TDnetとは、東京証券取引所が提供する「適時開示情報伝達システム」のことです。上場企業が決算情報や業績予想などの情報を、投資家や報道機関などへ適時開示するために使用します。
適時開示では、開示の要否判断、社内での確認・承認、開示資料の作成、TDnetへの登録・提出といった一連の対応が必要です。適切に適時開示を行うために、担当者はTDnetを使った適時開示のフローを正しく理解しておく必要があるでしょう。
この記事では、TDnetの基本的な役割から、適時開示の対象となる情報や、開示が必要か判断する際の考え方・実際の開示フロー・ミスや遅延を防ぐための注意点までを、企業担当者向けに解説します。
目次
- TDnetとは?
- EDINETとの違い
- 適時開示が必要になる情報とは
- 決定事実
- 発生事実
- 決算短信・業績予想修正・配当予想修正
- 子会社等の情報とその他の重要事実
- 適時開示が必要か判断する3つの視点
- 個別の開示項目に該当するか
- 軽微基準に当てはまるか
- バスケット条項・任意開示の要否
- TDnetを使った適時開示のフロー
- 1. 開示要否を判断する
- 2. 社内承認と開示スケジュールを確定す
- 3. 開示資料を作成する
- 4. TDnetに登録する
- 5. 東証への事前説明に対応する
- 6. 開示後の確認と訂正対応を行う
- 適時開示で押さえておくべき注意点
- 適時開示は開示期限を守る
- 記載内容をダブルチェックする
- 開示漏れ・遅延は速やかに報告する
- まとめ
- よくある質問
TDnetとは?
TDnet(Timely Disclosure network)とは、東京証券取引所が提供する適時開示情報伝達システムのことです。上場企業が決算情報や重要な経営判断などを市場に公表する際に使用する、IR実務の中核となるプラットフォームです。
投資家にとっては「上場企業の公式発表を確認する場」として機能し、企業側にとっては「適時開示義務を履行するための実務ツール」として機能します。両者をつなぐ情報インフラとして、公平かつ速やかな情報開示を支えています。
企業がTDnetを使う場面は、開示資料を提出するときだけではありません。ある事象が適時開示の対象かを検討し、社内承認を経て、開示資料を作成し、開示時刻を調整したうえで登録・公表するまで、一連の実務の中心にTDnetがあります。
EDINETとの違い
EDINETは、金融庁が運営する電子開示システムで、上場企業などが提出する有価証券報告書や決算短信などの開示書類をインターネット上で閲覧できるプラットフォームです。TDnetとEDINETの大きな違いは、「取引所ルールに基づく適時開示か」「金融商品取引法に基づく法定開示か」です。
TDnetは「いま市場に知らせるべき情報」を出す場面で使い、EDINETは「法令上提出が必要な書類」を出す場面で使うと捉えるとわかりやすいでしょう。
| TDnet | EDINET | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 上場会社による適時開示の一連のプロセスを電子化した仕組み(適時開示情報伝達システム) | 金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム |
| 根拠となる制度 | 東京証券取引所の適時開示制度 | 金融商品取引法に基づく法定開示制度 |
| 主な目的 | 投資判断に重要な会社情報を、投資者へ広く、かつ、タイムリーに伝えること | 有価証券の発行者の財務内容・事業内容や、大量保有の状況などを正確、公平かつ適時に開示し、投資者保護を図ること |
| 運営主体 | 日本取引所グループ(JPX)/東京証券取引所 | 金融庁 |
| 主な開示内容 | 決定事実、発生事実、決算短信、業績予想修正、配当予想修正など | 有価証券報告書、有価証券届出書、大量保有報告書 |
EDINETについて詳しく知りたい方は、別記事「EDINETとは?有価証券報告書など開示書類の見方・TDnetとの違い・活用方法を解説」をご覧ください。
適時開示が必要になる情報とは
適時開示の対象になる情報は、以下の4つです。
決定事実
決定事実とは、会社が一定の意思決定手続きを経て正式に決めた事項を指します。決定事実は、会社の将来や株式価値に影響しやすいため、投資家に対して速やかな開示が求められます。
決定事実の例
- 剰余金の配当
- 合併などの組織再編
- 自己株式の取得
- 株式分割・併合
- 事業譲渡・譲受け
- 固定資産の譲渡・取得
- 新製品や新技術の企業化
- 業務提携
- 子会社等の異動 など
発生事実
発生事実は、一定の重要事象が現実に生じたことで開示が必要になる情報です。決定事実との違いは、社内の意思決定ではなく、事実の発生やその認識が起点になる点です。
発生事実の例
- 災害による損害
- 訴訟の提起や判決
- 行政処分
- 主要株主の異動
- 債権の取立不能
- 取引先との取引停止 など
決算短信・業績予想修正・配当予想修正
決算短信や四半期決算短信は、TDnetで開示される代表的な決算情報です。これに加えて、業績予想の修正、予想値と決算値との差異、配当予想や配当予想の修正も、適時開示が必要になる重要情報として扱われます。
業績予想の修正は、直近の公表予想や前期実績と比べて一定の差異が生じた場合に開示義務が発生します。また、配当予想の修正には軽微基準がなく、期中に予想を修正した場合や、新たに予想を算出した場合には、その内容を開示する必要があります。
子会社等の情報とその他の重要事実
適時開示の対象は、親会社本体の情報だけではありません。JPX(日本取引所グループ)は「子会社等の情報」を独立した区分として設けており、子会社などにおける決定事実、発生事実、業績予想の修正などについても、内容によっては親会社側で適時開示が必要です。
たとえば、以下のような情報は、投資判断に重要な影響を与えるため開示対象に該当します。
開示対象となる子会社等の情報
- 子会社の合併
- 事業譲渡
- 解散
- 新製品または新技術の企業化
- 業務提携
- 固定資産の譲渡・取得
- 訴訟
- 行政処分 など
また、JPXは「その他の情報」も開示区分として設けています。これは、典型的な決定事実や発生事実にきれいに当てはまらなくても、投資者の判断に影響を与える重要情報がありうるためです。
適時開示が必要か判断する3つの視点
適時開示は、根拠に基づいて公表の要否を判断する必要があります。ここでは、東証の実務要領でも説明されている適時開示の要否を判断する3つの視点について解説します。
個別の開示項目に該当するか
最初に確認すべきなのは、その事象が東証の定める個別の開示項目に当てはまるかどうかです。東証の実務要領では、会社の運営、業務、財産または上場株券等に関する重要な事項について決定を行った場合や、そうした事実が発生した場合には、まず個別の開示項目への該当性を検討するよう案内しています。
つまり、開示判断の出発点は「決定事実・発生事実・決算情報・予想修正など、どの類型に入るのか」を整理することにあります。
ただし、ひとつの案件がひとつの項目にだけ当てはまるとは限りません。たとえば事業譲渡や業務提携の案件では、別の開示項目も同時に関係することがあります。その場合は、関連しそうな項目を確認し、それぞれについて開示要否の判断を行います。
軽微基準に当てはまるか
次に確認するのが軽微基準です。多くの開示項目について、一定の数値基準や条件を満たす場合には軽微として扱うことができ、適時開示が不要です。
一方、合併などの組織再編のように、軽微基準が設けられていない項目もあります。したがって、実務では対象項目ごとに軽微基準の有無と内容を確認する必要があります。
軽微基準の判断では、要件を一部だけ満たしていればよいわけではありません。複数の要件がある場合には、そのすべてを満たしたときにのみ軽微基準に該当します。また、軽微基準には連結売上高など連結指標を使うものが多い一方、内部者取引規制上の軽微基準を引用している項目では、原則として単体指標を使う場合もあるため、連結と単体の双方を確認する必要があります。
バスケット条項・任意開示の要否
個別項目に明確に当てはまらない場合や、個別項目には当てはまっても軽微基準に該当する場合には、バスケット条項を確認します。
バスケット条項とは、適時開示の個別項目として明示されていない事実であっても、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要な事実であれば、開示対象になりうるという条項です。したがって、「規則に項目がないから不要」とは言い切れず、投資家にとって重要な情報であれば、適時開示が必要になる可能性があります。
また、個別項目・軽微基準・バスケット条項を検討し「開示義務がない」と判断した場合でも、任意開示を検討すべき場面はあります。たとえば、海外で先に同種情報を開示する場合や、報道・噂が広がって投資家の混乱を招くおそれがある場合には、公平な情報提供の観点から、説明的な開示を行うことが望ましいこともあるでしょう。
TDnetを使った適時開示のフロー
TDnetを使った適時開示は、以下のようなフローで進めます。
TDnetを使った適時開示のフロー
- 開示要否を判断する
- 社内承認と開示スケジュールを確定する
- 開示資料を作成する
- TDnetに登録する
- 東証への事前説明に対応する
- 開示後の確認と訂正対応を行う
1. 開示要否を判断する
まず、開示要否を判断します。ここでは、決定事実や発生事実などの個別項目に当てはまるかを確認し、必要に応じて軽微基準やバスケット条項を確認します。
開示の要否判断が遅れると、その後の承認、資料作成、登録のすべてが後ろ倒しになり、結果として開示遅延のリスクが高まります。案件が発生した時点で、すぐに開示論点を整理しましょう。
2. 社内承認と開示スケジュールを確定す
開示が必要、または必要になる可能性が高いと判断したら、次は社内承認と開示スケジュールの調整です。
適時開示は、投資者への情報提供の観点から、原則として平日17時までに開示することが求められます。夜間や休日に決定事実を決定する予定がある場合や、急に重要な発生事実を認識した場合には、あらかじめ、または速やかに取引所へ相談するようにしましょう。
3. 開示資料を作成する
社内方針が固まったら、開示資料を作成します。TDnetへの登録用の資料はPDFファイルで作成します。また、決算短信や業績予想・配当予想の修正では、PDFに加えてXBRLファイルの提出も必要です。
PDFに印刷禁止、検索禁止、コピー禁止の設定をしないことや、PDFのプロパティ情報に不要な情報が残っていないか確認することも求められます。
4. TDnetに登録する
資料ができたら、TDnetオンライン登録サイトから登録します。登録時には、表題・開示指定日時・担当者・公開項目などの必要事項を入力し、資料をアップロードして提出します。
取引所側で内容確認を行う必要があるため、開示指定日時には提出時刻の30分以上後の時刻を入力するようにしましょう。また、同時刻に複数件の開示を行う場合は表示順の指定も可能です。
5. 東証への事前説明に対応する
TDnetに資料提出後、取引所の開示担当者から会社側へ電話連絡があり、提出した資料の内容について説明を求められます。
通常は30分以内に電話連絡がありますが、開示指定時刻の15分前になっても連絡がない場合は、取引所に問い合わせてください。また、提出だけでは開示処理は行われず、取引所側が開示操作をすることで公表準備が整います。
6. 開示後の確認と訂正対応を行う
取引所の開示処理が完了すると、指定した開示時刻に「適時開示情報閲覧サービス」へ掲載され、報道機関等にも一斉配信されます。
開示後は、TDnetオンライン登録サイトや閲覧サービス上で、正しく公表されているかを確認しましょう。公表後に誤記や数値誤りが見つかった場合は、訂正開示資料をTDnetから提出して対応します。
訂正時は原則として正誤表を作成し、必要に応じて訂正後の資料も作成する必要があります。
適時開示で押さえておくべき注意点
東証が公表した2024年度の不適正開示の発生状況では、決定事実・発生事実に関する「開示漏れ・遅延」「開示内容不備」が多く発生しています。適時開示では、以下の注意点をおさえておきましょう。
TDnetを使用する際の注意点
- 適時開示は開示期限を守る
- 記載内容をダブルチェックする
- 開示漏れ・遅延は速やかに報告する
適時開示は開示期限を守る
適時開示情報は、情報の発生後直ちに開示することが求められています。
また、投資者への情報提供の観点から、平日の日中、原則17時までに開示することが求められます。「詳細が完全に固まっていない」「決算発表日にまとめたほうがラク」などの理由で開示を後ろ倒しにするのは好ましくありません。
夜間や休日に開示が見込まれる場合も、17時以降の開示受付や事前連絡のルールがあるため、できる限り早い段階でスケジュールを確定させましょう。
記載内容をダブルチェックする
適時開示では、資料の正確性も重要です。東証が公表した2024年度の不適正開示の発生状況によると、不適正開示の原因として、開示項目に関する理解不足、確認体制の不備、軽微基準の認識誤りなどが挙げられています。
表題・日付・数値・対象会社名・開示理由・添付資料の整合性などが正しいかどうか、複数人で確認する運用が欠かせません。決算短信や業績予想修正のように数値データを伴う開示では、PDFだけでなくXBRLの内容も確認が必要です。
また、一度公表した資料は、原則として削除や差し替えができず、誤りがあれば訂正開示で対応することになります。
開示漏れ・遅延は速やかに報告する
開示漏れや記載事項に誤りが見つかった場合は、内容の軽重を問わず、速やかに正誤表を作成して開示する必要があります。
決算短信等で数値に訂正があるときは、正誤表だけでなく、必要に応じて訂正後のXBRLも同時に提出しなければなりません。また、未公表情報を一部の相手に個別提供してしまった場合も、公平な開示の観点から速やかにTDnetで開示するよう求められています。
また、開示が遅延する場合も、取引所への速やかな報告が求められます。
問題発生時に、開示担当・法務・経理・IR・経営陣がすぐ共有できる連絡ルートを整備しておくことが大切です。ミスそのものをゼロにするのは難しくても、発覚後の初動が早ければ、市場への影響や信頼低下を抑えやすくなるでしょう。
まとめ
TDnetとは、上場会社が投資判断に重要な情報を適時に開示するための仕組みです。決定事実や発生事実、決算短信、業績予想修正などを、投資家へ公平かつ迅速に伝える役割を担っています。
適切な開示対応を行うには、どの情報が開示対象になるのかを整理し、個別項目、軽微基準、バスケット条項の観点から開示要否を判断することが重要です。また、社内承認・資料作成・TDnet登録・開示後の確認まで、一連の流れを理解しておくことで、開示漏れや記載ミス、遅延の防止につながります。
適時開示の精度を高めることは、投資家への説明責任を果たすだけでなく、企業としての信頼性を保つうえでも重要です。担当者個人の経験や属人的な判断に頼るのではなく、情報収集のルートや確認手順を社内で整備しておくことで、継続的に安定した開示対応が実現できるでしょう。
正確で効率的な開示実務を進めるには、前提となる経理・連結決算体制を整えることも欠かせません。freeeでは、グループ会社の数値管理や連結決算に対応する「freee連結会計」を提供しています。日々の会計業務やグループ管理の基盤を整えることで、開示実務の負担軽減と正確性の向上を両立しやすくなるでしょう。
よくある質問
適時開示はどの時点で行うべき?
適時開示は、対象となる事実が決定されたとき、または発生したときに、直ちに行うのが原則です。東証は、投資者への情報提供の観点から、平日の日中、原則17時までの開示を求めています。
詳しくは、記事内「適時開示が必要になる情報とは」をご覧ください。
開示が必要か判断に迷うときはどうする?
開示の判断に迷った場合は、まず個別の開示項目に当てはまるかを確認し、次に軽微基準を確認します。そのうえで、一覧に明記されていなくても投資判断に著しい影響を与える重要事実に当たるのであれば、バスケット条項の観点から開示の要否を判断します。
判断に迷う場合は、東証への相談も含めて慎重に進めるのが安全です。
詳しくは、記事内「適時開示が必要か判断する3つの視点」をご覧ください。
TDnetへのアクセス権限はどのように付与される?
TDnetの利用には、IDや電子証明書だけでなく、必要なアクセス権の設定が必要です。
TDnetの追加ID申請はTargetを通じて行う仕組みで、TDnetのユーザIDでTargetにログインするにはアクセス権の設定が必要です。既存IDへの権限付与や設定変更は、社内のグループ管理者が対応する前提です。
そのため、新しく担当者になった場合は、自社のグループ管理者に連絡し、必要なIDの発行や権限設定が済んでいるか確認するのが基本です。
開示資料の訂正はどのように行う?
一度公表した開示資料は、原則として削除や差し替えはできません。
誤りが見つかった場合は、「適時開示資料の訂正」として訂正開示を行います。PDFのみを訂正する場合は表題の冒頭に「(訂正)」、XBRLのみなら「(数値データ訂正)」、両方を訂正する場合は「(訂正・数値データ訂正)」を付けて開示します。
資料を差し替えるのではなく、訂正開示として履歴がわかる形で対応するのが基本です。
