IPOの基礎知識

バリュエーション(企業価値評価)とは?M&Aにおける手法や注意点を解説

監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士

バリュエーション(企業価値評価)とは?M&Aにおける手法や注意点を解説

「自分の会社は、一体いくらの価値があるんだろう?」。 もしあなたが会社の売却や、新たなM&Aを検討しているのであれば、この疑問は避けて通れません。バリュエーション(企業価値評価)は、まさにその答えを出すためのプロセスといえるでしょう。

バリュエーションは、企業の価値を金額として算定する、M&Aや資金調達、経営戦略立案の場面で欠かせないものです。評価対象は資産や負債といった財務情報だけでなく、将来の収益性やブランド力、ノウハウなどの無形資産、さらには市場環境や経営方針など非財務的要素も含まれます。

本記事では、バリュエーションの重要性や具体的な手法、実施時の注意点を解説します。

目次

成長企業の会計管理を柔軟に効率よく

freee会計は、会計をはじめとした全業務を集約化し、業務ツールごとの多重入力がいりません。シンプルで使いやすく業務の自動化が進みます。リアルタイムレポートの活用で、経営判断の高速化が可能に。

バリュエーション(企業価値評価)とは?M&Aで欠かせない「価値算定」の基礎知識

バリュエーションとは、企業価値評価とも呼ばれる、企業全体の価値を金額として算定する作業を指します。評価の対象は保有資産の価値にとどまらず、将来的に得られると見込まれる収益力や、ブランド力、ノウハウといった無形資産、また市場環境や経営方針などの非財務的要素まで含まれます。

バリュエーションは、M&Aや資金調達の場面だけでなく、中長期的な経営戦略の立案においても不可欠です。企業の潜在的な価値を明らかにすることで、投資家や金融機関、取引先などの関係者に対して、説得力のある企業価値を示せます。

企業価値と株式価値の違い

企業価値とは、企業そのものの総合的な価値を指します。一方の株式価値とは、企業価値から負債分を差し引いた株主の持ち分となる部分の価値です。

企業価値は会社全体を経済的に評価しており「事業価値」と「非事業用資産」を合わせて評価します。事業価値とは本業の事業活動が生み出す価値で、非事業用資産は余剰資金や遊休不動産など、本業とは直接関係のない資産です。

株式価値は、この企業価値から有利子負債など返済義務のある「他人資本」を差し引いたものです。M&A時には最終的に株式の譲渡価格を決める必要があるため、この株式価値の算定がとくに重要といえます。

バリュエーションが必要な理由

バリュエーションは、単なる金額を算出するだけではなく、交渉や投資判断の前提条件を整える役割を持ちます。適切な評価を行うことで取引や戦略決定のリスクを減らし、関係者間の共通理解を築くためにも必要です。

交渉をスムーズに進めるための価格決定基準

M&Aにおける交渉では、売り手と買い手の思惑や利害が異なることから、価格面で意見が対立しがちです。バリュエーションの実施は、合理性と客観性を備えた価格の基準を提示でき、交渉をスムーズにします。

とくに売り手は「最低限この金額以下では譲渡しない」というラインを把握でき、買い手は投資に見合うリターンを得られる条件を検討できます。こうした基準があることで、双方にとって納得感のある条件を設定しやすくなります。

投資判断の基礎となる企業の実態把握

買収を検討する側にとっては、対象企業の実態を十分に理解しないまま取引を進めることは大きなリスクです。バリュエーションを実施することは、財務諸表に現れる数値だけでなく、事業の競争力や成長力、潜在的な課題など、多角的な視点からの分析を可能にします。

なお、こうした分析は、財務・税務・法務などのデューデリジェンスを通じて得られた情報を前提に行うことが望ましく、この過程で簿外債務や契約上の制約など目に見えにくい負債や将来的なコスト要因を把握できる可能性があります。

より現実的で安全性の高い投資判断につなげるためにも、デューデリジェンスとバリュエーションを組み合わせた検討は必須だといえるでしょう。

バリュエーションの3つの手法:コスト・マーケット・インカム

バリュエーションを行うには、大きく分けて3つの方法があります。

  • コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)
  • マーケットアプローチ
  • インカムアプローチ

評価対象となる企業の業種や規模、事業環境に応じて最適な手法は異なります。また、複数の手法を組み合わせて実施するのも一般的です。

コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)

コストアプローチは、貸借対照表に記載された資産や負債に着目し、純資産額をもとに評価する手法です。保有している資産や負債の時価を反映するため、客観性が高い点や実態を把握しやすい点がメリットです。

ただし、将来の収益性や市場の成長性といった要素は反映しにくいため、将来的な価値を評価する目的には適さない場合に注意しましょう。

評価手法概要
時価純資産法企業が所有する全ての資産や負債を時価で評価して純資産を算出
簿価純資産法企業の貸借対照表上の帳簿価額をもとに純資産を算出
清算価値法資産を売却して負債を差し引いた金額で評価
(企業が解散した場合を想定)

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、同業種や類似ビジネスモデルを持つ企業の株式市場での評価や、過去のM&A取引事例などと比較して相対的な価値を導く方法です。実際の市場価格や取引価格を参考にするため、客観性が高く現実的な評価が可能となります。

ただし、適切な比較対象となる企業や取引事例が見つからない場合は、評価が難しくなるという課題があります。

評価手法概要
類似企業比較法
(マルチプル法)
類似する上場企業の株価指標(PERやPBRなど)を参考にして算出
類似取引比準法類似する企業で過去にM&Aされた際の取引価格を参考に算出
市場株価法評価対象企業が上場している場合は市場の株価をもとに評価

インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来的に生み出すことが見込まれる利益やキャッシュフローをもとに評価する方法です。将来の成長性を反映できるため理論的な投資判断に適しています。

しかし、将来予測の前提に依存するため恣意的な評価につながりやすく、客観性を保つ工夫が求められます。

評価手法概要
DCF
(割引キャッシュフロー)法
将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出
収益還元法将来の収益を一定の割引率で還元して算出
配当還元法株主に対する配当金支払いに焦点を当てて評価

非上場企業のM&Aにおけるバリュエーションの手法

非上場の中堅・中小企業におけるM&Aでは、コストアプローチが基本手法として選ばれることが多くあります。実際の資産や負債の状況を評価に反映しやすいことや、評価の考え方が当事者に理解されやすいことが理由として挙げられます。

また、上場企業とは異なり市場株価が存在しないため、マーケットアプローチやインカムアプローチを単独で適用するには限界があるともいわれています。

もっとも、実務では対象企業の特性に応じて、これらの手法を組み合わせて用いるケースも少なくありません。たとえば、将来の成長が見込まれる企業であればインカムアプローチを取り入れ、同業種の取引事例が豊富な場合はマーケットアプローチを活用するなど、複数の評価方法を補完的に使うことで、より妥当性の高い評価を可能にします。

PBRやPERとは?バリュエーションの主な指標を解説

バリュエーションは複数の財務指標を用いて多角的に分析することが重要です。代表的なものとして、以下が挙げられます。バリュエーションを実施する際は、これらの指標についても理解を深めておきましょう。

  • 株価純資産倍率(PBR)
  • 株価収益率(PER)
  • 配当利回り

なお、これらの指標は基本的に株価を前提とするため、非上場企業の場合は直接用いることが難しい場合があります。その場合は、上場企業や類似会社のデータを参照して比較する「マーケットアプローチ」の一環として活用されます。

株価純資産倍率(PBR)

株価純資産倍率(PBR)とは、株価と企業の純資産の関係を示す指標です。株価が1株あたり純資産額の何倍になっているかを表し、PBRが低いほど株価は割安と評価されます。

  • 株価純資産倍率 = 時価総額 ÷ 純資産
    (もしくは、株価 ÷ 1株あたりの純資産)

株価収益率(PER)

株価収益率(PER)は、株価と純利益の関係を示し、利益水準に対して株価が割高か割安かを判断する指標です。PERが高い場合は利益に比べて株価が割高、低い場合は割安と評価されます。

  • 株価収益率 = 時価総額 ÷ 純利益
    (もしくは、株価 ÷ 1株あたりの純利益)

配当利回り

配当利回りとは、株価に対する年間配当金の割合を示す指標です。配当を重視する投資家にとっては、利回りの高低が投資判断の目安となります。

  • 配当利回り = 1株あたりの年間配当金 ÷ 現在の株価

バリュエーションを実施する際の注意点

バリュエーションを実施する際には、いくつか注意点があります。より正確で説得力のあるバリュエーションを行うためにも、これらのポイントを押さえておきましょう。

税務上の株価とM&A時の株価には差異がある

バリュエーションには株価の算定が必要ですが、税務上の株価とM&A取引における株価は算定方法や評価結果が異なります。

税務評価は相続税や贈与税の算定を目的としており、取引価格の決定を前提としていません。そのため、M&Aを進める際は税務上の株価ではなく、M&A目的の評価額を専門家などに算定してもらうことが必要です。

評価結果はあくまで交渉材料

バリュエーションの結果は、適正な企業価値を示す一つの目安にすぎません。最終的な取引価格は、市場環境や当事者の戦略的判断を踏まえつつ、売り手と買い手の交渉によって決まります。評価額は交渉を有利に進める根拠にはなりますが、そのまま価格として成立するわけではない点に注意が必要です。

現状分析と課題抽出を行う

バリュエーションを行う前には、自社の財務状況や商品・サービスの競争力、経営理念、強み・弱みなどを客観的に整理し、課題を明確にしておくことが重要です。

こうした事前分析は、より正確な評価をするだけでなく、M&A後の統合プロセスも円滑に進めることにもつながります。

複数の手法の併用が望ましい

各評価手法には長所と短所があります。そのため、単一の手法だけで正確な価値を導くことは困難であり、どれか一つの手法がとくに優れているということもありません。

正確な評価を求めるには、対象企業の特性や取引の目的を踏まえて、複数の手法を組み合わせるのが一般的です。多角的な視点を持つことで、信頼性の高い算定結果を得られます。

専門知識が必要になる

バリュエーションには複数のアプローチや細分化された算出方法が存在します。どの手法を選び、またどのように適用するかは、専門知識と高度な判断を要するためです。正しく評価するためには、M&Aアドバイザーや公認会計士など専門家への依頼が有効です。

まとめ

バリュエーションとは、企業価値を総合的に評価し、金額として示すプロセスです。M&Aにおいては、交渉の基準や投資判断の根拠となる重要な役割を担います。

非上場企業ではコストアプローチが多く採用されますが、将来性や市場の比較データを踏まえて他の手法を併用することも少なくありません。評価結果はあくまで交渉材料であり、最終価格は市場状況や戦略的判断によって変動します。

正確で説得力ある評価を行うためには、複数手法の併用や専門家に意見を求めることも有効です。多角的な視点を持つことで、より妥当性の高い企業価値を導き出しましょう。

freeeで内部統制の整備をスムーズに

IPOは、スモールビジネスが『世界の主役』になっていくためのスタート地点だと考えています。
IPOに向けた準備を進めていくにあたり、必要になってくる内部統制。自社において以下のうち1つでも該当する場合は改善が必要です。

  • バックオフィス系の全てのシステムにアクセス権限設定を実施していない
  • 承認なく営業が単独で受注・請求処理を行うことができる
  • 仕入計上の根拠となる書類が明確になっていない
 

freee会計のエンタープライズプランは内部統制に対応した機能が揃っており、効率的に内部統制の整備が進められます。

内部統制対応機能

  • 不正防止(アクセスコントロール)のための、特定IPアドレスのみのアクセス制限
  • 整合性担保(インプットコントロール)のための、稟議、見積・請求書発行、支払依頼などのワークフローを用意
  • 発見的措置(モニタリング)のための、仕訳変更・承認履歴、ユーザー情報更新・権限変更履歴などアクセス記録
  • 国際保証業務基準3402(ISAE3402)に準拠した「SOC1 Type2 報告書」を受領

詳しい情報は、内部統制機能のページをご確認ください。

導入実績と専門性の高い支援

2020年上半期、freeeを利用したマザーズ上場企業は32.1%。freeeは多くの上場企業・IPO準備企業・成長企業に導入されています。

 

また、freeeではIPOを支援すべく、内部統制に関する各種ツールやIPO支援機関との連携を進めています。

内部統制を支援するツール・連携機能

  • クラウド監査アシスタント「kansapo」とのAPI連携により、事業会社・監査法人・会計事務所等の目的に応じた適切な情報へのアクセスを実現
  • 宝印刷と会計データAPI連携で、IPO準備企業や上場企業における開示業務で必要とされる開示書類を自動作成
  • クラウド連結会計ソフト「結/YUI」とのAPI連携で、作業を自動化し、連結業務が可能に

IPOに向けた準備をお考えの際は、freeeの活用をご検討ください。

よくある質問

バリュエーション(企業価値評価)とは?

バリュエーションとは、企業全体の価値を金額として算定する作業で、企業価値評価とも呼ばれています。

評価の対象は保有資産の価値にとどまらず、将来的に得られると見込まれる収益力や、ブランド力、ノウハウといった無形資産、また市場環境や経営方針などの非財務的要素まで含まれます。

詳しくは、記事内「バリュエーション(企業価値評価)とは?M&Aで欠かせない「価値算定」の基礎知識」をご覧ください。

バリュエーションの手法は?

バリュエーションを実施するには「コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」といった手法があります。これらは評価対象となる企業の規模や業界、環境に応じて複数を組み合わせて行うのが一般的です。

詳しくは、記事内「バリュエーションの3つの手法:コスト・マーケット・インカム」にて解説しています。

バリュエーションとデューデリジェンスの違いは?

バリュエーションとデューデリジェンスは、M&Aなどの際に実施される重要なプロセスですが、目的が異なります。

バリュエーションは企業の財務データや将来の事業計画などに基づき、その事業や企業の経済的な価値を数値で算定するプロセスである一方、デューデリジェンスは買収対象企業の財務、法務、事業内容、人事など、多岐にわたる項目について詳細な調査を行い、潜在的なリスクや問題点を特定するプロセスです。

簡潔にいうと、バリュエーションが「価値を算出する」作業であるのに対し、デューデリジェンスは「リスクや問題を洗い出す」作業です。両者は密接に関わり、デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的なバリュエーションが修正されることが一般的です。

バリュエーションは自社で完結させられる?

バリュエーションを自社で完結させることは可能ですが、専門知識の不足や客観性の欠如によってリスクが伴います。

M&Aの交渉においては、客観的な根拠を示す必要があり、第三者である専門家による評価が欠かせません。正確で信頼性の高い評価を行うためには、専門家への依頼が推奨されます。

監修 前田 昂平(まえだ こうへい)

2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。

前田 昂平

成長企業の会計管理を柔軟に効率よく

freee会計は、会計をはじめとした全業務を集約化し、業務ツールごとの多重入力がいりません。シンプルで使いやすく業務の自動化が進みます。リアルタイムレポートの活用で、経営判断の高速化が可能に。

上場審査から逆算して考える!上場準備のポイント