東証一部とは、東京証券取引所(以降、東証)の株式市場のうち、上位市場にあたる市場のことです。東証一部は2022年4月3日(日)にほかの市場とともに廃止されており、現在は新しい市場区分が提供されています。
しかし、東証一部上場企業などの表現が浸透しており、新しい市場区分の名前や各市場よりも認知度が高いのが現状です。
本記事では、東証一部の概要や東証二部との上場基準の違いを中心に、市場再編の背景や現在運用されている新しい市場区分についても解説します。
目次
東証一部とは
東証一部とは、2022年4月3日(日)まで運用されていた東京証券取引所の株式市場の1つで、東証が運営していた株式市場のなかでも上位にあたります。
東証が運営していた、東証一部、東証二部、マザーズ、JASDAQの4つの市場の特徴は以下のとおりです。
概要 | |
---|---|
東証一部 | 高い流動性があり、継続して事業を行い、また安定して利益を得る基盤がある企業のための市場 |
東証二部 | 継続して事業を行い、また安定して利益を得る基盤があり、一定の流動性と実績がある企業のための市場 |
マザーズ | 新興企業などで事業計画を実行するための事業基盤、または事業基盤を整備する合理的な試算がある企業のための市場 |
JASDAQ (スタンダード) | 東証二部と同じく実績があり、かつ事業の継続や存続に支障がある問題がない企業向けの市場 |
JASDAQ (マザーズ) | ベンチャー企業や新興企業など企業や事業が成長する可能性がある企業のための市場 |
東証一部は、流通している株式数が多く、時価総額がより高い、大企業向けの市場です。また、大企業向けである分、上場基準はほかの市場よりも厳しいものとなっています。
東証一部への上場企業の数は2022年3月末時点で2,176社あり、上場企業数・株式数ともに国内最大規模の市場です。
また、東証一部上場とは、東証一部の市場に企業の株式を上場することを指します。厳しい条件を満たして上場することによって、企業としての信頼を得られるだけでなく、証券取引所をとおして自社株式の売買が可能となるため投資家からの資金調達も容易になります。
出典:日本取引所グループ「上場会社数・上場株式数」
東証一部と東証二部が廃止された理由
改編前の市場区分は、2013年の東証と大阪証券取引所の株式市場統合の際、投資家(株主)や既存の上場企業に影響が出ないよう、それぞれの市場構造をそのまま採用したものでした。
しかし、この市場区分には、以下のような課題がありました。
- 各市場区分のコンセプトが曖昧である
- 市場第一部にほかの市場区分から移る際の基準が緩和されている
上記の課題を解決するために市場区分の見直しが検討され、2022年4月4日(月)より、新しい市場区分が導入されました。
出典:日本取引所グループ「市場区構造の見直し」
東証市場の新市場区分
東証市場が再編された現在は、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの市場になりました。
プライム市場は、東証の上位市場に該当する市場です。プライム市場に上場する企業に求められる主なポイントは以下のとおりです。
プライム市場の主なポイント
- 機関投資家や国際的な投資家からの投資対象となる高い流動性がある
- 上位市場に上場する企業として、より高いガバナンス水準を備えている
- 株主との対話に重点を置き、持続的な成長と企業価値向上を確約する
- 安定した経営基盤と財政状態である
【関連記事】
プライム市場とは?東証一部との違いやメリット・デメリットについてわかりやすく解説
■スタンダード市場
グロース市場は、主に新興企業やベンチャー企業などのうち、高い企業成長が期待できる企業向けの市場です。グロース市場に上場する企業に求められる主なポイントは以下のとおりです。
グロース市場の主なポイント
- 高い企業成長を実現するための事業計画がある
- 一般の投資者の投資対象となる最低限の流動性がある
- 事業規模と企業の成長にあった適切なガバナンス水準を備えている
東証一部に上場するメリットとデメリットとは
東証一部への上場で得られるのはメリットだけではありません。東証一部に上場するデメリットも理解することで、東証一部に上場するべきか、ほかの市場がいいのかを慎重に検討する必要があります。
東証一部に上場するメリット
東証一部に上場するメリットは主に以下の3つです。
東証一部に上場するメリット
- 社会的信用が向上する
- 資金調達方法の選択肢が多様化する
- 社内体制を強化できる
■社会的信用が向上する
東証一部に上場するには、資金力・安定した事業基盤・適切な管理体制・透明性など、さまざまな要素を満たさなければなりません。そのため、東証一部への上場はこれらの要素を満たしている証明となり、企業の社会的信用の向上に繋がります。
■資金調達方法の選択肢が多様化する
東証一部は、国内外問わず多くの機関投資家や一般投資家が参画しているため、投資を受けられる機会はほかの市場よりも多く存在します。社会的信用が高い分、銀行からの融資もより簡単に受けられるのが特徴です。
■社内体制を強化できる
東証一部上場企業には、内部統制やコーポレートガバナンスの整備および適正な運用が求められているため、継続して取り組むことで上場後も社内体制の整備や強化が可能です。
東証一部に上場するデメリット
東証一部に上場する主なデメリットは以下の3つです。
東証一部に上場するデメリット
- 上場や上場維持のためのコストが大きい
- 買収されるリスクが増える
- 経営判断に株主への配慮が必須になる
■上場や上場維持のためのコストが大きい
東証一部に上場するためには、監査法人から監査を受けたり上場するための社内体制を整備したりするだけでなく、上場審査料や各種手数料などのコストがかかります。
ほかにも、上場後も上場維持のための監査費用や株主総会の運営費用、情報開示のための資料作成などに年間数千万円〜1億円ほどのコストが必要です。
■買収されるリスクが増える
東証一部をはじめとした株式市場に企業の株式を公開することで、誰でも株式を購入できるようになります。そのため上場したことで、同業他社からの敵対的買収や株式の買占めによって経営権が奪われるリスクも発生します。
■経営判断に株主への配慮が必須になる
上場企業になると、経営判断の際に株主への配慮が必要です。上場企業は、経営や運営に関わる意思決定に株主の意見を反映させる必要があり、経営の自由度が低くなる可能性があります。
東証一部と東証二部の違いとは
東証一部と東証二部は、東証の株式市場のなかでも本則市場と呼ばれ、どちらも企業経営などで実績がある企業のための市場です。しかし、その上場基準には明確に違いがあるものとそうでないものがあります。
ここでは、東証一部と東証二部それぞれの市場への上場基準の違いについて解説します。なお、ここで解説する上場基準はあくまでも直接上場の場合であり、下位市場から上位市場に異動する場合(指定替え)は要件が一部緩和されます。
形式基準の要件が異なる
東証一部と東証二部では、株主数や流通株式数などの形式基準の要件が異なります。形式基準とは、数値で明確に判断できる基準のことです。
東証一部と東証二部では、形式要件のほとんどで大きな違いがあります。それぞれの形式基準の要件は以下のとおりです。
要件 | 東証一部 (一部から二部への指定替え基準) | 東証二部 (東証一部指定基準) |
---|---|---|
株主数 | 2,200人以上 (2,000人未満) | 800人以上 (2,200人以上) |
流通株式数 | 20,000単位以上 (10,000単位) | 4,000単位以上 (20,000単位) |
流通株式時価総額 | ― (10億円) | 10億円以上 (20億円) |
純資産数 | 10億円以上 | 10億円以上 |
時価総額 | 250億円以上 (20億円) | 20億円以上 (40億円以上) |
事業継続年数 | 3年以上 | 3年以上 |
出典:日本取引所グループ「市場構造の在り方などに関する市場関係者からのご意見の概要(補足資料)」
直接上場する場合、東証二部より東証一部のほうが上場の要件は厳しくなっています。しかし、東証二部から東証一部に指定される要件は、東証一部に直接上場するよりも緩和されているのが特徴です。
また、東証一部の上場維持基準は直接上場に比べて低いですが、上場維持基準を下回った場合は東証二部への指定替えとなります。ただし、指定替えの対象になってもすぐに指定替えされるわけではありません。
実質基準が異なる
実質基準とは、数字で可視化できない基準のことをいい、東証一部と東証二部では、この実質基準の差はありません。
東証一部と二部の上場に求められる上場基準は以下のとおりです。
東証一部と東証二部で求められる上場基準
- 継続性と収益性
- 健全な企業経営
- コーポレートガバナンスと内部管理体制
- 適切な情報開示
■継続性と収益性
東証一部と東証二部は主に実績がある企業向けの市場です。そのため、上場には企業が継続して事業を行い、安定して利益を得ていることが求められます。
これは、投資家が安心して株式を売買できる市場の提供を実現するためです。
■健全な企業経営
企業経営が健全に行われているかも重要なポイントです。
たとえば、上場を希望する企業の役員が親族や他社の職員である場合、役員としての業務の公正さや、それらを適切に監視できる体制の整備などが求められます。
ほかにも、企業同士の取引などで特定の誰かが不当に利益を得る状況にないことや、親会社などからの独立性を有していることも審査基準の1つです。
■コーポレートガバナンスと内部管理体制
コーポレートガバナンスと内部管理体制が、適切に整備・運用されているかが問われます。
コーポレートガバナンス(企業統治)とは、企業の不正や不祥事を未然に防いで、公正な判断や健全な経営が行えるように監視・統制する仕組みです。
適正に整備された内部管理体制を運用するために十分な人員が配置されていることや、役員が適切に職務を遂行するための体制が整っていることなども求められます。
【関連記事】
コーポレートガバナンスとは? 企業統治の意味や内部統制の違いについてわかりやすく解説
■適切な情報開示
投資家が投資の可否を判断するための企業情報が適時、適切に開示されることが求められます。この情報には、企業経営に大きく関わる内容や親会社なども含まれます。
また、情報開示の際には、その内容が法令を遵守していることや、不当な情報操作がないことなども審査の対象です。
東証一部に上場する流れ
東証一部に上場するには、直接上場するものと東証二部やマザーズなどから市場を変更する一部指定の2つの方法があります。
ここでは、東証一部に直接上場する基本的な流れについて解説します。
1. 申請前の準備
東証一部への上場を決めたら、まずは監査法人や主幹事証券会社などの上場をサポートしてくれる会社と契約します。申請には2年分の監査証明が必要であるため、監査の準備が整ったら2年間の監査を受けます。
また、監査と並行して社内に上場に向けた部署を設置し、社内体制の整備や上場申請に必要な書類を作成します。
2. 上場申請の事前確認
上場申請前の監査が終了したら、申請前に契約した主幹事証券会社と日本取引所グループの法人の1つである日本取引所自主規制法人の間で、以下の項目についての確認が行われます。
- 株式公開までの注意事項や審査日程
- 反社会的勢力との関係の有無
- 審査内容の詳細
3. 東証への申請から審査まで
外部監査の証明書や主幹事証券会社からの推薦状を含めた上場申請のための書類を東証に提出して申請は完了です。
申請のあとは申請書類を基に形式基準を満たしているかどうかが審査され、形式基準に合格すれば実質基準の審査に進みます。
実質基準の審査は主に以下の順番で進められます。
実質基準の審査の主な順番
- 上場を希望する会社へのヒアリング
- 上場を希望する会社での実地調査
- 外部監査法人・監査役・代表取締役へのヒアリングおよび面談
- 代表取締役への説明会
4. 上場
証券取引所による全ての審査が終了し承認されれば、証券取引所との間に上場契約を取り交わし、上場承認されたことが一般公開されます。
上場承認の公表後、約1週間から1ヶ月前後で上場となります。
まとめ
東証一部は2022年4月3日(日)に廃止されたため、現在は使われていない市場ですが、世界三大証券取引所にも名を連ねる日本を代表する株式市場でした。
将来的に上場を検討している人は、各市場のコンセプトや上場基準などを確認し、自身の企業の事業計画に沿う市場を探しましょう。
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