成長性分析とは、企業の売上や利益がどれほど伸びているかを財務指標で確認する分析です。融資審査や投資判断、M&Aの評価にも用いられる一方、指標を計算するだけでは経営判断に活かせず、売上高だけや単年のデータで判断すると成長の実態を見誤ることも少なくありません。
本記事では、成長性分析の目的、主な指標、分析方法、注意点を解説します。
目次
- 成長性分析とは
- 成長性分析に必要な6つの要素
- 財務分析4分類における成長性分析の位置づけ
- 成長性分析の目的・メリット
- 成長性分析に必要な「損益計算書」と「貸借対照表」
- 損益計算書
- 貸借対照表
- 成長性分析で使用する10の指標
- 1.売上高増加率
- 2.経常利益増加率
- 3.営業利益増加率
- 4.総資本増加率
- 5.純資産増加率
- 6.従業員増加率
- 7.一株あたり当期純利益(EPS)
- 8.新規顧客増加率
- 9.顧客単価
- 10.労働生産性増加率
- 成長性分析の手法・実践例
- 売上高増加率で分析
- 経常利益増加率で分析
- 総資本増加率で分析
- 成長性分析を行う際の3つの注意点
- 同業他社・市場平均と比較する
- 3〜5年の時系列で推移を確認する
- 高すぎる成長率にも注意する
- まとめ
- 成長性分析に関するよくある質問
成長性分析とは
「成長性分析」とは、企業がどれほど成長し、業績が伸びているのかを財務指標などで分析することです。「成長性」は経営拡大の度合いや今後の可能性を指し、売上高の増減だけでは測れません。
売上が増えても利益が減っていれば、何らかのコストが成長を妨げている場合があります。市場が前年比50%超で急成長していれば、30%でも高い成長率とはいえません。多角的な判断に用いるのが、次の6つの要素です。
成長性分析に必要な6つの要素
成長性分析に必要な6つの要素
- 売上高
- 経常利益
- 営業利益
- 総資産
- 純資産
- 従業員
これらの要素から分析に必要な指標を算出し、前年度と比較すれば、1年ごとの成長率を分析できます。
財務分析4分類における成長性分析の位置づけ
財務分析は目的別に4つに整理され、それぞれ異なる経営課題に対応します。成長性分析はそのうちの1つ。
<財務分析の4分類>
| 分類 | 評価対象 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 安全性分析 | 支払能力・財務健全性 | 倒産リスクの把握 |
| 収益性分析 | 利益を稼ぎ出す効率 | 経営効率の評価 |
| 生産性分析 | 経営資源の活用度合い | 付加価値創出力の測定 |
| 成長性分析 | 売上・利益の伸び率 | 将来の規模拡大可能性の評価 |
成長性分析は、企業が一定期間にどれだけ規模を拡大したかを測り、将来の成長可能性を評価する役割を担うものです。着目するのは売上高や総資本など「規模の伸び率」。
なお生産性分析は、投入した経営資源あたりの成果を測るもので、成長性分析とは目的が異なります。
成長性分析の目的・メリット
成長性分析の目的は、成長率を知ることだけではありません。過去数年のデータと現在の売上・利益を比較し、どう対策すれば事業拡大や増益につながるかを考えることにあります。売上が伸びてもコストが嵩めば利益は残らないため、欠かせません。
社外の企業評価にも用いられます。金融機関は融資審査で将来の成長を確認し、株式投資家は投資判断の材料として成長率を重視。M&Aや事業承継でも買収価格を左右する要素です。
成長性分析に必要な「損益計算書」と「貸借対照表」
成長性分析を行うにあたり、6つの要素のうち、従業員を除く要素は「損益計算書」と「貸借対照表」から得られます。
それぞれの概要は次のとおり。
損益計算書
「損益計算書」は、1年や四半期などの一定期間の経営成績をまとめたものです。何に資本を使い、どれほどの収益があり、結果どのくらいの利益が残ったのかを記載し、株主や債権者への情報開示の手段でもあるのです。
複式簿記に基づき作成され専門知識を要しますが、表自体はわかりやすく、構造を知れば誰でも活用できるでしょう。
貸借対照表
「貸借対照表」は、「資産」と「負債」のバランスを一覧にした表で、一目で企業の財政状態がわかります。損益計算書同様、複式簿記に基づいて作成され、株主や債権者への経営状態の提示にも有用な書類。株式会社の場合は、損益計算書とともに新聞・官報・インターネット上での決算公告が義務付けられています。
開業時・決算時・精算時や月ごとに作成し、それまでのデータと比較できるよう管理しておく必要があります。
成長性分析で使用する10の指標
成長性分析で重要なことは、さまざまな側面から企業の成長性を見極めることです。そのためにも売上高だけではなく、以下にあげる10の指標を用いて総合的な判断を心がけましょう。
1.売上高増加率
売上高増加率=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100
「売上高増加率」は、成長性分析で代表的な指標であり、当期の売上高が前期の売上高に比べてどれほど伸びているのかを判断する基準です。
この値が前期よりもプラスなら「成長している」、マイナスなら「衰退している」というサイン。ただし1年分のデータで判断せず、数年単位で統括的に推移を把握することが大切です。
2.経常利益増加率
経常利益増加率=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100
「経常利益増加率」は、企業の本業以外の収益も含めた総利益である「経常利益」の伸び率を見る指標。企業が経常的に稼ぐ利益を随時比較できます。
「売上高増加率」とあわせての参照が重要で、売上高と経常利益がともに上昇傾向にあると優良な経営状態だと判断されます。
一方、売上高が増加しているのに経常利益が減少している場合は、コストの見直しなどの対策が必要でしょう。
3.営業利益増加率
営業利益増加率=(当期営業利益-前期営業利益)÷前期営業利益×100
「営業利益」は、企業が本業の営業活動で生み出した利益で、その伸び率を表したものを「営業利益増加率」と呼びます。
営業利益増加率は、ほかの指標に比べると、企業による数値の差が出やすい指標です。
数値にマイナスが付けば、経営の悪化が懸念される状態。たとえば「-100%」は前期の営業利益を失った状態、「-200%」は2年分の利益を失った状態となり、本業の売上げアップに向けたテコ入れが求められます。
4.総資本増加率
総資本増加率=(今期の総資本-前期の総資本)÷前期の総資本×100
「総資本増加率」は、総資本が前期と比べてどれだけ増えているのかを見る指標です。総資本とは純資産と負債の総額で、貸借対照表では貸方の項目。
企業経営では総資本が増え続ける状態が望ましいとされ、値が大きいほど伸び率も高いと分析されます。
しかし総資本は純資産と負債を合わせたものであるため、借入金など負債の増加によって高い指標となる可能性もあります。
負債の返済年数が長くなれば経営への影響は大きく、今後企業の安定度を下げる原因にもなりかねません。
5.純資産増加率
純資産増加率=(当期末純資産残高-前期末純資産残高)÷前期末純資産残高×100
「純資産増加率」は、総資本から負債を差し引いた純資産の増減を確認する指標です。値が高いほど経営状態は良好で、前期より低ければ経営が不安定になっていることを示します。
純資産は自己資本とほぼ同額のため、別名「自己資本増加率」。
6.従業員増加率
従業員増加率=(当期従業員数-前期従業員数)÷前期従業員数×100
「従業員増加率」は、従業員数の増減から事業の成長を測る指標です。事業が成長すれば多くの従業員が必要になりますが、設備投資に力を入れて人員を削減する企業もあり、その場合は売上高が増えても従業員数は減少します。
そのため、この指標だけでは成長率を判断できず、ほかの指標を併用した総合的な分析が不可欠です。
7.一株あたり当期純利益(EPS)
一株あたり当期純利益=当期純利益÷普通株式の期中平均発行済株式数
「一株あたり当期純利益」は、株式一株あたりの利益額を示す株価指標で、英語のEarnings Per Shareの頭文字からEPSとも呼ばれます。
経営状況や成長性を対外的に示すのに役立ち、この値が高ければ企業は高い評価を受けている状態と考えられます。
8.新規顧客増加率
新規顧客増加率=(当期新規顧客数-前期新規顧客数)÷前期新規顧客数×100
顧客の増加から企業の成長性を分析する指標が、新規顧客増加率。前期に比べてどれだけ顧客数が増えたかで判断されます。
ただしリピート客が多い場合など、新規顧客増加率だけでは企業の成長性は判断できません。ほかの指標と同じく、さまざまな指標と組み合わせて分析しましょう。
9.顧客単価
顧客単価=当期総売上高÷総顧客数
「顧客単価」は、顧客1人あたりが1回で支払う平均購入金額を表す指標です。新規顧客増加率に変化がなくても顧客単価が増加していれば、売上高は上がり、業績アップも期待されるでしょう。
とくに顧客に直接商品やサービスを提供する小売業や飲食業などでは、顧客単価の判断は重要です。事業の安定化を図るためにも、定期的に分析や管理を実施しましょう。
10.労働生産性増加率
労働生産性増加率=(当期労働生産性-前期労働生産性)÷前期労働生産性×100
「労働生産性」とは、従業員1人または1時間あたりに生み出される付加価値のこと。「労働生産性増加率」が高いほど、少ない労力で多くの成果を生み出したことを意味します。労働環境の整備や従業員のスキルアップで、同じ労働力でも生産性が大きく上がる可能性があります。
働き手不足が課題となる今、今後の企業動向を占う大切な指標といえるでしょう。なお計算式の元となる労働生産性は「付加価値÷従業員数」で算出します。付加価値の算出方法など生産性分析の詳細は、別記事で解説しています。
成長性分析の手法・実践例
成長性分析は、主に前期と当期の値を比較して行います。市場動向を知るため、競合他社のデータも比較対象。以下ではA社とB社を3つの指標から分析し、成長性を比較します。
<A社・B社の財務データ>
| A社 | B社 | |
|---|---|---|
| 当期 | ||
| 売上高 | 70,000千円 | 70,000千円 |
| 経常利益 | 8,000千円 | 8,000千円 |
| 総資本 | 130,000千円 | 100,000千円 |
| 前期 | ||
| 売上高 | 100,000千円 | 50,000千円 |
| 経常利益 | 10,000千円 | 5,000千円 |
| 総資本 | 150,000千円 | 70,000千円 |
売上高増加率で分析
まず次の計算式で、2社の売上高の伸び率を分析します。
【売上高増加率 = (当期売上高 – 前期売上高)÷ 前期売上高 × 100】
A社 =(70,000,000 - 100,000,000)÷ 100,000,000 × 100 = -30% B社 =(70,000,000 - 50,000,000)÷ 50,000,000 × 100 = 40%
2社ともに売上は同額ですが、売上高増加率はA社が-30%、B社が40%と大きな差が出ました。
これは、A社の売上が前期よりも伸び悩み、反対にB社の売上は順調に伸びているとわかります。
経常利益増加率で分析
次に、本業以外の損益も含めた利益の伸び率を求めます。
【経常利益増加率 =(当期経常利益 - 前期経常利益)÷ 前期経常利益 × 100】
A社 =(8,000,000 - 10,000,000)÷ 10,000,000 × 100 = -20% B社 =(8,000,000 - 5,000,000)÷ 5,000,000 × 100 = 60%
金額はA社もB社も同額ですが、前期からの伸び率はA社が-20%、B社が60%と差が出ました。
売上高から本業のコストを引いたものが「営業利益」、それに本業以外の損益を加えたものが「経常利益」です。つまりA社の売上には大きなコストがかかり、B社は売上高に比例して経常利益も伸びる理想的な状態。
総資本増加率で分析
最後に総資本増加率で、純資産と負債の増え方を分析します。
【総資本増加率 =(当期総資本 – 前期総資本)÷ 前期総資本 × 100】
A社 =(130,000,000 - 150,000,000)÷ 150,000,000 × 100 = 約-13% B社 =(100,000,000 - 70,000,000)÷ 70,000,000 × 100 = 約43%
売上と利益が増えれば総資本も自然と増加。この例でも、売上が伸び悩むA社は総資本も減少傾向にあり、B社は売上や経常利益の増加に伴って総資本も大きく伸びています。
各指標を分析して一目でわかるようまとめておくと、経営状態の推移を簡単に把握できます。現状だけでなく成長度も見れば、今後の事業計画が立てやすくなるでしょう。
成長性分析を行う際の3つの注意点
成長性分析の指標は、計算するだけでは経営判断に活かせません。算出した数値をどう解釈するかで結論は大きく変わります。実務で押さえておきたいのは次の3つの観点。
同業他社・市場平均と比較する
成長性指標は、自社の数値を単独で見ても意味を持ちにくいもの。市場平均や同業他社の伸び率と比較して初めて、自社の成長が相対的に高いか低いかを判断できます。
たとえば自社の売上高増加率が20%でも、業界全体が30%伸びていれば市場シェアは縮小しています。逆に自社が5%成長でも市場が横ばいであれば、相対的に健闘しているといえるでしょう。業種・成長ステージ・地域によって適正な伸び率は異なるため、比較対象は慎重に選ぶ必要があります。
3〜5年の時系列で推移を確認する
単年度の数値は、特需・大型受注・減損損失といった一時的な要因で歪むことがあります。数値の信頼性を高めるには、3〜5年程度の中期トレンドでの推移確認が有効。
複数年で連続してプラス成長していれば構造的な拡大局面と判断でき、単年だけ突出していればその要因を切り分けて評価する必要があります。基準年を変えて比較する「対基準年度比率」も、長期トレンド把握に有効な手法。
高すぎる成長率にも注意する
売上高増加率が前年比100%を超えるような急成長は、一見好ましく見えても経営面のリスクを伴います。
具体的には、運転資金の不足、債権回収・棚卸資産管理の混乱、人材育成や組織体制の整備が拡大に追いつかない状況が生じがち。借入金で運転資金を賄えば、自己資本比率などの安全性指標が悪化する可能性もあります。成長率の高さだけで判断せず、安全性分析の指標と併せて経営の健全性を確認しましょう。
まとめ
成長性分析は、企業の売上・利益・資本の伸び率から将来の規模拡大可能性を評価する手法です。
読み解く際は、3年以上の推移で確認する、同業他社や市場平均と比較する、複数指標を組み合わせるの3点が基本となります。安全性・収益性・生産性の各分析と併用すれば、経営状態を立体的に評価できるでしょう。
成長性分析に関するよくある質問
成長性分析で何がわかりますか?
成長性分析では、企業の売上高や利益、総資本などが過去から現在までにどれだけ伸びているかを数値で把握できます。これにより、企業の規模拡大の度合いと将来の成長可能性を評価可能。
単年度の数値だけでなく数年間の推移を比較することで、一時的な変動なのか構造的な成長なのかを切り分けて判断できます。経営判断、金融機関の融資審査、株式投資の評価など幅広い場面で活用される分析手法。
詳しくは「成長性分析の目的・メリット」で解説しています。
成長性分析で最も重要な指標はどれですか?
単一の指標で判断することは推奨されません。成長性は売上・利益・資本の3側面から複合的に評価する必要があり、最低でも売上高増加率・経常利益増加率・総資本増加率の3つを組み合わせて見るのが基本です。
重視する指標は業種次第。製造業であれば設備投資の動向を示す有形固定資産伸び率、小売業や飲食業であれば顧客単価や新規顧客増加率の重要度が上がります。複数指標を併用し、業種特性を踏まえて解釈してください。
詳しくは「成長性分析で使用する10の指標」で解説しています。
成長性分析と生産性分析の違いは何ですか?
成長性分析は「規模の伸び」を、生産性分析は「投入した経営資源あたりの付加価値」を測る分析。たとえば売上高増加率は規模の拡大を示しますが、労働生産性は従業員1人あたりの付加価値創出力を示します。
両者は隣接領域ですが目的が異なるため、目的に応じて使い分ける必要があります。成長性分析が「企業が大きくなっているか」を問うのに対し、生産性分析は「経営資源を効率的に活用できているか」を問う分析。
詳しくは「財務分析4分類における成長性分析の位置づけ」で解説しています。
