経営管理の基礎知識

サプライチェーンとは?バリューチェーンとの違いから具体例、課題までわかりやすく解説

サプライチェーンとは?バリューチェーンとの違いから具体例、課題までわかりやすく解説

製品の納期遅延や原材料の高騰に、お悩みではありませんか?

その課題は、実は自社単体の問題ではなく、原材料の調達から顧客に製品が届くまでのサプライチェーン全体に潜んでいる可能性があります。サプライチェーンとは、製品が生産され、消費者に届くまでのモノ・カネ・情報の一連の流れ(供給連鎖)を指す、現代ビジネスの根幹をなす概念です。

本記事では、サプライチェーンの基本概念から具体例、混同されやすいバリューチェーンとの違い、そして課題解決の鍵となるサプライチェーンマネジメント(SCM)までをわかりやすく解説します。最後まで読めば、サプライチェーンの全体像を正しく理解し、自社の販売管理を改善するための具体的なヒントを得られるようになります。

目次

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サプライチェーンとは?製品が作られ消費者に届くまでの流れのこと

サプライチェーンとは、製品が原材料の段階から生産、在庫管理、物流、販売を経て、最終的に消費者の手元に届くまでの「モノの流れ」のことです。日本語では「供給連鎖(きょうきゅうれんさ)」とも呼ばれています。

サプライチェーンは単なる「物流」だけでなく、生産者やメーカー、卸売、小売といった複数の企業や組織が関わる大きな概念です。企業や組織がそれぞれの役割を果たしながら連携することで、製品やサービスが消費者の手元に届けられています。

身近な例として、コンビニのお弁当のサプライチェーンを見ていきます。お弁当の材料が生産されてから消費者の手元に届くまでの流れは、以下のとおりです。

  1. 食材の生産者(農家・漁師など)
  2. 食品加工工場(お弁当の製造)
  3. 配送センター(在庫管理・配送準備)
  4. 店舗(コンビニエンスストア)
  5. 消費者

ひとつの商品が消費者に届くまでには多くの企業や工程が関わっており、それぞれが鎖のようにつながっていることから「サプライチェーン」と呼ばれています。

サプライチェーンとバリューチェーンの違い

サプライチェーンと混同されやすい言葉に「バリューチェーン」があります。これらの違いは以下のとおりです。


項目サプライチェーンバリューチェーン
視点モノやサービスの「供給プロセス」に着目事業活動全体の「価値の連鎖」に着目
(開発、製造、販売、サービスなど)
目的モノの流れを効率化し、コスト削減や納期短縮を目指す各工程で付加価値を最大化し、企業の競争優位性を高める

サプライチェーンは、「いかに効率的に製品を顧客に届けるか」という物流の最適化に焦点を当てています。これに対してバリューチェーンは、「どのように価値を創造するか」という付加価値の向上に重点を置いています。

たとえばスマートフォンの製造において、部品の調達から販売店への配送までの流れの効率化を図るのがサプライチェーンです。一方、バリューチェーンでは設計段階での技術革新や製造過程での品質向上など、各プロセスでの価値創造を重視します。

サプライチェーンの具体例:身近な3つの業界の流れ

サプライチェーンは、それぞれの業界で異なる特徴や流れが構築されています。ここでは3つの業界に焦点を当て、具体例を説明します。

製造業(自動車メーカー)

製造業(自動車メーカー)のサプライチェーンを紹介します。


製造業(自動車メーカー)のサプライチェーン

まずはエンジンやタイヤ、電子部品など、いくつにもおよぶ部品を専門メーカーから調達します。自動車メーカーがこれらの部品を組み立てて完成車を製造し、物流業者が全国各地のディーラーへ輸送・保管を担当します。最終的にディーラーが消費者に販売・アフターサービスを提供する流れです。

小売業(アパレル)

小売業界(アパレル)のサプライチェーンを紹介します。


小売業(アパレル)のサプライチェーン

アパレルでは、綿花や羊毛などの原材料を素材メーカーが調達し、紡績・縫製工場で衣料品に加工します。完成した製品は卸売業者や商社を経由して物流センターで在庫管理され、小売店で消費者に販売されます。

飲食業(レストラン)

飲食業(レストラン)のサプライチェーンは以下のとおりです。


飲食業(レストラン)のサプライチェーン

農家や漁師が生産・収穫した新鮮な食材は、必要に応じて食品加工メーカーで加工処理されます。その後、卸売市場や業者を経由してレストランなどの店舗に届けられます。店舗にて調理を行い、完成した料理を消費者に提供するのが一般的な流れです。

サプライチェーンが抱える3つの課題:寸断リスク、需要変動、複雑化

製造から流通、販売までをつなぐサプライチェーンは、効率性を追求する一方で多くのリスクも抱えています。ここでは、サプライチェーンが抱える3つの問題点を解説します。

自然災害や地政学リスクによって寸断されるリスクがある

サプライチェーンは、製品の原材料調達から製造、販売に至るまで、多くの国や地域にまたがるネットワークで構成されている場合があります。そのため、自然災害や地政学的な要因によって、物理的に寸断されるリスクを常に抱えています。

たとえば新型コロナウイルスの世界的な感染拡大では、都市封鎖や工場の稼働停止により、各地で部品の供給が滞りました。日本でも、東南アジアの感染再拡大によって輸送機械製造業の生産活動が大きく落ち込むなど、多くの企業が影響を受けています。

特定の国や地域に生産や調達を集中させている企業ほど、その影響は大きいものとなりやすく、最悪の場合は生産停止や納期遅延を招く恐れがあると理解しておくべきです。

需要変動への対応が難しい

近年、SNSの普及やライフスタイルの変化によって消費者ニーズは多様化しつつあります。流行やトレンドの移り変わりが速いため、企業側の正確な需要予測も困難です。サプライチェーンを最適化したいと考えていても、需要の変化に適切に対応できなければ大きな損失につながる可能性があります。

たとえば予想以上に需要が急増した場合、対応が遅れると欠品が発生し、販売のチャンスを逃す恐れがあります。反対に、需要が減少したにもかかわらず在庫を多く抱えてしまうと、保管コストの増大やキャッシュフローの悪化を招くリスクが生じます。

関係者が増えるほど全体の流れが複雑化しやすい

サプライチェーンにはメーカーや仕入先、物流業者、販売店など、さまざまな企業が関わります。関係する企業や人が増えるにつれて、チェーン全体の構造は複雑になり管理がしづらくなります。

関係者間での情報共有が不十分になると、各プロセスで情報が断絶されて全体の流れが見えにくくなり、「ブラックボックス化」に陥りかねません。トラブルが起きても状況把握や原因特定が困難になり、迅速に対応できないリスクがあります。

サプライチェーンマネジメント(SCM)とは

サプライチェーンで発生するさまざまな課題を解決するには、サプライチェーンマネジメント(SCM)が重要です。SCMとは、原材料の調達から消費者への販売まで関わるすべての企業や部門が協力し、情報やリソースを共有しながらサプライチェーン全体の最適化を実現する管理手法です。

各企業や部門が独自の判断で業務を行うと、無駄や非効率が生じる場合があります。SCMではこうした個別の取り組みを統合し、チェーン全体で連携することによりコスト削減や顧客満足度の向上を目指します。

サプライチェーンマネジメント(SCM)の重要性

現代のビジネス環境において、サプライチェーンマネジメントの重要性が注目されています。ここでは、SCMが企業にもたらす3つの重要な価値について解説します。

変化に対応する「しなやかさ」を獲得できる

変化の激しいVUCA時代において、SCMでサプライチェーン全体の可視性を高めることが重要です。SCMでは一部で問題が発生しても迅速に状況を把握できるため、代替ルートを探すなどの柔軟な対応が可能となり「しなやかさ(レジリエンス)」を獲得できます。

たとえば、特定の地域で自然災害が発生した場合、SCMシステムによって影響範囲を即座に特定できれば、別の調達先や輸送ルートへの切り替えを素早く実行できます。このようなレジリエンスの獲得は、事業の継続性を確保するだけでなく、長期的な成長を支える重要な要素となるのです。

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顧客満足度・競争優位性を高められる

顧客ニーズが多様化するなかで「短納期」「安定した製品供給」といった要素は、重要な差別化要因となっています。SCMによってリードタイムの短縮や欠品の削減を実現することは、顧客満足度の向上に直結し、企業の競争優位性を高めることにつながります。

サプライチェーン全体の効率化を実現すれば、より短い納期での供給や、安定した供給体制の確立が可能です。こういった努力は、顧客からの信頼獲得にもつながり、長期的な取引関係の構築にもプラスの影響を与えます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展につながる

以前は、サプライチェーン全体の情報連携は理想論とされていました。しかし、IoTやAI、クラウドなどのデジタル技術の進展によって、現実的なものとなりつつあります。

これらの技術を活用しながらサプライチェーン全体でDX化を進めていくと、膨大なデータをリアルタイムで収集・分析しやすくなります。より精度の高い意思決定を迅速に行うことにも寄与し、SCMの効果を最大化できる環境の整備が可能です。

なお、サプライチェーンへのAI活用は高精度な需要予測や在庫管理・発注の自動化、最適な配送ルートの算出を実現します。これによって欠品や過剰在庫を防ぎつつ、物流コストを大幅に削減可能です。さらに突発的な問題の早期検知も可能にし、変化に強い安定した供給体制の構築と顧客満足度の向上にも貢献します。

サプライチェーンマネジメント(SCM)の注意点・課題

SCMは多くのメリットをもたらす一方で、導入や運用にあたってはいくつかの注意点と課題があります。ここでは、企業がSCM導入時に直面する注意点や課題を解説します。

導入・運用コストがかかる

SCMを実現するためには、専門システムを導入しなければならない可能性があります。多額の初期投資(イニシャルコスト)が必要となるほか、システムの保守費用やアップデート費用といった運用コスト(ランニングコスト)も継続的に発生するため、費用対効果を慎重に見極めなくてはなりません。

多大なコストが必要となる場合は、自社にとって本当に利益があるのか慎重に検討する必要があります。

なお、SCMシステム導入を成功させる鍵は、目的を明確化させることです。まず「在庫15%削減」など具体的な数値目標を立て、現場を巻き込み現状業務を可視化します。そのうえで自社の規模や既存システムとの連携性を考慮してツールを選定します。導入時は、特定部門からスモールスタートで効果を検証し、丁寧なデータ移行と従業員への説明で定着を図ることが重要です。

部門間・企業間の連携が不可欠

SCMは材料調達や製造、在庫管理、物流、販売など、複数の部門が連携することにより効果を発揮します。しかし、部門間の利害が対立してしまうと、最適化の妨げとなる恐れがあります。具体的に想定されるのは、「製造部門はまとめて生産したいけれど、販売部門はこまめに発注したい」といったシーンです。

こういった問題を解決するには、仕入先や販売先といった社外とのシームレスな情報共有が必要です。お互いに協力的な体制を構築していくことも課題となります。

専門的な知識を持つ人材が必要

SCMを最適化するためには、サプライチェーン全体を俯瞰し、収集したデータを分析して改善策を立案・実行できる専門人材を配置することが重要です。ITシステムを使いこなすスキルも不可欠ですが、こうした人材の採用や育成が難しく、SCM推進のボトルネックになるケースは少なくありません。

とくにデジタル技術の急速な進歩により、IoTやAI、ビッグデータ分析などの新技術を活用できる人材の需要が高まっています。このような複合的なスキルを持つ人材は市場でも希少であるため、確保が困難になる可能性に注意が必要です。

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まとめ

サプライチェーンは、原材料の調達から消費者への販売まで、すべての工程をつなぐ重要な仕組みです。自然災害や需要変動などのリスクを抱える一方、適切なサプライチェーンマネジメント(SCM)により、課題解決と競争優位性の確保も期待されています。

変化の激しい現代において、企業の持続的成長を実現するためには、サプライチェーン全体の最適化が重要です。販売管理業務においても、サプライチェーンの理解は重要な要素といえるでしょう。

よくある質問

サプライチェーンとは?

サプライチェーンとは「供給連鎖(きょうきゅうれんさ)」とも呼ばれ、原材料の段階から生産、在庫管理、物流、販売を経て、最終的に消費者の手元に届くまでの「モノの流れ」を指します。

詳しくは、記事内の「サプライチェーンとは?製品が作られ消費者に届くまでの流れのこと」にて解説しています。

サプライチェーンとバリューチェーンの違いは?

サプライチェーンは「いかに効率的に製品を顧客に届けるか」という物流の最適化に焦点を当てています。一方、バリューチェーンは「どのように価値を創造するか」という付加価値の向上に焦点を当てています。

詳しくは、記事内の「サプライチェーンとバリューチェーンの違い」をご覧ください。

サプライチェーンマネジメント(SCM)が重要視されている理由は?

変化の激しい現代では、SCMによってレジリエンスの構築が重要です。これにより、顧客満足度や競争優位性を高めることにつながります。また、SCMの効果を最大化するためにも、サプライチェーン全体でのDX化の推進にもつながると期待されています。

詳しくは、記事内の「サプライチェーンマネジメント(SCM)の重要性」にて解説しています。

サプライチェーンにAIを活用するメリットは?

サプライチェーンへのAI活用は、高精度な需要予測や在庫管理・発注の自動化、最適な配送ルートの算出を実現できます。

詳しくは、記事内の「DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展につながる」をご覧ください。

SCMシステムを導入する際のポイントは?

SCMシステムを導入する際のポイントは、目的を明確化させることです。具体的な数値目標を立て、現場を巻き込み現状業務を可視化します。そのうえで自社の規模や既存システムとの連携性を考慮してツールを選定します。

詳しくは、記事内の「導入・運用コストがかかる」で解説しています。

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