監修 井手 清香 かずきよ行政書士事務所
個人事業主(一人親方)であっても一定の取得要件を満たすことが証明できれば、建設業許可の取得は可能です。
しかし、法人と同じ要件が求められるため、許可の取得にかかる手間などを考慮したうえでよく検討する必要があるでしょう。
本記事では、個人事業主が建設業許可を取得する際に気を付けなければならないポイントや、取得するメリット・デメリットを解説します。
目次
建設業における個人事業主(一人親方)とは
建設業における個人事業主と一人親方は、厳密にいうと異なります。
どちらも個人として建設業界に従事している点は共通です。しかし、個人事業主の場合は、責任者として事業を営み、スタッフを雇用しているケースもあります。
一方の一人親方は、専従者など家族や身内だけで事業を営んでいる人を指します。国土交通省の下請け指導ガイドラインには、一人親方は「請け負った工事に対し自らの技能と責任で完成させることができる現場作業に従事する個人事業主」 と定義されています。
一人親方は個人事業主の一種といえますが、個人事業主は一人親方ではない人も含むと認識しておきましょう。
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個人事業主(一人親方)が建設業許可を取るために必要な書類
個人事業主であっても法人と同様の要件を満たせば、建設業許可を取得することができます。許可申請の際に必要な書類について解説します。
なお、取得要件について詳しく知りたい人は「建設業許可とは?取得要件や種類、必要な手続きをわかりやすく解説」を参考にしてください。
経営業務の管理責任者であることを証明する書類
個人事業主の場合でも、経営業務の管理責任者が必要です。経営業務の管理責任者を配置するということは、書類で証明します。
経営業務の管理責任者として認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
管理責任者の要件
- 建設業に関し、管理責任者として5年以上の経験がある
- 建設業に関し、管理責任者に順じる立場で5年以上経営業務の管理を行った経験がある
- 建設業に関し、管理責任者に順じる立場で6年以上管理責任者を補佐する業務を行った経験がある
- 建設業に関し、2年以上役員などの経験があり、かつ、5年以上、役員などの立場で常勤役員などを直接補佐する役割として財務管理や労務管理、運営業務に携わった経験がある
- 5年以上役員などの経験があり、かつ、建設業に関し、2年以上役員などの立場であり、常勤役員などを直接補佐する役割として財務管理や労務管理、運営業務に携わった経験がある
出典:国土交通省「建設業の許可の要件」
以上を証明する書類の一例としては、以下のような書類が挙げられます。これらの書類が揃っていないと、取得要件を満たすことの証明が難しくなります。
- 該当年数分の確定申告書の写し
- 工事請負契約書
- 注文書
- 請求書
- 入金が証明できる通帳
これまで従事してきた工事について、すべての書類が残っていれば理想的です。建設業許可の申請を考えている場合は、書類の整理を早めに進めましょう。
専任技術者に該当することを証明する書類
専任技術者として認められるには、学歴や実務経験、資格などの要件を満たす必要があります。なお、取得したい許可が一般建設業か特定建設業かによって要件は異なります。
一般建設業 |
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特定建設業 |
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専任技術者に該当することを証明するためには、学校の卒業証明書や実務経験期間分の工事請負契約書や注文書、請求書などの書類、保有する国家資格の合格証明書などの提出が必要です。
一人親方の場合は、実務経験で証明するケースが多い傾向にありますが、10年以上の実務経験の有無を証明することが難しい場合もあるでしょう。
たとえば、これまで複数の会社で勤務してきた場合、その会社がすでに倒産していたり、過去にさかのぼって書類を発行してもらうのが難しかったりする可能性があります。
実務経験をもって証明する場合は、勤務の証明書をきちんと書いてもらえるか、許可を取得したい建設業において建設工事に関する書類が残っているかどうかがポイントとなります。
個人事業主が建設業許可を取得するメリット
個人事業主が建設業許可を取得する主なメリットとしては、次の3つが挙げられます。
個人事業主が建設業許可を取得するメリット
- 同業者との差別化につながり、信用力も高まる
- 請負金額の大きい建設工事を受注できる
- 建設業を営むうえで発生するコストを抑えられる
まず、個人事業主で建設業許可を取得する人は比較的少数派であるため、同業者との差別化につながり、取引先からの信用力を高められるというメリットがあります。
また、建設業許可の取得によって、許可が必要ない「軽微な建設工事」の範囲を超えた建設工事の請負が可能になります。
具体的には、建築一式工事であれば1件あたりの請負金額が1,500万円以上、または延べ面積150㎡以上の木造住宅工事、建築一式工事以外であれば1件あたりの請負金額500万円以上の建設工事を受注できるようになり、事業範囲が広がる点もメリットといえるでしょう。
さらに、個人事業主の場合、法人税の均等割がかからないので事業を低コストで維持できます。
2020年10月より建設業許可を申請するうえで、適切な社会保険への加入が要件とされていますが、そもそも従業員が5人未満の場合、社会保険への加入は任意です。そのため、必ずしも社会保険に加入する必要がなく、社会保険料の負担もありません。
個人事業主が建設業許可を取得するデメリット
個人事業主が建設業許可を取得する主なデメリットとしては、次の3つが挙げられます。
個人事業主が建設業許可を取得するデメリット
- 許可取得や更新に費用がかかる
- 規模の大きな建設工事を受注できるかわからない
- 決算報告書を提出しなければならない
建設業許可の取得には、申請費用がかかります。
1つの都道府県に事業所を設置する場合に必要な知事許可は9万円、2つ以上の都道府県に事業所を設置する場合に必要な大臣許可は15万円の費用を支払わなければなりません。
また、5年に一度の許可更新には、5万円の手数料が発生します。手続きを行政書士に委託するとなれば、さらにコストがかかります。
また、業者によっては、与信管理やリスクヘッジの面から個人への発注をしたがらないケースがあります。せっかく建設業許可を取得し、規模の大きな建設工事を請け負えるようになったとしても、実際に取引できる業者がなければ意味がありません。
建設業許可の取得後は、法人・個人にかかわらず、事業年度の終了から4ヶ月以内に建設業の決算報告書を提出することが義務付けられています。決算報告書を提出しなければ、許可の更新や業種の追加を申請することができなくなるため対応は必須です。
まとめ
個人事業主であっても、法人と同様に取得要件さえ満たせば建設業許可を取ることは可能です。ただし、実務経験を証明する書類を揃えることが難しかったりなど、個人事業主ゆえの苦労も想定されるため、申請を考えている場合は計画的に準備を進めましょう。
一方で、個人事業主で建設業許可を取る人は比較的少ないため、同業者との差別化や信用力のアップにつながります。メリットとデメリットを総合的に考慮して、建設業許可を取得すべきかどうか検討してみてください。
よくある質問
個人事業主(一人親方)が建設業許可を取るための必要書類は?
法人と同様に、許可申請書とともに経営業務の管理責任者や専任技術者に該当することを証明する書類の提出が必要です。
詳しくは記事内「個人事業主(一人親方)が建設業許可を取るために必要な書類」をご覧ください。
個人事業主が建設業許可を取得するメリット・デメリットは?
メリットとしては同業者との差別化や信用力アップにつながること、デメリットとしては許可取得や更新に費用がかかることなどが挙げられます。
詳しくは記事内「個人事業主が建設業許可を取得するメリット」「個人事業主が建設業許可を取得するデメリット」をご覧ください。
監修 井手 清香 かずきよ行政書士事務所
滋賀県大津市でかずきよ行政書士事務所と、一般社団法人かずきよ研究所を経営している。システムエンジニアを経験した後、飲食店の取材ライターとして活動。現在は資金調達と業務効率化を中心に中小企業支援を行っている。NPO法人など株式会社以外の法人の支援も得意とする。かずきよ研究所では士業向け、一般向けの研修の企画運営中。フットワークの軽さと親しみやすい人柄が特徴。