人事管理の基礎知識

ダイバーシティとは?多様性が企業競争力を高める理由をわかりやすく解説

ダイバーシティとは?多様性が企業競争力を高める理由をわかりやすく解説

ダイバーシティ(diversity)とは「多様性」を意味し、異なる背景を持つ人々が共存している状態を指す言葉です。ダイバーシティの実現に取り組むことで多角的な視点から画期的なアイデアが生まれるなど、企業や組織にとってもメリットが多い考え方といえます。

本記事では、ダイバーシティに取り組む必要性やビジネス的なメリット、ダイバーシティ促進のためのプロセスや注意点などを詳しく解説します。

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ダイバーシティ(多様性)とは

ダイバーシティ(多様性)とは、組織や集団において、人種・性別・宗教・価値観・障がいなど、さまざまな属性を持つ人々が共存している状態のことを指します。ダイバーシティは近年、ビジネスにおける必要性が高まっている考え方のひとつです。

従来の画一的な組織では、固定観念や偏見が蔓延し、クリエイティブなアイデアやイノベーションが生まれにくいのが課題でした。また、多様性に乏しい企業の場合は異なる視点や考え方が生まれにくく、市場での競争力を失ってしまう可能性が高いといえます。

「ダイバーシティ経営」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは単に多様な人材を採用するだけでなく、その多様性を経営戦略に組み込み、企業価値の向上につなげるアプローチです。ダイバーシティの考え方を企業経営に取り入れることで多様な価値観やアイデアが交わり、組織全体の活力と創造性、発展性が高まります。

ダイバーシティが誕生した背景

ダイバーシティという概念が誕生したきっかけは、1960年代から1970年代のアメリカにおける公民権運動です。

当時は女性やマイノリティが差別を受け、雇用や処遇において不公平な扱いを受けていました。しかし、1964年に制定された公民権法を契機に、ダイバーシティは法的な裏付けを獲得。そこから差別撤廃と平等な機会の提供を目指す取り組みとして広まりました。

昨今では多くの企業がダイバーシティに取り組みはじめ、組織の活性化やイノベーションの創出といった成果につなげています。

日本では、2003年に当時の日経連(一般社団法人日本経営者団体連盟)が発表したダイバーシティ・マネジメントに関するレポートが、多様性という考え方を日本に広く認知させるきっかけとなりました。


出典:文部科学省「「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」報告書の概要」

しかし、国内における本格的なダイバーシティ推進はまだ始まったばかりといえます。人口構造の変化やグローバル化などの社会課題に直面している今、企業は重要な成長戦略として向き合う必要があるでしょう。

ダイバーシティ経営に不可欠な「インクルージョン」とは

ダイバーシティとインクルージョンは、近年のビジネスシーンで頻繁に登場する言葉です。両方を包括した「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という概念もあります。

インクルージョン(Inclusion)とは、性別・年齢・国籍・障がい・性的指向・宗教・価値観など、さまざまな属性を持つ人たちを等しく認め、受け入れ、各々が能力を発揮できる状態を指します。多様な人材を活かすインクルージョンの視点は、個々の従業員のスキルや経験を可視化・管理するタレントマネジメントの必要性にもつながっていきます。

なお、ダイバーシティとは多様な人材が集まっている状態を指す言葉です。そのため、インクルージョンがあって初めてダイバーシティによる価値創造は実現するといえます。

D&Iは、現代社会における企業にとって不可欠な概念です。D&Iの推進によって、人材の確保、組織全体の活性化、イノベーションの促進などさまざまなメリットを得られます。

ダイバーシティの種類

ダイバーシティは大きく「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」の2種類に分けられます。違いを理解することでより有効な取り組みを行いやすくなるため、組織の活性化やイノベーションの創出につながるでしょう。

表層的ダイバーシティ

表層的ダイバーシティは、外見で判断しやすい属性の多様性を指します。

具体的には、性別・年齢・国籍・人種・民族・容姿・障がいの有無などが挙げられます。表層的ダイバーシティは見た目で容易に判断できるため、比較的認識しやすいのが特徴です。

表層的ダイバーシティは企業も取り入れやすく、組織内でさまざまな視点が生まれたり幅広い顧客ニーズへの対応ができたりします。

深層的ダイバーシティ

深層的ダイバーシティとは、外見では判断しにくい属性の多様性を指します。

具体的には、価値観・宗教・性的指向・政治思想・趣味・嗜好・ライフスタイル・思考パターンなどが挙げられます。

外見では判断できないため意識的に取り組む必要がありますが、それによってイノベーションの促進、従業員のエンゲージメント向上などのメリットをもたらしてくれます。

ビジネスにおけるダイバーシティの必要性・メリット

ダイバーシティは、組織内におけるさまざまな属性の多様性を示す概念です。ビジネスにおいて、近年ではダイバーシティの必要性や以下のようなメリットが注目されています。

働きがいのある企業となる

ダイバーシティが推進された企業は多様な「個」が自分らしさを発揮できる環境となりやすく、働きがいのある企業として成長する可能性があります。自身の個性や能力を活かして働ける環境は、従業員のエンゲージメント向上につながります。

採用力が高まる

ダイバーシティ経営は、採用力の強化に大きく寄与します。女性・外国人・障害者・シニア層など、これまで十分に登用されてこなかった人材の積極的な採用により、採用候補者数の増加が見込めます。

ダイバーシティ経営に取り組む企業は「働きがいのある企業」「社会貢献意識の高い企業」として評価され、優秀な人材を獲得しやすくなります。

企業競争力を強化できる

多様な価値観や考え方、バックグラウンドを有する人材の共存により、変化の激しい現代社会において柔軟かつ迅速に対応できるようになります。

異なる視点や専門知識を持った人材が協力すれば、複雑な問題の解決も可能です。さらに、異なる発想やアイデアが生まれることで、革新的な商品やサービスの創出も見込めます。

ダイバーシティを促進させる方法

ダイバーシティを促進させる方法は、企業や組織の規模・文化・目標によって異なります。しかし、以下のように「共通するポイント」もあるので、実践の参考にしてみてください。

社内環境やルールを整備する

多様な人材が活躍できる職場環境を作るには、社内環境やルールの整備が不可欠です。育児・介護休業の充実やテレワーク(リモートワーク)など、柔軟な勤務条件の選択肢を用意しましょう。

また身体的なアクセシビリティを考慮し、車椅子用に道の幅を広くしたり段差をなくしたりするといった取り組みも、ダイバーシティ促進につながります。

研修プログラムを整備する

すべての人が能力を発揮できる環境を作るために必要なのが、社員一人ひとりの意識の変革です。ダイバーシティ研修プログラムを整備すれば、無意識の偏見や差別の解消、異文化コミュニケーション能力の向上などが期待できます。

また、インクルーシブな職場環境を築くための行動を学ぶこともダイバーシティの促進につながります。また、アイデンティティや文化、経歴の異なる人々を受け入れるワークショップを開くのも有効でしょう。

【参考】経済産業省が促進アクションをまとめた「ダイバーシティ2.0」を提唱

経済産業省は中長期的に企業価値を生み出し続けるダイバーシティ経営のあり方について検討を行い、2018年3月、企業が取るべきアクションを「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」にまとめました。

ダイバーシティ2.0とは、単に多様性を受け入れるだけでなく、多様な属性を持つ人材の能力を最大限に引き出し、付加価値を生み出し続ける企業を目指すという経営上の取り組みです。

以下で、ダイバーシティ2.0の行動ガイドラインを実践するためのアクションをまとめました。


アクション内容詳細
経営戦略への組み込み ・ダイバーシティ・ポリシーの明確化
・KPI・ロードマップの策定
・経営トップによるコミットメント
推進体制の構築 ・経営レベルの推進体制の構築
・事業部門との連携
・経営幹部への評価
ガバナンスの改革 ・取締役会の監督機能の向上
・取締役会におけるダイバーシティの取組の監督と推進
全社的な環境・ルールの整備 ・人事制度の見直し
・働き方改革
管理職の行動・意識改革 ・管理職に対するトレーニングの実施
・管理職のマネジメントを促進する仕組みの整備
従業員の行動・意識改革 ・多様なキャリアパスの構築
・キャリアオーナーシップの育成
労働市場・資本市場への情報開示と対話 ・一貫した人材戦略の策定
・労働市場への効果的な発信と対話
・企業価値向上のストーリーの策定
・資本市場への効果的な発信と対話
出典:経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」

ダイバーシティ2.0は、企業の競争力強化と持続的な成長に欠かせない取り組みです。今後、政府による支援や企業間の情報共有などを通じて、さらなる推進が期待されます。

ダイバーシティ促進のためのプロセス

ダイバーシティを促進するためには、一人ひとりへ考え方を定着させることも重要ですが、具体的な取り組みとしてアクションプランを設けることが効果的です。

1:経営層のコミットメントと推進体制の構築

ダイバーシティの推進においては、経営層がダイバーシティの必要性を理解し、重要な企業戦略として取り組むべきものであると従業員に示すことが重要です。経営層がまとめた目標をもとに、ダイバーシティ推進をリードする部門や担当者などを定めていきましょう。

2:現状の把握と課題の可視化

担当者や部門責任者はまず、現状として自社でどの程度ダイバーシティが浸透しているのか把握し、課題を可視化しましょう。性別・年齢・職種など従業員の構成や比率、採用状況、離職率などをデータに落とし込むと、組織の状態を把握しやすくなります。

3:採用・評価制度の見直し

多様な人材を確保し、公平に評価する仕組みを整えるために、必要に応じて採用・評価制度の見直しを行いましょう。「1:現状の把握と課題の可視化」で説明したデータに加え、「女性管理職比率」「外国籍社員比率」「従業員満足度」などを調査し、活用すると見直すべき点が判明しやすくなります。

4:多様な働き方の整備

フレックスタイムやリモートワークを導入する、福利厚生を充実させるなど、従業員が働きやすい制度を整備しましょう。多様な働き方が認められるようになると、家庭(育児・介護など)と仕事が両立しやすくなるため、従業員が活躍しやすく、満足度が高い組織が実現します。

5:社内研修の実施

社内研修を実施して、全社的なダイバーシティに関する理解度を深めることも重要です。

ダイバーシティについての基本的な考えを学ぶ研修や、ダイバーシティ・マネジメント研修に加え、近年では「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」に関する研修なども注目されています。アンコンシャス・バイアスとは、「ダイバーシティについて十分に理解している」「他者に対する偏見はない」と考えながらも、どこかに偏見を持っている状態のことです。

ダイバーシティを促進させるときの注意点

ダイバーシティの促進は、企業にとって重要な経営課題です。しかし、正しい理解なしに進めると、ハラスメントや混乱、生産性の低下といった新たな問題につながるリスクがあります。

ダイバーシティを促進させる際には、以下の点に注意が必要です。

誤った理解によるリスク

まず注意しなければならないのが、誤った理解によるリスクです。ダイバーシティを単なる「女性の活躍」と捉えるのではなく、性別以外にもあらゆる属性や個々の違いを尊重することが大切です。

また、ダイバーシティを表面的な取り組みとして考えるのも誤りです。単にさまざまな人を受け入れようと意識するだけでなく、実際に行動に移していくことでダイバーシティは促進されていきます。

採用する対象を広げるだけでなく、多様な人材が活躍できる制度を整える、さまざまなスキル開発やキャリア選択が可能な仕組みを作るなど、複数の取り組みをあわせて実施することが重要です。

ハラスメント発生の可能性

ハラスメントが発生する可能性についても注意が必要です。

多様な価値観を持つ人たちが集まる場所では、故意ではなくとも無意識の偏見に基づく差別的な言動や、異なる文化への理解不足による摩擦が発生しやすく、それらがハラスメントにつながる可能性もあります。

ダイバーシティを取り入れて日が浅いうちは、従業員同士のコミュニケーションには特に注意を払っておきましょう。特定の従業員が孤立していないか、マネジメント担当者が確認できる体制にしておくことも求められます。

モチベーションと生産性の低下

ダイバーシティを実施する際に生じる、モチベーションの低下も懸念されます。

異なる価値観や、言語・文化の人材が増えることで意見の衝突が起こったり、意思決定の遅延が発生したりする可能性もあります。制度・環境の整備不足やコミュニケーションコストの増加による生産性の低下も注視すべきポイントです。

目標を設定する際には、従業員が混乱せず、生産性の向上が図れる体制にしなければなりません。

ビジネスにおけるダイバーシティの課題

「ダイバーシティは大切な考え方」と多くの人が理解しているものの、まだまだ課題はあります。以下では、世界で実際に起こっているダイバーシティに関する代表的な問題を解説していきます。

性の多様性

ビジネスにおけるダイバーシティの促進において、性の多様性は重要な課題のひとつです。性の多様性に関するビジネスにおける課題は、大きく以下の3つに分類できます。

  • 性自認や性的指向による性的差別
  • 性的指向開示による精神的な圧迫
  • 同性パートナーへの理解度不足

これらの課題を克服するには、企業の意識改革・制度の整備・社会的な理解の促進などの取り組みが必要です。

人種の多様性

特定国出身者への迫害や就職先の選択肢の少なさなど、人種的多様性を実現するには克服すべき課題が数多く存在します。また、人種によって収入格差が存在するケースもあり、同じ仕事をしているにもかかわらず特定の人種が高い賃金で働いているという組織もあります。

これらの課題を克服するには、ダイバーシティに関する意識改革や多様な人材が活躍できる制度、環境の整備などの取り組みが必要です。

働き方・キャリアの多様性

働き方・キャリアの多様性も、重要な課題です。出産・育児による女性のキャリア妨害や男性の育休取得の難しさは、いまだに問題視されています。

これらの課題を解決するためには、制度改革と意識改革などの取り組みが欠かせません。社会環境の整備をはじめ、ワークバランスの支援、多様性を尊重する社会風潮などが今後の課題となるでしょう。

意見の多様性

意見の多様性は、イノベーションや経営課題の解決に不可欠な要素です。一方で、同調圧力による発言のしにくさなど、克服すべき課題も存在します。集団の中で意見が異なるのを恐れたり、周囲からの批判を避けようとしたりする意識が働くと、自分の意見を言えず、発言の修正を行ってしまう場合があります。

同調圧力を克服するには、メンバーが安心して自分の意見を発言できる環境を作るといった対策が有効です。

まとめ

ダイバーシティ(多様性)とは、人種・性別・年齢・宗教・価値観・障がいの有無など、さまざまな違いを持つ人々が共存している状態のことです。イノベーションの創出、人材不足の解消、グローバル化への対応などの観点から近年では多くの企業がこの考え方を重視し、経営戦略に組み込みながら企業価値の向上を図っています。

本記事で解説したプロセスや推進する際の注意点などを参考に、ダイバーシティ推進に取り組んでみてください。

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よくある質問

ダイバーシティとは多様性のことですか?

ダイバーシティは英語で「多様性」を意味する言葉です。ビジネスの場では、主に以下の2つの意味で使われます。

  • 属性の多様性(表層的ダイバーシティ):性別・年齢・国籍・障がいの有無・性的指向・宗教・信条・価値観など、人々の属性の多様性
  • 考え方の多様性(深層的ダイバーシティ):経験・スキル・知識・価値観など・人々の考え方の多様性

詳しくは記事内の「ダイバーシティ(多様性)とは」をご覧ください。

ダイバーシティの英語表記や語源は何ですか?

英語表記は「diversity」です。語源はラテン語で「バラバラに」という意味の di と、「向きを変える」という意味の verse が合わさってできています。英語の turn と同じ意味です。

つまり、diversity は「さまざまな方向へ向かう」という意味を持っています。

ダイバーシティの身近な例は何ですか?

企業における取り組みとしては、女性活躍推進・障がい者雇用・外国人材の受け入れなどがあります。ダイバーシティはさまざまな人々が互いを尊重し、みんなが力を合わせて、社会全体をより良い方向へ導く力を持っています。

詳しくは記事内の「ダイバーシティの種類」をご覧ください。

「ダイバーシティ&インクルージョン」とは?

「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」は、ダイバーシティとインクルージョンの両方を包括した概念です。多様な人材が能力を発揮できる状態を意味するインクルージョンがあって初めて、ダイバーシティによる価値創造は実現します。

詳しくは記事内の「ダイバーシティ経営に不可欠な「インクルージョン」とは」をご覧ください。

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