅、土地などの不動産を貸し出す際は、借り手と賃貸借契約を結びます。その際には、賃貸借契約書を作成するのが一般的です。
本記事では、賃貸借契約書の役割や作成時のポイント、賃貸借契約締結までの流れを紹介します。また、2022年5月から可能となった不動産取引の電子契約についてもまとめました。
目次
- 賃貸借契約書とは
- 賃貸借契約書の作成は必須?
- 賃貸借契約書の主な種類
- 土地賃貸借契約
- 建物賃貸借契約
- 建物賃貸借契約書の読み方と作成ポイント
- 1. 賃貸借の目的物(設備と残置物の区別)
- 2. 使用目的
- 3. 契約期間と更新
- 4. 賃料や管理費・遅延損害金
- 5. 貸主および管理会社の連絡先
- 6. 反社会的勢力の排除
- 7. 禁止事項
- 8. 修繕について(小修繕の特約)
- 9. 契約の解除
- 10. 短期解約違約金
- 11. 退去予告の期限
- 12. 原状回復の範囲
- 13. 特約事項
- 14. 連帯保証人・家賃保証会社
- 15. 敷金の精算・返還
- 建物賃貸借契約締結から物件を貸し出すまでの流れ
- 建物を貸し出す際に必要となるもの
- 不動産賃貸借契約は電子契約も可能に
- 不動産賃貸借契約を電子化するメリット
- まとめ
- よくある質問
賃貸借契約書とは
賃貸借契約書とは、貸主が所有する目的物を貸主に有償で使用・収益させることを約束し、その対価として賃料を受け取ることを約束する契約文書のことです。
賃貸借契約を結ぶと貸主・借主双方に義務が課せられます。それぞれに課せられる義務には、以下のようなものが挙げられます。
貸主の義務例
- 借主に目的物を使用・収益させること
- 目的物が壊れた際には修繕すること
借主の義務例
- 貸主に賃料を支払うこと
- 目的物を返還する際は最初の状態に戻すこと
賃貸借契約書の作成は必須?
本来契約は、口約束でも「申し込み」と「承諾」の意思表示があれば成立します。そのため、賃貸借契約書の作成は義務ではありません。
しかし口約束だけでは、後から「言った」「言わない」で揉めたり、貸主と借主の認識にずれが生じトラブルに発展したりといった恐れがあります。
これらのトラブルを未然に防ぐためにも、契約内容を書面化した賃貸借契約書を作成するのが一般的です。
賃貸借契約書の主な種類
不動産を目的物とする賃貸借契約には、大きく分けると「土地賃貸借契約」と「建物賃貸借契約」の2つがあります。
土地賃貸借契約
土地賃貸借契約とは、土地を使用・収益させることを目的とした賃貸借契約です。マンション用の土地を貸し出す場合や、資材置き場を貸し出す場合などが該当します。
土地賃貸借契約書は印紙税の課税対象になり、契約金額に応じた印紙を貼付することになります。
なお、契約金額とは「契約に際して支払う、返還が予定されていない金額」のことであり、賃料や敷金は含まれません。契約金額は0円であることがほとんどですが、わざわざ契約書に「0円」と記載するケースは少なく、ほとんどは「契約金額の記載なし」となります。その場合に貼付すべき印紙額は、200円です。
建物賃貸借契約
建物賃貸借契約とは、建物を使用・収益させることを目的とした賃貸借契約です。マンションやアパートの部屋・戸建住宅・店舗・オフィスビルなどを貸し出す場合はこちらに該当します。
建物賃貸借契約には、貸出期間を限定しない「普通建物賃貸借契約」と、貸出期間を限定する「定期建物賃貸借契約」の2つがあります。
普通建物賃貸借契約
普通建物賃貸借契約とは、1年以上の賃貸借期間を設定する賃貸借契約です。期間は定められていますが、原則更新される契約となります。借主が引き続き使用することを希望している場合、貸主は正当な事由がない限り更新を拒絶できません。
たとえば、転勤期間だけ自宅であるマンションの一室を、賃貸借契約を結んで貸し出したケースで考えます。
このような場合、貸主が「転勤期間が終わるから自宅に戻るため、更新できない」と伝えても、正当な事由が認められない可能性が高くなります。そうすると、借主が継続を希望した場合は契約更新せざるをえないケースが少なくありません。一方、借主からの中途解約については、特約で定められるケースが一般的です。
また、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合を除き、状況の変化により賃料が不相当となったら、借主と貸主のどちらも相手方に対して賃料の増減を請求できます。
定期建物賃貸借契約
定期建物賃貸借契約は、契約の更新がなく、契約で定めた期間が満了することで確実に契約終了となる賃貸借契約です。
今までこの契約を結ぶには、借地借家法によって書面契約が必要でしたが、2022年5月の法改正で電子化が認められました。なお、契約期間に制限はなく自由に設定可能です。
借主からの中途解約は、床面積が200平方メートル以下の住宅の居住者で、やむをえない事情で住み続けられなくなった場合のみ認められます(中途解約に関する特約がある場合は除く)。
また、状況の変化により賃料が不相当となったときは、貸主と借主の双方が賃料の増減請求を行えます。しかし、特約で「増減請求はできない」との定めがあるときは不可能です。
定期建物賃貸借契約は、「海外出張で家を空ける3年間だけ自宅を貸したい」など、貸し出したい期間が決まっている場合に選ばれる契約方法です。
建物賃貸借契約書の読み方と作成ポイント
上述したように、賃貸借契約にはいくつか種類があります。ここからは「建物賃貸借契約書」を例に、具体的な契約書の内容や注意すべき点について紹介します。
建物賃貸借契約書の作成にあたり、記載すべき事項は多岐にわたりますが、とくにポイントとなるのは以下の項目です。
建物賃貸借契約書のポイントとなる項目
なお、建物賃貸借契約書については、国土交通省からテンプレートとして「賃貸住宅標準契約書」が公表されています。賃貸借契約に関するトラブルを防止し、借主の居住の安定と貸主の経営の合理化の両方を図ることを目的として作成されたものであり、法改正に合わせて改訂もなされています。
このテンプレートをベースに、建物の特性や貸主・借主の事情に合わせて作成するのがおすすめです。
1. 賃貸借の目的物(設備と残置物の区別)
建物の名称や所在地、構造、面積、マンションであれば何号室なのか、どんな施設が附属しているのかなど、賃貸借の目的となるものを明記します。
とくに注意が必要なのが、物件に付帯しているエアコンや給湯器などが「設備」なのか「残置物(前の入居者が置いていったもの)」なのかという点です。両者を明確に区別して、記載しましょう。
なお、設備とする場合は故障時の修理・交換義務は貸主にあります。一方で残置物とする場合は、契約書に「残置物であり、貸主は性能保証および修繕義務を負わない」と明記することで、貸主は故障時の修理対応(コスト負担)を免れられます。
2. 使用目的
建物なら住居用、店舗用など、土地なら資材置き場用、駐車場用などと、使用目的を定めるのが一般的です。これによって、住居として貸したつもりが、知らないうちに店舗として使用されていたといった事態を防げます。
賃貸借契約書に禁止事項として「目的外使用」を設定することで、目的外の使われ方をした場合の契約解除も可能になります。
たとえば、「主として居住用に使用することとし、その他の目的(事務所、店舗、店舗、民泊等)に使用してはならない」と明記し、違反した場合は契約解除の対象となるように設定しておくと安心です。
3. 契約期間と更新
普通建物賃貸借契約の場合、契約期間は1年以上で設定する必要があります。1年未満の期間を定めた場合は、借地借家法により「期間の定めのないもの」として扱われるので注意が必要です。
普通建物賃貸借契約は自動的に更新されるのが原則であり、貸主は正当な事由がない限り更新を拒絶できませんが、更新料を設定することはできます。更新料を設定する場合は、「更新する場合、乙は甲に対し、賃料◯ヶ月分の更新料を支払わなければならない」などと規定します。
更新料の相場は地域によっても違いますが、賃料の1ヶ月分となっているケースが大半です。
なお、将来的に建て替えの予定がある場合や、不良入居者の居座りリスクを回避したい場合は、「普通建物賃貸借契約」ではなく、更新のない「定期建物賃貸借契約」の採用を検討しましょう。
4. 賃料や管理費・遅延損害金
毎月の賃料や管理費の額、支払期限、支払方法は、明確に示しておく必要があります。普通建物賃貸借契約では、貸主と借主の双方に賃料の増減請求権が認められていますが、貸借人とのトラブルを避けるために、賃料増減の可能性があることも、契約書に記載しておくのがおすすめです。
また、賃料の金額や支払日だけでなく、「遅延損害金」の条項も設定しておきましょう。消費者契約法の上限である「年14.6%」を上限に損害金を設定することで、借主に対する支払いの動機づけ(抑止力)となります。
5. 貸主および管理会社の連絡先
賃貸期間中に物件に修繕の必要が生じるなど、何かあった場合の連絡先を記載します。
6. 反社会的勢力の排除
双方が相手方に対し、反社会勢力ではないことを確約する条項を入れておきます。
各都道府県の暴力団排除条例に基づき、この条項の記載は必須です。万が一、入居者が反社会的勢力であることが判明した場合に、催告なしで即座に契約を解除できるようにするためにも必ず記載しましょう。
7. 禁止事項
借主に禁止または制限したい事項がある場合に、禁止事項を記載します。
「目的外使用の禁止」「物件を第三者に譲渡・転貸することの禁止」「他住人への迷惑行為の禁止」などがよく設定される禁止事項です。
また、近隣トラブルや物件の資産価値毀損を防ぐため、以下のような事項を明記するケースもあります。
- ペットの飼育(一時預かりも含む)
- 楽器の演奏
- 石油ストーブの使用(結露・火災防止)
- 無断での鍵交換
- 共用部への私物放置
これらを禁止事項として明記し、違反時のペナルティ(契約解除や損害賠償)についても触れておくことがポイントです。
8. 修繕について(小修繕の特約)
物件や設備に修繕が必要になった場合、貸主・借主のどちらが負担するのかを記載します。原則として、物件を使用・収益させるのに必要な修繕を行うのは貸主の義務です。
たとえば、台風で屋根が壊れて雨漏りするようになった場合、貸主は自身の費用で修繕しなくてはいけません。
しかし、電球交換やパッキン交換、網戸の張り替えなどの軽微な修繕(小修繕)については、「借主の費用負担で行う」という特約(小修繕特約)を必ず入れておきましょう。これにより、細かな消耗品の交換で毎回呼び出される手間とコストを削減できます。
9. 契約の解除
賃料や管理費の支払いがなかったときや、禁止事項への違反があった場合などに、契約の解除ができる旨を記載しておくのが一般的です。
10. 短期解約違約金
入居時の募集広告費やクリーニング費用を回収するため、短期間で退去された場合の違約金を設定しておきましょう。とくに礼金0円やフリーレント期間を設けている場合は、このような設定が欠かせません。
たとえば、「契約開始から1年未満の解約については、賃料等の1ヶ月分相当額を違約金として支払う」といった条項を入れることで、短期退去による収支悪化を防げます。
11. 退去予告の期限
借主からの解約通知を「いつまでに」もらうかを設定します。
通常は「1ヶ月前」ですが、次の入居者募集の期間を長く確保したい場合は「2ヶ月前」と設定することも可能です。ただし、募集上の競争力が下がる可能性もあるためバランスが必要です。
あわせて、予告期間に満たない解約の場合は、その期間分の賃料相当額を請求できる旨も明記しておきましょう。
12. 原状回復の範囲
経年劣化によって生じる損耗や、借主の責めに帰すことができない事由によってできた損耗については、借主に原状回復を求めることはできません。退去時にキズや汚れがあった場合、貸主・借主のどちらが原状回復費用を負担するのかは揉めやすいところなので、しっかり契約書に記載しておきましょう。
なお、契約終了時に物件を「現状のまま引き渡す」と記載した場合は、借主の原状回復義務を免除することになります。
国土交通省のガイドラインでは貸主負担となる項目でも、明確な特約があり、借主が納得して署名していれば、借主負担とすることが可能な場合があります。
原状回復の特約例
- 退去時のハウスクリーニング費用は借主負担とする。
- 喫煙によるクロスの変色・臭い付着は、経年劣化を考慮せず借主が張り替え費用を全額負担する。
- ペット飼育時は、消臭消毒費用として別途〇〇円を負担する。
13. 特約事項
特約を設けたい場合は、「特約事項」として記載します。ただし、賃借人保護のために設けられた借地借家法の規定に反する特約は、たとえ記載しても無効となります。
無効となる特約としては、「賃貸人の要求があれば、いつでも契約を解除できる」「(普通建物賃貸借契約において)契約を更新しない」などといったものが挙げられます。
14. 連帯保証人・家賃保証会社
家賃滞納リスクを最小化するため、原則として家賃保証会社の加入を必須とすることをおすすめします。
契約書には「借主は指定の保証会社と保証委託契約を締結し、契約期間中これを維持すること」と記載し、保証料の更新忘れによる契約解除リスクもヘッジしておきましょう。
15. 敷金の精算・返還
預かった敷金の返還ルールを定めます。
地域慣習として「敷引き」や「償却」がある場合は、「退去時に敷金から〇ヶ月分を償却する(返還しない)」と明記しましょう。これにより、原状回復費用の多寡にかかわらず、一定の金額を確実に修繕費や礼金的な収入として確保が可能です。
建物賃貸借契約締結から物件を貸し出すまでの流れ
入居者の募集、賃貸借契約書の作成、契約の締結といった一連の手続きは、貸主が自分で行うことも可能ですが、仲介会社に依頼するのが一般的です。契約を締結する際に、貸主が同席することはあまりありませんが、手続きの流れや必要なものについては把握しておきましょう。
下記は、建物賃貸借契約を締結し、マンション・アパートや戸建て住宅、オフィスビルなどを貸し出す流れです。
建物賃貸借契約締結から建物を貸し出すまでの流れ
- 仲介を依頼する不動産会社を選ぶ
- 募集家賃・条件を決める
- 不動産会社と媒介契約・管理委託契約を結ぶ
- 不動産会社が入居者の募集を開始し、入居希望者の案内などを行う
- 入居申込書を受領したら入居審査を行い、入居の可否、契約書に盛り込む特約事項の内容等を決定する
(特約事項等について、入居希望者から見直しを求められた場合は、交渉が行われることもある) - 不動産会社から入居者に重要事項説明が行われる
(入居者が契約書に署名・押印することで、建物賃貸借契約が締結される) - 不動産会社に仲介手数料を支払い、入居者から保証金や賃料を受け取る
不動産会社に仲介を依頼する場合、契約書はその不動産会社(仲介業者)が作成します。そのため、自分で契約書を作成する必要はありません。
ただし、仲介業者が用意したテンプレートでは物件の実情に合わない場合もあります。必ず内容をチェックし、盛り込みたい特約などがあれば記載しておきましょう。
建物を貸し出す際に必要となるもの
不動産会社との媒介契約を結ぶ、家賃査定を受ける、建物賃貸借契約書を作成するなど、建物を貸し出すまでに必要な手続きを進めるためには下記の書類などが必要です。
建物賃貸借契約手続きに必要なもの
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本、権利証
- 建物の間取り図や設計図
- リフォーム履歴がわかる書類
- メンテナンスの連絡先
- (マンションなどの場合)管理規約がわかる書類
不動産賃貸借契約は電子契約も可能に
社会全般でデジタル化が進む流れを受けて、不動産取引も電子化が進んでいます。
2021年5月に、不動産の売買契約や賃貸借契約の電子化を可能にする宅地建物取引業法改正を含む、一連のデジタル改革関連法が国会で成立しました。これにより、書面が必須だった以下4つの文書を電子化できるようになりました(契約相手の承諾が必要条件)。
電子化できるようになった文書
- 媒介、代理契約締結時の交付書面
- 登録証明書
- 重要事項説明書
- 賃貸借契約書
改正宅地建物取引業法および借地借家法は2022年5月に施行され、以後は不動産契約の電子化が広く普及しつつあります。ただし、事業用定期借地については公正証書が必要なため、電子契約の対象外となっている点には注意が必要です。
不動産賃貸借契約を電子化するメリット
不動産賃貸借契約を電子化するメリットは、大きく下記の3つがあります。
契約がスピーディーに進む
契約のために入居者に不動産会社まで来てもらう必要がないので、スピーディーに契約を締結できます。
契約書の保管場所に困らない
電子データなので保管場所を取らず、パソコンやサーバーに保管しておけば管理も簡単です。
印紙代がかからない
電子契約方式では収入印紙を貼付する必要がないため、土地賃貸借契約であっても印紙代がかかりません。
まとめ
不動産の賃貸借契約書は、賃貸の条件を記載した重要な文書です。貸主が自分で作るケースは少ないですが、借主とのトラブルを避けるためにも、どのような内容になっているのかきちんと把握しておくことが重要です。
2022年5月以降、電子契約の方法による契約締結が可能になりました。契約に時間がかからない、印紙代がかからないなど、数々のメリットがありますので、すべてがクラウド上で完結するfreeeサインもぜひ活用してみてください。
よくある質問
賃貸借契約書は必ず作成する?
本来、契約は口約束でも「申し込み」と「承諾」の意思表示があれば成立します。そのため賃貸借契約書は義務ではありませんが、トラブル防止のために作成するのが一般的です。
詳しくは記事内の「賃貸借契約書の作成は必須?」をご覧ください。
賃貸借契約にはどのような種類がある?
賃貸借契約には、大きく分けて「土地賃貸借契約」と「建物賃貸借契約」の2種類が存在します。さらに建物賃貸借契約には「普通建物賃貸借契約」と「定期建物賃貸借契約」があります。
詳しくは記事内の「賃貸借契約書の主な種類」をご覧ください。
賃貸借契約書の読み方で、とくに重要なのはどこ?
賃貸借契約書において、とくに重要なのは「契約期間」「賃料」「禁止事項」「修繕負担」「解除条件」「現状回復の範囲」が挙げられます。
詳しくは記事内の「建物賃貸借契約書の読み方と作成ポイント」をご覧ください。
賃貸借契約も電子契約にできる?
社会全体で進むデジタル化の流れを受け、2022年5月の法改正により、一部を除き賃貸借契約を含む不動産取引関連書類の電子化が可能になりました。
詳しくは記事内の「不動産賃貸借契約は電子契約も可能に」をご覧ください。
参考文献
- 国土交通省「令和5年度 住宅市場動向調査報告書」
