監修 橋爪 祐典
坪月商(つぼげっしょう)とは、店舗の1坪あたりが1ヶ月にどれだけの売上を生み出しているかを示す指標です。限られた面積で、どれほど効率的に収益を上げているかを判断でき、店舗の収益効率を正確に把握するうえで欠かせない指標です。
本記事では、坪月商の基本的な意味や計算方法、坪月商を高めるための具体的な方法を解説します。
目次
- 坪月商とは
- 坪月商の求め方
- 飲食店の坪月商の平均
- 坪月商が重要な理由
- 店舗の収益性を可視化できる
- 他店舗や業界平均との比較に使える
- 出店判断や投資回収期間の目安になる
- 坪月商が高い店舗の特徴
- 集客力が強い
- 客単価を高める工夫をしている
- 店舗デザインや居心地に優れている
- リピーターを生む仕組みがある
- ホスピタリティや接客力が高い
- 自店舗の強みを理解している
- スタッフ教育と接客品質が充実している
- 坪月商を高める具体的な方法
- メニュー内容や価格設定を見直す
- ターゲットを明確にし差別化を図る
- 宣伝・販促を戦略的に行う
- 店舗レイアウトや動線を改善する
- 席稼働率を高める
- セルフサービスの導入を検討する
- まとめ
- よくある質問
坪月商とは
坪月商(つぼげっしょう)とは、1坪あたり1ヶ月でどれだけの売上を上げているかを示す指標で、主に飲食業や小売業などで用いられます。
店舗の広さに対する売上効率を数値化でき、「店舗の生産性」や「収益効率」の判断に役立ちます。
坪月商の求め方
坪月商の計算式は「月間売上 ÷ 店舗面積(坪)」です。1坪=約3.3平方メートルのため、店舗面積(平方メートル)を3.3で割ると坪数が算出できます。
たとえば、20坪と10坪の店で同じ売上だった場合の坪月商は以下のようになります。
- 20坪で月間売上400万円の居酒屋A店:坪月商20万円(4,000,000円 ÷ 20坪)
- 10坪で月間売上400万円のカフェB店:坪月商40万円(4,000,000円 ÷ 10坪)
まずは自店の坪月商を3ヶ月ほど算出してみましょう。同業態・同立地の平均値と比較すると、改善点や課題発見の参考になります。
飲食店の坪月商の平均
坪月商の一般的な目安は、以下のとおりです。
- 10万円未満:改善の余地あり
- 15万~20万円前後:標準的な水準
- 30万円以上:繁盛店レベル
ただし、この数値は業態によって異なるため、注意が必要です。立ち飲みやテイクアウト業態は高め、滞在型のカフェやレストランはやや低めになる傾向があります。
坪月商が高い店舗は、これらのバランスが取れていると判断できます。一方、坪月商が低い場合は、席数・回転率・客単価のいずれかに課題があることが多いため、改善を検討しましょう。
坪月商が重要な理由
坪月商は、単なる売上指標ではなく、店舗経営の効率や収益構造を判断するための経営指標です。
ここでは、坪月商が重要な主な理由としては、以下の3つが挙げられます。
坪月商が重要な主な理由
店舗の収益性を可視化できる
坪月商を算出することで、収益構造の健全性を客観的に把握できます。
たとえば、同じ月商500万円の2店舗を比較した場合、効率に大きな差があります。
- 店舗A(50坪):坪月商10万円
- 店舗B(20坪):坪月商25万円
家賃が坪2万円とすると、店舗Aの家賃比率は20%、店舗Bは8%となります。B店のほうが利益を残しやすい構造です。
坪月商が低い店舗は、固定費(家賃・人件費・光熱費)に対して、売上効率が下がっていると考えられます。自店の坪月商を定期的に算出することで、経営のバランスを数値で管理できます。
他店舗や業界平均との比較に使える
坪月商は、店舗の規模や立地条件が異なる店同士でも比較できる共通の指標です。
売上金額だけでは経営効率を判断しにくいですが、坪月商を使うことで、自店の立ち位置を数値で確認できます。まずは、店舗の坪月商を算出してみましょう。
たとえば、20坪で月商320万円の居酒屋であれば、坪月商は16万円(320万円÷20坪)です。業界平均(15万〜20万円)と比べると標準的な水準ですが、繁盛店の基準である30万円以上と比較すると、改善の余地があるといえるでしょう。
また、坪月商は立地条件の違いを考慮した比較も可能です。
家賃の安い郊外店舗の場合、坪月商15万円でも利益を確保できる一方で、都心一等地では40万円以上を目指さなければ採算が取れないケースもあります。
このように、坪月商を活用すれば、自店の現状を正確に把握し、業界水準や立地に応じた現実的な改善目標を設定できます。
出店判断や投資回収期間の目安になる
坪月商は、新規出店の際やリニューアル時に採算が取れるかを判断するための指標になります。
家賃や初期投資に対して、どの程度の売上を確保すれば利益が出るのかを逆算できるため、過大投資や赤字リスクを防ぐ効果があります。
たとえば、20坪・家賃月50万円の物件で、家賃比率を10%に抑えたい場合の月商は、以下のとおりです。
- 必要月商:500万円(= 50万円 ÷ 10%)
- 必要坪月商:25万円(= 500万円 ÷ 20坪)
このように、想定する坪月商を設定することで、家賃や立地に見合った売上目標を明確化できます。
事前にシミュレーションを行えば、無理のない収益計画や投資回収期間の見通しを立てやすくなるでしょう。
坪月商が高い店舗の特徴
坪月商の高い店舗には、さまざまな要素において共通する特徴があります。具体的には以下のような点が挙げられます。
坪月商が高い店舗の特徴
坪月商の改善余地がある店舗は、上記を実践できているか見直してみるとよいでしょう。
集客力が強い
坪月商が高い店舗の多くは、安定した集客力をもっています。立地や看板に頼るだけでなく、SNSや口コミ、グルメサイトなど、複数のチャネルを効果的に活用しています。
たとえば、料理の写真や店内の雰囲気、スタッフの人柄が伝わる写真・動画をSNSに投稿をすることで、店のイメージがつきやすく、来店のハードルを下げることができます。
また、平日の閑散時間にあわせた割引やキャンペーンを実施し、来店の波を平準化する工夫も効果的です。こうした日常的な情報発信と販促活動の積み重ねが、安定した集客を生み出しています。
客単価を高める工夫をしている
坪月商が高い店舗は、顧客が自然に高単価メニューを選ぶような工夫をしています。値上げではなく、料理内容や組み合わせを工夫し、価格以上の満足感を与える仕組みが整っています。
たとえば、人気メニューにドリンクやデザートを組み合わせたり、限定メニューで特別感を演出したりすることで、顧客の選択単価が高まるでしょう。
店舗デザインや居心地に優れている
坪月商が高い店舗は、店舗デザインと居心地のよさを戦略的に設計し、売上に結びつけています。
単におしゃれな空間を作るのではなく、滞在時間や回転率、顧客満足度といった経営指標を意識して、デザインを最適化しています。
たとえば、短時間利用が多い立ち飲み店では、視界の抜け感や立ち位置の距離感を工夫して回転率を高める設計が効果的です。
一方、カフェのように滞在時間を重視する業態では、ソファ席や間接照明などを取り入れてリラックスできる空間を整えることで、長時間利用を促しています。
このように、業態や利用目的にあわせた空間設計が、坪月商の向上につながります。居心地のよさと収益性を両立させた空間づくりは、高い坪月商を維持する店舗の共通点といえるでしょう。
リピーターを生む仕組みがある
坪月商が高い店舗は、来店後のフォローメールやクーポン配信など、再来店の動機づけを意識した仕組みを戦略的に設計しています。
また、顧客の嗜好や来店頻度をデータで把握し、個々の興味にあわせた情報発信を行うことで、自然な形で常連化を促しています。
リピーターの増加は、稼働率と客単価の両方を安定させるため、結果として坪月商の維持・向上にもつながるでしょう。
ホスピタリティや接客力が高い
坪月商が高い店舗は、ホスピタリティや接客力が高いのが特徴です。
料理提供後のさりげない声かけや、次のオーダーを迷うタイミングでの提案など、客一人ひとりに合わせた対応が顧客満足度向上につながります。こうした接客品質の積み重ねは良質な口コミや紹介を生み、安定的な集客を支えます。
さらに、スタッフ全員が共通の接客方針をもっている店舗は、サービスの質が均一に保たれやすい傾向があります。
自店舗の強みを理解している
坪月商が高い店舗は、自店舗の強みを明確に理解しています。 料理の味や素材へのこだわり、客層との相性など、自店ならではの魅力を整理し、それをメニューや接客に一貫して反映させています。
店の強みを軸にブランディングができている店舗は、顧客からの信頼を得やすく、ファン化・リピートにつながりやすいでしょう。結果として、安定した集客と売上を維持しやすくなり、坪月商の高い店舗運営を実現しています。
スタッフ教育と接客品質が充実している
坪月商が高い店舗は、スタッフ教育を体系的に行い、接客品質を一定の水準で維持しています。新人研修や定期的なロールプレイングなど、継続的にスキルを高める仕組みが整っているのが特徴です。
さらに、優れた接客事例を共有する文化が根付いており、スタッフ全員が一貫したサービスを提供できます。こうした教育体制によって、接客の質が安定し、店舗全体の信頼感やブランド力の向上につながっています。
坪月商を高める具体的な方法
坪月商を改善するためには、単に売上を増やすだけでなく、客単価・回転率・席稼働率の3つを総合的に見直すことが大切です。具体的な方法は、以下のとおりです。
坪月商を高める具体的な方法
これらを順序立てて実践し、自店の課題を継続的に検証していくことで、限られた坪数でも安定的に高い収益を生み出す店舗に近づけるでしょう。
メニュー内容や価格設定を見直す
坪月商を高めるには、単に価格を上げるのではなく「価格以上の価値を感じてもらう工夫」が重要です。 メニュー全体の構成や価格バランスを最適化し、顧客満足と利益を両立させましょう。
まず意識したいのは、メニュー構成のバランスです。看板メニューには原価をかけて集客力を高めつつ、利益率の高いドリンクやデザートを組み合わせることで、全体の利益を底上げできます。
これは「粗利ミックス」と呼ばれる考え方で、効率的な収益確保の基本です。
さらに、以下のような改善も効果的です。
| 改善例 | 期待できる効果 |
|---|---|
| セット・季節メニューの導入 | 旬の食材や限定要素を取り入れ、新鮮さと特別感を演出 |
| 販売データの分析 | 売上上位・下位メニューを比較し、顧客ニーズの変化の把握 |
| 見せ方の工夫 | メニュー表の写真や配置を見直し、注文意欲をアップ |
価格設定はバランスが肝心です。高すぎれば来店頻度が下がり、安すぎれば利益を圧迫します。競合店との比較や原価率を考慮しながら、顧客が納得して選びたくなる価格を設定しましょう。
ターゲットを明確にし差別化を図る
「誰に」「どのような体験を提供するか」を明確にし、他店との差別化を図ることで、坪月商の向上につながります。
まずは、5W2Hの視点で自店のコンセプトを整理しましょう。
| Who(誰に) | 主な来店客層は誰か(ファミリー層やカップルなど) |
|---|---|
| What(何を) | どのような料理・体験・価値を提供するのか |
| Why(なぜ) | 顧客がその店を選ぶ理由は何か(価格・雰囲気・味など) |
| When(いつ) | どの時間帯・曜日をメインターゲットにするか |
| Where(どこで) | 立地や商圏の特徴をどう活かすか |
| How(どのように) | 提供スタイル・接客方法・サービス体験をどう設計するか |
| How much(いくらで) | 価格帯はどの程度に設定するか |
この整理を行うことで、自店の強みと狙う顧客層が明確になり、メニュー構成や宣伝方針にも一貫性が生まれます。
さらに、競合との差別化も欠かせません。照明や素材、外観デザインといった要素は、業態や方針によって最適解が異なります。
他店を模倣するのではなく、自店のコンセプトにあわせて、メニューづくりや空間設計、接客方針などの方向性を統一させましょう。
宣伝・販促を戦略的に行う
どれだけ料理やサービスの質が高くても、客が店のことを知られなければ来店にはつながりません。坪月商を高めるために、新規顧客の認知拡大と、既存顧客の再来店促進を両立させる宣伝戦略を行いましょう。
まずは、写真や動画を活用して「店の魅力を可視化」することがポイントです。料理やメニューだけでなく、スタッフの雰囲気・店舗のこだわりなどの魅力を発信することで共感を生み、来店の動機づけにつながります。
また、口コミやレビューサイトの管理も重要です。店舗情報や写真を定期的に更新し、投稿への返信を丁寧に行うことで、信頼感を高められます。こうした地道な取り組みが、ネット検索経由の集客を支える大きな要因となります。
再来店を促すには、以下のように、顧客との継続的な接点づくりが効果的です。
- クーポン
- ポイント制度
- メール配信
来店のたびに些細な特典を設けることで、「また行きたい」と思ってもらえる関係を築けます。
知名度が十分でない店舗ほど、宣伝を継続して行いましょう。短期間の割引やイベントに頼るのではなく、日常的な発信と顧客との関係構築を積み重ねて、長期的に安定した集客基盤を作りましょう。
店舗レイアウトや動線を改善する
効率的な店舗レイアウトは、限られた面積で最大限の売上を生むための基本条件です。
動線が複雑だったり、厨房やレジの配置が不適切だったりすると、提供の遅れや注文ミスが発生しやすくなります。結果的に、回転率の低下につながります。
まずは、厨房・客席・レジの位置関係を見直し、スタッフの移動距離や折り返し回数を最小限に抑えましょう。ピーク時のスタッフの動きを動画などで記録し、どこで滞留・交差が発生しているかを分析すると効果的です。
そのうえで、以下のような小規模な改善に取り組むと、費用を抑えながら効率化が図れます。
- テーブル間隔を数センチ単位で調整して通路を確保する
- サービス台やドリンクステーションの位置を移設する
- 配膳や下げ膳の動線上にある障害物を撤去する
また、業態に応じてカウンター席とテーブル席の割合を調整するのもポイントです。「席数」ではなく「1時間あたりの提供可能食数」を基準に、レイアウトの最適化を図りましょう。
これらの改善によって、スムーズなオペレーションが実現し、結果として坪月商の向上につながります。
席稼働率を高める
満席でも、同一テーブル内に空席があれば機会損失になります。
来店人数の分布(1名・2名・3名以上)を曜日・時間帯別に把握し、それにあわせて2名席や可動式テーブルの比率を調整しましょう。
予約は15〜30分刻みで時間帯を分散し、会計〜リセットまでの所要時間を短縮して「次の着席までの無駄時間」を圧縮しましょう。
また、客数が減少する時間帯は短時間利用プランや時間限定メニューを導入し、空席を有効活用するのも効果的です。テイクアウトやデリバリーを強化すれば、店内キャパを超えた売上も取り込めます。
席稼働率(着席人数÷総席数)を計測し、改善前後で効果を確認する運用を行いましょう。
セルフサービスの導入を検討する
セルフサービス化は「効率化」と「顧客満足度の維持」を両立できる有効な手段です。
テーブルオーダーやモバイルオーダーを導入して注文や会計を自動化すれば、スタッフは配膳・接客などの業務に集中できます。結果として、回転率の向上と人件費削減の両方が期待できます。
また、会計時の混雑を防ぐためには、セルフレジや券売機の導入も効果的です。ピークタイムの待ち時間を短縮できれば、顧客満足度の向上も図れます。
大規模な設備投資が難しい場合は、ウォーターステーションの設置やカトラリー・調味料のセルフ化など、負荷の高い定型作業から段階的に導入するのも効果的です。
店舗の課題が「注文対応の遅れ」か「会計の混雑」かを明確にし、最も効果の高い部分から導入を検討しましょう。
まとめ
坪月商は、店舗の収益力を客観的に把握できる重要な指標です。 自店の数値を算出し、業界平均と比較することで、改善すべきポイントが明確になります。
また、メニュー構成や価格設定、店舗レイアウトの見直しなど、日々の工夫が坪月商の向上につながります。まずは数字を整理し、現状を「見える化」することからはじめましょう。
こうした数値管理を効率化するには、クラウド会計ソフト「freee会計」の活用がおすすめです。レジやクレジットカード、銀行口座と連携して、売上や支出データを自動で取り込めるため、経理作業の手間を大幅に削減できます。
手作業を減らしながら、売上と経費のバランスを正確に把握し、坪月商の改善につなげましょう。数字を「感覚」ではなく「データ」で捉えたい人は、「freee会計」を活用して効率的に収益の改善を進めてみてください。
よくある質問
坪月商はどのように求めますか?
坪月商は、「月間売上 ÷ 店舗面積(坪数)」で算出できます。 たとえば、店舗面積が20坪で月400万円の売上なら坪月商は20万円です。
この数値を見ることで、店舗の広さに対して売上が効率的かどうかを客観的に判断できます。 まずは自店の坪月商を算出し、経営改善の出発点として活用しましょう。
詳しくは、記事内「坪月商の求め方」をご覧ください。
飲食店の坪月商の平均はどのくらいですか?
飲食店全体の坪月商は、平均15~20万円が目安です。 30万円を超えると「繁盛店」と呼ばれる水準になります。 ただし、業態や立地によって理想値は異なります。
自店の坪月商を同業種・同立地の平均と比べてみると、課題や強みが見えやすくなるでしょう。
詳しくは、記事内「飲食店の坪月商の平均」をご覧ください。
監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。
