
企業が突然の資金ニーズに直面したとき、企業はどのように乗り越えるのでしょうか。その手段のひとつが、短期で資金調達を実現するコマーシャルペーパー(CP)です。
コマーシャルペーパー(CP)とは、企業が資金調達を目的に発行する無担保の約束手形のことを指します。企業が自社の信用力をもとに発行し、銀行を介さず直接資金調達を行う手段として利用されています。
本記事では、コマーシャルペーパーの概要や仕組みと流れ、発行形態・種類、さらに企業と投資家双方にとってのメリットとデメリットをわかりやすく解説します。
目次
- コマーシャルペーパー(CP)とは?企業が短期で資金調達する方法
- コマーシャルペーパーと社債の違いとは?資金調達期間や金利の仕組みがポイント
- 資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)との違い
- コマーシャルペーパーと手形の違い
- コマーシャルペーパーの仕組みと発行の流れ
- コマーシャルペーパーの発行形態・種類
- 特定投資家私募
- 適格機関投資家私募(プロ私募)
- 少人数私募
- 【企業向け】コマーシャルペーパー発行のメリット・デメリット
- メリット①:低金利での資金調達が可能
- メリット②:迅速な資金調達を実現
- デメリット①:発行企業の信用力に依存する
- デメリット②:すぐに資金を返済する必要がある
- 投資家側のメリット・デメリット
- メリット①:短期運用としての選択肢になる
- メリット②:比較的高い利回りが期待できる
- デメリット①:元本が回収できないリスクがある
- デメリット②:利率変動のリスクがある
- コマーシャルペーパー電子化の流れ
- まとめ
- freeeで内部統制の整備をスムーズに
- よくある質問
コマーシャルペーパー(CP)とは?企業が短期で資金調達する方法
コマーシャルペーパー(CP)とは、企業が短期的な資金調達を目的に発行する無担保の約束手形です。保証や担保を必要とせず、発行企業の信用力に基づいて発行されるため、主に信頼性の高い優良企業が資金調達の手段として利用します。
コマーシャルペーパーの発行金額は1億円以上と比較的大口で行われることが多く、証券会社や金融機関が発行を引き受けて投資家向けに販売します。発行期間は1年未満になることが一般的です。
また、コマーシャルペーパーの発行元は信頼性が高い優良企業であることが多いため、金利はプライムレート(銀行が優良企業に対して融資する際に適用する最優遇貸出金利)より低い利息で設定されるケースも多く見られます。
コマーシャルペーパーと社債の違いとは?資金調達期間や金利の仕組みがポイント
コマーシャルペーパーと社債は、いずれも企業が資金調達のために発行する金融商品ですが、発行方法や償還期間、利息の仕組みなどに違いがあります。
それぞれの特徴は下表のとおりです。
種類 | コマーシャルペーパー | 社債 |
---|---|---|
発行方法 | 約束手形 | 債権 |
償還期間 | 1年未満 | 主に2~50年 |
利息 | 割引 | 利付き |
資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)との違い
コマーシャルペーパーには、資産を裏付けに発行される「資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)」という種類もあります。
資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)は、特別目的会社(SPC)が発行主体となり、売掛債権などの資産を裏付けとして信用力を補強するものです。一方、一般的なコマーシャルペーパーは企業の信用力に基づいて発行されるため、担保はありません。
通常のコマーシャルペーパーを発行するのは信用性の高い優良企業が中心になりますが、ABCPは担保があるため、より幅広い企業が資金調達の手段として利用しやすいといえます。
コマーシャルペーパーと手形の違い
コマーシャルペーパーと混同されやすい概念に「手形」があります。どちらも企業が資金調達を行うための手段ですが、その性質に明確な違いがあります。
手形は、企業が「将来の支払いを約束する証書」として発行するもので、取引先との決済や銀行からの割引による資金調達に使われます。一方、コマーシャルペーパーは「投資家から資金を直接調達する短期の有価証券」であり、主に市場で売買される点が特徴です。
手形は商取引に付随した決済や銀行取引を前提にしていますが、コマーシャルペーパーは金融市場を通じた直接金融の仕組みに基づきます。
コマーシャルペーパーの仕組みと発行の流れ

コマーシャルペーパーを発行する企業は、証券保管振替機構に発行申請を行い、額面金額よりも低い価格の「割引形式」で機関投資家に販売します。発行後、償還期日を迎えると投資家には額面金額が支払われ、このときの額面金額と購入価格の差額が、投資家の収益になります。
コマーシャルペーパー発行の具体的な流れは以下のとおりです。
コマーシャルペーパー発行の流れ |
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コマーシャルペーパーは企業の信用力を背景に短期間で資金調達できる仕組みを持ち、投資家にとっては短期運用商品として収益を得られる特徴があります。
コマーシャルペーパーの発行形態・種類
コマーシャルペーパーは、金融商品取引法上の「有価証券」に該当するため、原則として発行者に「発行開示規制」が課されます。ただし、実務上ではこの規制を避けるため、法律上の募集にあたらない「私募形式」を活用した発行が一般的です。
私募とは、不特定多数に広く販売する「公募」と異なり、販売対象を特定の条件を満たす相手に限定する方法を指します。私募形式によるコマーシャルペーパーの発行形態は、以下のとおりです。
発行形態 | 概要 |
---|---|
特定投資家私募 | 一定要件のもと特定の投資家のみが対象となる |
適格機関投資家私募 (プロ私募) | 適格機関投資家のみが対象となる |
少人数私募 | 1回あたりの発行枚数が50人未満の形態 |
特定投資家私募
特定投資家私募とは、一般の個人投資家ではなく、一定の条件を満たした「特定投資家」のみに向けて行う私募形式です。特定投資家には、金融商品に対する十分な知識や経験、一定以上の財産、リスク管理能力を有する個人や法人が含まれます。
特定投資家だけを対象とすることで、CPの発行企業は開示義務の一部が免除され、手続きが簡素化されるメリットがあります。
適格機関投資家私募(プロ私募)
適格機関投資家私募(プロ私募)は、金融商品取引法上の「適格機関投資家」のみを対象とした私募のことで、特定投資家私募よりもさらに限定的な私募形式です。この適格機関投資家には、銀行や証券会社、投資信託委託会社、年金基金などが該当します。
特定投資家私募よりも対象がさらに限定されており、投資家保護の観点からも「リスクを十分に理解できる投資家」と見なされるため、規制は最も緩やかで、開示や販売に関する制約も少ないのが特徴です。
少人数私募
少人数私募は、発行対象者を50人未満に限定して行う私募形式です。投資家がプロか一般かは問われませんが、人数制限に関するルールが厳格に定められています。
万が一、51人以上の投資家に販売した場合は私募ではなく「公募」とみなされ、重い開示義務が課されることになります。
【企業向け】コマーシャルペーパー発行のメリット・デメリット
コマーシャルペーパーは企業にとって有効な資金調達手段ですが、その利用にはメリットとデメリットの両面があります。ここでは発行企業の視点から、具体的なメリット・デメリットを解説します。
メリット①:低金利での資金調達が可能
コマーシャルペーパーは、通常の銀行融資よりも低い金利で資金調達ができるメリットがあります。とくに信用力の高い企業であれば、銀行融資よりもさらに低い金利で資金を確保できるケースもあります。
その背景にあるのが「直接金融」という仕組みです。銀行融資は、金融機関が貸出のリスクを負うため、その分のコストや利益が金利に上乗せされます。一方でコマーシャルペーパーは、投資家から直接資金を調達するため、銀行の仲介コストやリスクプレミアムが発生しにくく、結果として低金利での発行が可能になります。
財務基盤の安定した大企業にとっては、非常に効率的な資金調達手段といえるでしょう。
メリット②:迅速な資金調達を実現
コマーシャルペーパーは、発行手続きが比較的簡易で迅速に行えるため、必要な資金を短期間で調達できます。私募形式で発行されることが多く、公募債のような煩雑な手続きや厳格な開示義務も不要です。
そのため、急な資金需要が発生した場合でも、発行から着金までのスピードが非常に早く、数日単位で調達できることもあります。
デメリット①:発行企業の信用力に依存する
コマーシャルペーパーは無担保で発行されるため、企業の信用力が低い場合は投資家からの信頼を得られず、発行が難しくなります。信用力を補うために格付けを取得することもありますが、その際にはコストが発生します。
仮に発行できたとしても、信用度の低い企業では利用の幅が限定されることもあります。
デメリット②:すぐに資金を返済する必要がある
コマーシャルペーパーは、原則として満期1年以内の短期金融商品のため、発行後からすぐに返済期限が訪れます。発行企業は常に資金繰りに注意を払い、返済資金を確実に準備しなければなりません。
投資家側のメリット・デメリット
コマーシャルペーパーは、投資家にとっても魅力的な投資対象になり得ますが、その一方でリスクも存在します。ここでは投資家側から見たメリットとデメリットをわかりやすく解説します。
メリット①:短期運用としての選択肢になる
コマーシャルペーパーは、満期が1年未満の短期金融商品であり、流動性が高い点が特徴です。資金を短期間だけ運用したい投資家にとっては、預金より高い金利が期待できるため、メリットの大きい商品といえます。
また、資金拘束期間が短く、市場環境の変化に応じて柔軟に運用方針を切り替えられる点もメリットです。
メリット②:比較的高い利回りが期待できる
コマーシャルペーパーは企業が直接資金を調達する仕組みであり、銀行預金よりも高い利回りを提示するケースが多くあります。
信用力の高い企業であっても、比較的高めの利率を設定する場合があり、「短期で運用したい」「低リスクで利回りを求めたい」という投資家にとって、魅力的な投資商品といえます。
デメリット①:元本が回収できないリスクがある
コマーシャルペーパーは無担保で発行されるため、万が一、発行企業が営業不振や倒産に陥った場合、投資元本の一部または全額を回収できないリスクがあります。
信用格付けのない企業や、財務状況が不安定な企業のコマーシャルペーパーはリスクが高いため、投資判断には注意が必要です。
デメリット②:利率変動のリスクがある
市場の利率変動がコマーシャルペーパーの価値にも影響を及ぼすケースがあります。たとえば、金利が上昇した場合にはすでに発行されている低利率のコマーシャルペーパーは相対的に価値が下がる恐れがあります。
短期商品とはいえ、利率変動の影響を受ける点は投資家にとってリスク要因となり得ます。
コマーシャルペーパー電子化の流れ
もともとコマーシャルペーパーはアメリカで誕生し、日本では1987年11月から発行されるようになりました。従来は紙媒体の「手形CP」が用いられていましたが、2003年3月から「電子CP」の発行が始まり、近年はコマーシャルペーパーの電子化が整備され、ペーパーレスでの発行が主流となっています。
電子CPにより、事務作業の簡素化や発行スピードの向上、決済の安全性確保などが進んだほか、電子化により資金の流れが記録として残りやすくなったことで、お金の動きを「見える化」する利点が明らかになりました。
こうした電子化の流れや、資金の見える化の重要性はあらゆる分野で高まっています。企業においては、資金繰りの透明性を高めて経営判断を迅速に下すためにも、会計システムの導入による業務の一元管理がおすすめです。
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まとめ
コマーシャルペーパーは、短期資金を調達・運用するうえで重要な手段です。発行形態や種類、メリット・デメリットを正しく理解することで、自社の資金繰りを柔軟にコントロールできます。
とくに近年は電子CPの普及により、発行から管理までの効率性が大幅に向上しています。自社の財務戦略に合わせて最適な活用方法を検討し、安定した資金調達を実現していきましょう。
freeeで内部統制の整備をスムーズに
IPOは、スモールビジネスが『世界の主役』になっていくためのスタート地点だと考えています。
IPOに向けた準備を進めていくにあたり、必要になってくる内部統制。自社において以下のうち1つでも該当する場合は改善が必要です。
- バックオフィス系の全てのシステムにアクセス権限設定を実施していない
- 承認なく営業が単独で受注・請求処理を行うことができる
- 仕入計上の根拠となる書類が明確になっていない
freee会計のエンタープライズプランは内部統制に対応した機能が揃っており、効率的に内部統制の整備が進められます。
内部統制対応機能
- 不正防止(アクセスコントロール)のための、特定IPアドレスのみのアクセス制限
- 整合性担保(インプットコントロール)のための、稟議、見積・請求書発行、支払依頼などのワークフローを用意
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- 国際保証業務基準3402(ISAE3402)に準拠した「SOC1 Type2 報告書」を受領
詳しい情報は、内部統制機能のページをご確認ください。
導入実績と専門性の高い支援
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また、freeeではIPOを支援すべく、内部統制に関する各種ツールやIPO支援機関との連携を進めています。
内部統制を支援するツール・連携機能
IPOに向けた準備をお考えの際は、freeeの活用をご検討ください。
よくある質問
コマーシャルペーパーとは何ですか?
コマーシャルペーパー(CP)とは、企業が短期的な資金調達を目的に発行する無担保の約束手形のことです。
詳しくは記事内「コマーシャルペーパー(CP)とは?」をご覧ください。
社債とコマーシャルペーパーの違いは何ですか?
社債とコマーシャルペーパーは、いずれも企業が資金調達のために発行する金融商品ですが、発行方法や償還期間、利息の仕組みなどが異なります。
詳しくは記事内「コマーシャルペーパーと社債の違い」をご覧ください。
コマーシャルペーパーと手形の違いは何ですか?
手形は取引先との決済や銀行を通じた資金調達に使われる証書ですが、コマーシャルペーパーは投資家から直接資金を集めるための短期有価証券を指します。
詳しくは記事内「コマーシャルペーパーと手形の違い」をご覧ください。
個人投資家はコマーシャルペーパーを買える?
企業は発行開示規制を避けるため、通常コマーシャルペーパーは私募形式で発行されます。販売対象は特定の条件を満たす投資家に限られるため、発行形態によっては個人投資家が購入できないものもあります。
詳しくは記事内「コマーシャルペーパーの発行形態・種類」をご覧ください。