監修 柴田 充輝
個人事業主であっても、法人と同じ要件を満たせれば建設業許可を取得することは可能です。許可を取得することで請負金額の大きい工事を受注できるようになるほか、取引先からの信用力向上にもつながります。
本記事では、建設業における個人事業主と一人親方の違いのほか、許可取得に必要な5つの法定要件・必要書類・メリット・デメリット・取得後の更新手続きまで、個人事業主が建設業許可を取得するうえで知っておくべき情報を解説します。
目次
- 個人事業主(一人親方)でも建設業許可は取得できる?
- 建設業における個人事業主と一人親方の違い
- 建設業許可が必要な工事基準
- 個人事業主が建設業許可を取得するための条件
- 個人事業主が建設業許可を取るために必要な書類
- 経営業務の管理責任者であることを証明する書類
- 専任技術者に該当することを証明する書類
- 財産的基礎を証明する書類
- 個人事業主特有の提出書類
- 個人事業主が建設業許可を取得するメリット
- 同業者との差別化・信用力の向上
- 請負金額の大きい工事を受注できる
- コストを抑えて事業を維持できる
- 個人事業主が建設業許可を取得するデメリット
- 許可取得・更新に費用がかかる
- 規模の大きな工事を受注できるとは限らない
- 決算報告書の提出義務が発生する
- 建設業許可取得後の更新・変更手続き
- 5年ごとの更新
- 変更事項が生じた場合の届出
- まとめ
- よくある質問
個人事業主(一人親方)でも建設業許可は取得できる?
個人事業主であっても一定の要件を満たすことが証明できれば、建設業許可の取得は可能です。ただし、建設業許可の取得にあたっては法人と同じ要件が求められます。個人事業主であることを理由に基準が緩和されるわけではありません。
本記事では以降、一人親方を含む「個人事業主」について解説を行います。
建設業における個人事業主と一人親方の違い
建設業における個人事業主と一人親方は、厳密にいうと異なります。どちらも個人として建設業界に従事している点は共通ですが、個人事業主の場合はスタッフを雇用しているケースもあります。
一方で、一人親方は専従者など家族や身内だけで事業を営んでいる人です。国土交通省の「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」では、一人親方は「請け負った工事に対し自らの技能と責任で完成させることができる現場作業に従事する個人事業主」と定義されています。
つまり、一人親方は個人事業主の一種ですが、個人事業主の中には一人親方ではない人も含まれます。
建設業許可が必要な工事基準
建設業法では、「軽微な建設工事」を超える規模の工事については建設業許可が必要とされています。具体的な基準は以下のとおりです。
| 工事の種類 | 建設業許可が必要となる基準 |
|---|---|
| 建築一式工事 | 請負金額1,500万円以上(税込)の工事または延べ面積150㎡以上の木造住宅工事 ※請負金額が1,500万円以上であっても、延べ面積150㎡未満の木造住宅工事は許可不要 |
| 建築一式工事以外(専門工事) | 1件あたりの請負金額500万円以上(税込) |
上記の基準を下回る「軽微な建設工事」であれば、建設業許可なしで請け負うことができます。ただし、許可を取得していることで信用力が高まり、受注の幅も広がるため、将来的な事業拡大を考えている場合は許可取得を検討するとよいでしょう。
個人事業主が建設業許可を取得するための条件
個人事業主が建設業許可を取得するには、建設業法第7条で定められた5つの要件を満たす必要がありまです。法人と同じ基準で審査されるため、要件を事前によく確認しておくことが大切です。
建設業許可を取得するための要件
- 経営業務の管理責任者がいる
- 営業所技術者等(以下、専任技術者)がいる※
- 財産的基礎がある(500万円以上)
- 誠実性がある
- 欠格要件に該当しない
※慣例で専任技術者と呼ぶこともあるが、正式には「営業所技術者」
各要件の詳細について知りたい方は、別記事「建設業許可とは?取得要件や種類、必要な手続きをわかりやすく解説」をご覧ください。
個人事業主は、法人と異なり経営業務の管理責任者と専任技術者を本人1人が兼任するケースが多く見られます。経営業務の管理責任者については、2020年の改正により要件が見直され、現在は以下のいずれかを満たすことで認められます。
経営業務の管理責任者の要件
- 建設業に関し5年以上の経営業務管理責任者としての経験
- 建設業に関し5年以上の経営業務を補佐した経験
- 役員等としての経験5年以上(うち建設業に関するもの2年以上)+常勤役員等を直接補佐する者の配置
一人親方の場合は、本人の5年以上の経営経験で証明するのが一般的です。また、専任技術者として認められるためには、10年以上の実務経験(または該当する国家資格)を確定申告書や工事請負契約書などで証明する必要があります。
なお、2020年10月1日施行の改正建設業法により、健康保険・厚生年金保険・雇用保険への適切な加入が許可要件に追加されました。個人事業主の場合は、本人は国民健康保険・国民年金への加入、従業員を雇用している場合は加入義務に応じた社会保険への加入が必要です。
個人事業主が建設業許可を取るために必要な書類
個人事業主が建設業許可を申請する際には、法人と共通の書類に加えて、個人事業主特有の書類も提出する必要があります。
経営業務の管理責任者であることを証明する書類
経営業務の管理責任者としての要件を満たすことを証明するために、以下のような書類の提出が必要です。
経営業務の管理責任者であることを証明する書類
- 該当年数分の確定申告書の写し
- 工事請負契約書
- 注文書
- 請求書
- 入金が証明できる通帳
これまで従事してきた工事について、すべての書類が残っていることが理想的です。
専任技術者に該当することを証明する書類
専任技術者の要件を満たすことを証明するためには、学歴・資格・実務経験に応じた書類が必要です。
専任技術者に該当することを証明する書類
- 学校の卒業証明書(学歴で証明する場合)
- 保有する国家資格の合格証明書(資格で証明する場合)
- 実務経験期間分の工事請負契約書・注文書・請求書など(実務経験で証明する場合)
一人親方の場合は、資格ではなく実務経験で要件を証明するケースもあります。その場合、必要年数分の実務経験を裏付ける契約書・注文書・請求書などを揃えましょう。書類が不足している場合は、勤務先の会社に証明書の発行を依頼するか、発注者から注文書・請求書などの写しを入手するなど、代替書類の準備を検討してください。書類の収集が難しい場合は、申請前に管轄の許可行政庁や行政書士に相談することも有効です。
財産的基礎を証明する書類
個人事業主の場合、財産的基礎(500万円以上)は法人のような貸借対照表ではなく、以下のいずれかで証明するのが一般的です。
財産的基礎を証明する書類
- 500万円以上の残高証明書(金融機関発行、発行日から1ヶ月以内のもの)
- 500万円以上の融資可能証明書
残高証明書は申請日に近いタイミングで取得する必要があり、有効期限が短いため注意しましょう。
個人事業主特有の提出書類
法人には求められない、個人事業主特有の書類として以下が挙げられます。
直近の確定申告書の控え
事業所得を有し、自立して営業していることの証明になります。給与所得のみが記載されている場合は独立性が認められず、許可申請が認められない可能性があるため注意が必要です。
個人事業税の納税証明書または非課税証明書
事業税を滞納なく納付していること、または非課税であることを証明する書類で、都道府県税事務所で取得できます。個人事業税が非課税の場合は「非課税証明書」を取得して提出します。ただし、個人事業税が非課税の場合に必要となる書類は、許可行政庁によって扱いが異なる場合があります。申請前に、管轄の許可行政庁の手引きや窓口で確認しましょう。
いずれも確定申告をしていなければ取得できないため、日頃から正確な申告と納税を行っておくことが大切です。
個人事業主が建設業許可を取得するメリット
個人事業主が建設業許可を取得する主なメリットとして、次の3つが挙げられます。
個人事業主が建設業許可を取得するメリット
- 同業者との差別化・信用力の向上
- 請負金額の大きい工事を受注できる
- コストを抑えて事業を維持できる
同業者との差別化・信用力の向上
個人事業主で建設業許可を取得している人は比較的少数派であるため、同業者との差別化につながり、取引先からの信用力を高められます。建設業許可の取得は、一定の経営経験や技術力、財産的基礎があることの証明でもあるため、発注者や元請け企業からの信頼獲得にもつながります。
具体的には、許可業者限定の入札案件や下請け工事に参入できるようになり、これまで受注機会のなかった大規模案件の獲得チャンスが広がるかもしれません。また、ホームページや名刺に許可番号を記載することで、新規顧客からの問い合わせが増えたり、銀行融資の審査において事業の安定性が評価されやすくなったりといった副次的なメリットも期待できます。
請負金額の大きい工事を受注できる
建設業許可の取得によって、「軽微な建設工事」の範囲を超えた工事の請負が可能になります。建築一式工事であれば1,500万円以上(税込)、専門工事であれば500万円以上(税込)の工事を受注できるようになり、事業範囲が広がります。
戸建て住宅の新築工事やマンションの大規模修繕、商業施設の内装工事といった高単価案件を直接受注できるようになれば、1件あたりの売上を大幅に伸ばすことが可能です。
コストを抑えて事業を維持できる
個人事業主であれば、法人と異なり法人税の均等割(年間最低7万円程度)がかからないため、事業の維持コストを抑えられます。また、法人設立費用や、法人の決算公告にかかる費用なども不要です。
なお、常時使用する従業員が5人未満の個人事業所の場合、健康保険・厚生年金保険への強制加入義務はありません。ただし、2020年の改正により建設業許可の取得・更新には適切な社会保険への加入が求められます。
個人事業主が建設業許可を取得するデメリット
個人事業主が建設業許可を取得する主なデメリットとしては、次の3つが挙げられます。
個人事業主が建設業許可を取得するデメリット
- 許可取得・更新に費用がかかる
- 規模の大きな工事を受注できるとは限らない
- 決算報告書の提出義務が発生する
許可取得・更新に費用がかかる
建設業許可の取得には申請費用がかかります。1つの都道府県に事業所を設置する場合の知事許可は9万円、2つ以上の都道府県に事業所を設置する場合の大臣許可は15万円です。
また、5年に一度の許可更新には5万円の手数料が発生します。手続きを行政書士に委託する場合はさらにコストがかかります。
資材価格や燃料費の高騰が続くなか、十分な価格転嫁ができずに利益率が圧迫されている一人親方にとって、こうした申請・更新費用や行政書士への報酬(相場で10〜20万円程度)は決して軽い負担とは言えません。さらに、許可取得後も決算変更届の提出や各種変更届出が継続的に必要となるため、ランニングコストと事務負担が経営を圧迫するリスクも念頭に置いておく必要があります。
規模の大きな工事を受注できるとは限らない
業者によっては与信管理やリスクヘッジの観点から個人事業主への発注を避けるケースがあります。
建設業許可を取得して請負可能な工事の範囲が広がっても、実際に取引できる発注者が見つからなければ意味がありません。許可取得前に、取引先の意向を確認しておきましょう。
決算報告書の提出義務が発生する
建設業許可の取得後は、法人・個人にかかわらず、事業年度の終了から4ヶ月以内に建設業の決算報告書を提出することが義務付けられています。提出しなければ許可の更新や業種の追加申請ができなくなるため、毎年の対応が必須です。
建設業許可取得後の更新・変更手続き
建設業許可を継続して保持するためには、定期的な更新手続きや変更が生じた際の届出など、取得後も継続的な対応が必要です。
更新・変更手続きについて詳しく知りたい方は、別記事「建設業許可とは?種類・取得要件・申請の流れをわかりやすく解説」をご覧ください。
5年ごとの更新
建設業許可の有効期間は5年間です。と定められており、引き続き建設業を営む場合は、有効期間満了前に更新申請を行う必要があります。更新申請の期限は許可の種類や都道府県によって異なるため、管轄の許可行政庁で事前に確認しておきましょう。
変更事項が生じた場合の届出
許可申請時に提出した内容に変更があった場合は、所定の「変更届」を提出する義務があります。変更事項の種類によって提出期限が異なり、多くは変更から2週間または30日以内の提出が必要です。
まとめ
個人事業主であっても、法人と同じ要件(経営業務の管理責任者・専任技術者・財産的基礎・誠実性・欠格要件非該当)を満たすことができれば、建設業許可を取得することは可能です。
許可を取得することで請負金額の大きい工事を受注できるようになるほか、同業者との差別化や信用力の向上も期待できます。
一方で、個人事業主ならではの課題として、経営業務の管理責任者や専任技術者としての経験を証明する書類の収集が難しいケースもあります。申請を検討している場合は、必要書類の確認を早めに進め、不明な点は管轄の許可行政庁や行政書士に相談することも有効です。
よくある質問
建設業許可は誰でも取得できますか?
建設業許可は、法律で定められた5つの要件をすべて満たすことができれば、法人・個人事業主を問わず取得できます。ただし、欠格要件に該当する場合は取得できません。個人事業主の場合は経営経験や技術力を証明する書類の収集が難しいケースもあるため、早めに書類の有無の確認を行いましょう。
詳しくは記事内「個人事業主が建設業許可を取得するための条件」をご覧ください。
個人事業主が建設業許可を取得するデメリットは?
主なデメリットとして、許可取得・更新に費用がかかること、規模の大きな工事を受注できるとは限らないこと、決算報告書の毎年提出が義務付けられることの3つが挙げられます。
詳しくは記事内「個人事業主が建設業許可を取得するデメリット」をご覧ください。
請負金額が1,500万円以下の工事なら建設業許可は不要ですか?
建築一式工事の場合、請負金額1,500万円未満(税込)の工事、または、延べ面積150㎡未満の木造住宅工事であれば、建設業許可は不要です。どちらか一方の条件を満たせば「軽微な建設工事」に該当します。また、建築一式工事以外の専門工事については、請負金額500万円未満であれば許可は不要です。
ただし、許可がなくても取得していることで信用力が高まるため、事業拡大を検討している場合は取得を検討する価値があります。
詳しくは記事内「建設業許可が必要な工事基準」をご覧ください。
個人事業主でも500万円以上の工事はできますか?
建設業許可を取得すれば、個人事業主(一人親方)でも500万円以上の専門工事を請け負うことができます。許可の取得要件は法人と同じですが、要件を満たすことができれば個人名義での申請が可能です。
建築一式工事と専門工事では許可が必要となる金額基準が異なるため、工事の種類ごとに確認しましょう。
詳しくは記事内「個人事業主(一人親方)でも建設業許可は取得できる?」をご覧ください。
監修 柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,500記事以上の執筆実績あり。
