帳合(ちょうあい)とは、卸売・小売業界において仕入れや販売の取引関係を指す言葉です。特定の業者間で継続的な取引が行われている状態を「帳合取引」と呼びます。
本記事では、帳合の意味や役割に加え、帳合取引がもたらすメリット・デメリットについても詳しく解説します。
目次
帳合とは
帳合(ちょうあい)とは、卸売・小売業界において「仕入れ」や「販売の取引関係」を指す言葉です。
本来は会計用語として「手元にある現金や商品在庫の残高と帳簿を照合する作業」を指す言葉として使われていました。このように、帳合という言葉は「帳簿を合わせる」という会計上の意味と、「取引関係を持つ」という商習慣上の意味の2つが存在します。どちらの意味で使われているのかは、文脈に応じて判断しなければなりません。
ここでは、それぞれの意味について、順番に解説していきます。
会計用語の帳合 = 帳簿合わせ
会計上の帳合とは、手元にある現金や商品の勘定と帳簿を照合する会計上の作業を指します。帳簿に記載されている金額や商品数などの数字の正確性を高めるために行われ、収支の記録や損益計算の役割も担っています。
なお、帳合が会計用語として使われている背景には、江戸時代に帳合と呼ばれる和式簿記が利用されていたためとされています。明治時代初頭に洋式簿記が導入され、和式帳合から洋式簿記へ徐々に移行していきました。
卸売・小売業界の帳合 = 取引関係
卸売・小売業界で使われる帳合とは、「帳合取引」を略した言葉で、一般的に「メーカーが製造した商品が、どの卸売業者を経由して小売店で販売されているか」を示すものです。そのため、帳合とは、「どの卸売業者を窓口として取引しているか」という取引関係を表す言葉でもあります。
このとき、帳合取引においてメーカーや小売業者から見た取引先となる卸売業者のことを「帳合先」と呼びます。卸売業者は「ベンダー」「問屋」「商社」と表現されるほか、「帳合卸商」とも呼ばれ、商品流通において重要な役割を担っています。
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帳合取引の例
帳合取引とは、メーカーと小売店の間で行われる取引において、卸売業者を経由して商品を流通させる契約形態のことです。
この帳合取引には卸売業者の存在が欠かせません。卸売業者は、メーカーと小売業者との橋渡し役として、交渉や調整を行い、在庫や発注に関する業務を代行することで、双方にとって取引をスムーズにする役割を果たしています。
帳合取引において小売店が商品を仕入れる際には、2つのルートがあります。ひとつは卸売業者を経由して仕入れるケースで、もうひとつはメーカーから直接仕入れて、伝票処理などの管理業務のみを卸売業者に委託するケースです。後者の場合、商品はメーカーから直接小売業者へ引き渡されます。卸売業者はこの取引に関わりますが、それは帳面上のことだけで在庫は持ちません。
たとえば、食品業界を例にすると、卸売業者Aと小売店Bが商品Cの取り扱いについて合意すれば、小売店Bは商品Cの発注先として卸売業者Aを指定するようになります。この状態を卸業界では「商品Cの帳合が当社(A卸)に決まった」と表現します。
なお、帳合先は商品ごと、メーカーごとに異なることが多く、小売店は複数の帳合先と取引関係(帳合取引)を持ちながら、仕入れの最適化を図るのが一般的です。
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帳合取引の役割
帳合取引は、単に取引先を決めるだけでなく、仕入れや物流の効率化といった具体的な役割を果たしています。
ここでは、小売業者と卸売業者の双方にとっての帳合取引のメリットを解説します。
仕入れの効率化
消費者に直接商品を販売する小売業者にとって、安定した商品の仕入れ体制が欠かせません。仕入れ先を頻繁に変えると、日によって品揃えが不安定になり、欠品や機会損失のリスクが高まります。
帳合取引が日常的に行われていれば、震災や台風、積雪などが発生した場合でも、改めて仕入れ先を探す必要がなく、安定した供給が確保できます。また、流通業界には掛け売り(先に商品を納品して、後払いで支払う)という慣習があるため、取引経験のある業者同士で行う帳合取引は、未経験の新規取引先から仕入れるよりもスムーズであるといえるでしょう。
このように、帳合取引は小売業者にとって仕入れの効率化と安定供給を両立させる仕組みとなっています。
物流の効率化
帳合取引が担うもうひとつの役割は、物流の効率化です。背景には、山が多く小規模な集落を多数抱える日本ならではの複雑な地形が関係しています。
商品を各地域に効率的に流通させるためには複雑な地形に適した土地勘や流通網が必須であり、全国に商品を展開するうえで、メーカーの力だけではなかなか対応しづらいのが現状です。
現代の物流は発達していますが、地方の小売店に商品を迅速かつ確実に届けるためには、融通の利く帳合取引が重要です。地域ごとの流通に精通した卸売業者を介することで、メーカー単独では難しい効率的な配送や在庫管理が可能になります。
帳合取引のメリット
帳合取引は、小売業者・メーカーの双方にさまざまなメリットがあります。ここでは、帳合取引の代表的なメリットを紹介します。
小売業における帳合取引のメリット
小売業が帳合取引を採用するメリットは以下のとおりです。
小売業における帳合取引のメリット
- 受発注や仕入れ業務の手間を省ける
- 商品を安定的に仕入れられる
- 信用の担保になる
- 卸売業者を通して市場をつかめる
帳合取引の最大のメリットは、卸売業者を介することで受発注や仕入れ業務の負担を軽減できる点です。帳合取引により、幅広いメーカーの商品や希望する商品を効率的に仕入れられるため、安定的な商品供給が可能になります。
また、仕入れたいメーカーの商品があったとしても、これまでに取引をした経験がなければ不安が残るでしょう。その場合も、信頼できる卸売業者を介することで信用が担保され、安心して取引を進められます。さらに、卸売業者との日常的なやり取りを通して、新商品のトレンドやメーカーの開発動向、競合他社の情報なども収集可能です。
このように、帳合取引を活用することで、小売業者は仕入れの効率化と情報収集を両立させ、本来の販売や販促業務に専念できるのです。
メーカーにおける帳合取引のメリット
メーカーが帳合取引を採用するメリットは以下のとおりです。
メーカーにおける帳合取引のメリット
- サプライチェーンの効率性を高める
- 土地勘がある卸売業者が、配達を代行してくれる
- 小売業者が求める情報をリサーチしてくれる
- 販売コストを削減できる
メーカー側にとっても、帳合取引は信用の担保になります。とくに大手以外のメーカーにとって、小売店との直接取引は各地に支社や物流網を整備する必要があり、全国展開はハードルが高い場合があります。
帳合取引なら、地域に精通した卸売業者が配送や市場調査を代行してくれるため、メーカーは商品開発や生産、研究といった本来の業務に集中できます。
このように、卸売業者に流通の一部を任せることで、メーカーは効率的に販路を拡大し、コストを抑えながら事業を運営できるのです。
帳合取引のデメリット
帳合取引のデメリットは、以下のとおりです。
帳合取引のデメリット
- コストが高くなる
- 消費者の負担が大きくなる
- 独占禁止法に抵触するおそれがある
最大のデメリットは、取引コストが高くなりやすい点です。帳合先である卸売業者は、メーカーからの仕入れ価格と小売業者への販売価格の間に価格差を設けることで利益を得ています。
小売業者がある卸売業者を帳合先に指定した場合、小売業者は他の卸売業者からその商品を仕入れることができなくなります。そのため、小売業者は卸売業者から提示された価格を受け入れざるを得なくなり、コストも相対的に高くなります。
これは当然、消費者にとってもデメリットとなります。仕入れ値に対してマージンが発生することで消費者に余計なコストがかかった結果、商品の売れ行きが落ち込む可能性もあるでしょう。
また、帳合取引は独占禁止法に抵触する恐れもあります。
独占禁止法とは
独占禁止法とは、公正で自由な市場競争を保つために、不当な取引制限や独占的な行為を禁止する法律です。
特定の業者による帳合取引が市場を占めるほど、競合他社の参入を阻むことになり、市場の流動性を確保できなくなります。そのため、帳合取引においては定期的な帳合先の見直しや、掛け率の調整など、法令に準じた取引の見直しが必要とされています。
出典:公正取引委員会「独占禁止法の概要を知ろう」
まとめ
帳合には2つの意味があり、卸売・小売業界では「取引関係」を示す言葉として使われます。帳合関係を結ぶことで、受発注の手間が省けたり、流通の効率化が図れたりと、小売店やメーカーにとって大きなメリットをもたらします。
ただし、取引が固定化されることで市場の競争が働きにくくなり、仕入れ価格や販売価格が高止まりするリスクもあります。消費者は決まった品揃えの商品から選ぶしかなく、余計なコストを負担するケースも出てきます。
帳合取引を最大限に活かすには、メリットとデメリットを理解したうえでのバランスの良い運用が大切です。定期的に帳合先や契約内容を見直すとともに、販売管理システムなどを活用して、業務効率化と透明性の高い取引体制を整えていくことが重要になります。これにより帳合取引のリスクを抑えつつ、サプライチェーン全体の最適化を図れるでしょう。
よくある質問
帳合(ちょうあい)の意味とは?
帳合には2つの意味があり、会計上では手元にある現金や商品の勘定と帳簿を照合する「帳簿合わせ」のことを指します。また、卸売・小売業界においては「取引関係」を示す言葉として使われます。
詳しくは記事内「帳合とは」をご覧ください。
帳合取引が行われる理由は何ですか?
帳合取引は、卸業者と小売業者の間で取引を固定し、受発注や在庫管理の効率化を図ることで、流通コストの削減や供給の安定化に役立つため行われています。
詳しくは記事内「帳合取引の役割」をご覧ください。
帳合取引を行ううえでの注意点は?
帳合取引では、取引先が過度に偏ると仕入れのリスクが高まるだけでなく、独占禁止法に抵触する恐れもあります。取引先は適度に分散し、安定した供給と法令遵守のバランスを意識しましょう。
詳しくは記事内「帳合取引のデメリット」をご覧ください。
