
垂直統合とは、製造・流通・販売といった複数の工程を自社で担う経営戦略です。垂直統合を行えば、コスト削減や品質管理の向上、競合との差別化といったメリットが得られます。
また、水平方向の拡大を目指す「水平統合」との違いを理解することも重要です。両方の特性を踏まえることで、経営戦略の幅が広がります。
本記事では、垂直統合の種類やメリット・デメリット、具体的な企業事例を交えてわかりやすく解説します。
目次
垂直統合とは
垂直統合とは、製品やサービスを提供するうえで、生産から販売までの工程において、自社の担当する工程を広げることです。
たとえば、製造のみ行っていた企業が販売まで自社で実施するようになれば、流通や品質管理なども一貫して対応できるようになります。これにより、中間マージンの削減や意思決定の迅速化といった効果が期待できます。
垂直統合はM&Aやアライアンスによって実現されるケースが多く、自社の競争力を高めるうえで有効な手段です。
垂直統合の種類
垂直統合には「川下統合」「川上統合」「完全統合」の3種類があります。原材料の調達から販売に至るまでのプロセス全体を表すサプライチェーンの、どの工程を統合するのかによって、得られる効果や抱えるリスクも異なります。
種類 | 内容 |
---|---|
川下統合 | サプライチェーンにおいて販売に近い工程を自社に統合すること |
川上統合 | サプライチェーンにおいて製造に近い工程を自社に統合すること |
完全統合 | サプライチェーン全体を自社に統合すること |
川下統合は、製造業者が販売業態を取り込む形で、消費者との距離を縮められるのが特徴です。そのため、市場ニーズの把握が容易になり、商品の改善サイクルも加速させられます。一方で、流通や小売のノウハウが不足している場合、初期投資や運営面での負担が大きくなる可能性があります。
川上統合は、販売主体の企業が製造の領域に進出する形で、自社による原材料の安定供給や品質管理ができるのが特徴です。ただし、製造業特有の専門知識や設備投資が求められ、運営コストが増加するリスクがあります。

完全統合では、川上から川下までのすべての工程を一貫して担います。品質とコストの両方で管理がしやすくなるのが特徴です。しかし、資本・人材の投入が大きく、柔軟な意思決定が難しくなる可能性があります。
水平統合との違い
垂直統合はサプライチェーンの強化が目的である一方、水平統合は自社と同じ工程を担う同業他社を統合し、スケールメリットや市場シェアの拡大を目的に実施されます。
スケールメリットとは、事業規模を拡大することで得られるコスト削減や業務効率の向上などのメリットの総称です。たとえば、同じような製品を扱う企業同士がM&Aやアライアンスを行うことで、販売力や価格交渉力の強化、重複業務の効率化を図れます。
垂直統合と水平統合では目的と得られる効果が違うため、どちらの統合手法が自社に向いているか慎重に検討する必要があります。
垂直統合のメリット
これまで自社が担当していなかった領域をM&Aやアライアンスによって統合するのは、一定のメリットを得られるからです。
ここでは、垂直統合のメリットについて解説します。
コスト削減につながる
垂直統合によって外部企業に払っていた中間マージンをカットできるため、コストが削減されます。たとえば、原材料の仕入れから販売までの工程を自社でまかなえば、仕入れコストや物流コスト、販売手数料などを削減できます。
また、在庫管理を含めた一貫体制が整えば、適正な在庫量の確保ができ、効率的なコスト管理を実現することが可能です。統合する工程が多いほど、外注費との差額を吸収でき、利益率の向上につながります。
競合との差別化を図れる
垂直統合を行えば、自社で一貫したサプライチェーンを構築し、他社にはない独自の製品やサービスの開発が可能になります。
さらに、販売チャネルの拡大やプライベートブランドの立ち上げも実現しやすくなり、参入障壁の高いビジネスモデルを築くことも可能です。その結果、持続的な競争優位性を確保しやすくなるのは大きなメリットです。
生産工程と品質の管理が容易になる
垂直統合によって生産や流通など複数の工程を自社で担えると、工程ごとの品質を細かく管理しやすくなります。外部委託では難しいスピード感のある改善対応や機密保持も、社内のみで完結できば迅速に行えるでしょう。
また、製造ノウハウの蓄積や技術情報の社内集約によって、高品質な製品を提供することもできます。外部に委託していたときよりも情報共有のスピードが上がるため、品質問題が発生した際の対応力も強化されます。
意思決定がスムーズになる
垂直統合では複数の業務プロセスが自社内に集約されるため、外部との交渉や調整にかかる手間が削減されます。その結果、価格設定や納期の決定といった重要な経営判断も迅速に行うことが可能です。
また、各工程間での情報共有がスムーズになることで、部門間の連携も強まり、社内の意思決定スピードが向上します。戦略的な施策の立案や修正を即時に実行できる点も、垂直統合のメリットです。
垂直統合のデメリット
垂直統合は、コスト削減やノウハウの蓄積などメリットが多く存在する一方で、デメリットも考慮しておく必要があります。
高額な初期費用が必要になる
垂直統合を実現するには、多額の初期投資が必要です。たとえば、新たに製造設備を導入したり、生産ラインを構築したりする場合、それだけで莫大な費用がかかります。
さらに、M&Aによる統合を行う際は、企業の買収金額に加えて、デューデリジェンス(企業調査)や専門家への仲介手数料、企業価値の評価費用なども必要になります。
このような投資はすぐに回収できるものではなく、キャッシュフローを圧迫する可能性もあります。万が一事業が失敗した場合は、撤退時にもコストがかかるため、慎重な判断が必要です。
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経営資源が分散する
垂直統合をすると、企業は複数の工程を自社で担うことになります。その結果、人材や資金、時間といった経営資源が分散してしまう可能性があるでしょう。
これまで重点的に投資していたコア事業へのリソース配分が減少し、専門性や強みが薄れることも考えられます。特に新規の工程には未経験領域も多く、適切なノウハウや体制の構築が求められます。
経営のバランスを保つには、各工程の重要度を見極め、最適に資源配分をする戦略的な判断が欠かせません。
外部の技術や情報を得にくくなる
垂直統合によって自社内でサプライチェーンを完結させると、外部企業との取引機会が減少します。そのため、業界の最新技術やトレンドに関する情報が入りにくくなる可能性があります。
たとえば、革新的な技術を持つ外部企業と協業すれば競争力を高められる場面でも、自社内で完結しているとその機会を逃すかもしれません。
また、組織規模が大きくなることで、技術導入や体制変更の意思決定が遅れるおそれもあり、市場の変化への対応力が低下するリスクもあります。
垂直統合を成功させるコツ
垂直統合を成功させるには、以下のコツを意識しておくと失敗するリスクを抑えられます。
費用対効果を綿密に確認する
垂直統合を成功に導くには、費用対効果の綿密な試算が欠かせません。現在の外注コストと統合後の自社内コストを詳しく比較・分析し、慎重に検討する必要があります。
特に、統合後の人件費や設備維持費などの固定費が外注時の費用と比較して妥当かを見極めることが重要です。
また、想定外の費用増加や売上減少にも備え、キャッシュフローへの影響も加味しておきましょう。
統合先とのコミュニケーションを大切にする
異なる組織同士の統合では、円滑なコミュニケーションが成功の鍵を握ります。文化や業務プロセスの違いによって、意思疎通がスムーズにいかないリスクがあるためです。
定期的な情報共有やすり合わせの場を設け、相互理解を深めましょう。また、現場からのフィードバックを吸い上げる仕組みを取り入れれば、経営層と現場での意見の乖離が起きづらくなります。
自社の強みをしっかり残す
垂直統合では新たな領域へ進出する分、既存の強みが埋もれてしまうおそれがあります。そのため、自社の競争優位性を見失わずに維持することが大切です。
経営資源の配分は、強みとなる事業や機能を優先的に設計し、他部門とのバランスを取りながら最適化しましょう。
また、新規事業領域に進出する場合でも、自社がこれまで培ってきた競争優位性やブランド価値を損なわないように留意してください。全体最適と部分最適のバランスが取れた運営が、持続可能な成長を支えるポイントになります。
垂直統合の具体例
垂直統合を検討しているけれども、どのように進めればよいかわからない方のために、実際に垂直統合に成功した3社を紹介します。
ファーストリテイリング
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、SPAモデルを採用しています。SPAとは、Specialty store retailer of Private label Apparelの略で「製造小売業」と訳されます。これは、小売業者が自社で商品企画から製造、販売までを一貫して行うビジネスモデルのことです。SPAモデルの採用により、流行の変化に迅速に対応し、品質を保ったまま低価格で商品を提供することが可能になりました。
結果として、消費者ニーズに即応する商品供給と高い顧客満足度を実現し、グローバル展開を加速させる成功要因となっています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、企画から組み立て、販売までをグループ全体で垂直統合しています。特に、必要な数の部品だけを生産する「ジャストインタイム生産方式」では、必要なタイミングで必要な数だけの部品を製造することで、無駄をなくしているのが特徴です。
この仕組みにより、コスト削減と品質の両立を実現し、グローバル市場における競争優位性を維持し続けています。
Amazon
AmazonはECサイト運営から倉庫管理、配送業務、顧客対応までを自社で垂直統合しています。これにより、迅速な商品配送や高い顧客満足度を実現しているのが特徴です。
また、クラウドサービスのAWSをはじめとする、さまざまなBtoB事業も展開しています。その結果、収益源の多角化にも成功しました。
まとめ
垂直統合は、自社内での一貫した体制を築くことで、コスト削減やスピーディーな意思決定、差別化の実現といった経営面での強化が期待できます。その一方で、初期費用の大きさや経営資源の分散など、慎重に検討すべき課題も存在します。
垂直統合を成功させるには、自社の立ち位置や事業環境を冷静に分析し、統合の目的を明確にすることが不可欠です。
垂直統合による長期的な成長を目指す場合、まずは自社の経営状況を正しく把握するために会計システムなどを活用するのもおすすめです。具体的な効果を数値でシミュレーションしながら、段階的に戦略を立てていきましょう。
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よくある質問
垂直統合と水平統合の違いは何ですか?
垂直統合は、製造から販売までの異なる工程を自社内で担うことで、サプライチェーンの強化を目的としています。一方、水平統合は同業他社を取り込み、事業規模の拡大やスケールメリットの獲得を図る手法です。
詳しくは「水平統合との違い」で解説しています。
垂直統合の具体例は?
ファーストリテイリングやトヨタ自動車、Amazonなどが代表的な垂直統合の成功事例です。それぞれの企業が自社の特性を活かしてサプライチェーンを内製化し、効率化と競争優位性を実現しています。
詳しくは「垂直統合の具体例」をご覧ください。
垂直統合を行う目的は何ですか?
垂直統合を行う主な目的としては、コスト削減や品質管理の徹底、意思決定の迅速化などによって、経営の効率性と競争力を高めることです。製造から販売までの一貫管理により、柔軟な経営戦略を構築しやすくなります。
詳しくは「垂直統合のメリット」をご覧ください。