監修 涌井 好文 社会保険労務士
サクセッションプランとは、経営者や経営幹部などの重要ポストの後継者を事前に選定・育成する取り組みです。経営環境の変化や後継者不足を背景に注目が高まっています。
後継者をひとり決めて終わりにせず、将来の経営戦略を踏まえた人材要件の設定や候補者の評価・育成・登用を計画的に進める点が特徴です。
本記事では、サクセッションプランの意味やタレントマネジメントとの違い、実施するメリット・デメリット、作り方の手順、成功のポイント、活用事例を解説します。
目次
- サクセッションプラン(後継者育成計画)とは?
- サクセッションプランとタレントマネジメントの違い
- サクセッションプランと人材育成の違い
- サクセッションプランと後任登用の違い
- サクセッションプラン(後継者育成計画)が重要視される背景
- 後継者不足の深刻化
- 経営環境の変化
- コーポレートガバナンスの強化
- 人的資本経営の広がり
- 企業価値やステークホルダーからの信頼への影響
- サクセッションプラン(後継者育成計画)を実施するメリット
- 経営幹部の急な退任や離職による経営リスクを軽減できる
- 優秀な人材を早期に発見・確保し、定着につなげられる
- 企業理念や組織文化を次世代へ継承しやすくなる
- 重要ポストに求められる人材要件を明確にできる
- 経営と人事が連携した人材育成の仕組みを構築できる
- サクセッションプラン(後継者育成計画)を実施するデメリット
- 長期間にわたる育成によって時間やコストがかかる
- 候補者の退職によって育成コストが無駄になる可能性がある
- 候補者から外れた社員のモチベーションが低下する可能性がある
- サクセッションプラン(後継者育成計画)の作り方
- ステップ1:自社の経営理念・ビジョンや中長期的な経営戦略を明確にする
- ステップ2:後継者を必要とする重要ポストと求められる人材要件を明確にする
- ステップ3:社内の人材を把握・評価し、後継者候補を選定する
- ステップ4:候補者ごとに不足している能力や経験を踏まえて育成計画を策定・実行する
- ステップ5:候補者の成長状況を定期的に評価し、育成計画や候補者を必要に応じて見直す
- ステップ6:最終候補者を絞り込み、重要ポストへの登用に向けて準備する
- ステップ7:後継者の指名後も、円滑な引き継ぎに向けたサポートを継続する
- サクセッションプラン(後継者育成計画)を成功させるためのポイント
- 経営層が主体的に関与し、全社的な取り組みとして推進する
- 後継者候補の選定基準を明確にし、透明性・公平性を確保する
- 候補者の成長や経営環境の変化に応じて計画を定期的に見直す
- サクセッションプラン(後継者育成計画)を導入した企業の成功事例
- トヨタ自動車株式会社
- 株式会社りそなホールディングス
- 従業員エンゲージメントを高め、組織を活性化する福利厚生とは
- まとめ
- よくある質問
サクセッションプラン(後継者育成計画)とは?
サクセッションプラン(Succession Plan)とは、企業の経営者や経営幹部などの重要ポジションの後継者を事前に選定・育成する取り組みです。日本語では「後継者育成計画」と呼ばれます。
次の担当者をひとり決めるだけの制度ではありません。将来の経営戦略や事業環境の変化を見据えたうえでそのポストに必要な人材要件を定め、候補者の選定・評価・育成を段階的かつ計画的に行います。
対象となるのは社内のすべての役職ではなく、経営者や事業責任者など欠けた場合に経営や事業継続へ大きな影響を及ぼす重要ポストが中心です。
後継者候補は研修や人事異動、重要プロジェクトへの参加などの機会を通じ、必要な知識・スキル・経験を段階的に身につけます。このような育成プロセスを経て、将来そのポストを担える人材へと計画的に育て上げていくことがサクセッションプランの目的です。
サクセッションプランとタレントマネジメントの違い
サクセッションプランとタレントマネジメントの主な違いは、対象範囲と目的にあります。両者の違いを整理すると、以下のとおりです。
| タレントマネジメント | サクセッションプラン | |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 全従業員や幅広い人材 | 事前に定めたキーポジション(経営トップや幹部など)とその後継者候補 |
| 目的 | 人材の能力を活かした配置や育成を通じて組織全体の成果を高める | 後継者不在による経営上のリスクを抑え、重要ポストの交代後も事業や経営を継続できる体制を整える |
タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりのスキルや経験、適性などの人材情報を可視化し採用・配置・育成などに活用することで、組織全体のパフォーマンスを高める人材マネジメント手法です。
一方サクセッションプランは、経営者や経営幹部、事業責任者など企業経営に大きな影響を与える重要ポストの後継者を選定し、将来その役割を担えるよう計画的に育成する取り組みを指します。
サクセッションプランとタレントマネジメントは別々の施策ではありません。タレントマネジメントを通じて蓄積・可視化した従業員の能力・経験・適性などの情報は、サクセッションプランにおける後継者候補の選定や育成に活用できます。両者を連携させることで、より精度の高い後継者育成が実現しやすくなるでしょう。
サクセッションプランと人材育成の違い
サクセッションプランと人材育成の主な違いは、対象者や目的にあります。両者の違いをまとめると、以下のとおりです。
| 人材育成 | サクセッションプラン | |
|---|---|---|
| 対象者 | 新入社員や管理職などの従業員 | 経営者や経営幹部、事業責任者など、将来の重要ポストを担う候補者 |
| 目的 | 従業員の知識やスキルを向上させ、業務遂行能力や組織全体のパフォーマンスを高める | 将来の重要ポストを担える人材を育成し、後継者不在による経営上のリスクを防ぐ |
人材育成とは、従業員一人ひとりの知識やスキルを高め、業務への適応やキャリア形成、組織全体のパフォーマンス向上につなげるための幅広い育成施策を指します。
サクセッションプランは、経営者や経営幹部など将来の重要ポストを担う人材を選抜し、そのポジションに必要な能力や経験を身につけられるよう長期的かつ計画的に育成する取り組みです。
人材育成が新入社員から管理職まで幅広い従業員を対象とするのに対し、サクセッションプランは将来の経営を担う可能性が高い幹部候補などに対象者を絞り込みます。また人材育成は現在の業務に必要な能力の向上や従業員の継続的な成長を主な目的とする一方、サクセッションプランは数年先の経営環境や事業戦略まで見据え、将来の重要ポストを担える人材を計画的に育てる点に大きな違いがあります。
サクセッションプランと後任登用の違い
サクセッションプランと後任登用の主な違いは、対応のタイミングや評価軸です。両者の違いを整理すると、以下のとおりです。
| 後任登用 | サクセッションプラン | |
|---|---|---|
| 対象 | 直属の部下や同じ部署、ポストに近い職位の社員など | 部署や現在の役職にかかわらず、将来の重要ポストを担う可能性のある人材 |
| 目的 | ポストに空きが生じた際に、現時点で適任と考えられる人材を後任として配置する | 将来の重要ポストを担う後継者を事前に選定・育成し、後継者不在のリスクを防ぐ |
後任登用とは、経営者や管理職などのポストに空きが生じた際、直属の部下や同じ部署・職位に近い社員などからその時点で適任と考えられる人材を選んで後任に据えることです。
一方サクセッションプランは、将来的に重要ポストが空くことを想定し、ポストに必要な人材要件を事前に決めたうえで社内の幅広い人材から後継者候補を選定・育成します。
後任登用は短期的・事後的な対応になりやすいのに対し、サクセッションプランは将来のポスト不足や後継者不在に備え、時間をかけて候補者を育成する長期的・計画的な取り組みです。また後任登用では現在の職務経験・実績・ポストとの近さなどが重視される一方、サクセッションプランでは現時点の能力だけでなく、経営理念への適合性や将来の成長性、経営戦略の実行力なども含めて総合的に判断されます。
サクセッションプラン(後継者育成計画)が重要視される背景
サクセッションプラン(後継者育成計画)が重要視される主な理由や背景は、以下のとおりです。
サクセッションプランが重要視される背景
- 後継者不足の深刻化
- 経営環境の変化
- コーポレートガバナンスの強化
- 人的資本経営の広がり
- 企業価値やステークホルダーからの信頼への影響
サクセッションプラン(後継者育成計画)の重要性を理解し、企業を持続的に成長させましょう。
後継者不足の深刻化
サクセッションプランが重要視される大きな背景の一つが、経営者や経営幹部の後継者不足です。
日本政策金融公庫による調査「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年)」によると、後継者が未定の企業は22.0%です。後継者が不在のまま経営者が引退すると事業そのものを継続できなくなる可能性もあるため、早い段階から後継者候補を選定し、計画的に育成しておく必要があります。
経営環境の変化
市場環境や顧客ニーズ、競争環境などが大きく変化する現在、従来のように現経営者の経験や判断だけに頼って後継者を決めることは難しくなっています。
将来の経営環境を見据え、経営戦略を実行できる能力や変化への対応力を持った人材を早期に見極めて必要な経験やスキルを身につけてもらうことが必要です。サクセッションプランによって後継者候補を中長期的に育成することで、経営トップの交代後も安定した経営を続けやすくなります。
コーポレートガバナンスの強化
コーポレートガバナンス・コードでは、CEOなどの後継者計画に対して取締役会が主体的に関与し、後継者候補の育成を適切に監督することが示されています。結果として、後継者の選定を現経営者の経験や人物評価だけに委ねるのではなく、客観性や透明性のあるプロセスで計画的に進めることが求められるようになりました。
サクセッションプランは、企業経営の継続性を確保するだけでなく、適切な後継者を選定するうえでも重要な仕組みです。
人的資本経営の広がり
人的資本経営が注目されるなか、経営戦略と人材戦略を連動させる取り組みとしてもサクセッションプランが重視されています。
企業が今後の事業戦略を実現するためには、どのような経営人材が必要なのかを明確にし、その人材を計画的に確保・育成することが欠かせません。将来の経営を担う人材を早期に選抜し、必要な経験を積ませるサクセッションプランは、長期的な人材戦略の一環として重要です。
企業価値やステークホルダーからの信頼への影響
企業の経営を担う人材が突然交代した場合、経営方針の混乱や意思決定の遅れなどにつながる可能性があります。重要ポストの後継者を事前に育成しておくことは、企業の持続的な成長や経営の安定性を確保するうえでも大切です。
また後継者の選定・育成を客観的かつ透明性のあるプロセスで行うことにより、投資家や従業員などのステークホルダーからの信頼も得やすくなるでしょう。
サクセッションプラン(後継者育成計画)を実施するメリット
サクセッションプランを実施する主なメリットは、以下のとおりです。
サクセッションプランを実施するメリット
- 経営幹部の急な退任や離職による経営リスクを軽減できる
- 優秀な人材を早期に発見・確保し、定着につなげられる
- 企業理念や組織文化を次世代へ継承しやすくなる
- 重要ポストに求められる人材要件を明確にできる
- 経営と人事が連携した人材育成の仕組みを構築できる
経営幹部の急な退任や離職による経営リスクを軽減できる
経営者や経営幹部などの重要ポストが突然空席になると、意思決定が滞ったり組織運営に混乱が生じたりするおそれがあります。企業の方向性を左右するポジションであるほど、後任が決まらない状態が長引くと、事業活動や業績にも影響を及ぼしかねません。
サクセッションプランによって後継者候補を事前に選定し、必要な知識やスキル、経験を身につけてもらうことで、万が一の事態にも後任を速やかに配置しやすくなります。経営トップや幹部の交代が必要になった場合でも事業や組織への影響を抑え、スムーズな引き継ぎを進められるでしょう。
優秀な人材を早期に発見・確保し、定着につなげられる
サクセッションプランでは、現在の役職や実績だけでなく将来的な成長可能性や経営人材としての適性なども考慮して候補者を選定します。そのため、十分に評価されていなかったハイポテンシャル人材を発見するきっかけにもなるでしょう。
また将来のキャリアパスや重要ポストを担う可能性を示すことで、候補者の仕事へのモチベーションや会社への帰属意識を高める効果も期待できます。優秀な人材が成長できる機会を提供し社内で長く活躍してもらうことは、人材流出の防止にもつながります。
企業理念や組織文化を次世代へ継承しやすくなる
外部から経営者や幹部を採用する場合、専門的な能力をもつ人材を確保できる反面、自社独自の企業理念や価値観、組織文化を理解してもらうまでに時間がかかることがあります。
サクセッションプランによって社内から後継者を育成すれば、日々の業務やさまざまな経験を通じて、自社の理念や価値観を理解した人材を次世代の経営層として登用できるでしょう。企業が培ってきた文化や強みを維持し、次の世代へ引き継ぎやすくなる点も大きなメリットです。
重要ポストに求められる人材要件を明確にできる
サクセッションプランを策定する際には、対象となるポジションについて「どのような知識・スキル・経験・資質が必要なのか」を整理しなければなりません。結果として、経営者に求められる能力や幹部として必要な経験などを人材要件として可視化できます。
明確になった人材要件は、後継者候補の選定だけでなく、社員の評価や育成計画、人材配置などにも活用可能です。結果として、重要ポストに限らず企業全体の人材マネジメントを見直すきっかけにもなるでしょう。
経営と人事が連携した人材育成の仕組みを構築できる
サクセッションプランでは、経営層だけでなく人事部門や現場の管理職などが連携しながら後継者候補の選定・育成を進めることが大切です。経営戦略をもとに必要な人材像を明確にし、その実現に向けて育成施策を設計することで、経営戦略と人材戦略を連動させやすくなります。
また後継者候補の育成を継続的に行うことで、特定のポジションだけでなく次世代のリーダーを社内から継続的に輩出できる仕組みの構築にもつながります。将来の経営を担う人材を計画的に育てる文化を組織に根付かせられることも、サクセッションプランを実施するメリットのひとつです。
サクセッションプラン(後継者育成計画)を実施するデメリット
サクセッションプランには企業の持続的な成長や経営リスクの軽減など多くのメリットがある一方で、実施に際してはいくつかのデメリット・注意点もあります。
主なデメリットは以下の3つです。
サクセッションプランを実施するデメリット
- 長期間にわたる育成によって時間やコストがかかる
- 候補者の退職によって育成コストが無駄になる可能性がある
- 候補者から外れた社員のモチベーションが低下する可能性がある
長期間にわたる育成によって時間やコストがかかる
サクセッションプランでは、経営者や経営幹部などの重要ポストを担える人材を数年単位の長期的な視点で育成します。必要な能力を身につけてもらうためには、研修だけでなく人事異動や重要プロジェクトへの参加、経営層との対話など、さまざまな経験を積ませなければなりません。
育成を担当する経営層や人事担当者の工数も発生するため、一般的な人材育成と比べて時間や人的コストが大きくなりやすい点には注意が必要です。短期間で成果を求めるのではなく、中長期的な投資として計画的に取り組む姿勢が求められます。
候補者の退職によって育成コストが無駄になる可能性がある
後継者候補を長期間かけて育成しても、本人のキャリア希望の変化や待遇などを理由に途中で退職・辞退する可能性があります。候補者が離職すると、それまでにかけた研修費用や育成担当者の工数が無駄になるだけでなく、新たな候補者の選定や育成計画の見直しも必要です。
このようなリスクを抑えるためには、候補者に期待する役割や育成の目的を事前に説明し、本人のキャリア希望も確認しながら育成を進めることが重要です。またひとりの候補者だけに依存せず、複数の候補者を育成しておくこともひとつの対策になります。
候補者から外れた社員のモチベーションが低下する可能性がある
サクセッションプランでは、重要ポストを担う可能性のある社員を選抜して育成するため、候補者に選ばれなかった社員が「自分は評価されていない」と感じる可能性があります。結果として仕事へのモチベーションが低下したり、優秀な人材が社外へ流出したりするリスクも考えられるでしょう。
選抜の基準や評価プロセスをできる限り具体化し、候補者以外の社員にもキャリア形成や能力開発の機会を提供することが重要です。サクセッションプランを一部の社員だけの制度にせず組織全体の人材育成につなげることで、一部の社員によるモチベーション低下や社外への流出を抑えやすくなります。
サクセッションプラン(後継者育成計画)の作り方
サクセッションプランは段階を踏んで進めることが重要です。策定から運用までの主な流れは、次の7つのステップです。
サクセッションプランの作り方
- 自社の経営理念・ビジョンや中長期的な経営戦略を明確にする
- 後継者を必要とする重要ポストと求められる人材要件を明確にする
- 社内の人材を把握・評価し、後継者候補を選定する
- 候補者ごとに不足している能力や経験を踏まえて育成計画を策定・実行する
- 候補者の成長状況を定期的に評価し、育成計画や候補者を必要に応じて見直す
- 最終候補者を絞り込み、重要ポストへの登用に向けて準備する
- 後継者の指名後も、円滑な引き継ぎに向けたサポートを継続する
ステップ1:自社の経営理念・ビジョンや中長期的な経営戦略を明確にする
まず自社が将来的にどのような企業を目指すのかを明確にすることが重要です。
経営理念やビジョン、中長期的な経営戦略が明確になっていなければ、将来の経営を担う人材にどのような能力や資質が必要なのかを判断できません。
現在の事業環境や競合状況、自社の強み・課題などを整理したうえで、数年先の経営環境や事業の方向性を見据えます。そのうえで「どのような経営を実現したいのか」「そのためにどのような人材が必要なのか」を経営層と共有しておくことで、ポジション設定や候補者選定を進めやすくなるでしょう。
ステップ2:後継者を必要とする重要ポストと求められる人材要件を明確にする
経営戦略を踏まえて、サクセッションプランの対象となる重要ポストを洗い出します。対象は社長やCEOだけとは限らず、取締役や執行役員、事業責任者、部門長など企業の事業継続や成長に大きな影響を与えるポジションが含まれるケースもあります。
対象ポストを決めた後は、それぞれのポジションに必要な人材要件を具体化します。将来の役割を担うために、以下のような必要な能力や資質を多角的に整理することが重要です。
- 専門知識・業務経験
- リーダーシップ・意思決定力
- コミュニケーション能力・変化への対応力
- 経営理念との適合性
ステップ3:社内の人材を把握・評価し、後継者候補を選定する
必要な人材要件が具体化したら、社内にどのような人材がいるのかを把握し、後継者候補を選定します。
候補者を選ぶ際は現在の役職や実績だけで判断せず、将来的な成長可能性やリーダーとしての適性なども含めて評価することが重要です。評価方法としては、上司による評価だけでなく360度評価やアセスメント、面談、実務上の課題に対する取り組みなど複数の方法を組み合わせると客観性を高めやすくなります。
また特定のポストに対して複数の候補者を紐づけるリスト方式や、一定の役職層から候補者群を形成するプール方式など、自社の状況に合った方法で候補者を管理することも有効です。
ステップ4:候補者ごとに不足している能力や経験を踏まえて育成計画を策定・実行する
後継者候補の選定後、候補者ごとの現在の能力と将来のポジションに必要な能力との差を把握し、不足している部分を補うための育成計画を策定します。
候補者によって経験やスキルは異なるため、全員に同じ育成プログラムを実施せず、個々の課題に応じて内容を設計することが大切です。具体的には次の育成方法があります。
- ジョブローテーションによる幅広い業務経験の付与
- 重要プロジェクトへのリーダーとしての参加
- 経営会議への参加
- 社内外の研修
- 経営知識を学ぶOff-JT
経営人材の育成では、知識を身につけるだけでなく実際の事業や組織を動かす経験を積ませることも重要です。
ステップ5:候補者の成長状況を定期的に評価し、育成計画や候補者を必要に応じて見直す
サクセッションプランは数年単位で取り組むケースもあるため、計画を策定して終わりにせず候補者の成長状況を定期的に確認しなければいけません。設定した人材要件に対してどの程度成長しているのか、不足している能力は何かを評価し、必要に応じて育成内容を変更しましょう。
また候補者本人の成長だけでなく、事業環境や経営戦略の変化にも目を向けることが大切です。求める経営人材像が変わった場合には、候補者の入れ替えや追加、育成計画そのものの修正も検討する必要があります。長期的な計画だからこそ、状況に応じて柔軟に見直す姿勢が求められます。
ステップ6:最終候補者を絞り込み、重要ポストへの登用に向けて準備する
育成と評価を繰り返しながら、候補者の中から最終的な後継者候補を絞り込みます。最終評価では、これまでの業績や育成状況だけでなく対象ポストに必要な能力や資質を十分に備えているかを多面的な確認することが重要です。
また、後継者として指名される前から現任者のもとで業務や意思決定の経験を積ませたり経営に関する重要な会議へ参加させたりすることで、就任後の役割をスムーズに引き継ぐように準備します。必要に応じて複数の候補者を残し、最適なタイミングで最終決定することも必要です。
ステップ7:後継者の指名後も、円滑な引き継ぎに向けたサポートを継続する
後継者を指名した後も、実際のポストへの就任や業務の引き継ぎをサポートすることが重要です。現任者から経営上の知識や取引先との関係、組織運営に関する情報などを引き継ぐことで、交代後の混乱を抑えやすくなります。
また後継者が新たな役割に適応できるように、就任後も一定期間は経営層や人事部門がフォローする体制を整えておくとよいでしょう。サクセッションプランは後継者を選ぶことがゴールではなく、後継者が役割を引き継ぎ、企業の持続的な成長につなげるまでを含めて考えることが求められます。
サクセッションプラン(後継者育成計画)を成功させるためのポイント
サクセッションプランを成功させるための主なポイントは、以下のとおりです。
サクセッションプランを成功させるためのポイント
- 経営層が主体的に関与し、全社的な取り組みとして推進する
- 後継者候補の選定基準を明確にし、透明性・公平性を確保する
- 候補者の成長や経営環境の変化に応じて計画を定期的に見直す
経営層が主体的に関与し、全社的な取り組みとして推進する
サクセッションプランは人材育成施策ではなく、将来の経営を担う人材を確保するための経営戦略のひとつです。そのため人事部門だけに任せるのではなく、経営トップや取締役、各部門の責任者などが主体的に関与することが重要です。
経営層がサクセッションプランの目的や重要性を理解し、候補者の選定や育成方針の決定に関わることで、経営戦略と人材育成を連動させやすくなります。
また各部門が優秀な人材を囲い込むことを防ぎ、部門を越えて将来の経営人材を育成する環境を整えやすくなる点もメリットです。
後継者候補の選定基準を明確にし、透明性・公平性を確保する
後継者候補の選定では、特定の上司や経営者の主観だけで判断するのではなく、事前に明確な評価基準を設定することが大切です。以下のような要件を定めておきましょう。
- 経営理念との適合性
- リーダーシップ
- 専門知識
- 実績
- 意思決定力
- 将来的な成長可能性
また上司による評価だけでなく、360度評価やアセスメント、タレントマネジメントシステムなどを活用して複数の視点から候補者を評価することも有効です。選抜基準や評価プロセスの透明性を高めることで、候補者だけでなく選抜されなかった社員にも納得してもらいやすくなります。
候補者の成長や経営環境の変化に応じて計画を定期的に見直す
サクセッションプランは長期的な取り組みであるため、最初に策定した計画を維持すればよいわけではありません。
候補者の成長状況や本人のキャリア志向、退職・異動などの人員変化だけでなく、市場環境や経営戦略の変化によっても必要な人材が変わる可能性があります。そのため半年や1年ごとなど一定のタイミングで候補者の評価や育成状況を確認し、必要に応じて育成内容や候補者の入れ替え、対象ポストの見直しを行いましょう。
計画を定期的にアップデートし常に現在の経営環境や人材状況に合った状態を維持することが、サクセッションプランを形骸化させないためには重要です。
サクセッションプラン(後継者育成計画)を導入した企業の成功事例
ここでは、サクセッションプランを導入し成果を上げている企業の成功事例を紹介します。企業の導入事例をもとに自社に合った育成プロセスや選定基準をイメージし、サクセッションプランの導入を成功させましょう。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、自動車産業に必要な知識や技術の習得には長い時間がかかるとの考えから、中長期的な人材育成に取り組んでいます。
サクセッションプランでも、将来のリーダー候補に対して育成計画の全体像をストーリーとして伝え、キャリアパスを提示したうえで本人の意思や意欲を確認する取り組みを行っている点が特徴です。また、ジョブローテーションなどを通じて幅広い業務経験を積ませることで、将来の経営を担う人材を計画的に育成しています。
トヨタ自動車株式会社の事例から、企業側が一方的に後継者候補を育成するのではなく、候補者本人のキャリア意向も確認しながら長期的な育成機会を提供することが重要だとわかるでしょう。
株式会社りそなホールディングス
りそなホールディングスでは2007年からサクセッションプランを導入し、本社や子会社の役員を対象に後継者の選抜・育成を行っています。
後継者候補の選定や育成において公平性と透明性を重視している点が、りそなホールディングスでのサクセッションプランの特徴です。研修内容の決定に外部機関からのアドバイスを取り入れるだけでなく候補者との直接対話を通じて人材を多面的に評価しています。
また最終的な役員選任では、社外取締役が過半数を占める取締役会で議論を行うなど、特定の経営者の主観だけに依存しない仕組みを整えている点も特徴です。
このような事例から、サクセッションプランでは優秀な人材を見つけるだけでなく、誰もが納得しやすい選抜プロセスを構築することも重要だとわかります。
従業員エンゲージメントを高め、組織を活性化する福利厚生とは
「優秀な人材の定着」「生産性の向上」といった組織課題の解決に向けて、新たな施策をお探しではありませんか
これらの課題解決の鍵として、今「福利厚生」のあり方が見直されています。
しかし、制度設計の手間やコストを考えると、すぐに行動に移すのは難しいと感じる方も少なくありません。そこで近年、選択肢として広がっているのが、アウトソーシング型の福利厚生サービスです。
月額400円から、最短即日で導入が可能
福利厚生サービス「freee福利厚生ベネフィットサービス」なら、 月額400円から、最短即日で導入が可能 です。制度設計や運用の手間もかからないため、専任の担当者がいなくてもすぐに始めることができます。
提供されるのは、全国10万店舗以上の優待や、カフェ・コンビニ・ネットショッピングなどで使えるデジタルギフト。誰もが日常的に使えるサービスなので、全従業員が公平にメリットを実感し、満足度の向上に直結します。
満足度向上と採用活動のアピールポイントに
採用活動でのアピールポイントとなり、エンゲージメント向上にも繋がる福利厚生。
気になった方は是非、 福利厚生サービス「freee福利厚生ベネフィットサービス」をお試しください。
まとめ
サクセッションプランは、経営者や経営幹部などの重要ポストの後継者を計画的に選定・育成し、企業の持続的な成長と経営の安定を実現するための取り組みです。
後継者不足の深刻化や経営環境の変化、コーポレートガバナンスの強化などを背景に、サクセッションプランの重要性はより高まっています。
実施には時間やコストがかかりますが、経営リスクの軽減や優秀な人材の定着、企業理念の継承など得られるメリットは決して小さくありません。経営戦略の明確化や候補者の選定・育成、定期的な見直しなどを段階的に進め、透明性の高いプロセスで自社に合ったサクセッションプランを構築しましょう。
サクセッションプランを支える候補者の評価や人材要件の可視化には、人事評価システムの活用も有効です。freee人事評価では、評価データの一元管理や多面的な評価運用をサポートしています。
よくある質問
タレントマネジメントとサクセッションプランの違いは何ですか?
タレントマネジメントは全社員の才能を活かす広い人材管理の仕組みであり、サクセッションプランはそのなかで経営幹部などの重要ポストの後継者を育てる特定の計画です。サクセッションプランは、タレントマネジメントの手法の一部に含まれると考えられます。
詳しくは、記事内「サクセッションプランとタレントマネジメントの違い」をご覧ください。
サクセッションプランのデメリットは?
サクセッションプランの主なデメリットは、以下の3つです。
- 多大な時間と育成コストがかかる
- 候補者の離職リスクがある
- 対象外の従業員のモチベーションを低下させる
数年から数十年単位の長期的な育成が必要となるため、経営層の関与や教育費などのリソースが大きくかかります。また費用と時間をかけて育てた候補者が、昇格前に他社へ転職してしまうリスクもあります。
さらに候補者に選ばれなかった従業員が不満を感じたり成長意欲を失ったりすることで、組織全体の生産性に悪影響が出るおそれもあるため注意が必要です。
詳しくは、記事内「サクセッションプラン(後継者育成計画)を実施するデメリット」をご覧ください。
参考文献
監修 涌井 好文(わくい よしふみ) 社会保険労務士
平成26年より神奈川県で社会保険労務士として開業登録を行い、以後地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動を行う。退職時におけるトラブル相談や、転職時のアドバイスなど、労働者側からの相談にも対応し、労使双方が円滑に働ける環境作りに努めている。また、近時は活動の場をWeb上にも広げ、記事執筆や監修などを通し、精力的に情報発信を行っている。
HP:涌井社会保険労務士事務所
