コーポレートガバナンスとは、企業の不正や不祥事を防ぎ、公正な判断や健全な経営が行えるように監視・統制をする仕組みのことです。
企業の不正や不祥事は、企業価値が落ちてしまうばかりではなく、日本経済にもダメージを与えかねません。このような不正や不祥事を未然に防ぐために、コーポレートガバナンスへの取り組みが強化されています。
本記事では、コーポレートガバナンスの目的や課題、強化する方法を解説します。
目次
- コーポレートガバナンスとは
- コーポレートガバナンスが重要視される背景
- 日本と海外のコーポレートガバナンスの違い
- コーポレートガバナンスと内部統制の違い
- コーポレートガバナンスの目的と効果
- 企業経営の透明性を確保して不正やリスクを防止する
- 株主やステークホルダーの権利や立場を尊重して利益を還元する
- 中長期的な企業の価値を向上させる
- 一部の経営陣による不正や不祥事を防止する
- 利益重視ではない社会的地位を向上させる
- コーポレートガバナンスの課題や問題
- 社外監査により事業のスピードが遅くなる
- 仕組み(社内体制)を作るコストがかかる
- 株主やステークホルダーに依存する
- 社外取締役や社外監査役の人材が不足している
- グループ会社へもガバナンスの整備が必要になる
- コーポレートガバナンスを強化する方法
- 内部統制の構築と強化
- 社外取締役や社外監査役、委員会の設置
- 執行役員制度の導入
- コーポレートガバナンスの浸透化
- まとめ
- freeeで内部統制の整備をスムーズに
コーポレートガバナンスとは
コーポレートガバナンスとは、企業の健全な経営のために、組織での不正や不祥事を未然に防ぎ、公正な判断や運営が行えるように監視・統制する仕組みのことを指します。日本語で「企業統治」という意味です。
コーポレートガバナンスは、株主・ステークホルダーの利益を不祥事から守ったり、企業価値を長期的な目線で向上させたりするために必要な項目です。
会社は経営リスクとなる事案が発生しないように、社外取締役や社外監査役および委員会などの社外管理者を設置し、コーポレートガバナンスが有効に機能するようにしなければなりません。
なお、コーポレートガバナンスを実現するために主要な原則を取りまとめた指針のことを「コーポレートガバナンスコード」といいます。
コーポレートガバナンスコードについて詳しく知りたい人は、別記事「コーポレートガバナンスコードとは? 改訂のポイントや特徴について分かりやすく解説」をあわせてご確認ください。
コーポレートガバナンスが重要視される背景
コーポレートガバナンスが重要視される背景には、大きく2つの理由があります。
1つ目は、1990年代にバブル経済が崩壊してから、企業による不正や不祥事の発覚が増加したことです。たとえば、会計処理や品質チェックなどの不正、過度な時間外労働などがあげられます。
このような不正や不祥事が起きないように、経営を監視する仕組みとしてコーポレートガバナンスが注目されるようになりました。
2つ目は、外国人投資家の持株比率が高まったことです。資金調達のグローバル化が進み、国際的な競争力の強化が必要となりました。
さらに、外国人投資家の増加によって、経営陣に公正で透明性のある情報開示が求められるようになり、コーポレートガバナンスの重要度が高くなっています。
日本と海外のコーポレートガバナンスの違い
日本のコーポレートガバナンスは健全な経営のもと、株主や従業員、関係取引先などステークホルダー全体の権利の保護や競争力が強化されているかを重視しています。一方、海外では重要視されているポイントが各国で異なります。
たとえば、アメリカやイギリスの場合、株主の価値の向上に重点を置いたコーポレートガバナンスが主流です。また、ヨーロッパでは法律でコーポレートガバナンスが定められており、従業員や株主、関係取引先をはじめとしたステークホルダーそれぞれの役割についても明記されています。
日本のコーポレートガバナンスは、特にヨーロッパとは異なり、法令化されていないため、強制力が低いのが特徴です。
コーポレートガバナンスと内部統制の違い
内部統制とは、企業が経営目標や事業目標を達成するために必要なルールや仕組みを整備し、正しく運用することを指します。
内部統制の整備・強化は、社内の不正や不祥事の防止につながり、コーポレートガバナンスが基本原則とする「適切な情報開示と透明性の確保」にも寄与することになります。
コーポレートガバナンスを保つ一手段が内部統制といえるでしょう。
コーポレートガバナンスと内部統制の違い
- コーポレートガバナンス:
第三者が経営者や企業の不正や不祥事を防ぐ取り組み - 内部統制:
社内で経営者や従業員の不正や不祥事を防ぐ取り組み
出典:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」
コーポレートガバナンスの目的と効果
コーポレートガバナンスの目的と期待できる効果は、主に以下の5つです。
コーポレートバナバンスの目的
- 企業経営の透明性を確保して不正やリスクを防止する
- 株主やステークホルダーの権利や立場を尊重して利益を還元する
- 中長期的な企業の価値を向上させる
- 一部の経営陣による不正や不祥事を防止する
- 利益重視ではない社会的地位を向上させる
企業経営の透明性を確保して不正やリスクを防止する
コーポレートガバナンスは、経営戦略・現状の課題・財務状況・リスクマネジメントなどの情報が適切に管理されており、企業の正確な現状を把握する役割があります。
コーポレートガバナンスに取り組み、社外取締役や社外監査役、委員会などを設置することで経営の透明性が増すだけではなく、組織内の不正やリスクの防止にもつながります。
株主やステークホルダーの権利や立場を尊重して利益を還元する
企業の成長と発展のためには、株主をはじめとした顧客や取引先、従業員などのステークホルダーの権利や立場を尊重し、利益を還元する必要があります。
コーポレートガバナンスを実施することで、企業経営の透明性や不正の防止がされている姿勢を株主やステークホルダーにアピールでき、企業と利害関係者の信頼関係構築につながります。
中長期的な企業の価値を向上させる
企業が成長していくには現状維持ではなく、新しい事業を始めたり、新しい人材を確保したりする必要があります。しかし、資金がなければ新しい取り組みも始められません。
コーポレートガバナンスに取り組み、企業の透明性を高めることで、投資家に不正や不祥事が発生するリスクの低い企業だと評価されます。株主や金融機関に安心感を与えると、新たな出資や融資を受けやすくなります。
一部の経営陣による不正や不祥事を防止する
バブル経済が崩壊し、企業内部の一部の経営陣による不正や不祥事が表面化するようになりました。これは、コーポレートガバナンスが徹底されていなかったのが原因です。
2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」に、コーポレートガバナンスの強化について記載されました。それにより、東京証券取引所は金融庁と共同で「コーポレートガバナンス・コード」の原案をまとめ、2015年6月に上場企業に適用されるようになりました。
コーポレートガバナンスが徹底されたことにより、社外取締役や社外監査役、委員会が設置され経営陣を監視する体制ができるようになったのです。
企業による不正や不祥事が発生してしまうと、株主やステークホルダーの損失は大きくなります。該当企業の信頼が損なわれるだけではなく、日本経済が悪化することにもなるため、企業が健全な経営をしているか監視するコーポレートガバナンスの役割は重要です。
利益重視ではない社会的地位を向上させる
企業は利益を重視するだけではなく、「社会にとって良いことをしているか」が求められています。
2021年6月11日(金)に、コーポレートガバナンス・コードが改訂され、そのなかに「サステナビリティを巡る課題への取り組み」が含まれるようになりました。。
たとえば、企業によるサステナビリティへの取り組みとして、脱プラスチックや食品ロスの削減などがあげられます。各企業はプラスチックの排出量を抑えるため、紙製品への切り替えや、供給過多を防ぐためのシステムを導入するなどの対策を講じています。
企業は株主やステークホルダーに利益を還元する役割があり、これと同時に社会貢献に取り組むことによって、社会的地位の向上が可能です。
コーポレートガバナンスの課題や問題
コーポレートガバナンスは企業の透明性を高め、社会的信用を得られる取り組みです。しかし、コーポレートガバナンスには以下のような課題もあります。
コーポレートガバナンスの課題点
- 社外監査により事業のスピードが遅くなる
- 仕組み(社内体制)を作るコストがかかる
- 株主やステークホルダーに依存する
- 社外取締役や社外監査役の人材が不足している
- グループ会社へもガバナンスの整備が必要になる
社外監査により事業のスピードが遅くなる
コーポレートガバナンスに取り組むと、以前は経営陣のみで意思決定ができていた内容でも、監査が入ることにより意思決定の速度が損なわれます。
そのため事業の拡大スピードが遅くなってしまうデメリットが発生します。監査側からの指摘によっては、施策そのものが中止になることも考えられます。
仕組み(社内体制)を作るコストがかかる
コーポレートガバナンスをはじめるにあたって、社内体制の仕組みやルール作りが必要です。この仕組みやルールを作るための、専門家への依頼や社外からの取締役や監査役の登用にコストがかかります。
また、コーポレートガバナンスは効果を数値として可視化するのが難しく、企業はコストと労力をどれくらいかけるべきなのか判断しづらいという課題もあります。
株主やステークホルダーに依存する
企業は株主やステークホルダーに利益を還元する責任があるため、中長期の企業価値の向上や、持続的成長などの透明性のある情報を、株主やステークホルダーに対して開示しなければなりません。
しかし、短期的な利益を求める株主やステークホルダーの意志に従わなければならない場合、中長期の成長を阻害されてしまうおそれがあります。
社外取締役や社外監査役の人材が不足している
コーポレートガバナンスを強化するためには、専門知識や経験のある社外取締役や社外監査役などの第三者による監視が効果的です。
しかし、社外取締役や社外監査役を設置したくても、適切な人材が不足しているケースも少なくありません。そのため、2社以上を兼任する社外取締役や社外監査役が多く見受けられます。
グループ会社へもガバナンスの整備が必要になる
上場企業だけではなく、その子会社や海外子会社などのグループ会社にもガバナンスの強化が必要です。企業単体の場合はコーポレートガバナンスとよばれますが、グループ会社に対するガバナンスについては「グループガバナンス」とよばれます。
日本でもM&Aが活発化してきたこともあり、子会社などのグループ会社から不正や不祥事などのガバナンスの問題が発生することも考えられます。
ガバナンスを整備するには、グループ会社や子会社など全体で行うことが重要です。そのため、子会社などがある企業は、コーポレートガバナンスからグループガバナンスへの再整備が必要とされています。
コーポレートガバナンスを強化する方法
コーポレートガバナンスを強化するには、以下の方法が考えられます。
コーポレートガバナンスを強化する方法
- 内部統制の構築と強化
- 社外取締役や社外監査役、委員会の設置
- 執行役員制度の導入
- コーポレートガバナンスの浸透化
内部統制の構築と強化
上場企業は内部統制を強化し、信頼性のある財務状況を株主やステークホルダーに報告しなければなりません。これは、コーポレートガバナンスの「透明性の高い情報開示」にも大きく関わります。
そのため、コーポレートガバナンスを強化するには、最初に内部統制の仕組みを構築し、強化することが重要です。適切な監視体制を整備して、社内の不祥事や不正を未然に防ぐことで内部統制が強化され、コーポレートガバナンスを保つ土台となります。
社外取締役や社外監査役、委員会の設置
経営陣による不祥事や不正を防ぐためには、社外取締役や社外監査役などの第三者の視点から監視することが大切です。また、社外取締役や社外監査役のみが参加する委員会を設置するのが一般的です。
委員会の種類と役割
- 監査委員会:
取締役や執行役の職務が適正か監査し、会計監査人の選任や解任、不再任に関して決定する - 報酬委員会:
取締役や執行役、会計参与の個人別の報酬内容を決定する - 指名委員会:
株主総会に提出する取締役と会計参与の選任と解任案を決定する
これらに参加するメンバーは社外取締役で構成され、委員会に所属する社外取締役は、ステークホルダーの代弁者という立ち位置で企業の透明性を確保するのに重要な役割をもちます。
出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する各種政策について」
執行役員制度の導入
コーポレートガバナンスを強化する施策として、執行役員制度の導入も有効です。執行役員とは、取締役の代わりに企業の業務を執行する役員のことをいい、経営の意思決定をする取締役とは別に選任される役職です。
執行役員制度の導入によって、取締役と分離した存在が生まれ、企業の管理体制の強化につながります。
コーポレートガバナンスの浸透化
コーポレートガバナンスを構築しても、株主やステークホルダー、従業員に目的や方向性を浸透させなければ意味がありません。従業員に対しては、業務の遂行や意思決定における判断基準を明示し、ルールに則って業務にあたってもらう必要があります。
コーポレートガバナンスにおける判断基準を周知することで、従業員の意識改革につながり、中長期の視点で企業価値が向上するような企業運営が可能になります。
まとめ
コーポレートガバナンスは、企業の健全な経営のために、第三者が監視・統制する仕組みです。コーポレートガバナンスに取り組むことで、株主やステークホルダーの利益や権利が確保され、長期的に見て企業の社会的地位の向上につながります。
コーポレートガバナンスの強化は内部統制の構築に大きく関わるため、両面から取り組み、健全な企業経営を目指していきましょう。
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