人手不足や長時間労働など、慢性的な課題を抱える建設業界では、DX（デジタルトランスフォーメーション）の必要性がますます高まっています。

しかし、建設業界ではDX化の取り組みが進んでいないのが現状です。

本記事では、建設DXが進まない原因や導入によって得られるメリット、実際の成功事例まで解説します。自社のDX推進を加速させたい経営者・担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

• 建設DXとは
• 建設DXが進まない3つの原因
• ① 若手の人手不足
• ② デジタル技術への抵抗感
• ③ 大手との資金面・技術面の格差
• 建設DXを進めるメリット
• 業務効率化による生産性向上が期待できる
• 工数や人件費の削減ができる
• ヒューマンエラーや事故の減少につながる
• 建設DXの導入事例3選
• 【事例1】配筋検査システムの導入で作業効率化と品質向上に成功
• 【事例2】動画確認時間を9割削減
• 【事例3】見える化システムの開発・導入で現場管理の効率化に成功
• 建設DXを進めるときのポイント
• 1. 解決すべき課題を明確にする
• 2. IT人材を採用する
• 3. 小規模から段階的に導入する
• 4. 補助金を活用する
• 5. 効果測定と現場の声を聞きながら進める
• まとめ
• よくある質問

建設DXとは、ICT・IoT・AI・クラウドなどのデジタル技術を活用し、建設業の業務プロセスや働き方を抜本的に変革する取り組みのことです。

従来は紙や対面で行っていた図面管理や施工写真の整理、工程管理などをデジタル化・自動化し、業務の効率化や生産性向上を図ります。

さらに、ドローンによる測量や3Dデータを活用した施工計画、ICT建機による自動施工など、施工プロセス全体を最適化するのも建設DXの一環です。

人手不足が深刻化するなか、DXの推進は現場の負担軽減や安全性の向上、働き方改革の実現にもつながる重要な取り組みです。

建設DXが進まない主な原因として、以下の3つが挙げられます。

建設業界では若手人材が不足しているのと同時に、熟練技術者の高齢化が進んでいます。

そのため、新しいツールを導入しても、操作やトラブル対応を担う若手が少なく、一部のITスキルをもつ社員に負担が集中してしまいます。結果、貴重なノウハウがデータとして共有・継承されず、属人化から脱却できない状態が続いています。

さらに、DXを進めるためにはITやデータ分析に強い人材を採用したり、給与基準を見直したりといった経営的なハードルも避けられません。採用や評価の仕組みづくりに踏み込めないことも、DX推進を難しくしている要因です。

建設業界では、対面でのやりとりや現場での判断が重視される文化が根強く、特にベテラン層を中心にデジタル技術への心理的な抵抗感が強くみられます。

また、長年培ってきた経験や勘を重視する傾向が強いため、デジタル技術による効率化やデータ活用に対して懐疑的な姿勢を示す人も少なくありません。その結果、経営層が導入を進めても、現場での定着が進まない状況が生まれています。

中小規模の建設会社では、「DX＝大規模で高額な投資が必要」というイメージが強く、資金力や情報収集力で大手企業との差を感じてしまう傾向があります。そのため、導入の初期段階から「自社には無理だ」と諦めてしまうケースが少なくありません。

さらに、多額の投資をしても現場で活用されなかった場合のリスクを懸念し、経営者が意思決定をためらうのも要因のひとつです。結果として、DXの必要性を理解しながらも行動に移せず、デジタル化の遅れが固定化してしまう状況が生まれています。

建設業界では、人手不足や長時間労働といった課題を抱えるなかで、DXの推進が注目されています。

デジタル技術を活用することで、現場業務の効率化だけでなく、以下のようなメリットも期待できます。

建設現場では、事務所との往復や大量の書類作成、関係者への電話連絡など、本来の施工業務以外の「付帯業務」に多くの時間を費やしています。デジタル技術を活用することで、これらの業務を効率化し、従業員一人ひとりの生産性向上につながります。

たとえば、ビジネスチャットを導入すれば、現場からスマートフォンで撮影した写真をリアルタイムに共有でき、報告のためだけに事務所へ戻る必要がありません。

また、施工管理アプリを活用すれば、黒板付き写真の撮影から写真台帳の作成までを自動化でき、これまで数時間かかっていた作業の短縮も可能です。

DXによる業務効率化を進めることで、技術者がコア業務に集中できる環境が整い、長時間労働などの課題解消も期待できます。

建設DXによって、これまで人の手で行っていた単純作業や管理業務にかかっていた工数・人件費を削減できます。

建設業界では、手作業によるデータ入力や書類の印刷・保管、承認を得るための押印リレーなど、時間と手間がかかる業務が今なお多く残っています。

たとえば、勤怠管理クラウドと給与計算ソフトウェアを連携させることで、経理担当者が手作業で行っていた集計作業を自動化し、給与計算にかかる時間の削減が可能です。また、電子契約サービスを導入すれば、契約書の印刷代や郵送費、印紙代などのコスト削減にもつながります。

建設DXは無駄な作業時間を減らすだけでなく、限られた人員でより多くの業務をこなせる体制やコスト削減を実現します。

建設DXは、情報の正確な伝達とリアルタイムな状況把握を可能にし、図面の読み間違いや指示の伝達ミスといったヒューマンエラーを防ぎます。

建設現場で発生する手戻りや事故の多くは、「最新の図面が共有されていなかった」「口頭の指示が正確に伝わらなかった」などが原因です。DX化することで、関係者が常に同じ最新情報にアクセスできる環境が整うため、手戻りや事故の原因を根本から解消します。

また、ドローンを活用して危険な高所での点検を安全に行い、労働災害のリスクを低減できます。

DXは単なる効率化のための手段ではなく、従業員の安全を守り、企業の社会的信頼性を高めるうえでも欠かせない取り組みです。

建設DXを推進して、実際に成果をあげている企業もあります。ここからは実際にあった事例を紹介します。

ある中堅建設会社では、手間のかかる配筋検査の効率化に成功しています。

従来は、現場での写真撮影や黒板への情報記入、事務所での写真整理や台帳作成といった一連の作業に多くの時間を費やしていました。

そこで同社は、配筋検査に特化したシステムを導入しました。このシステムは、タブレットのアプリ内で黒板情報の入力から撮影、写真の自動仕分け、台帳の自動生成までを一括で行うことができるものです。

導入当初は「操作が難しそう」とベテラン検査員から不安の声もありましたが、研修会で実際に操作してもらうと、手書き黒板や写真整理の手間がなくなる利便性を実感したといいます。結果として、検査時間を半減させ、転記ミスなどのヒューマンエラーをゼロにすることに成功しました。

複数の建設現場を管理するとある企業が、ベテラン技術者の移動時間という課題をDXによって解決しました。

これまでは、段階確認やトラブル対応のたびに、ベテランの技術者が各現場を巡回する必要があり、移動時間がロスになっていました。そこで同社が導入したのが、遠隔臨場システムです。

現場の若手社員がウェアラブルカメラを装着し、その映像を事務所の大型モニターでベテラン技術者がリアルタイムに確認。配筋状況などを遠隔でチェックし、的確な指示や承認作業を行う仕組みにしました。

これにより、一人のベテラン技術者が1日に確認できる現場数が3倍に増加するだけでなく、移動に費やしていた時間を9割削減することに成功しました。

経営層と現場の温度差に悩んでいたある企業は、情報の「見える化」によってこの課題を解決しています。

以前は、各現場監督が個別のExcelファイルで日報や原価を管理していたため、本社が全社の状況を正確に把握できるのは月末の報告を待ってからでした。

そこで同社は、各現場の進捗・人員・原価といった情報を一元管理できる「見える化システム」を導入しました。現場監督がスマートフォンからその日の作業内容や出面情報を入力すると、データがリアルタイムでダッシュボードに集約・分析される仕組みを構築しました。

これにより、経営層は全現場の進捗率や利益率をリアルタイムで把握できるようになり、遅延の兆候が見えた時点で即座に対策を講じられるようになりました。そして、現場監督は日々の報告書作成業務から解放され、本来の施工管理業務に集中できる時間を確保しています。

建設DXを成功させるためには、現場の課題を正しく把握し、組織全体で継続的に改善していく仕組みづくりが欠かせません。ここでは、建設DXを進めるために重要な以下のポイントについて解説します。

建設DXを進める際は、まず「どの業務の、誰の負担を、どのように減らすのか」という社内課題を具体的に特定することから始めましょう。

目的が曖昧なままツールを導入すると、「現場の実情に合っていない」「操作が複雑で使いこなせない」といった典型的な失敗に陥ります。

まずは現場の従業員に「一番時間がかかっている作業は何か？」「どんな作業がなくなれば嬉しいか？」などの情報を引き出します。

そこから「写真台帳の作成に毎月20時間かかっている」といった具体的な課題を洗い出し、「作成時間を50％削減する」といった数値目標を設定しましょう。

次に、DXを推進するための旗振り役を採用します。採用といっても、必ずしも外部から高額なIT専門家を採用する必要はありません。現場の業務を熟知し、仲間から信頼されている「社内のキーマン」をDX推進リーダーとして育成するのが効果的です。

建設業界でDXが進まない要因のひとつは、現場特有の業務慣行や複雑な人間関係にあります。外部のコンサルタントでは汲み取りきれない現場のリアルを、社内の人材であれば肌感覚で理解し、現実的な解決策を導き出せます。

まずは、自社内にいる将来のリーダー候補を見つけ、教育・研修という形で投資することから始めましょう。

全社一斉の大規模改革を目指すのではなく、特定の部署やひとつの現場に絞って「小さく試す（PoC）」アプローチを取ることが、失敗のリスクを最小限に抑える鉄則です。

小規模から始めれば初期投資を抑えられ、経営層の意思決定のハードルも下がります。仮にうまくいかなかったとしても影響範囲は限定的で、その経験から学びを得て次の施策に活かせます。

まずは、月額数千円から始められるサービスから活用し、「これなら便利だ」という現場の実感をひとつずつ積み重ねていくのが現実的な進め方です。

DX推進におけるコスト面の不安は、国や地方自治体が提供する支援制度を活用することで軽減できます。

代表的な制度として「IT導入補助金」があります。これは、中小企業が勤怠管理システムや会計ソフトウェア、インボイス対応の受発注システムなどを導入する際に、経費の一部を補助する仕組みです。

ソフトウェアの購入費用だけでなく、クラウドサービスの利用料も対象になるなど、制度の使いやすさも向上しています。

補助金制度は公募期間が限られている場合もあるため、まずは導入を検討しているツールの提供ベンダーや、地域の商工会議所、専門家に相談しながら進めましょう。

DXはツールを導入したら終わりではありません。導入後に「本当に業務がラクになったのか」を具体的な数値で測定し、現場からのフィードバックをもとに改善を続けましょう。

たとえば、導入前に設定したKPIを、導入1ヶ月後・3ヶ月後に再測定し、「作業時間を30％削減」といった成果を全社に共有することで、モチベーションを維持できます。

また、定期的に利用者を集めてヒアリング会を実施し、「使いにくい点」「もっとこうだったら便利なのに」という声をもとに、マニュアルの更新や運用ルールの見直しを行いましょう。

DXは一度きりのプロジェクトではなく、現場との対話を繰り返しながら継続的に改善していく活動です。その認識を全社で共有して実践することが、DXを成功に導く鍵になります。

建設DXは単なるデジタル化ではなく、現場の課題を解決しながら業務を根本から変革する取り組みです。

人手不足や長時間労働など、建設業が抱える課題を解消するために、まずは「現場の声」を起点に、小規模から導入していきましょう。

また、現場だけでなく経理・労務などのバックオフィス業務を効率化することも、建設DXの大切な一歩です。会計・経理業務の効率化なら「freee会計」がおすすめです。

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建設業界でDX化が遅れているのには、以下3つの要因が重なっています。

詳しくは「建設DXが進まない3つの原因」をご覧ください。

日本でDXが進まないのには、「推進できる人材がいない」「予算が不足している」「既存の事業が忙しい」という3つの原因があります。

まず、ITやデジタルに精通し、プロジェクトを牽引できる人材が社内にいないことが課題にあります。

また、多くの企業が日々の業務に追われ、DX推進に割ける時間や人員を確保できていないのも原因です。その結果、外部委託に頼らざるを得ず、意思決定や実行が遅れやすくなります。

さらに、DXには一定の初期投資が必要ですが、短期的な利益を優先する企業では「費用対効果が見えにくい」と判断され、予算が確保されにくいのが現状です。こうした要因が重なり、日本全体でDXが思うように進まない状況を生んでいます。